慢性上咽頭炎と上咽頭擦過治療(EAT、Bスポット治療) 17年7月24日
鼻の奥と口腔の上の交差する部分を上咽頭と言います。以前は鼻咽腔とも言っていました。ここには小児期にアデノイドがあるために、免疫反応の場でありかく炎症の巣でもあります。上咽頭は大人になっても炎症の巣となる場合があり、風邪が治りにくくなったり頭痛の原因となったりします。この部分に消毒液を塗って消炎する治療法があります。私が勤務医時代には外来の耳鼻科診療ユニットに塩化亜鉛やルゴール液などの消毒液が備え付けられており、上咽頭の炎症が強い方には、咽頭巻綿子(けんめんし)という先端に綿が巻かれた器具で上咽頭に消毒液を塗っていました。その治療が、Bスポット治療として最近改めて注目されています。ここ数年、当院でもBスポット治療を行っているか否かの問合が増えています。当院ではこれまでルゴール液を上咽頭に塗る上咽頭擦過治療は行っていましたが、本来のBスポット治療は、塩化亜鉛を用います。塩化亜鉛には、たんぱく質を変性させて血管や細胞組織を収縮させる収斂作用があります。塩化亜鉛を上咽頭に塗ると刺激が強いために、一時的な強い痛みや出血が見られることがあります。このため私は刺激の少ないルゴール液を用いていたのですが、文献を当ってみると、やはり上咽頭に慢性炎症がある場合には、塩化亜鉛を塗る方が効果が高いようです。このため当院でも、明らかに炎症の強い大人の方に対して塩化亜鉛を用いたBスポット治療を行うこととしました。
当ホームページにも、慢性上咽頭炎とBスポット治療についてのページを設けました。
(8月28日追加)
Bスポット治療の原法である塩化亜鉛を用いた上咽頭擦過治療を行いました。塩化亜鉛は粘膜を収縮させる収斂(しゅうれん)作用があります。塩化亜鉛溶液を塗った場所に炎症があると粘膜から出血します。原法では1%濃度を用いますが、治療開始時の反応をマイルドにするために0.2%や0.5%から始める方法もあります。今回は他院でBスポット治療を経験したことがあったことも踏まえて1%液を用いました。塩化亜鉛をBスポットに塗ると、擦過した咽頭巻綿子に出血が見られましたので、出血が見られなくなる=表面上の炎症が見られなくなるまでBスポット治療を繰り返します。今回の治療の主な目的は、IgA腎症の改善を目指すことでした。IgA腎症や掌蹠膿疱症は、扁桃組織の慢性炎症が遠隔部位の臓器に悪影響を与える病巣感染の代表的な疾患です。この病巣感染の主たる原因部位としては口蓋扁桃も考えられます。Bスポットである上咽頭のアデノイド遺残の扁桃組織の量よりも、埋没型で表面上は小さく見えたとしても口蓋扁桃の方が扁桃組織の量は多いですので、Bスポットよりも口蓋扁桃の方が、病巣感染として悪影響を与えている可能性もあります。口蓋扁桃が病巣感染の原因かどうかは扁桃誘発試験という検査である程度判定できますので、今回のケースではどこかの時点で扁桃誘発試験も行う予定としました。
パーキンソン病による嚥下障害 17年7月21日
先日、パーキンソン病による嚥下障害の方が来院されました。この病気は神経内科が専門ですが、嗅覚障害や睡眠障害、嚥下障害など耳鼻科外来を受診する方の中にも早期のパーキンソン病が隠れているケースもあります。今日は耳鼻科からアプローチするパーキンソン病について記してみます。
パーキンソン病は神経が変性する病気の中ではアルツハイマー病に続いて多く、65才以上の高齢者の100人に1人が罹っているとの報告もあります。ドパミンという神経伝達物質を産生する黒質細胞が変性するためにドパミンの不足が起こり発症します。発症の時点で黒質細胞は10才代の50%に減少し、産生されるドバミンの量が20%程度になります。パーキンソン病と類似した症状を起こすものに、他の神経変性疾患で起こる二次性パーキンソン症候群や、脳血管障害や薬剤の副作用として起こる症候性パーキンソン症候群もあります。特にドパミン拮抗作用のある薬剤(抗精神病や抗うつ薬、抗潰瘍薬、制吐剤)で薬剤性パーキンソン症候群が起こりますので注意が必要です。
症状は、大きく分けて運動症状と非運動症状に分けられます。運動症状としては、初期にはふるえ、動作が鈍い、前屈み姿勢、小刻み歩行などがあります。ごく早期には、動作時や歩行時の手のふるえや、歯磨きや包丁を扱う動作などの素早い手の反復運動の障害が起こりますが、この時点で診断されることは少なく、CTやMRIでも早期には診断がつきません。本人や家族は歩行時や立ち上がる際の動きの固さで気付きます。私の立場からは診察時の手や頭の動きの固さやふるえ(振戦)でパーキンソン病に気付きたいものです。進行すると、バランス障害や嚥下障害が起こり、治療薬の効果時間が短くなることから症状の変動(ウエアリング・オフ)や不随意運動(ジスキネジア)が起こる場合もあります。進行期の嚥下障害は高度となることが多いことから、耳鼻科でも誤嚥性肺炎の発症にも注意しながら食事療法などでリハビリテーション病院との連携を密にしたいです。
耳鼻科で注意しなければならないのは早期の非運動症状です。最近の研究では、黒質細胞の変性の原因はLewy小体という細胞の出現と関連しており、このLewy小体は脳内だけでなく自律神経である心臓の交感神経や腸管固有神経叢にも早期に出現することが分かってきました。そのため、嗅覚障害や便秘、意欲低下、疲労感、睡眠障害(不眠やレム睡眠運動障害など)などが起こり、進行すると無気力、物忘れ、食欲不振による嚥下障害、幻覚妄想などの認知症症状が出現します。近年、嗅覚障害がパーキンソン病だけでなくアルツハイマー病や認知症の初期症状であることが分かり注目されています。認知症の診断スコアに嗅覚障害の有無を利用する研究も出始めています。私も嗅覚障害の方を診察する際には、鼻腔内の末梢性の障害の確認だけでなく脳内などの中枢性の障害の有無も念頭に入れて診察を進めたいと思います。
宇和町散策 17年7月19日
水曜午後を利用して同期生のクリニック訪問に宇和町に行ってきました。南予の宇和町と言えば過去に何回か愛媛県歴史文化博物館は訪れたことがあったのですが、意外に?重要伝統的建造物群保存地区の卯之町の町並みは訪れたことがありませんでした。クリニックにほど近い町並みを少しだけ散策してきました。
瓦屋根で落ち着いた佇まいのJR卯之町駅です。待合室で見つけた「青春18きっぷ」のパンフレットに思わず手が伸びました。
思えば大学5年生の夏、私は、幹部を務めた最後のテニスの試合、西日本医科学生体育大会が金沢で終わった後、衝動的に青春18きっぷを使って目的地を決めない一人旅に出ました。実家に荷物を郵送、サマーセーター1着で、車内泊→駅前の安宿泊→車内泊を1週間繰り返し、金沢→青森→青函連絡船→稚内→東京→大垣行夜行鈍行→松山と旅行しました。後にも先にもこんな旅行はこの時だけです。当時ボックス席で特に北海道では椅子が木製の鈍行列車の車内や旅館では、いろんな人との会話やふれあいがありました。当時1万円で2日有効券2枚1日有効券3枚の7日分のチケットでしたが、最近は5日分で夏季限定となっています。パンフレットを見ていると、北海道新幹線オプション券というものが紹介されていました。そうでした、北海道新幹線が開通したことにより海峡線を走行するのは北海道”旅客”新幹線と貨物列車だけになっていました。連絡船や青函トンネルの普通列車が無くなったために青春18きっぷだけでは北海道に行けなくなっていたのですね。途中で新幹線に乗ってしまうと、ちょっと泥臭い感じが減って郷愁感が無くなりそうで残念です。(BSでは鉄道紀行の番組がいっぱいありますが、18きっぷを利用した私としては関口知宏氏の番組がいいです。最初のシリーズ「列島縦断鉄道12000キロの旅」もあこがれでしたが、この夏再放送された「中国鉄道大紀行 最長片道ルート36.000kmをゆく」が最高でした)
卯之町駅のホームには夏らしく風鈴とヘチマが吊るされていました。
卯之町の町並みの特徴は、江戸の寺・商家、明治の学校、大正・昭和初期の町屋が混在しているところです。町屋も平入り(建物の棟と平行な部分に玄関がある)と妻入りが混在しているところで、格子・蔀(しとみ)・床几・大戸・卯建(うだつ)・袖壁・軒下の持送り・二階手摺・飾り瓦が様々に取り入れられています。歩くと建物の木の匂いでほんわかします。赤いポストが実用されています。いいですね。
一般の人が生活する家も、歴史的な町並みに溶け込んでいます。お土産屋さんや民芸店がほとんどないのもいいです。道路にはデザインマンホール(またの名をご当地マンホールとも言います)。以前、製作現場をテレビで紹介していましたが、1枚1枚丹念に手作りされていました。開明学校には明治5年開校当時の私塾申義堂と明治15年竣工の小学校校舎があります。小学校は四国で一番古く国の重要文化財に指定されています。
高野長明の隠れ家:高野長英と言えば、渡辺崋山とともに蛮社の獄で捕らえられたぐらいの知識しかありませんでしたが、なぜ南予に隠れ家が?と調べてみると、凄い人物ですね。高野長英の生誕地、岩手県奥州市の高野長英記念館では長英のことを「世界の動きから閉ざされた鎖国の時代 日本の夜明けを感じた人がいた」と紹介しています。ドイツの医学者シーボルトの長崎鳴滝塾での内弟子で、わが国最初の生理学書「医原枢要」を表しています。杉田玄白の解体新書は有名ですが、我が国初の生理学書にはノーマークでした。解剖学書よりもある意味生理学書の方がレベルが高いかも知れません。記念館のホームページ 高野長英記念館へ では、蛮社の獄で捕らえられる原因となった著書「夢物語」全文の読み下し文も掲載されています。今読んでもレベルが高い! アヘン戦争当時のイギリスの日本に対する出方の分析と対処法の提案を行っています。松下村塾の吉田松陰に引けをとらない人物です。同ホームページの「高野長英の人生をたどる」を読むと、大河ドラマが1本出来そうな人生を送っていました。長英は牢屋の火災をきっかけに脱獄した後、全国を逃亡しています。そして宇和島藩が兵学蘭書の翻訳と海岸防備を進めるための人材を確保する必要から潜伏していた長英を招き、また、卯之町には鳴滝塾で学んだ二宮敬作がシーボルト事件後に帰国し医業を開いたために、彼が長英を匿いました。それがこの隠れ家です。(さらに、二宮敬作はシーボルトの娘イネに医学を教えたことから宇和町は「日本女医発祥の地」でもあるとのことです)
夏風邪の鑑別 17年7月17日
