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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科を専門とし、地域医療に貢献します。

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

花粉症の注射とステロイド

 花粉症の減感作(免疫)療法として、スギ花粉の抗原エキスがあります。皮下注射で、徐々に増量した後、維持量で2~3年続けます。花粉症の症状が減弱するという有効率は60~70%という報告が多いですが、私の印象では50%程度です。やはり注射の度に、アナフィラキシー・ショックの発現に注意する必要がありますので、私は季節性アレルギーであるスギ花粉症に対しては積極的には勧めていません。この6月に認可される予定の経口剤の有効率と副作用発現率が今後どうなるのかは注視しています。

 花粉に特定せず広くアレルギー反応を押さえる非特異的減感作療法に分類されるものとして、国内献血者の人免疫グロブリンを抽出したヒスタグロビン、アレルギー性疾患患者の尿から抽出・精製した抗アレルギー性物質のMSアンチゲン、8種類の細菌の菌体及びその自家融解物質を抽出したブロンカスマ・ベルマがあります。ちょっと長くなりますが、ヒスタグロビンの公式な添付文書の注意書きの一部を転記してみます。
 ヒトの血液を原材料としていることに由来する感染症伝播のリスクを完全に排除することができないことを患者に対して説明し、その理解を得るよう努めること。本剤の成分である人免疫グロブリンの原材料となる国内献血者の血液については、HBs抗原、抗HCV抗体、抗HIV-1抗体、抗HIV-2抗体及び抗HTLV-I抗体陰性で、かつALT(GPT)値でスクリーニングを実施している。さらに、プールした試験血漿については、HIV、HBV、HCV、HAV及びヒトパルボウイルスB19について核酸増幅検査(NAT)を実施し、適合した血漿を本剤の製造に使用しているが、当該NATの検出限界以下のウイルスが混入している可能性が常に存在する。その後の製造工程であるCohnの低温エタノール分画及びウイルス除去膜によるろ過工程は各種ウイルスに対して不活化・除去作用を有することが確認されているが、投与に際しては以下の点に注意すること。 血漿分画製剤の現在の製造工程では、ヒトパルボウイルスB19等のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であるため、本剤の投与によりその感染の可能性を否定できないので、投与後の経過を十分に観察すること。肝炎ウイルス等のウイルス感染症のリスクについては完全に否定出来ないので、観察を十分に行い、症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。現在までに本剤の投与により変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)等が伝播したとの報告はない。しかしながら、製造工程において異常プリオンを低減し得るとの報告があるものの、理論的なvCJD等の伝播のリスクを完全には排除できないので、投与の際には患者への説明を十分行い、治療上の必要性を十分検討の上投与すること。となっています。
 イギリスで広まった狂牛病の原因が、従来の感染症の常識だったウイルスよりももっと微細な異常蛋白質のプリオンであることが判って以来、どんなに注意しても血液製剤では未知の感染症の否定ができないことになりました。このことからMSアンチゲンとブロンカル・ベルナは2000年代前半にいずれも製造元の意向で販売中止となりました。花粉症の注射薬ではありませんが、似たような製剤に、人由来の胎盤エキス製剤があり、国内でも2剤流通しています。この胎盤エキスは、異常蛋白質のプリオンは高圧蒸気滅菌によって蛋白質がアミノ酸に分解されるために無害であるとされていますが、アミノ酸まで分解されれば薬効自体も期待できないのではとの意見もあります。このようにプリオンの伝播などの未知の感染症が否定しきれないことから、当院ではヒスタグロビンは採用していません。
 当院で現在採用しているのは以下の2剤です。1)ワクシニアウィルスという安全なウィルスをウサギの皮膚に注射し、炎症を生じた皮膚組織から抽出分離した非タンパク性の活性物質を含有するノイロトロピン。下行性疼痛抑制系という神経伝達路を活性化する事によって疼痛を軽減する事から慢性の痛みに用いられますが、アレルギー反応も抑制するとされています。2)11β-OHSDという酵素の作用を阻害することから生体内で生理的に分泌しているステロイドの分解を抑制することで、結果的にステロイドの効果を増強する強力ネオミノファーゲンシ―(強ミノ)。肝機能障害の改善に広く用いられていますが、11β-OHSDという酵素は表皮細胞に多いために湿疹や蕁麻疹の改善にも使われます。当院では、注射薬の治療を希望される方にはこの2剤を、屯用ないしは1~2回/週で2~4週間続ける、の用法で用いています。

