昼過ぎに目を覚ますと俺の上に女が乗っていた。
幽霊らしいそれは、非常識にも真昼間っから俺を金縛りにしているらしかった。
俺は非常識なものが大っっ嫌いだ。
声を出そうにもでない。
女の幽霊は俺にのしかかり、ニコニコ笑っていた。
ルーゲンタが来てくれればどうにかしてくれるんだろうけど、奴に頼るのは正直言ってかなり嫌だ。
俺が非常識なものを嫌うようになったのはほとんどあいつの所為だからだ。
女の幽霊は言った。
「ねェ、昼間っから寝ていてはいけないわ」
……は?
「日が上ったら起きて仕事をするべきだと思うの」
……なんなんだこの幽霊は。
「そろそろ起きたら?」
俺は起きたいのに、勝手に上に乗って起きれなくしてるのはお前だろう!?
叫びたいのに叫べないのはかなり苦痛で、かなりの苛立ちを感じさせた。
そのときがらりと押入れの戸が開き、ルーゲンタがのほほんと現れた。
「孝太ー、なんかして遊びませんか…って、あれ?」
幽霊とルーゲンタの目が合う。
「…ルーゲンタ様?」
「カルフォナ?」
「知りあいかよ!?」
驚いた拍子に俺の上から幽霊が転げ落ち、俺は飛び起きることが出来た。
「非常識な幽霊だと思ったらやっぱりお前の関係者か!」
「非常識って…孝太は失礼ですね。君だって十分非常識なのに」
「なんだと?」
「普通、本当に常識のある人は魔術師とか幽霊なんて信じませんよ」
「う、だ、だって、仕方ねぇだろ?そんな押入れがあるんだし」
「それでも信じない人は信じませんって…」
ルーゲンタの言うことが一理あるだけにむかついた。
「とにかく、今はその幽霊のことだ。なんなんだよそいつ。昼間っからでてくるし。日が上ったら起きて仕事をしろだの何だのって言うし」
「カルフォナは幽霊ですけど私の友人の一人ですよ。美人でしょ―。紹介してあげませんよー」
「どうでもいいよ。俺の血管切れる前に連れて帰れ!」
けれどカルフォナはニコニコ笑って俺に言った。
「こんにちはーぁ。貴方が孝太様?ルーゲンタ様のお友達の」
「友達ィ〜?」
俺は露骨なほど嫌そうに言った。
だけど、そんなことでダメージを受けるような奴ではなくて。
笑いながらカルフォナに言った。
「そうですよ。ところでどうしてここに?」
「孝太様に会ってみたくって」
「おやおや」
「ルーゲンタ様がわざわざ会いに来るなんてどんな人かと思って気になってたの」
「どうしてか分かりましたか?」
「ええ。とっても面白いからね」
その言葉に俺は切れた。
「とっとと帰れ――――!!!」
ルーゲンタとカルフォナを押入れに放り込んで戸を閉めた。
「もー、開けてくださいよー」
「入れてってばーぁ」
どんどんと戸を叩く二人がいつのまにか静かになり、俺はやっと落ち着けたのだった。
ため息をついて押入れを見た俺は呟いた。
「幽霊のくせに戸を抜けたり出来ないなんて、ほんとに非常識な奴」