猛暑の海の日です。昨日、当院では手足口病の小児が急増しました。典型的な手足口病では、お子様が急に高熱が出てぐったりして、食事を全く採らなくなることから、保護者の方も心配になります。ただし初期では、発熱とのどの粘膜のかすかな充血だけだったりしますので、現在松山で手足口病とともに流行っている溶連菌咽頭炎やアデノウイルスによる咽頭結膜熱の初期と区別がつかない場合もあります。溶連菌やアデノウイルスは迅速検査がありますので、鑑別診断のために検査を活用しています。また手足口病は大人も発症する場合もあります。小児よりは総じて症状が軽い場合が多いのですが、時には高熱や多発性の口内炎、手足の皮疹が見られる場合もあります。さらに手足口病と似たウイルスによる夏風邪のヘルパンギーナもあります。今夏は手足口病の発生が目立って、ヘルパンギーナの発生は少ないのですが、ヘルパンギーナもそろそろ増えてきました。2週間前に手足口病に罹って今回ヘルパンギーナが疑われるというお子様も見られました。また手足口病はエンテロウイルス系の腸管で増殖するウイルスですので、下痢や吐き気などの消化器症状も見られます。昨日は朝から気温が上がっていましたので、学生さんで部活を朝に始めたとたんに熱が出て気持ちが悪くなった場合には、手足口病をはじめとする夏風邪の初期か熱中症か判断に苦しむケースもありました。咽頭所見や尿所見、時には血液検査も参考にしながら対応しました。
救急時の小児の痛み止め 17年7月17日
海の日は、当院もお休みを頂いていました。痛みが強くなったお子様のお母様から問合の電話を頂きました。処方していた痛み止めが切れてしまったとのことでした。あいにく私も外出していたことから、ドラッグストアでお薬を購入して対応して頂くことにしました。3才以上であればドラッグストアでも消炎鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンは購入できます。(2才以上で総合風邪薬としてもアセトアミノフェンは配合されていますが、解熱の常用量としては3才以上との決まりです) 松山でも営業時間の遅いドラッグストアならば午後11時まで営業していますので、今回は幸い病状が確認できていましたので、夜間救急病院を利用しなくてもお薬の入手だけで対応出来ました。
道後公園散策 17年7月17日
私は1年振りに道後公園を散策してきました。以前は子供を連れてよく遊びにきていたものでしたが、最近は時々訪れる程度です。中央の展望台は比高30mの小高い丘陵ですが、結構木々が生い茂っています。樹液の匂いも強く、昔、夜中にカブトムシを探し回っていた頃を思い出しました。ひとつだけ当時との違いが、愛媛県立都市公園条例というのでバーベキューや花火が禁止になっていました。道後公園は花見の名所でもありますが、桜の木への悪影響もあるのでバーベキューも禁止だそうです。花見のあの香ばしい匂いはもう嗅げないのですね。
道後公園は登山道の整備もしっかり更新されていました。また案内板も増えていました。ここは道後の温泉街の南端にあたります。市も整備にはしっかりとお金をかけているようです。ここは中世の守護の城館としては全国的にもまれにみる良好な保存状態の史跡です。先日、私は集中的に中世日本史を読み込んでいましたので、源平から元寇、応仁の乱まで鎌倉室町期の守護大名に関してちょっと知恵がついています。(*^^)v これまでなにげなく通っていた公園内ですが、ゆっくりと案内板を見ながら散策すると、興味深々でした。身近にこんな場所があって感激でした。
道後公園は湯築城跡として国史跡に指定されています。湯築城は1334年頃に河野通盛によって築城された伊予国の守護河野氏の居城で、約250年間存続しました。祖先には源平合戦の際、源氏方で水軍を率いて活躍した通信や蒙古襲来の際に活躍した通有がいます。瀬戸内海の海賊衆来島村上氏も河野氏の配下でした。その後讃岐から攻め入った細川氏に一時占拠されたり、惣領職の継承をめぐるお家騒動、家臣の反乱による内紛はどを経て、天正13年(1585年)に羽柴秀吉の命を受けた小早川隆景に包囲され降伏し廃城になっています。呉座勇一氏の「戦争の日本中世史 下剋上は本当にあったのか」そのものの世界です。うーむ、公園内の土塁や武家屋敷を見るだけで面白いです!
ここ最近、当院でも愛媛国体のポロシャツを着て受診される方が目立ってきました。9月30日に始まる愛媛国体に合わせて、道後では、9月中に道後温泉の別館「飛鳥の湯」が開館します。こちらは斉明天皇や法隆寺との繋がりを視野に入れて飛鳥・奈良時代と関連しています。耐震工事の始まる道後温泉本館や子規記念館、坂の上の雲ミュージアムは明治関連です。松山城は戦国・江戸時代関連です。湯築城を含めると、松山に居ながらにして飛鳥~明治を感じることができます!
道後公園は蓮の名所でもあります。蓮の花の命は4日、しかも午前中だけ開花します。見ごろはこれからでしょうか? 今日の夕方に花は確認できませんでした。
展望台の海抜は70m、比高は30m足らずですが、道後自体がゆるやかな高台になっているせいで、展望台からは松山城はもとより瀬戸内海、興居島から松山市駅の観覧車「くるりん」まで一望できます。先日、NHK全国放送で「ドキュメント72時間」で「くるりん」が取り上げられていました。観覧車に乗る人だけでもいろいろな人生があるんですね。
湯築城跡のお堀の外はもう道後の温泉街です。子規記念博物館や旅館「ふなや」が見えます。8室限定の旅亭「うめ乃や」は目の前です。
ちょと歴史の目で見ると、、公園の遊具の先には昭和天皇のご大典(昭和3年の即位)の記念碑が。坂の上の雲の主人公、日露戦争の騎馬隊を統率した陸軍大将秋山好古の揮毫です。
湯築城の遺構エリアでは、家臣団の武家屋敷跡などが復元されています。庭園跡や土塁も復元されていて、在りし日の守護大名の城郭内の生活を感じることが出来ます。
熱中症と電解質異常 17年7月13日
高齢の方の高カリウム血症が見られました。採血や採決後の血液の保存状態によっても高カリウムのデータになります(偽性高カリウム血症)ので、評価は慎重に行わなくてはなりませんが、高齢者のイオンバランス(電解質代謝)の異常は、全身状態にも影響しますので要注意です。この方は内科での精査加療をお願いしました。
電解質異常といえば、猛暑到来で熱中症にも注意しなければいけません。小さなお子様では熱中症の準備段階としてのうつ熱にも注意します。当院でも午後に発熱だけで来院したものの風邪の所見や炎症所見のない、体内からの放熱機能が落ちたことにより熱が体内にこもるうつ熱状態のお子様も見られるようになってきました。
国際分類では熱中症を3段階のステージに分けています。
ステージⅠが、熱失神・熱痙攣です。熱失神(heat syncope)は、発汗による脱水→末梢血管拡張→脳の血液循環の減少で起こります。室外だけでなく高温多湿の室内での発汗でも起こります。体のクーリングが有効です。熱痙攣(heat cramps)は、発汗後に水分だけ補給して塩分=ナトリウムが欠乏した場合に起こります。平熱でも起こり、低ナトリウム血症による筋肉の痙攣が誘発されます。経口補水液が有効です。
ステージⅡが、熱疲労(heat exhaustion)です。脱水と塩分の欠乏が同時に起こり、体温が高熱になります。医療としての点滴(補液)が必要となります。
ステージⅢが、熱射病(heat stroke)です。野外での日光直射による日射病(sun stroke)も同じ病態です。視床下部の温熱中枢まで障害され体温調節機能が低下し、意識障害が生じる重症レベルで、入院の上、クーリングや補液が必要で、時には人工透析も必要になります。
体温の調節機構の未熟な小児や発汗機能の低下した高齢者では、軽度のうつ熱状態である熱失神から熱疲労に急速に進行する場合もあります。当院ではこの時期、発熱脱水が認められる、ただし急な点滴までは必要としない方には、経口補液のドリンク剤やゼリーをサービスでお渡ししています。
遺伝子パネル検査 17年7月13日
日本の行政や政治は、官僚のお膳立てした霞が関の審議会や会議で決まります。小泉内閣の経済財政諮問会議が発表した「骨太の方針」のインパクトは今から思い返しても強烈でした。私の立場上気になるのがやはり厚労省が開催する会議で動向です。報道によると、厚労省は「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」(座長:間野博行・国立がん研究センター研究所長)の報告書で、「がんゲノム医療中核拠点病院(仮称)」の2017年度中の選定や、「遺伝子パネル検査」を活用した先進医療の2018年度からの実施、同年度末の薬事承認・保険収載などを目指すとしました。遺伝子パネル検査を医療保険で認める、、超高額な抗がん剤分子標的薬オブジーボを凌ぐ、超高額な医療の世界がやってきそうです。100以上に及ぶ分子標的薬が有効な遺伝子を患者個人が持っているかどうかを一括で調べることのできるパネル検査は、現在は自由診療で60~100万円かかります。私自身が癌を発症して抗がん剤を試みる段階になったとしたら、今後増えても全国に数10ケ所しかないがんゲノム医療中核拠点病院で医療保険を使ったパネル検査を望むと思います。現在でもオブジーボは、適応症が悪性黒色腫から肺癌、頭頚部癌そして今後は胃癌と広がっています。分子標的薬など遺伝子で確認したい抗がん剤も今後どんどん増えてくるでしょう。そう遠くない将来に、癌の多くは遺伝子診断してから抗がん剤治療を行う方が有効性が高くなるでしょう。全国の癌患者が拠点病院に殺到して予約待ちが十数年ということにもなりかねません。報道では、パネル検査が保険適応されれば医療財政は間違いなく破綻する、との大学病院医師の意見も紹介されていました。早ければT来年度の医療保険で認められます。医療財政は、癌医療はどうなるのでしょうか。私は、医療の進歩を喜びながら、ひしひしと恐怖感も覚えます。
花火大会 17年7月13日
夏休みといえば、花火大会の開催ももうすぐです。愛媛県内の花火大会の双璧は、松山市の三津浜花火大会と今治市のおんまく花火大会です。昨年、おんまくが打上げ玉数1万”1発”、三津浜は1万発で、おんまくが県下一の花火大会となりました。今年は三津浜が1万1千発に増やしたかと思えば、おんまくはなんと1万4千発です! 全国的にも諏訪湖の4万発はダントツとして、全国4位の隅田川が2万2千発ですから、結構なレベルです。ちなみに、おんまくは全国同率39位のランキングです。愛媛は他にも、新居浜が8千800発、伊予市が7千発、東温市が5千発と、四国四県の中では断トツの頑張りです。愛媛の人は花火好きなのでしょうか? おんまくと三津浜のトップ争い、どうなるのでしょうか? バブル崩壊前でなければいいのですが。
