気まぐれダウト

向田邦子の短編集『思い出トランプ』が大好きで大好きで…、何度、読み返したことでしょう。
それがこうじて、『思い出トランプ』のように、30枚の短編を13編、自分でも書いてみようと、思い立ちました。
短編集の名前「気まぐれダウト」は、『思い出トランプ』の最後の作品「ダウト」から戴きました。
トランプゲームの「ダウト」の掛け声は、しょせん、一か八かのはったりでしかありません。
私の13編の短編小説も、その類のものです。

…トランプに「ダウト」というゲームがある。
 カードで数を順に出してゆく遊びだが、相手のカードを嘘と疑ったら、「ダウト」と声をかける。
 嘘であれば、「ダウト」をかけた人に有利になり、はずれたら、リスクは大きい。
 「大きなこといえた義理かい、自分はなんだよ」
 いっそはっきり言ってくれたほうが、胸の突っかえがおりるというものだ。…

向田邦子「ダウト」の一節より


カマキリ 14枚・1990年12月

  朝日新聞の『文芸誌散策』に取り上げられました。
  高橋修三氏選評
  「真正面から男社会を糾弾したり、自立を叫ぶ女たちより、
   男にとってはこういう女がよほど恐ろしい」


ツクツクボウシ 26枚・1993年6月

 
私の住んでいる県で発行されている同人雑誌で作っている同人雑誌協会賞・小説部門で、
  この年の佳作を受賞した短編です。
  『繊細で微妙な女こころの高揚感と悲哀が、きめ細かく的確に描きだされている』
  との評を頂きました。


約束の月 30枚・2002年10月

   『思い出トランプ』の「大根の月」を読んで、
  私も、月にまつわる母と子のお話を書いてみたくなりました。
  向田邦子さんは、「昼間の月は、切り損なった薄切り大根のように見える」

  
と書かれていますが、私の「約束の月」は、秋の夜空に浮かぶ満月です。

相殺   28枚・2005年9月

  『思い出トランプ』の「はめ殺し窓」を読んで、
  向田さんの題のつけかたの上手さを、真似したくなりました。
  しかし、「殺」という言葉を、無理に使おうとして、
  話の内容そのものは凡庸なのに、筋運びにこじつけが目立つ小説となりました。

口紅   30枚・2006年3月

  「R−18文学賞」に応募して、1次予選にもかすらなかった作品です。
  女性同士の愛がテーマですので、
  そういうのが苦手な方は、読むのをご遠慮ください。

母の幽霊  30枚・2007年5月

  私は編み物が好きなので、
  編み物の思い出が繋ぐ、母と娘のお話を、いくつか書いています。
  第19回「銀の雫文芸賞」の最終選考に残ったものです。

  「着想がユニーク」「ユーモラスでいい」
  「作り過ぎのきらいがある」「書き手の内面との関わりが未消化なのが惜しい」
  などの、批評を頂きました。


思い出は、雪のように舞う  28枚・2008年8月
  
  「母の幽霊」と同じじく、歳老いた編み物好きな母親と、その家族のお話です。
  今回は、編むことよりも、編んだものを解いて、
  1個の毛糸玉に戻す作業についての、それぞれの思いを書いてみました。

春が来た!  28枚・2009年4月

  身長150センチ体重70キロ、おデブで内気で、でも家庭的には幸せで…。
   そんな室井秀子は押し付けられそうになったPTA役員を逃れようと、スーパーで働きだす。

  そこで、35歳の彼女は、人生の転機を見つけた。
 
 迷い犬  29枚・2011年1月

  母と幼い兄と私を40年前に捨てて、父は、新しい人生を選んだ。
  その父が、「会いたい」と言ってきた。私は、いまさら父に会うべきか、悩む。
  そんな時に、死んだはずの飼い犬のハルが、幽霊になって、庭に出没するようになった。
  ハルは、私に伝えたいことでもあるのだろか。


  仔犬    32枚・1991年12月

  僕には、8歳年上の兄がいた。
  色黒で背も低い僕と違い、兄は色白で痩せていて背も高かく、勉学も優秀だった。
  20歳で死んだ兄は、敬愛するにふさわしい存在のまま、いつまでも僕の心の中に住んでいる。
  しかし、その兄が、たった1度だけ、その激しい内面を見せたことがあった。

