言語発達遅滞、発達障害
言 語 発 達 遅 滞 ------------------------
言葉の発達には「理解力」と「表出力」の2側面があります。発語の個人差は大きいですが、言語表出の標準的な発達から明らかに遅れている場合、例えば、1歳半までに意味のある単語を話さない。3歳までに2語文を話さないときは明らかな遅滞と考えます。言語理解については、1歳半までに2~3のありふれた言語の理解ができない、2歳までに簡単な言語指示に従えないときは明らかな遅滞と考えます。また、それほど明確でない軽度遅滞の場合、例えば、1歳半までに複数の有意味語を話さない場合は、「ことばを育てる」育児法を行いながら経過を観察します。他に全く異常がなくて、言語表出のみ遅れる子どもは、2~3歳頃に発語が急に伸びて正常範囲に到達すること(発達性言語障害)が少なくありません。
原 因:
聴力障害:感音難聴:先天性 *先天性進行性で前庭水管拡大症(甲状腺腫合併でPendred症候群) *難聴遺伝子検査(2012年保険適応)
伝音難聴:滲出性中耳炎、外耳・中耳・耳小骨形成障害など
精神遅滞
発達障害
発達性言語障害:原因は何もなく“単に言葉が遅いだけ”という状態で、3才前後からキャッチ・アップする。自分から話す言葉は少なくても言語理解ができ、周りの人が話す内容は分かる。
養育環境不適:テレビ・ビデオ・スマホの見過ぎ、不適切な療育環境で言葉がけが極端に少ない場合など、言葉でコミュニケーションをとる経験が少ない場合など。
聴覚情報処理障害(APD:Auditory Processing Disorder):音を感知する外耳、中耳、内耳(末梢)の機能に異常が無く、音を認知して聴覚情報を処理する脳内の神経システム(中枢)の働きが低下した病態です。「音は聞こえているのに聞きとれない」ことで周りとのコミュニケーションが困難になります。幼児では本人が言葉を上手く聴き取れないことで言語発達の遅れや発語の異常として表出する場合があります。2005年に米国言語聴覚学会が「APDは聴覚情報を処理する中枢神経システムの障害で,音源定位,側性化,聴覚識別,聴覚パターン認知,聴覚情報の時間的側面の解析,競合音下での聴知覚,歪み語音の聴取などに問題が生じた状態」との定義を公表し、欧米を中心に病態解明の研究が盛んになりつつあります。
吃音(どもり)、プロソディ障害:明らかに話の流暢さを損なっている状態です。2011年に吃音のある英国王ジョージ6世の映画「英国王のスピーチ」がアカデミー賞を受賞したことで注目を集めました。幼児期、特に多語文が増える2~4歳頃には、言葉がつかえて吃音が生理的に起こります。2~4才で5%中学生で1%に見られます。三歳児健診以降に発症して、発症後3年で女児の8割男児の6割が自然に回復します。
周囲が気にしたり、言い直させたりする、分かっているのに言葉が出ない喚語困難などで心理的緊張が強くなると吃音が持続しやすいです。逆に、親が子どもの話をゆっくり聞くようにしていると、自然にしゃべれるようになることが多いので、心理的なリラックスを心がけるようしてください。多くは親の「焦りがお子さまの症状を長引かせている」ことにご注意下さい。言語療法士による「ことばの教室」での支援体制が強化され着実に成果をあげています。治療は言語訓練から“集団生活でいじめを排して見守る”方向になっています。2016年には障害者差別解消法施行にともなって吃音も対象疾患となり、入試、学校生活、就職試験、就業時の合理的配慮が求められるなど社会的なサポートも充実してきています。
構音障害:
器質性―口蓋裂、粘膜下口蓋裂、小舌症、舌小帯短縮症、アデノイド肥大・鼻炎などによる閉鼻声
機能性ーサ行訥(トツ);4才児の半数。サ行がカ行、ラ行がダ行→5才児なら言語聴覚士による訓練考慮
発達途上の構音の誤り
側音化構音;口呼吸や前歯が空いていて舌先を上顎につける動きが弱いなどで“舌足らず”で舌の先端や周縁の筋肉の力が弱い“滑舌が悪い”状態。「きぎしじち」などイ段が言いにくく、「し」が「ひ」に聞こえるなどが目立ち、「さひすせそ」「たきつてと」になります。舌の筋肉を強くする発声訓練を行います。