大人の耳下腺腫脹 17年7月10日
大人の方の耳下腺炎が散見されます。耳下腺が腫れる代表的な疾患はおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)ですが、流行性耳下腺炎に感染すると抗体が一生持続することから再感染は起こりにくいとされていましたが、近年になって耳鼻科領域でも小児科領域でも再感染があり得るとの論文が出ています。そのため小児期におたふくかぜに罹ったと思われる大人でもおたふくかぜの可能性は否定できません。今回の腫脹がおたふくかぜでないかどうかの判断には血液検査でおたふくかぜの原因ウイルスであるムンプスウイルスの抗体価を調べます。急性期のIgMウイルスが増加していれば今回感染したと類推できますが、この抗体は発症後5~7日経たないと増えてきません。過去に罹ったことを示すIgG抗体があれば今回の腫脹はおたふくかぜではないと類推できます。実は大人の耳下腺腫脹の多くは、感染症ではムンプスウイルス以外のウイルスか細菌性です。腫れを繰り返す反復性であれば、シェーグレン病やミクリッツ病(最近はIgG4関連疾患とも呼ばれます)のような自己免疫疾患や唾石、小児の反復性耳下腺炎でみられるような唾液管末端拡張症、ワルチン病や多形腺腫のような良性腫瘍やアレルギー反応で腫脹する場合もあります。耳下腺をはじめとする唾液腺が大人の方で腫れた場合には、小児以上に様々な原因を考えなければいけません。
成長可能性都市 松山 17年7月6日
野村総合研究所NRIが「成長可能性都市ランキング」を発表しました。おらが町松山も入っているの?と確認したところ、松山は大健闘です! 総合ランキングで15位、注目度の最も高い、ローカルハブになるポテンシャルランキングではなんと4位、多様性を受け入れる風土では20位以内、創業イノベーションを促す取組で30位以内、都市の暮らしやすさで6位!、都市の魅力で7位!、リアルタイム世代が余生を楽しみながら仕事ができる3位!です。ちなみに総合ランキング1位は東京23区、2位福岡市、3位京都市。ポテンシャルランキング1位福岡市、2位鹿児島市、3位つくば市でした。松山は並み居る強豪都市に引けをとらない高ランキングでした。中でも私には「リアルタイム世代が余生を楽しみながら仕事ができる」の3位が特に素晴らしいです。野村総研のフォーラムでの発表資料「ランキングによる都市の持つ「成長可能性」の可視化 ~地方創生の成功の鍵はどこにあるのか~ 社会システムコンサルティング部 上級研究員 小林庸至 グローバルインフラコンサルティング部 副主任研究員 波利摩
星也」を見ましたが、精緻な分析の上でランキングを導き出していました。しかし残念ながら資料では基データまでは公開されていませんでした。松山がどうして”余生を楽しめて””リタイアしても仕事ができるのか”、どういう根拠を基に高ランキング入りしたのか大いに気になります。
マイブームとしての歴史 17年7月3日
寄る年波とともに歴史が面白くなってきます。私には数年に一度、歴史のマイブームが訪れます。
私は高校で世界史を選択していたこともあって、近代以前の日本史が掴みきれていませんでした。大河ドラマ「篤姫」の影響から維新の歴史人物の伝記を読み漁ってようやく私の中で維新史観ができました。司馬遼太郎氏の戦国4部作「国盗り物語」「関ケ原」「新史太閤記」「城塞」で戦国時代の流れが分かりました。その他の時代も井沢元彦氏の「逆説の日本史」や時代時代の書物で日本史の流れを捉えることはなんとか出来ていた気がしていたのですが、南北朝時代から戦国時代の初めまでの流れはどうも繋がりませんでした。今回、呉座勇一氏の著作を読むことによって、この辺りの時代の繋がりが初めて分かりました。
現在、歴史書のベストセラー1位の「応仁の乱」は、奈良の興福寺から話が始まります。なぜお寺の話がと思っていると、大和(奈良地方)の国は室町幕府の守護が置かれず興福寺が主に治めていたためであり、京都周辺の大和国や山城国の実権を室町幕府の将軍が誰に任命するかという事が、室町幕府の政権基盤のなかでいかに重要かが分かってきます。そして、守護の権力争いと将軍職の後継者争いが絡み合って、日本社会を変えた歴史の転換点であり戦国時代を生んだともされる応仁の乱が起こりました。呉座氏は歴史小説のような筆致で書き進めていますので、なんとなく起こりなんとなく終わったような大乱を分かりやすく捉えることができます。応仁の乱はとても人間臭い乱だったのです。
続いて呉座氏の出世作、角川財団学芸賞受賞の「戦争の日本中世史 下剋上は本当にあったのか」を読みました。源平合戦、元寇、南北朝動乱、応仁の乱と続く時代の武士の普段の生活が伺い知れます。戦で負傷すればどうなるのか、戦に参加したくない時はどうなったのかなど生々しい実例がたくさん示されています。著者以外の中世史研究者の考え方を多数紹介していることから現在の歴史学会の論点が分かり、また戦後の唯物史観を基にした歴史観の一面性も紹介されており、こちらの点でも興味深かったです。私は一揆は”動乱”という意味が主だと思っていましたが、武士の”政治的共同体の盟約”という意味が本来だったのですね。応仁の乱を経た頃には、将軍の守護を任命する権力が低下し、京都に駐在していた守護が在地で過ごすようになり、戦国大名が生まれていきます。日本の中世から近世への繋がりを理解する上で役に立ちました。
呉座氏はあとがきの中で、応仁の乱は、誰も意図しないのに世界大戦になってしまった第一次世界大戦に似ていると述べていました。そう言えば私は第一次世界大戦もよく知らない、、と思ってイアン・カーショーの「地獄の淵から ヨーロッパ史1914-1949」(2017年)を、そうすると植民地統治の話もよく知らない、、とマルク・フェローの「植民地化の歴史 征服から独立まで/13~20世紀」(2017年)を、図書館の新刊書コーナーに見つけて読みました。読み進めて感じるのは、技術や文明は進歩してもやはり人間の本質は恐らく変わらないことの怖さです。例を挙げると、全体主義ファシズムはイタリア語由来です。ドイツが先ではなく、イタリアのムッソリーニ政権で最初に示された言葉です。左翼社会党機関紙編集長だったムッソリーニが1919年に政治結社「戦闘者ファッシ」を結成した際の綱領を紹介してみます。普通選挙権、貴族爵位の全面禁止、表現の自由、全国民に開かれた教育制度、公衆衛生の改善処置、金融投機の禁止、1日8時間労働制の導入、労働者を協調組合に組織し利益を共有、政治警察・貴族院・君主制の廃止、地方自治と行政権の地方移譲に基づく新イタリア共和国の創設。どうでしょう、現代の政党でも十分通用する主張です。ムソリーニッは権力を掌握する毎に方針を徐々に変えていきます。第一次世界大戦後、世界中の国々は米国の大恐慌後の世界恐慌に苦しみました。世界中が、民族や個人の安寧を優先しねければいけない社会になってゆきました。第二次大戦後の世界だけを見るのではなく、中世や近世も含めて過去の歴史から学ぶことはたくさんあります。
(7月6日追加)
先日のレヴューの続きですが、「植民地化の歴史」、大著ですが興味深いです。植民地化の歴史を紐解くと、2002年にインドネシアから独立した東ティモールがなぜ国際法上はポルトガルからの独立となるのか、などの錯綜する歴史の理解を助けます。私は植民地化は武力で一方的に行われたと思っていたのですが、植民地化を進める宗主国には文明国のプライドがあります。勢力確立の典型的なやり方は、「相手国の公共事業権委託を手に入れ、いずれ償還不能になになりそうな借款を地元の太守に契約させる」というものです。あくまでも表面上は、法に則った好意的な援助を装うのです。最後は背景の武力がものをいいますが、最初は地元の有力者が協力するケースも多いのです。やはり歴史を知らなければ、です。
抗微生物薬の適正使用 17年7月2日
6月1日、厚労省が「抗微生物薬適正使用の手引き」第一版を公開しました。これは風邪の診療ガイドラインともいうべきもので、これまで、中耳炎のガイドライン、副鼻腔炎のガイドライン、呼吸器感染症のガイドライン、肺炎のガイドラインなどの臓器別のガイドラインや、溶連菌感染症の診療指針、マイコプラズマの診療指針、百日咳の診療指針、インフルエンザの診療指針などの病原微生物別の診療指針はありましたが、急性気道感染症=風邪に対する権威ある治療ガイドラインは初めてです。耳鼻科外来はもとより医療全般としても最もありふれた病態である風邪に対してのガイドラインが示されたことは、今後の外来診療に大きく影響を及ぼしそうです。私としても大変注目度の高いガイドラインです。
もう一つ、厚労省では6月23日に不適切な多剤併用(ポリファーマシー)の問題を議論する「高齢者医薬品適正使用検討会」の第2回会合を開催しています。同会合では、約5万人の65歳以上の高齢者のレセプト中、約4割に6種類以上の薬剤が処方され、約1割では10種類以上処方されているとの報告がありました。複数のレセプトを付け合わせれば、高齢者1人当たりの多剤併用例はさらに多くなると思われます。今後多剤併用に対する治療指針の策定があれば、精神科領域での多剤併用が是正されてきたように、内科診療の分野で大きな影響が出そうです。早ければ来年度末には最終報告が出る予定です。
