のどの感染症 ~性感染症と結核~
風俗の変化による性感染症の口からの感染の増加、海外との交流が増すなどの要因での結核の増加が見られます。注意すべき病原体とその咽喉頭の所見について説明します。
*クラミジア・トラコマティス、梅毒、淋菌、結核は必要に応じて当院で検査を行っています。
1、クラミジア・トラコマティス:性器クラミジアは毎年45万人以上が新規に感染、不妊症の原因(米国では年間15~20万人が卵管炎で不妊、その1/4はクラミジア感染)
上咽頭炎:10代後半~20代に注意
診断:うがい液からのPCR法
治療:ジスロマック1g単回投与が著効、クラリス・ビブラマイシン・合成抗菌剤7日投与も有効、耐性菌の報告なし
2、梅毒:日本では2013年以降急増中、20代前半女性で著明増加
Ⅰ期:感染後3週間、初期硬結と中央のびらん潰瘍化(硬性下疳)⇒リンパ節腫脹⇒第2潜伏期
オーラルセックスでは口腔粘膜や舌、口唇、口蓋扁桃に硬性下疳が出現
Ⅱ期:感染後3ヶ月、皮膚の発疹(バラ疹、丘疹性)、口角の扁平コンジローマ
口腔粘膜の粘膜斑(バタフライ様所見、ベーチェット病様の所見)
診断:脂質抗原とTP抗原で判定
Ⅰ期の10%はTP抗原のみの陽性もあり再検査も考慮、TP抗体があっても再感染する
治療:ペニシリン内服が著効
3、淋菌:1回の性行為による感染率は30%と高い、感染しても免疫は得られず再感染を起こす。男性尿道炎の1/3が淋菌、1/3がクラミジア、1/3がマイコプラズマとウレアプラズマ
淋菌性咽頭感染:性器に淋菌を持つ1~3割が咽頭にも保菌、症状所見は乏しいが一部に咽頭炎・扁桃炎
診断:上咽頭擦過物やうがい液からのPCR法
治療:ロセフィン静注単回投与が著効
4、マイコプラズマ、ウレアプラズマ:マイコプラズマ(マイコプラズマ・ジェニタリウム、マイコプラズマ・ホミニス)、ウレアプラズマ(ウレアプラズマ・ウレアリチカム、ウレアプラズマ・パルバム)はクラミジアと同様な病原性。1980年に初めて英国で分離された病原菌のため、咽頭での研究報告例はまだ少ない。尿道炎(尿道炎・子宮頸管炎)の原因菌として近年注目を集めている。尿道炎の20%はマイコプラズマ、ウレアプラズマとされ、尿道炎としての潜伏期は1~5週間で、軽症や無症状で気づかれない場合もある
診断:医療保険の適応がなく、自由診療として尿や腟分泌物からの検査キットは泌尿器科領域で用いられている。*咽頭での検査は一般的ではく、当院でも行っていません。
治療:ジスロマック1g単回投与、グレースビッド7日投与、両者の耐性菌の報告も見られ始めた
5、単純ヘルペスウイルス(HSV):オーラルセックスによる性器ヘルペス初回感染;Ⅰ型で症状強い、Ⅱ型で軽い
6、ヒト乳頭腫(パピローマ)ウイルス(HPV):2013年4月定期接種化、同6月副反応により積極的推奨の中止(ただし希望あれば接種は可能)
16型18型などのハイリスクHPV:子宮頚癌の96%、中咽頭癌(扁桃癌)の63%(扁平上皮癌に比べ若年、非喫煙・非飲酒多く、放射線や抗がん剤治療が奏功)
6型11型などのローリスクHPV:尖圭コンジローマ
7、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)::AIDS、現在、治療開始3ヶ月でウイルスは検出限界以下となり、非感染者と同様の日常生活を送ることが可能となっている
急性期:感染後2~4週間、HIVの急激な増殖でCD4陽性リンパ球が破壊
発熱・咽頭痛・下痢などのインフルエンザ様症状や皮疹、数週間以内に自然消滞
無症候性キャリア期:約10(2~15)年、CD4陽性リンパ球数の低下により免疫力は徐々に低下
下痢、体重減少、帯状疱疹、口腔カンジダ症など
エイズ期:免疫力の低下から弱毒性の病原体による日和見感染症や悪性腫瘍、神経障害、20~40代男性注意
伝染性単核球症様の所見(高度な扁桃炎、発熱、リンパ節腫脹)、頻回の帯状疱疹、口腔カンジダ症や難治性口内炎、結核
検査:保健所でも可能、プライバシーに配慮した検査報告様式
9、結核:地域偏在(関西、大都市圏に多い)、集団発生・在日外国人・東南アジアへの移住邦人に注意
咽頭結核:白苔が付着する腫瘍性病変、肺結核を認めない原発性が多い、上咽頭結核は結核性中耳炎に注意
頸部リンパ節結核:疼痛などの炎症所見に乏しい、原発性が多い、X線での石灰化、CTでの乾酪壊死像
喉頭結核:60~80%は肺結核に続発、急性喉頭蓋炎様の強い嚥下痛や声がれに注意、浸潤型・潰瘍型・軟骨膜炎型・肉芽腫型がある
診断:確定診断には生検が必要