 アレルギー疾患への注射では、ステロイド(副腎皮質ホルモン)が最も強力に効きます。ステロイドは本来、体が肉体的精神的なストレスにさらされた時に体の恒常性を保つためのホルモンです。体を守る為のホルモンが体内の副腎皮質という臓器で調節されながら産生されています。強力な抗炎症作用や免疫抑制作用がありますので、膠原病や喘息重積発作、ショック、急性神経炎などの重篤な状態では強力に使われます。当然、アレルギー反応も強力に抑制します。膠原病でステロイドを持続的に内服していると、花粉症などは簡単に抑え込まれます。ただし、体本来の至適範囲以上に使われると、真菌(かび)の感染を含めた感染症を誘発する、糖尿病や高血圧、骨粗鬆症、胃潰瘍、精神障害、脂肪代謝を悪化させる方向に働きます。急にステロイドを休薬すると、本来の副腎皮質の働きが一時的にストップしているために、逆にステロイドの欠乏状態になり命にかかわる(副腎クリーゼ)という状態にもなります。このようにステロイドには劇的な効果と副作用があります。花粉も抗原性は強いので、大量に暴露すると局所での反応は強くなります。花粉を被って顔面や気道が腫れあがった際には、やはりステロイドでないと劇的には効きません。当院でもリンデロンのような水溶性で短期作用のステロイドを、急性の強い反応の場合のみ、屯用の注射として使用しています。
 またステロイドの注射にはデポメドロールケナコルトAなどの持続的作用のものもあります。これは効果が3~4週間持続しますので、一旦体に入るとホルモン調節が1ヶ月近く出来なくなってしまいます。重篤な副作用以外にも、注射部位の脂肪がやせて窪む、皮膚がニキビ様になる、生理のリズムが不調になる、などの軽度の副作用が出る可能性もあります。その為、耳鼻咽喉科学会では、花粉症治療としては長期作用型のステロイドの使用は推奨していません。当院でも花粉症治療としては行っていません。
 注射でない局所作用の点鼻液(スプレー)のステロイドは全身への移行がわずかなために、逆に花粉症の治療では選択薬として位置しています。ステロイドの力価の強いもの、パウダータイプで点鼻時の刺激の少ないものなど様々な剤型が出ています。呼吸器系では吸入ステロイドと呼ばれています。耳鼻咽喉科学会の花粉症ガイドラインの策定では、次回改定時には、予防薬として位置付ける、との検討もありました。局所ステロイドの作用として、血管拡張作用があります。その為、ステロイドの点鼻スプレーの多くには添付文書の注意事項として鼻出血が記載されています。ただし強力な血管拡張作用ではなく、鼻炎により惹き起こされた鼻前庭湿疹周囲からの鼻出血の方がはるかに多いですので、ステロイドを点鼻したら俄かに鼻血が出やすくなるとういことはありません。

 同じく外用剤としてステロイド点眼液や眼軟膏もあります。花粉症も、鼻腔の反応が強いタイプ、顔面の皮膚の反応が強いタイプ、口腔や喉頭まで反応しやすいタイプなど様々な反応形がありますが、目の反応が強い春季カタル(ドイツ語やオランダ語で、粘膜が炎症して多量の粘液を分泌する状態)というタイプもあります。このような場合にはステロイドの点眼薬が著効します。ただしステロイドの点眼で、緑内障が悪化して眼圧が上がる、真菌性角膜炎を誘発するなどの副作用があります。成人の20人にひとりが緑内障で、失明の原因疾患の各20%が緑内障と糖尿病性網膜症とされていることからも、緑内障を見過ごす訳にはいきません。当院では、春季カタルなど結膜炎の状態が強い場合は眼科専門医への紹介を原則として、低濃度ステロイド点眼液や眼軟膏を屯用かつ短期使用で用いています。
 最後に、皮膚科領域でのステロイドの軟膏やクリームの作用を述べてみます。耳鼻科でも外耳炎、耳介炎、鼻前庭湿疹、頚部蜂窩織炎などに抗生物質と合剤になった軟膏をよく用います。点鼻スプレーの項でも述べましたが、ステロイドを塗り続けると、血管拡張作用で皮膚が充血し、皮膚や脂肪組織が萎縮するために皮膚が薄くなってきます。花粉症などの吸入性抗原による気道の反応と異なり、アトピー性皮膚炎はドライスキンのような皮膚のバリアが弱い素因の上に、接触性抗原や食餌性抗原、感染、炎症、自律神経の作用が複雑にからみあって発症するという鼻炎以上に複雑なメカニズムがあります。アトピー性皮膚炎でもステロイドはやはり特効薬的な位置づけです。ところが、体内でも特に敏感で人目につく顔面の皮膚にステロイドを過剰に使用すると、先ほど述べたような副作用がステロイド使用後のリバウンドとして目だって出てきます。その為、アトピー性皮膚炎にステロイドは怖いとの認識が一般に広く普及しました。その後逆に、医学的な有効性が確認されていない高価なサプリメント的なものを購入することによる治療費の高額な負担や副作用という問題も、アトピービジネスと呼ばれて顕在化しました。現在の皮膚科の治療は、皮膚のバリアを保つ保湿をベースに、原因アレルゲンの除去、免疫抑制剤の局所使用とともに、ステロイドとうまく付き合っていくとの方向です。当院でも、難治性湿疹では、ステロイド連用による真菌感染や、角質の異常肥厚が病態の主因の尋常性乾癬など、皮膚科が専門となる慢性疾患が隠れていないかに注意しながら、軟膏はあくまでも短期使用との方針で用いています。 

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