抗微生物薬適正の話題に戻ります。抗生剤への薬剤耐性菌の問題は1980年代から話題になっていましたが、一気に注目を集めたのが英政府が委託したオニール委員会が行った研究「抗菌薬耐性についての検証(Reviewon Antimicrobial Resistance)」です。2014年末にキャメロン首相から発表されました。オニール氏は米投資銀行のチーフエコノミストで、経済学的な側面も含めた検証だったことからも注目を集めました。研究では、薬剤耐性の影響により、2050年までに毎年世界で1000万人が死亡し、各国の国内総生産(GDP)が2~3.5%減少するとしています。耐性による死者数が最も多くなるのはアジア地域の470万人、アフリカ410万人、欧州39万人、米国31万7000人と詳細に推計しています。死亡要因2番目の癌による死亡数が年間820万人ですので、それを上回るとの推計も衝撃的でした。米国では既に年間約2万3000人の死亡例および200万人の疾患に抗生物質の効かない感染症が関係していると指摘、また経済的損失は、直接的な医療コストの超過で200億ドル(約2兆3800億円)、生産性の低下で350億ドル(約4兆1600億円)と試算しています。この報告が政治的にも注目を集め、ADR(antimicrobialresistance 抗微生物薬耐性)対策が策定されるようになりました。英国では医師毎の患者1000人当たりの抗菌薬処方量が公開されており、抗菌薬の処方量が多い医師には英政府主席医務官がペナルティのない通達を出しています。ちなみに通達を出すと必ず処方量が減るそうです。また一般患者向けに、”抗菌薬を必要以上に医師に求めない””抗菌薬が効かなくなったために英国では1日13人が亡くなっている”などの啓蒙を行っています。
その後、2015年に世界保健機関(WHO)が「薬剤耐性に関する国際行動計画」を、各国が抗菌薬使用量を2020年までに3分の2に削減することなどを示した「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を策定し、昨年の伊勢志摩サミットでは、首脳宣言と同時に発表された『国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン』では、「抗菌薬の有効性を国際公共財として認識し、人及び動物に対する適切かつ適正な使用を通じて、抗菌薬の有効性を維持する努力を優先課題とする」とし、サーベイランス活動や研究開発で得られた情報を各国で共有するとともに、「抗菌薬の生産、処方、流通、使用を効果的かつ適切に管理するために、必要に応じて規制面の協力を促進する」と発表しました。このような経緯から「抗微生物薬適正使用の手引き」が策定されました。今後厚労省は、医師会などを通じて通達の内容を周知徹底する方針です。
早速、私も手引きを読んでみました。手引きでは、風邪=急性気道感染症と急性下痢症に対する抗微生物薬の適正利用について取り上げています。過去の研究論文の結果を踏まえたEBM(evidence-based medicine 根拠に基づく医療)に則って分かりやすくまとめられています。また、斬新な点では、医師や薬剤師が患者・家族に説明する際の具体例も挙げています。これは患者様が今呼んでも有用だと思いますので文末に引用します。また、分かりやすいQ&Aも用意されています。これも秀逸なので文末に引用します。ここで述べられている「抗菌薬の延期処方」という概念が医療者と患者の間で共有できれば確実に抗菌薬の処方は減らせると思います。
以下、耳鼻科の私が見た専門的な注目点・疑問点を挙げてみます。
1)感染症予防に、手洗い、ワクチン接種、咳エチケットは有用。うがいの予防効果は未定。
2)急性気道感染症を、反応する部位によって、鼻症状が主体の急性鼻副鼻腔炎、咽頭が主体の急性咽頭炎、気管支が主体の急性気管支炎、広く反応する感冒に分けています。治療のフローチャートで、感冒は抗菌薬不要としていますが、耳鼻科でみると感冒の中にも急性副鼻腔炎や急性中耳炎が含まれるケースもあり得ます。
3)急性鼻副鼻腔炎で軽症例は抗菌薬不要となっていますが、前頭洞炎、蝶形洞炎、中鼻道閉塞、鼻茸形成など所見によっては抗菌薬がないと慢性化しやすと考えられる例もあります。鼻副鼻腔炎では小児成人ともにペニシリン系抗菌薬のアモキシリンが推奨されるが、保育児童からの薬剤耐性菌の感染が強く疑われるケースでもアモキシリンがファーストチョイスなのか。
4)急性咽頭炎では、溶連菌迅速検査が陰性で扁桃周囲炎や喉頭蓋炎、咽後膿瘍などの深部感染でなければ抗菌薬不要となっています。扁桃炎における嫌気性菌の反応に関して、明確なEBMがないことから嫌気性菌に対する抗菌薬の必要性は不明となっています。しかし、過去に習慣性扁桃炎を起こしやすかったり、埋没型扁桃で慢性扁桃炎が遷延化したり扁桃周囲炎化しやすい場合には嫌気性菌への抗菌薬を必要とするケースもあります。無症状の溶連菌保菌者への対応法も不明確です。溶連菌咽頭炎の小児にはアモキシリン10日がセフェム系5日投与より推奨されていますが、服薬コンプライアンスの観点からはどうでしょうか。
5)急性気管支炎では、バイタルサインの異常(体温38℃以上、脈拍100以上、呼吸数24以上)だけでも胸部レントゲン撮影を含む精査が望まれるとしているので、咳が出て38℃以上の熱なら抗菌薬投与の判断のためのレントゲン検査を誘導してやや過剰診療を誘導する心配があります。急性気管支炎の治療では慢性呼吸器疾患等の基礎疾患や合併症の無い成人の気管支炎には抗菌薬は投与しないとなっていますが、抗菌薬が必要となる可能性のあるマイコプラズマ、百日咳、クラミジアに対する具体的な言及が少ないです。マイコプラズマ気管支炎に対しては抗菌薬を支持する根拠は少ないとしているますが、肺炎への移行の可能性をどう判断するのでしょうか。
この手引きはEBMに基づいて分かりやすく作成されたマニュアルですが、集団保育児の耐性菌保菌問題など、一くくりに出来ないケースもいっぱいありそうです。私が実際の臨床の場で「抗菌薬の適正使用を目指す」指針として今後大いに参考したいと思いますが、正直なところ私自身が風邪に罹った際に”こじらさないために念のために抗生剤を飲みたくなる”立場との葛藤もあります。
AIと医療 17年6月28日
NHK特集のAI(人工知能)の番組を見ました。IT(Information Technology)の最近の注目は、AI(Artificial Intelligence)とIoT(Internet of Things モノのインターネット)です。医療ではさらに遠隔診療の実用化が始まります。
NHK特集では、すでに実用化されたAIの事例が紹介されていました。数千分の1秒単位で判断する株式市場での投資システム、どこを走れば効率よくお客が捕まるのかルートを示すタクシーのシステム、面談の会話記録から辞職しそうな人を割り出す人材管理システム、受刑者の再犯率を示すシステムなどです。機械学習で人間なら数千年かかる対局を自ら行い自己学習する囲碁や将棋のシステムからは、開発者ですらコンピュータが何を学習した上で指示を出すか分からなくなっていることから、AIのブラックボックス化が示されていました。米国のなかなか仮釈放が認められない受刑者は、AIで再犯率が高い可能性があることを告げられても、どのような根拠で自分の再犯率が高いと判定されたかが示されなかったことに困惑していました。ブラックボックス化したAIでは、トータルで見れば有効性が示されるものの、個々の事象ではバラツキがでることが問題になりそうです。このバラツキをどれだけ許容するかがAI活用のキモになりそうです。また、今後AIが普及してくると、ブラックボックスの中を悪意をもって無断操作して、意図的に結果を変える犯罪も起こりそうです。
AIの領域の中でも医療の分野は、早く実用化される分野かも知れません。画像診断の分野や、問診に始まりいろんなデータを積み重ねて診断をつける外来の診療現場は、AIが得意とする分野となりそうです。私は、IT企業の中でもGoogleやAmazonの情報収集と処理に対する貪欲な向上心には恐れすら感じます。昨日、往診に向かおうとGoogle mapで住所地番を検索すると、地図の上の位置情報とともにその家の玄関の写真が掲示されたのには驚きました。そう遠くない時代に、スマホ上の音声認識で症状を伝えると、疑われる疾患の可能性のパーセンテージと、身近な医療機関の紹介がたちどころに示されるようになりそうです。病院でも、診察前の問診の段階でAIがまず判断して、医師の診察が始まる前にあらかじめAIが求めた検査が行われる、となるかも知れません。
日本発のAIのベンチャー企業プリファード・ネットワークスは、ディープラーニングを利用して乳がんの早期発見精度を99%以上に高める技術を発表しました。多数の乳腺組織の顕微鏡画像を機械学習して乳癌組織を発見します。同社は眼底鏡所見から人間が見落としそうになる所見を捉える技術も開発しています。いずれも病理医や眼科医が判断するよりも何倍も速く判定し、件数もこなし疲れを知りません。画像認識はAIの得意とするところですので、耳鼻科関連の病理診断でも、AIの診断を見た上で病理医が最終確認する、鼓膜や鼻腔・口腔咽頭・喉頭の画像所見よりAIが鑑別すべき疾患を挙げるようになりそうです。これらの実用化はいつ頃になるのでしょうか。Googleの開発スピードを見ていると、案外数年で実用されるかも知れません。
その他のITの医療関連の話題を挙げます。厚労省は今年、遠隔診療を普及させる方向に舵を切りました。福岡市では市、医師会、病院が参加する遠隔診療の試行が始まりました。来春の診療報酬改定で誘導があれば、遠隔診療が本格的に始まるかもしれません。これまで医師法では、離島や僻地以外では対面しない診療は無診察治療になるとされ禁じられていましたが、インターネット上のタブレット端末などで対面していればかまわないとするようです。耳鼻科では、一般診療でも、耳や鼻、のどの奥などの深い部位を覗く必要がありますので、直ぐに遠隔診療がオールマイティーに可能とはなりませんが、血液検査を必要としないような内科的慢性疾患では、自宅で診察をすませて処方箋だけ添付ファイルで受け取るなどの診察風景は直ぐにやってくるかも知れません。
小児へのコデイン使用禁止 17年6月23日
厚生労働省が、咳止め成分の「コデイン」の12才未満での使用を禁忌とすることを昨日決定しました。
コデインは中枢性鎮咳薬または麻薬性鎮咳薬と呼ばれ、脳内に作用して”痒い咳こみ”を抑えます。市販薬OTCでも認められた薬剤ですので、咳止め成分として風邪薬など約600種類の市販薬にも広く使われています。コデインによる有害事象としては、これまでにも、成人における大量長期服用による精神依存や薬剤耐性が問題となっていました。これはモルヒネ様作用があることによりますが、咳止めとして使われるリン酸コデインは低濃度で投与されることから、通常の服薬量や服薬頻度では依存性の心配はありません。またコデインには鎮咳作用とともに、モルヒネの1/6の鎮痛作用や腸蠕動の抑制作用もありますので、成人でも便秘を誘発する場合があります。さらに、中枢性に咳を鎮めることから生理的な防御反射である咳を必要以上に抑え込むことになり、喀痰の排出力の弱い乳幼児や高齢者では肺炎や喘息を悪化させる可能性もあります。