検 査:まず難聴のスクリーニングを行います。簡易的には左右の指擦音(指をこすり合わせて出す小さな音)への振り向き反応や、ささやき声による絵カード指しなどで聴力を確認します。続いて、耳音響放射(OAE、歪成分耳音響放射ーDPOAE、内耳有毛細胞の反応の有無をみます、新生児の聴覚検査に用いられるスクリーニングタイプのOAEは偽陽性も多いが、パス反応を認めれば少なくとも40dBの聴力はあると推定される)、幼児聴力検査、アブミ骨筋反射(SR)などを基に、脳波聴力検査(ABR)で精査します。また発達質問紙などを用い、理解力、表出力を総合的に評価します。
*当院では、県身体障害者福祉センター、松山赤十字病院小児科などと連携します。
治 療:言語障害自体に対しては、ことばの教室などで言語療法士のもとで幼児向けの言語訓練プログラムを行います。
家庭での工夫点:
1)言語表出よりもまず理解力をつける:「○○を持っきて」などのの言語指示を毎日行う。発達段階に合わせて、同時指示を2語、3語と増やす。
2)子供のコミュニケーションの意欲を育てる:したいことを表現させて、一緒に行うなど。
3)傾聴態度を育てる:子供の表情を見ながら、明瞭で短い言葉で話しかけたり。絵本の読み聞かせをする。
4)広い意味の社会性を育てる:地域の親子交流教室や幼稚園・保育園の行事に積極的に参加する。
発 達 障 害 ----------------------------
広汎性発達障害(PDD)、自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)
注意欠陥/多動性障害( ADHD)、学習障害( LD)
読字障害、書字表出障害、算数障害
発達性協調運動障害、コミュニケーション障害
精神遅滞( MR)
表出性言語障害:正しく言葉を理解しているにもかかわらず、言葉を表現して使う(表出)能力が精神年齢の水準を下回る障害
受容性言語障害:言語の理解(受容)が同年齢の水準を下回る障害
音韻障害
吃音(プロソディ障害)
~ ことばの発達の目安 ~
発語は個人差が大きい傾向にあります。以下に一般的な目安を示します。
1歳前後: 初語、喃語(ブーブー、ワンワンなど)
2,3歳: 2語文 疑問詞の理解、助詞の使い方を獲得
3,4歳: 3.4語文以上
4歳: 脈絡のある話
5.6歳: 会話
小学校入学: 単語の音節分解が可能、文字修得、言語を文字に綴る
<1才6ヶ月健診の目安>
意味のある単語5語で問題なし (男児の85%、女児の92%で発語5語)
*発語が少なければ、2才まで自閉症に注意しながら経過を見ます
参考資料:世界的に用いられている代表的な精神疾患の分類には、WHO作成の国際疾病分類ICD-10とアメリカ精神医学会作成のDSM-5があります。精神疾患の診断や治療は、これらの疾病分類を基に検討されています。しかし精神疾患は器質的疾患のように画一的に分類することが難しいことから、基準改定の度に新たな疾患概念が提唱されることもあり、医療現場でも患者の立場でも混乱が見られます。参考として、以下に、小児の発達障害に関するICD-10の分類を掲げます。
発達障害については,定義や疾患概念が定まっていません。WHO国際疾病分類ICD-10の「F8 心理的発達の障害」の定義では,(a) 発症は常に乳幼児期あるいは小児期である。(b) 中枢神経系の生物学的成熟に深く関係した機能発達の障害あるいは遅滞である (c) 精神障害の多くを特徴づけている寛解や再発が見られない安定した経過である の3条件が示されています。この条件にあてはまる障害群はF8に含まれる広汎性発達障害(以下PDD)と各種の学習障害に限られるわけではなく,「F7 精神遅滞」と,「F9 小児期および思春期に通常発症する行動および情緒の障害」の多動性障害,すなわち米国精神医学会分類DSMでは注意欠陥/多動性障害(以下ADHD)と呼ばれている障害も概ねこの条件を満たしています。わが国では,PDD,学習障害,ADHD,精神遅滞をすべて含めて発達障害とする立場が,関連する領域の専門家の間で広く支持されてきた歴史があり,発達障害者支援法も基本的にはこのような考え方に準拠して法の対象障害をPDD,学習障害(広義),ADHDとしています。なお精神遅滞は既存の知的障害者福祉法によってすでに対象とされているため,発達障害者支援法の対象から除外されています。
