嚥下障害・誤嚥性肺炎について
飲み込む動作が十分に行えない嚥下困難では、栄養が十分に摂れなくなる栄養低下と、食べ物が気管から肺に入る誤嚥により誤嚥性肺炎の誘発が問題となります。ゆっくりなら食事は摂れると安心していても、夜間知らない間に誤嚥して肺炎を引き起こす場合があります。特に高齢者では肺炎症状が明確でない場合もあり注意が必要です。
耳鼻咽喉科では、誤嚥にもっとも影響をあたえる喉頭の機能を中心に、嚥下運動を総合的に評価します。
注意すべき症状:食べながらむせる、食事中に頻繁に咳こむ、喉が常にゴロゴロ鳴る、唾液が上手に飲み込めない、食事に時間がかかる、食後の声がれ
注意すべき人:脳梗塞(摂食嚥下障害の40%を占める)や神経疾患の既往、寝たきりで胃液が逆流しやすい、歯周病や虫歯、睡眠薬の常用
摂食・嚥下障害の原因となる疾患
機能的原因:麻痺や筋力低下等
・中枢神経障害 脳血管障害;脳梗塞、脳出血、くも膜下出血
変性疾患:パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症
炎症:急性灰白髄炎、多発性硬化症、脳炎
頭部外傷
・末梢神経障害 反回神経麻痺、ニューロパチー
・神経筋接合部筋疾患 重症筋無力症、筋ジストロフィー、ミオパチー、多発性筋炎
・加齢
器質的原因:組織自体の障害
・舌炎、口内炎、歯周病
・咽喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎)
・頭頸部腫瘍(良性、悪性)
・逆流性食道炎・潰瘍、食道狭窄、食道腫瘍、食道裂孔ヘルニア
・頚椎症、前縦靱帯骨化症
・唾液分泌機能低下
心因的原因:神経症、心身症(ストレス性胃潰瘍など)
・神経性食欲不振症、咽喉頭異常感症、うつ病
検査:
嚥下内視鏡検査(VE):喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾液貯留、声門閉鎖反射や咳反射の惹起性、嚥下反射の惹起性、着色水嚥下による咽頭クリアランス、誤嚥、鼻咽腔閉鎖不全・早期咽頭流入・声帯麻痺などで評価します。兵頭スコアでは、0~4点経口摂取ほぼ問題なし、5~8点リスクあるが経口摂取可能、9点以上経口摂取困難とスコア化。
嚥下造影検査(VF)
治療:
日常のケア:少し前かがみで食事、ながら食事をしない、食後直ぐに横にならない、枕を高くして上半身をやや起こす姿勢で寝る、唐辛子や黒胡椒などの辛味成分のスパイスで喉頭反射を促す
嚥下調整食:ゼリー、とろみ食など
口腔ケア: 1日2回以上歯磨き(食後の唾液分泌も促す)、デンタルフロスや歯間ブラシ、舌ブラシで口腔内細菌の増殖を予防、口腔除菌療法(3DS)
嚥下訓練:喉頭挙上筋群を鍛える 嚥下おでこ体操(徒手的筋力増強訓練)、吹き流し(呼吸訓練)、カラオケ(発声による声門閉鎖と呼吸増強の訓練)
手術:嚥下機能改善手術:音声機能を維持 喉頭挙上術、輪状咽頭筋切断術、喉頭形成術
誤嚥防止手術:気道と消化管を分離、音声は喪失 喉頭気管分離術、喉頭摘出術、声門閉鎖術
胃瘻
< 誤嚥性肺炎 >
睡眠中に唾液が気道に流れ込む“不顕性誤嚥”があると、夜間に唾液分泌が止まり唾液の浄化作用が落ちる→細菌が急激に繁殖→口腔内のバイオフィルムで固まった細菌塊が過剰に形成→誤嚥→肺内で細菌が増殖 の機序で肺炎を引き起こします。免疫力の落ちた高齢者で、口腔内に汚れがあり、日常的に誤嚥があると起こりやすいです。症状が、原因不明の発熱や食欲減退程度で、肺炎症状がはっきりしない場合もありますが、ARDS(急性呼吸促迫症候群)を発症して重症化する危険性があります。