このように注意点はもろもろあるものの”安全に咳を鎮めることができる”ことから市販薬でも古くから使われてきた経緯がありました。ところが、今年4月に米国で、コデイン服用により呼吸困難を引き起こすケースがあることから12才未満への医師による処方が禁止されました。我が国でもこれを踏まえて専門家会議で検討した結果、7年間でコデインを含む薬を処方された少なくとも24人に呼吸困難などの症状が出ていたことから、副作用が生じるケースは少ないとしながらも、「特に子どもはまれに呼吸困難などの重い副作用が出るおそれがある」として、12才未満への使用を禁止すべきだとする見解をまとめました。これを受けて厚労省は2年後をめどに、市販薬と処方薬の両方について12才未満への使用を禁止することを決めたとのことです。
私もこれまでコデイン含有薬は、主にフスコデ配合薬として処方していました。フスコデにはシロップ剤、散剤もあり、添付文書上も小児での投薬が認められていたことから小児へも処方していました。市販薬としてはこれまでも2才未満への投与は禁じており、また乳幼児は喀痰排出能も弱いことから、私は2才以上の気道アレルギーの素因があり咳喘息的な病態の小児に処方していました。また、フスコデは、ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩という3つの成分の合剤でした。1剤型に複数の薬効が含まれた医科用薬は少なく、エフェドリンが入っていたことから気管支拡張作用もあって重宝していました。細気管支炎や気管支肺炎、気管支喘息まで至らない聴診所見で問題の無い小児の、夜間の咳込には良く効きます。日本人では西欧人以上に呼吸困難になるケースは稀だとの報告ですが、中枢性?と思われる呼吸困難が引き起こされる可能性があるのであれば、やはり投薬は控えるべきでしょう。小児用の”便利な”お薬がひとつ減ることになりますが仕方ありません。エフェドリンのみの成分の処方薬の散剤もありますが、小児薬用量も規定された薬剤はありませんので、これからは小児用の気管支拡張剤はホクナリンテープをはじめとしたβ刺激剤が主体となります。フスコデの無い処方を工夫していきたいと思います。
過去の振り返れば、小児用薬で使用が制限されたものでは、インフルエンザへの抗ウイルス薬タミフル、インフルエンザ脳症への消炎鎮痛解熱剤ボルタレン・ポンタール、発熱時のキサンチン製剤、熱性痙攣へのジアゼパム坐薬、痙攣体質へのザジテンをはじめとした抗ヒスタミン剤などが思い浮かびます。脳や体の発達が未熟で薬剤の代謝能力も弱い小児に対しては、効果が弱くても安全が確立されたものを処方することが必要です。今回の厚労省の通達で、再認識再確認したいと思います。
嚥下障害 17年6月7日
ここ一ヵ月ほど、嚥下困難な方の診察が相次ぎました。嚥下障害の方には当院でも嚥下内視鏡検査で、嚥下機能を評価しています。
嚥下障害の40%は脳梗塞後に発症しているとのデータもあるように、嚥下障害の治療は、耳鼻科だけでなく、神経内科、脳外科、リハビリ科、歯科や在宅医療、介護、栄養師などの様々な立場が集まって行う集学的な領域です。耳鼻咽喉科は、誤嚥にもっとも影響をあたえる咽喉頭の機能を中心に、嚥下運動を総合的に評価します。耳鼻科領域でも、ここ10年ほどで高知大学耳鼻咽喉科の兵頭教授を筆頭にして嚥下障害の診断治療への取り組みが活発になっています。兵頭先生が提案された嚥下内視鏡検査の評価基準である兵頭スコアが優れもので、嚥下障害の客観化が容易になっています。
また、高齢者の誤嚥性肺炎も注目を集めています。65才以上の高齢者の約半数が睡眠中に唾液を肺に誤嚥しているともされています。高齢者に睡眠中に唾液が気道に流れ込む“不顕性誤嚥”があると、夜間に唾液分泌が止まり唾液の浄化作用が落ちる→細菌が夜間に急激に繁殖する→口腔内のバイオフィルムで固まった細菌塊が過剰に形成される→誤嚥→肺内で細菌が増殖 の機序で肺炎を引き起こします。特に、免疫力の落ちた高齢者で、口腔内に汚れがあり、日常的に誤嚥があると、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。誤嚥性肺炎は、一般的な感染性の細菌性肺炎と異なり、初期症状が原因不明の発熱や食欲減退程度で、最初は肺炎と気づかれないケースもあります。しかし、免疫力が落ちている場合には、ARDS(急性呼吸促迫症候群)を発症して急に重症化する危険性もあります。当院のような外来中心の診療所でも、嚥下障害を早期に発見、評価して、適切な生活指導や食事指導、嚥下訓練が行えればと思っています。また、将来の重症化が心配されるケースでは、出来るだけ早期から、在宅医療や介護の現場との連絡を密にしたいと思います。
先に私が参加した日耳鼻総会の講習会も参考にして、当ホームページのなぜなに耳鼻科の病気のコーナーに「嚥下障害・誤嚥性肺炎について」のページを作成しました。また、当院では嚥下機能評価用紙を基にして、嚥下内視鏡検査を行いたいと思います。
(8月6日追加)
アレルギー学会誌に、誤嚥性肺炎の誘因として咳反射の障害に注意するようにとの総説が掲載されていました。(咳嗽反射と脳機能ーアレルギーではない慢性咳嗽から見る咳嗽制御機構ー 海老原覚) 施設入所認知症高齢者では、脳の機能の衰えとともに嚥下障害が始まる→誤嚥による慢性咳嗽→咳衝動の低下から咳嗽障害が起こる→不顕性誤嚥→肺炎 への流れに注意が必要とのことです。咳込みが軽くなったと安心した時期に、逆に肺炎を起こさないか注意する必要があります。誤嚥性肺炎の起炎菌は、Normal flora(正常細菌叢)がほとんどで、多くはα-streptococci、非溶血性streptococci、Micrococcusu属、淋菌を除くNeisseria属、ジフテリア除くCorynebacterium属とのこと。特にα-streptococci、非溶血性streptococciは虫歯菌です。やはり口腔の清潔が重要なことを示唆しています。
漢方薬、小児の服薬への工夫 17年5月26日
私の診療では漢方薬も大きなウェイトを占めています。まず西洋医学に則り診察や検査を行い、診断をつけて治療を行いますが、西洋医学的な治療によるアプローチだけでは解決しない場合に、ことのほか東洋医学的アプローチが有効な場合もあります。例えば、西洋医学の解熱剤は熱中枢のセットポイントを変えて熱を下げますが、漢方薬では発汗により熱を逃がします。時には漢方薬の方が生理的に作用する場合があるのです。私が汎用する漢方薬に五苓散がありますが、体の余分な水毒を速攻で除きますので、嘔吐下痢症やメニエール病などにしっかりと効きます。小児の風邪や中耳炎でも漢方薬を活用しています。小青竜湯、麦門冬湯、神秘湯、柴苓湯などなどよく使います。ところが、小児にとって漢方薬は鬼門でもあります。なんといっても味が苦くてうまく服薬できない場合が多いのです。無理やり飲ませると、他のお薬まで嫌いになってしまうことも心配しなければいけません。漢方の飲ませ方にいい方法はないのかと思っていたところ、良い本がありました。「フローチャート こども漢方薬 びっくり・おいしい飲ませ方」(坂崎弘美、新見正則著 振興医学出版社、2017年)です。小児科医の坂崎氏が、いかにおいしく漢方薬を飲ませることが出来るのか、子供目線に立って、様々な工夫を紹介しています。特に、”単シロップ割り”と言う、お湯で溶かして単シロップで甘くして、冷やして飲む、という処方は、本当においしそうです。当院でも、早速試してみたいと思います。
新専門医制度下の学会 17年5月23日
19日金曜日、無事、広島での学会に出席してきました。当日は新専門医制度で出席が必要となるモーニングセミナーの開始が午前7時45分開始で、遅刻は認められません。朝一番の高速艇でも間に合いませんので、しまなみ海道(西瀬戸自動車道)経由で、車を運転して向かいました。松山を午前4時20分頃に出発、朝もやの中、石手川ダムや玉川ダムを望みながら小鳥のさえずりを聴きながらのドライブでした。無事、事故や遅刻もなく学会に出席、必要とされる講習会も全て受講することができました。新専門医制度の影響で、学会の雰囲気も昨年から随分変わりました。日本耳鼻咽喉科学会総会は、耳科学会、めまい平衡医学会、頭頸部外科学会など17ある分科会の高位の学会ですので、宿題報告という大学教授を先頭に教室一丸となって大きなテーマを研究した業績を発表したり、学位論文としてまとめられた研究業績の集大成を発表したり、研究機関や公立病院の中心的な研究業績や臨床成績を発表する場です。そういうプログラムも続いていますが、新専門医制度の一環としての講習を受ける場にもなりました。講習会会場は大きな箱が用意されてはいますが、受講者が会場いっぱいとなり、ごった返します。講習会ですので質疑応答はありません。研究業績の発表時のような、発表者とフロアの聴衆の間の質疑応答のような緊張感は見られません。私も早朝から出席で、受け身の受講したので、若干眠気にも誘われました。総会以外の分科会への頻回の出席が難しい私のような立場では、講習会を優先的に受ける必要がありますので、従来の学会発表への出席時間は大幅に減りました。以前のような学会形式が懐かしい、、と感じる学会風景でした。ともあれ、注目された臨床研究は、私の知識の整理の為にも、おいおいこの場でまとめたいと思います。
院内リニューアル完成 17年5月13日
今週水曜日から学校健診出務が始まりました。私は小学校2校と中学校1校を担当しています。秋の就学時健診は各科合同で、他科の病院の午後の休診日が木曜日に多いために、健診も木曜日に行われることがほとんどです。そのため当院では木曜午後を時間休診にして対応しています。春は耳鼻科単独の健診ですので、当院では午後休診の水曜日を利用して行っています。10日の水曜日は、午前の診察が長引き、診察終了後も健診出務に院内改装工事や院内清掃(フロアのワックス掛)が重なり午後はてんてこ舞いでした。今月、あと2校健診が残っています。水曜日は健診開始時間に遅れないよう気合を入れて診察します。健診が始まれば、元気な学童、学生達から私も元気を貰えます!