広汎性発達障害PDDとは、精神機能の広範な領域に関係する発達障害(発達の偏りや問題)という意味ですが、実際の臨床では、自閉症及び自閉症に近似した特徴を示す発達障害の総称として用いられます。
自閉症スペクトラムには、高機能自閉症、低機能自閉症、アスペルガー症候群(障害)、特定不能の広汎性発達障害といわれる非定型自閉症が含まれています。広汎性発達障害PDDには自閉症スペクトラム以外の障害も含まれており、自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、小児期崩壊性障害が含まれます。
ICD-10(WHO国際疾病分類)
F80‐F89 心理的発達の障害
F80 会話及び言語の特異的発達障害
F80.0 特異的会話構音障害
F80.1 表出性言語障害
F80.2 受容性言語障害
F80.3 てんかんを伴う後天性失語(症)[ランドウ・クレフナー症候群]
F80.8 その他の会話及び言語の発達障害
F80.9 会話及び言語の発達障害、詳細不明
F81 学習能力の特異的発達障害
F81.0 特異的読字障害
F81.1 特異的書字障害
F81.2 算数能力の特異的障害
F81.3 学習能力の混合性障害
F81.8 その他の学習能力発達障害
F81.9 学習能力発達障害、詳細不明
F82 運動機能の特異的発達障害
F83 混合性特異的発達障害
F84 広汎性発達障害
F84.0 自閉症
F84.1 非定型自閉症
F84.2 レット症候群
F84.3 その他の小児<児童>期崩壊性障害
F84.4 知的障害〈精神遅滞〉と常同運動に関連した過動性障害
F84.5 アスペルガー症候群
F84.8 その他の広汎性発達障害
F84.9 広汎性発達障害、詳細不明
F88 その他の心理的発達障害
F89 詳細不明の心理的発達障害
F90‐F98 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害
F90 多動性障害
F90.0 活動性及び注意の障害
F90.1 多動性行為障害
F90.8 その他の多動性障害
F90.9 多動性障害、詳細不明
F91 行為障害
F91.0 家庭限局性行為障害
F91.1 非社会化型<グループ化されない>行為障害
F91.2 社会化型<グループ化された>行為障害
F91.3 反抗挑戦性障害
F91.8 その他の行為障害
F91.9 行為障害、詳細不明
F92 行為及び情緒の混合性障害
F92.0 抑うつ性行為障害
F92.8 その他の行為及び情緒の混合性障害
F92.9 行為及び情緒の混合性障害、詳細不明
F93 小児<児童>期に特異的に発症する情緒障害
F93.0 小児<児童>期の分離不安障害
F93.1 小児<児童>期の恐怖症性不安障害
F93.2 小児<児童>期の社交不安障害
F93.3 同胞抗争障害
F93.8 その他の小児<児童>期の情緒障害
F93.9 小児<児童>期の情緒障害、詳細不明
F94 小児<児童>期及び青年期に特異的に発症する社会的機能の障害
F94.0 選択(性)かん<縅>黙
F94.1 小児<児童>期の反応性愛着障害
F94.2 小児<児童>期の脱抑制性愛着障害
F94.8 その他の小児<児童>期の社会的機能の障害
F94.9 小児<児童>期の社会的機能の障害、詳細不明
F95 チック障害
F95.0 一過性チック障害
F95.1 慢性運動性又は音声性チック障害
F95.2 音声性及び多発運動性の両者を含むチック障害[ドゥラトゥーレット症候群]
F95.8 その他のチック障害
F
95.9 チック障害、詳細不明
F98 小児<児童>期及び青年期に通常発症するその他の行動及び情緒の障害
F98.0 非器質性遺尿(症)
F98.1 非器質性遺糞(症)
F98.2 乳幼児期及び小児<児童>期の哺育障害
F98.3 乳幼児期及び小児<児童>期の異食(症)
F98.4 常同性運動障害
F98.5 吃音症
F98.6 早口<乱雑>言語症
F98.8 小児<児童>期及び青年期に通常発症するその他の明示された行動及び情緒の障害
F98.9 小児<児童>期及び青年期に通常発症する詳細不明の行動及び情緒の障害