  葡萄    21枚・1986年5月

 (地元新聞による紹介と批評から抜粋)
 自然と笑みが浮かんでくる、爽やかな読後感。
 下腹部の激痛で目が覚めた美佐子は、流産防止のために、安静にするように言われる。
 達雄出勤する間際にささいなことからいさかいを起こすが、
 スーパーの袋抱えて帰ってきた達雄を見て、美佐子は……。
 どこにでもいるような若い夫婦の1日を描いて、2人のほのぼのした間柄が、快く伝わってくる。

  ヒフティ―・ヒフティ―    21枚・1986年10月

 小学校入学を目の前にした健斗が、飛び出した四つ角で車に轢かれそうになった。
 それを見て、母親の仁美は、夫の修平との見合い当日の朝に、
 自分も、トラックに轢かれそうになったことを、思い出す。
 結婚前は、人生のよいことも悪いこともヒフティーヒフティーと割り切れていたはずだった。
 母親になる前の自分は、似非ニヒリストだったと、その夜、仁美は思う。

 運がいい   20枚・1998年5月

 40歳の奈津子は、14歳年下の淳一を、痴話喧嘩のはてに、刺し殺してしまう。
 犯行に使った洋包丁は、運の悪いことに、研いだばかりで切れ味がよかった。
 淳一の死体を目の前にした奈津子は、
 30年昔に、母の和代にも年下の恋人がいたことを思い出す。




小説中編

骨   73枚・1995年11月 

  
小説を書き始めて10年目、やっと中編が書けるようになった、記念すべき作品です。
  『海燕』1996年2月号・(金子昌夫氏評)
  「骨」は、夫やわが子とともに1人になった母と同居するため実家で暮らすことになった
  女性の久しぶりの故郷での日々を追う。
  かっての日々の想い出と、現実の風景が重なりあう時間の推移がじっくりと表現されて、
  そこに堆積された、現実の切実さが浮かび上がってくるのは、
  新鮮な認識のイメージといってよいだろう。


クレイジーキルト  85枚・2008年11月 

  第16回九州さが大衆文学賞・最終選考作品
  森村誠一氏評
  中年と初老の女性二人のレズビアン関係が、パートナーの死を前提に描かれている。
  「パッチワーク作品に人生が凝縮されている」と褒めてくれたパートナーに、
  貸した30万円の意外な使途が、最後に明かされる。
  まさに人生の凝縮のような残余の命を燃やした同性愛が淡々と描かれる。

犬地図   88枚・2010年1月 
  第27回大阪女性文芸賞・予選通過作品
  高山秀子は50歳代後半の主婦。
  夫は定年退職を目の前にして死に、2人の子ども達とも不仲な状態が続いている。
  しかし秀子には、家柄教養ともに申し分のない友人達と、趣味がある。
  彼女のお一人様老後は、理想的に始まるはずだった…。

琥珀色の記憶  116枚・2010年3月

  65歳の浅井絹江は、大月町公民館で開催されていた料理教室で、
  北村圭介という懐かしい名前を耳にして、30年昔を思い出す。
  30年昔、圭介の不幸な家庭環境に同情した絹江は、ある計画を立てて実行した。

覗き見   86枚・2010年・4月

 50歳の花岡多恵は、スーパーのレジ係。
 その職業柄、買い物かごの中身から客の生活が透けて見えることがあり、
 彼女は最近自分のレジを利用するようになった、若い母子に関わってしまう


竜退治   47枚・1989年・12月

 田村光子が1人息子の尚幸に、TVゲームのファミコンを買い与えたのは、
 尚幸が、まだ小学校2年生の時だった。
 TVゲーム『ドラゴン・クエスト』と共に、成長する母子の姿を描く。
 

 
その他

てかがみ投稿集 1981年〜2001年

  
…文章を書くことを、これからの人生の楽しみとしたい…
  そう思ったものの、何をどう書けばよいのか、迷いの日々が続きました。
  愛媛新聞家庭欄の
『てかがみ』は、そんな私にぴったりでした。
  20年間で、37篇が採用され掲載されました。






60歳(2011年)からの、新しい小説は、順次、この下に発表します
 


NEW凍える女   85枚・2011年・7月

 芳川悦代は、姑の悪だくみにハメられて、スーパーで働き始めた。
 …スーパーの狭い通路奥にある、業務用大型冷凍庫に積まれた段ボール箱の中には、
 保坂食品係長の手によって、いったい何が詰め込まれているのだろう?
 ぼろ雑巾のように疲れきった悦代の頭の中で、妄想が、膨らみ始める…
 (第19回九州さが大衆文学賞1次予選通過作品)





  それぞれの小説の、創作過程や賞応募の裏話は、ブログ『ミマンの日記』に書いています。