CT設置をはじめとした当院のリニューアルもほぼ終わりました。駐車場や塀、建物外壁の工事に引き続き行っていた、院内の内装工事も12日で終わりました。やり始めると、3階のスタッフ専用スペースのクロス・フロアカーペット・コンセント類の新調、電灯のLED化、棚の交換、建具の調整などなど、広範にリフォームしました。連休など当院の休診日も利用して、細やかに作業して頂いた内装工事の関係者の皆様には心より感謝いたします。12日看護の日は当院の開院記念日でした。リニューアルして気分も新たに、診療を続けたいと思います。
(6月2日追加)
院内の改装に引き続き、課題だった正面玄関脇の植栽を整えました。来院された方の中には気付かれた方もおられるのではないでしょうか。玄関前の階段周囲は夏には直射日光が照りつけますので、毎年水やりをしっかり行っていても少しずつ豆つげが枯れていました。そこで今年は、植木屋さんお勧めの、乾燥に強い”シャリンバイ(車輪梅)”を植えました。台湾から東北南部まで分布するバラ科の常緑低木です。乾燥や大気汚染に強いことから道路脇の分離帯などに植栽されたり、艶のある常緑葉が美しく刈り込みに耐えるため庭木として利用されるそうです。4-6月に花をつけ、10-11月に直径1cm程の果実をつけるそうです。どんな花かどんな果実か、今から楽しみです。
(6月19日追加)
2016年度の携帯電話の総出荷台数に占めるスマートフォンの割合は82.6%、従来の「ガラケー」であるフィーチャーフォンは17.4%だったそうです。携帯電話の世帯普及率も95%で頭打ち、PHSが新規契約を中止しました。当院の待合室でも老若男女を問わずほとんどの方がスマホで通信や検索を行っています。このような背景から、当院では今年度からタウンページでの広告掲載を取りやめました。院内の公衆電話も撤去しました。時代の移り代わりを実感します。(なお、院内からの公衆電話の利用を希望する方には、県内の通話程度であれば無料で電話を利用して頂くことにしました)
黄砂 17年5月7日
7日に黄砂が、関東以西で初観測されました。松山の霞んだ光景がNHKの全国ニュースでも流されていました。例年だと3月に初飛来して、スギの飛散や春一番とリンクすることの多い黄砂ですが、今年は遅い初観測です。タクマラカン砂漠などの黄河中上流域から飛散して、4日に北京に飛来、7日に日本に飛来という訳です。北京では北京市気象局が外出の自粛の警報を発令しています。写真で見ても砂漠に近い北京の黄砂は半端ではありませんね。黄砂の砂は硅酸が含まれているためにそれ自体刺激があります。さらに飛散中にPM2.5や有機物が付着するため、化学物質といえる側面も持ちます。車の塗装が傷むなどの現象とともに、化学物質としての要因も報道されたためか、当院でも「鼻炎の悪化は黄砂のせいですか?」との質問も複数寄せられました。当院の診察では黄砂だけで気道過敏という方は目立ちませんが、気道過敏症の増悪因子としては無視できない存在です。
山口耳鼻科へのネット予約とシステム障害 17年4月19日
最近、当院にネット予約したとして受診される方が少しづつ増えてきました。当院では、”ネットでの時間予約”は行っておらず、”ネットでの受付順での受付”を行っています。ネット予約した方に事情を伺うと、間違って”県外の山口耳鼻科”でネット予約しています。そのような場合は恐縮ながら、改めて当院の受付をして頂いています。ウェブ検索すると、いきなり予約画面がでるために、確かに私でも間違えそうです。間違えて予約すると他の医院さんにも迷惑がかかります。当院は、山口耳鼻科”クリニック”で、iTicketの順番予約だけですので、受付の際にはご確認をお願いします。調べてみると、全国には、山口県の「山口赤十字病院」「山口宇部医療センター」「山口県立総合医療センター」とは別に、個人立のクリニックが7件程あります。時間予約している医院さんも、当院以外でiTicketに登録している医院さんもありました。全国の耳鼻咽喉科医が約1万人、個人立の診療所は約5000件程度でしょうか。恐らく人口2.5万人に1件程度だと思います。私の記憶にある遠い昔の苗字の調査では、”山口”は全国で20番目に多い苗字でした。”山口”名のクリニックが全国に7件?、、耳鼻科医の中で”山口”は、多いのでしょうか?少ないのでしょうか?
(6月5日追加)
今日は当院のオンライン受付・待ち時間確認システム「iTicket」のシステム障害が起こりました。午前9時の段階で不調が始まり、一時復旧しかけましたが、昼前より再度不調となったため、当院では今日一日、運用を中止しました。当院でこのシステムを導入して12年になりますが、運用中止は初めてです。夕刻に運用会社から届いたFAXによると、サーバーの増強で改善を図るとのことでした。iTicketはオンライン予約システムでは日本でトップシェアを誇ります。加入する医療機関の増加とともにサーバーの増強を繰り返しておられるようですが、月曜日の朝のアクセス過多による障害だったのでしょうか? 当院はiTicketが立ち上がった早い段階から利用しています。当院が関わる事業者が頑張っていることで、私も誇らしい気持ちでした。iTicetさん、システム障害を乗り超えて下さい。今後の発展を祈っています! (^^)v
百日咳 17年4月19日
先週のNHKニュース9では赤ちゃんの百日咳を取り上げていました。予防接種歴のない0才児が百日咳に罹って人工呼吸を必要とするような重篤な状態になった例が紹介されていました。当院でも成人小児ともに時に遭遇しています。昨年から今年にかけて百日咳の診断と予防が大きく変わります。診断では、これまでは百日咳毒素のIgG抗体(PT-IgG)を測定していましたが、問題は予防接種による抗体上昇があるために中等度の抗体量では現在の感染か否かの判断が難しかったのですが、菌自体に対するIgM抗体と、気道の局所免疫として誘導されるIgA抗体を測定する血液検査と、百日咳菌の遺伝子をインフルエンザの迅速検査同様に鼻汁から測定するLAMP法という遺伝子検査が可能になりました。この検査法の進化は、マイコプラズマ感染症での検査法の進化に準じています。マイコプラズマのように15分で判定できる迅速検査はまだ開発されていませんが、将来はその場での判定も可能になりそうです。予防に関しては、早ければ今年から11~12才へのジフテリアと破傷風への二種混合ワクチンに百日咳も加えた三種混合ワクチンになります。米国では2005年には既に追加接種が始まっていましたので、日本はやっとの感がありますが、このワクチンの接種が始まれば成人の百日咳患者が減ることが期待できます。それでもワクチンの効果は最短4年で切れると言われていますので、強い咳込が続く方の診療では今後も注意が必要な疾患のひとつではあります。
インフルエンザの注射薬&新薬と耐性菌 17年4月18日&19日
昨日、A型インフルエンザで40℃以上の熱が続く成人の方が来院されました。治療には点滴の抗ウイルス剤ラピアクタを用いました。ここ数年のインフルの流行ではラピアクタや経口剤のタミフルへの耐性株は世界的にもほとんど報告されていません。注射で体内に投入すると、組織移行の観点からも経口剤よりも早く確実に効きます。ラピアクタはタミフルが使用できない10才代や0才児でにも適応が認められています。費用負担の点からは経口剤や吸入薬よりはやや割高ですが、私は感染症状の強さをみながら点滴用剤のラピアクタも選択肢のひとつとしています。また昨日は、インフルエンザからの熱せん妄と熱性痙攣、脳症の初期の鑑別が難しい子供さんも来院されました。大事をとって総合病院の小児科で経過をみて頂くことにしました。インフルエンザは”普通の風邪”であって”普通の風邪でない”病気です。全身状態や呼吸器症状、神経症状の経過は慎重に診なければいけない感染症です。
私が毎シーズン気になっている「インフルエンザの抗ウイルス剤への耐性」についてですが、NIID(国立感染症研究所)から今シーズンの薬剤耐性株に関するサーベランス報告が出されました。それによると、一番最初に発売された抗ウイルス剤シンメトレル(アマンタジン)に対しての耐性化率を見ると、A型では100%耐性があり効かなくなっています。現在主に使われている薬剤を見ると、A香港型でタミフルとラピアクタに1.6%が耐性でした。なお、A2009年型とB型では耐性株の報告はありません。吸入薬のリレンザ、イナビルはA香港型も含めて全く耐性はありません。4~5年前までは日本でも世界でもB型やAソ連型、A2009年型へのタミフル耐性株の増加が懸念されていましたが、その後、耐性化は進んでいません。世界的にタミフルは使われ続けていますので耐性が進まないのがどういう要因によるのか気になっています。しかし、耐性が進まないのはなによりです! 来シーズン、我が国の塩野義製薬が新しい機序の経口抗ウイルス剤を発売します。日本オリジナルでの開発です。これまでの抗ウイルス剤はウイルスの増殖を抑える静菌的作用のお薬でした。こんどの塩野義のお薬は殺菌的に作用します。来シーズンのインフルエンザの治療は”早く良く効く”治療になりそうです!
