友人の大江和貴とあまり友人と思いたくないような奴、ルーゲンタ。
どちらも傍迷惑で煩くて、身勝手で、……でも、憎めない奴だ。
だから、正直言って喧嘩されるのは嫌だった。
けど。
「何でいつの間に仲良くなってんだよてめーらっ!!」
それも人の部屋で。
「あー煙たい。気持ち悪ー」
ぶつぶつ言いながら俺は窓を開け、ついでに押入れの戸を開いた。
その向こうにはむかつくくらいの青空と、赤いレンガ屋根が見えている。
思いっきり、健康的な眺めだ。
なのに、俺の部屋でたむろしている奴らは平然とタバコをふかしていた。
「ルーゲンタはともかく、和貴、お前まだ未成年だろ!?何やってんだよ」
「孝太は頭が固いよなー、ルーゲンタ」
「ねぇ」
「知らねぇ間に結託しやがって…!!」
俺は拳を固く握り締めた。
ルーゲンタは、俺の部屋にある不思議な押入れの向こうにある、妙な世界の住人だ。
異世界に通じる変な押入れの向こうからやってくるものは鳥や牛の群れ、変な触手の集団など、奇妙奇天烈なものぞろいだが、ルーゲンタ以上に妙な奴を俺は知らない。
指を鳴らしたり杖を振り回したり、適当な仕草で魔法を使っては常識的な俺の頭を狂わさんばかりに揺さぶる。
そんな変人が、本来居るべき世界では国王なのだと言う。
だとしたらその世界はルーゲンタみたいな奴ばかりなのだろうか。
それを考えると恐ろしくって夜も眠れなくなりそうだ。
和貴はルーゲンタと比べると常識的だ。
ただし、幾分、という注がつく。
俺のクラスの委員長で、鉄拳はかなりの威力を誇る。
どういうわけか俺の妹、奏のいい手下になってるのが玉に傷だが、割といい奴だと、思う。
いや、思いたい。
少し前までこいつらはしょっちゅう喧嘩をしていた。
おぞましいことに、俺を取り合って。
ハッキリ言って俺はノーマルな男だし、気持ち悪くて吐きそうになる。
それでも、ちょっと過剰すぎる友情と思うことにした。
悪い奴らじゃないと信じていたのだ。
なのに、こいつらは今、わざわざ人の部屋でタバコを吸い、人の部屋を汚染してくれている。
「お前ら…なんでよりによって俺の部屋でんなもん吸ってんだよ!」
「なんでって、ルーゲンタ連れ出したら目立つだろ」
「そうじゃねえよ!てか、止めろ。これ以上俺の部屋の空気を汚すな。俺はニコチンもアンモニアもシアン化合物も一酸化炭素もタールもカドミウムも大っ嫌いだ」
「好きって奴がいたら驚くぜ」
そう言いながらも和貴は煙を吐き出した。
「じゃあ何で吸ってんだよ」
「これはタバコじゃねえから」
「アァ?」
「ルーゲンタが出してくれたんだ。ルーゲンタの魔法も結構使えるよな」
俺はまじまじとルーゲンタを見た。
ルーゲンタはいつものようにつかみ所のない笑みを浮かべている。
「本当に、タバコじゃないのか?」
「似てますけど、違います。私の国のもので、毒性や依存性はありませんよ」
「ふぅん……」
「孝太も試してみませんか?」
「……」
和貴はもう一本に火をつけ、ムリヤリ俺の前につき出した。
「ほら」
「え、いや、俺はやっぱり…」
「大丈夫だって!」
そう言って咥えさせられたそれはやっぱり煙たくて。
思わず咳き込んだ俺は苦しさのあまり叫んだ。
「タバコなんて大っ嫌いだ!!」
ルーゲンタと和貴は顔を見合わせ、面白そうに笑った。