愛媛大学重信キャンパス界隈 17年4月12日
耳鼻科医局への所用があり愛大重信キャンパスに立ち寄りました。満開の桜越しにみる病院正面。訪れたのは水曜の午後で、まだ授業中の時間帯でした。研究棟を歩いていると、何回か実習中の学生グループとすれ違いました。学生さん達も指導する若手の教官も目が輝いていました。
愛大図書館の医学部分館のロビーから望む桜。やはり医学部分館だけに専門書の宝庫です。閲覧室(ここでは学習コーナーと称していました)で、学生たちに交じって、しばし勉強しました。
帰り道にふと目をやると山際に桜並木が、、 ちょっとお花見気分をということで東温市総合公園に初めて立ち寄りました。湖畔からみる桜です。春の陽光で霞んでいました。
同公園内にあるツインドーム重信越しにみる道後平野。この公園は平野扇状地の北端にあります。道後平野をこの視点からみたのは初めてでしたので新鮮でした。
年度末のお別れ 17年3月29日
年度末も押しせまりました。診察に際して転勤転校で県外に出られる方とのお別れの挨拶も多くなりした。製薬会社の医療情報担当(MR)の方々とお別れする機会も増えました。担当MR諸氏の新任地での発展を祈っています。小さな子供達とのお別れの挨拶は、最近とみにハイタッチが増えています。小さな手のひらとタッチすると、子供達の暖かさが直で伝わってきます。子供達の新生活に幸あれと念じています。
愛媛マラソン 17年2月12日
今日は雲ひとつない快晴で、風がおだやかな絶好のマラソン日和でした。診察が終わって愛媛マラソンの模様を録画でみました。普段よく通る道がマラソンコースですので、箱根駅伝などの中継と違って親しみがあります。「最強の市民ランナー」川内優輝さんが大会新記録の2時間9分54秒で初優勝しました。録画でみても、早い!早いです。自転車で走る感覚よりも早く中継映像は流れていきます。川内優輝さんの自己ベストは2時間08分14秒で日本歴代17位、50 kmのウルトラマラソンは2時間44分07秒で日本最高記録・世界歴代3位相当とのこと。埼玉県の学校職員としてフルタイムで仕事をしていることから、普段の練習では実業団のランナーみたいには走りこめないそうです。凄いランナーです。テレビで伝えていたサブテン、初めて聞いた用語でした。サブ10とは記録が2時間10分以下の意味だそうです。初マラソンを歩かずに完走ならサブ5(時間)、あるていど走れる市民ランナーはサブ4がステイタスで、サブ3.5(3時間代前半のタイム)、サブ3(2時間台、サブ3で走れる人は全競技者の数%)、世界トップ選手なら男性ではサブ10(2時間00分台)、女性ではサブ20(2時間10分台)で、このレベルでは歴代記録ランキングに載るのだそうです。録画といえど、身近なコースでサブ10を見ることができたのはラッキーでした。
当院前の交差点改良 17年2月1日
当院の目の前の交差点に、昨年の横断歩道の設置に続いて、念願の信号機が設置されることになりました! 来院された方はご存知のとおり、病院前の交差点は、県道に電車軌道が並走した5差路です。踏切を超えて侵入しなくてはいけない東側の道路は見通しも悪く、年に数回は接触事故が起こっていました。松山ICから繋がる外環状インター線が12月に全線開通しましたが、今年9月30日に開催される愛媛国体までには、県道と伊予鉄を高架で超えて外環状線が空港方面に空港線として伸延します。当初は側道だけの開通ですが、すでに高架部分は余戸まで繋がりました。空港線延長の事故対策で予算が下りたのでしょうか? 昨年夏に余土中学校が南に移転したために病院前の交差点を通学で利用する中学生が増えています。その対策のためでしょうか。どちらにしても、なんだか危なっかしかった交差点が安全になるのでホッとしています。信号は車両感知式とのことで、県道以外の側道の車両を感知すれば青信号になるのだと思いますが、踏切と信号の連動、当院東側の側道からの侵入の制御など、どうなるのか興味津々です。
(4月2日追加)
3月に当院前の交差点に信号が設置されるとお伝えしていましたが、工事の案内をよく見ると”交通信号機”の設置ではなく、”交通信号装置設置工事のご案内、車両感知器設置工事”でした。VICS情報などに利用される車両感知器でした。愛媛国体を前に、環状線と県道の渋滞情報のための設置でしょうか? 交差点の車両感知式信号機が設置されると思ったのは私の早とちりでした。交差点の事故が減ると思っていただけにがっかりです。(-_-;) それでも当院前の県道の渋滞情報が精緻に公表されそうで、少し便利になりそうです。
花粉症の初期治療薬と予防の心構え 17年2月1日
花粉症の初期治療を希望される方が、当院でも目立ってきました。今年は値段の安い新薬が出たという初めての花粉症シーズンとなりました。新薬が役立ちそうな方には、適宜お勧めしています。例を挙げると今日は、これまで内服薬で眠気を感じやすいため眠気の出ないクラリチン(成分名ロラタジン)を処方していた方に、クラリチンの活性代謝物であるデザレックス(成分名デスロラタジン)への変更をお勧めしました。クラリチンが肝臓で活性化されてデザレックスになります。つまり速効性があって効果も高いのです。クラリチンは日本では2002年に発売され15年の歴史がありますので、特許も既に切れており、後発品も薬局で購入できるスイッチOTC薬もあります。そのため薬価も徐々に安くなり、現在は先発品で86.7円、後発品は40.2~44.7円です。2ヵ月前に発売された新薬のデザレックスの薬価が69.4円です。基本構造が同じで改良された新薬のデザレックスが効果が高く速効性持続性があるのに、15年前から発売されている薬剤と遜色のない値段で購入できる!ので、私も薬価を初めて聞いたときにはびっくりでした。欧米では既に発売されており、クラリチンの改良品だから薬価が低くつけられた(フランスで20円台で発売されているそうです)そうです。既に欧米で服用されていることから安全性は確立されていますので、患者様には安心してお勧め出来ます。
(2月16日追加)
昨日、大手ドラッグストアに立ち寄る機会がありました。花粉症対策コーナーも覗いてみました。おしゃれで個性的なマスクが並べられていてビックリです。お薬のコーナーではスイッチOTCと呼ばれる医療用から一般販売用に移行した抗アレルギー剤が最も目立つ場所に陳列されていました。患者様の立場から見て、病院でお薬をもらうのと、薬局で直接買うのとどちらがいいのでしょう? 気になって対費用効果を調べてみました。今年のOTCで最も目立つのがエスエス製薬の「アレジオン20」です。薬のパッケージにも「医療用と同量配合」と謳っています。私も”医療用”をよく処方しています。この薬は1日1回1錠の服用です。薬局で購入するとセールス品1錠が165円でした。ネット通販では送料やポイント割引を勘案して安いもので115円でした。医療用の先発品の薬価が146円、3割負担で44円。後発品(ジェネリック医薬品)が30円~105円(アレジオンの後発品は薬価だけでも9通りの価格があってビックリしました)で、3割負担で9円~31円です。忙しい時にさっと買えるという点からはドラッグストアも便利です。しかし費用面では長期の処方ならば、ジェネリックを利用すれば病院の診察料や薬局での調剤料を加算しても処方薬の方がお安くなります。今シーズンから発売された新薬のビラノアが80円(3割負担で24円)、デザレックスは70円(同21円)ですので、”眠気が少なく効きが良くて速効性のある”新薬も安価に手に入れることができます。診察では、ベースとなる鼻炎の状況を確認して現在の粘膜の状態に応じて複数の機序の薬剤(内服薬、点鼻薬、点眼薬、注射薬)などを処方します。診察に時間は要しますが、「やはり耳鼻科でお薬をもらって良かった」と思って頂けるような診療を心がけたいと思います。!(^^)!
(2月26日追加)
スギ花粉の飛散が16日に始まりましたが、まだ軽度の飛散です。当院でもお薬を希望される方が増えてきましたが、まだ”顔面が腫れあがる”ような大量暴露の方は見られません。飛散開始も飛散のピークも例年より遅くなりそうです。それでも大量飛散の第一波がここ数日中に訪れそうです。現時点で花粉を感じている方は、これからの1ヵ月、大量暴露しないように注意して下さい。大量暴露を避ける心構えを挙げてみます。○マスクだけでなく、出来ればフード付きの服やゴーグルの着用も検討する(伊達メガネや女性では前髪を下すだけでも違います) ○市街地では夕方に花粉の飛散が増えることから、部屋の換気は午前中に済ませ、午後からの外出は控えめにして、洗濯は午前中に済ませるか部屋干しにする(野外で部活する中高生が花粉にやられやすいです。運動の合間の休憩時間に頭にスポーツタオルを巻くだけでも違います)
(3月2日追加)
今日の正午頃に今シーズン初めてのスギ花粉の大量飛散が見られました。午後からは、「水鼻が止まらない」「目が腫れた」などの急性症状の方が来院されました。花粉症を2才で発症したお子様も見られました。両親が花粉症などで遺伝的に花粉症の素因のあるお子様は、まだ発症していなくてもスギ花粉の大量飛散の時期には、スキー遊びや山際の公園へ出向くなどで不用意に花粉を被らないよう心掛けてみて下さい。将来的な”花粉症デビュー”を遅らせることができるかも知れません。スギ花粉の舌下免疫療法では、新しい臨床研究として、花粉症を発症していない人に対して舌下免疫を行って発症を防げるかどうかの研究が始まっています。 医療保険上どこまで対象患者を広げるかの意見は将来出てきそうですが、花粉症の発症が予防できるかどうか、今後の治験の行方が興味深いです。
(3月8日追加)
7日は少し肌寒い気候となりましたが、スギ花粉は前日に続いて大量飛散しました。症状の強い方が多数来院されるようになりました。中には粘膜や顔面皮膚の腫れが強く短期作用のステロイド注射を行う方も出てきました。限られた診察時間ではありますが、外でお仕事をされている社会人の方、農業や林業に従事されている方、学生さんで室外でのスポーツをされている方には花粉を被らない心構えや注意点をアドバイスさせて頂いています。鼻詰まりなど鼻の反応の強い方、眼の反応が強い方、顔の皮膚の反応の強い方、のどや気管も反応する方など、個々人で反応の現れ方も一様ではありません。花粉症に風邪を合併した方、ハウスダスト・アレルギーや好酸球性副鼻腔炎・薬剤過敏症などもベースにある方、妊婦さん、授乳婦さん、妊娠を考えている方、職業ドライバーや受験生で少しでも出ては困る方、様々な立場の方がいます。出来る限りその人に合ったオーダーメイドの処方を心がけています。
(3月14日追加)
スギ花粉飛散のピークは3月6日になりそうです。飛散のピークも遅いシーズンになるかと思いましたが、飛散のピークは例年並みとなりました。シーズンも後半に入り、短時間の花粉暴露でも鼻づまりが強くなる方、顔面皮膚炎が目立つ方も見られます。今後10日間ほど大量飛散が続き、桜が散る4月10日頃まで少量の飛散が残る見込みです。山口県ではヒノキの飛散が始まりました。スギ花粉を有する方の8割が共通性抗原であるヒノキの花粉症も発症します。ハルガヤなどの早期のイネ科雑草花粉の飛散も始まった模様です。雑草花粉症の小学生の来院も始まりました。またハンノキ花粉も4月を中心に2月から5月まで飛散します。4月になっても花粉症の症状が続く人は、ヒノキやイネ科雑草、ハンノキの花粉症の合併にも注意して下さい。
書評「精神障がい者の家族への暴力というSOS 家族・支援者のためのガイドブック」映画評「沈黙-サイレンス-」 17年1月30日
書評をひとつ。2016年10月発行の新刊「精神障がい者の家族への暴力というSOS 家族・支援者のためのガイドブック 蔭山正子編著」です。編者は阪大保健看護科の准教授で、保健所勤務の際には精神障がい者の受診援助や通報対応などの危機介入の経験があります。”無視されている研究領域”と言われ、家族の6割が受けるとされる精神障がい者から家族への暴力について、実態と結末、原因、対策等、様々な提言を行っています。編者が保健師だった際の対応を振り返って、組織人となってしまっていたと述懐しています。組織のルールを守って支援するのを良しとせずに、既存のルールや支援の在り方に疑問を投げ続けることだったと反省しています。危機介入の実態についても、精神病院入院前、保健所、民間移送サービス、警察、精神病院入院後の課題やそれぞれの立場に限界があることを例示しています。家族が途方に暮れ、障がい者本人が最も苦しんでいること、本人を病院に連れていくことがいかに大変であるか、本人が強制的に病院に入院させられることの苦悩も指摘しています。私が最も再認識させられたのが、医療者は待つ身であることです。私はクリニックで毎日待っています。患者様本人や家族の方から表面的な情報しか得ていません。耳鼻科領域の病気でも社会生活が脅かされる病態はいくらでもあります。患者本人や家族のかかえる背景に少しでも寄り添えるよう余裕を持って診察しなければいけないことを再認識させてくれました。
映画評もひとつ。マーティン・スコセッシ監督作品「沈黙-サイレンス-」です。江戸時代の長崎地方の隠れキリシタンと宣教師の”棄教”の意味をテーマとした重い映画です。以前、私はこの映画の原作の遠藤周作氏の「沈黙」を読み始めたものの途中で挫折したことがありました。今回、原作をほぼ忠実になぞった映画であるとの情報を得て、読む時間を考えれば3時間弱の映画も短いものかなと考えて観てきました。窪塚洋介やイッセー尾形など日本の俳優陣の誰もが名演で唸らせます。日本人の宗教弾圧シーンが惨いとの意見もありましたが、私からみれば、映画では日本人を思慮深いと人々として描いており、むしろ監督の日本人へのリスペクトを感じました。多神教の日本人と一神教の欧米人の思索が交差します。多神教と一神教の交錯を描くためには、世界的にも最も節操の無い?八百万の神を無意識に信仰の対象とする日本人が最適なのかも知れません。私の映画鑑賞歴で、最も字幕を食い入るようにみた作品となりました。オープニングからエンドロールまで凝視しながらあっという間の時間でした。この映画で”踏み絵”の時代の日本人に触れることができました。スコセッシ監督は時代を捉えるのが上手い監督だと思います。「ギャング・オブ・ニューヨーク」では、南北戦争時代のギャングの創始を、「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」では禁酒法時代のギャングの生態を、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」ではウォール街の喧騒の雰囲気を、「クンドゥン」ではチベット民族の生きざまを、私は歴史小説のように捉えることができました。
インフルエンザの重症化 17年1月30日
インフルエンザは感染力が強く、体内でのウイルスの増殖スピードも早く、細胞障害性も強いことから、思いもよらず重症化する場合があります。やはり経過をしっかり見る必要のある侮れない感染症です。インフルエンザの重症化は、「インフルエンザ−サイトカイン−プロテアーゼサイクル」によって引き起こされることが解ってきました。(徳島大学疾患酵素学研究センター 木戸 博氏)このサイクルの活性化によって血管内皮細胞が障害されインフルエンザ脳症や呼吸不全を起こし最悪では多臓器不全に陥ります。インフルエンザウイルスが体内で増殖する際には、体内の細胞を破壊しながら増殖しますが、インフルエンザの重症化はこのようなウイルスによる細胞障害が主体ではなく、サイトカインによる免疫系の破城が主体となります。感染時や発症時に免疫力が落ちていると重症化しやすくなりますので、感染時の体調管理が重要です。インフルエンザが流行のピークを迎えようとしています。栄養をしっかり摂り、ゆっくり休養して、十分な睡眠時間を確保するなど、免疫力を高めるよう心がけて下さい。
「ナステントクラシック」自主回収 17年1月20日
1月19日付で睡眠時無呼吸症候群の治療器具である鼻チューブ「ナステントクラシック」を自主回収するとの連絡が発売元の医療メーカーからありました。健康被害はなかったものの誤嚥の事例が1例出たことへの対応です。ナステントは2014年夏に発売された新しい概念のユニークな治療法です。口峡部狭窄によるいびきや軽度舌根沈下による閉塞型睡眠時無呼吸には、簡便かつ劇的に症状が改善する例もあることから、当院でも治療の選択枝のひとつとしていました。ただし医療保険の適応外で患者費用負担が大きいこともあり、当院でのいびきや軽度閉塞型無呼吸の治療としては、主に歯科マウスピースの装着や鼻炎治療をファーストチョイスとしていました。ナステントは一般医療機器として届け出られ、治療開始時はまず医療機関でフィッティングを行ってから開始するのが原則ですが、ネット通販でも気軽に購入できることから、適正に使用されているかどうかの判断が難しいケースもあるのかも知れません。形状からみると、気道異物としてにわかに気道が閉塞するような危険な形状ではありませんし、消化管異物としては自然排出が期待できる形状ですが、口腔内に脱落すると様々なトラブルが心配されます。いびき症や睡眠時無呼吸に対してナステントが有効なケースはありますので、装着中の安全性の確保が再確認された上で再発売されることを期待します。
(6月13日追加)
昨日、今日と「ナステント・クラシック」の問い合わせが相次ぎました。ナステントはいびきや閉塞型睡眠時無呼吸の治療器具で、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社という我が国の会社が開発しました。シリコーン製の軟らかいチューブを鼻からのどに通すことによって、睡眠中に軟口蓋が落ち込んでも気道が確保されることにより、いびきや睡眠時無呼吸を軽減します。治療器具ではありますが、ドラッグストアでも購入できます。就眠前に患者さん自身で鼻に挿入するセルフメディケーションに近い医療器具です。昨年、装着中に間違ってチューブを誤嚥するという事例があったために製造会社が販売中止していました。治療のための管理体制を見直して、昨日6月12日より販売が再開されました。今後は治療開始時に、ナステントのサイズや硬さを医療機関でフィッティングした上で、医師から指示書を入手、その指示書が購入に際して必要となりました。私は、先月の日本耳鼻咽喉科学会の機械展示会場で、ナステントの会社からの説明を受けて販売再開を知りました。その際、引き続き当院が、取り扱い医療機関となることを確認していました。そのため、昨日の販売開始に伴い、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社のナステントのホームページ上で取り扱い医療機関が公表されましたが、当院がいち早く掲載されたようです。昨日から急に愛媛県全域から問い合わせが寄せられるようになったのですが、理由は愛媛県での掲載医療機関がまだ当院だけだったためでした。私はフィッティングのマニュアルや指示書の準備をそのうちに、、と思っていたところ、急に問合せが来たために応対に当ったスタッフも困惑したようです。私の準備不足が原因でした。問い合わせた患者様、スタッフに失礼しました。今日の診察終了後には、書類やフィッティングの機材を用意しました。明日からはしっかり対応致します。(__)
(6月19日追加)
先週末は、ナステントの指示書を希望して来院される方が目立ちました。大多数の方は、以前に使用経験があり先週の販売再開による新規の指示書を希望する方でした。ほとんどの方が、以前使用していたタイプで挿入する左右、長さ、硬さなど適切にフィッティングできており、指示内容を変更する必要なある方はおられませんでした。当院では今後とも主にフィッティングのみを行う予定です。愛媛県内の大手ドラッグストアでは今後以前のように取り扱いが再開されるとの情報もありますので、患者様の定期購入はそちらでお願いする予定です。
(7月8日追加)
睡眠時無呼吸の経鼻カテーテル、ナステントのフィッティング希望の方が来院されました。当院はフィティングのみを行い販売は行なっておりません。ナステントの購入に際しては、販売会社seven dreamers laboratoriesのECサイトからもネット上で購入が可能です。定期購入では販売価格も割り引かれます。ナステントを継続使用される方には、ECサイトの利用をお勧めしています。
当院はナステントを装着した時としない時の睡眠ポリグラフも比較しています。中にはナステントをしても閉塞型睡眠時無呼吸が改善されないケースも見られます。やはり舌根部が狭くレム睡眠時の舌根沈下が強いケースでは、効果に限界があります。当院では、個々人の鼻腔通気度、口峡部狭窄の程度、舌根部の広さ、舌根沈下の程度を総合的に判断して、CPAP(持続陽圧呼吸療法)・歯科装具・鼻炎も含めた耳鼻科的手術・減量や薬物などの内科的治療とともに、ナステントも治療の一手段として取り入れたいと思います。
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