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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科を専門とし、地域医療に貢献します。

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

院長の徒然草 過去ログ ~16年8月

「今月の疾患情報」のコラムも一部再掲しています。
  「院長の徒然草」過去ログ ~15年 1月 へ
  「院長の徒然草」過去ログ ~13年 3月 へ
  「院長の徒然草」過去ログ ~12年 12月 へ

飲み続けてはいけない薬   16年8月28日
 週刊現代2016年6月11日号の「ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬」が波紋を広げています。この号は販売部数も多かったそうです。この前週の週刊ポスト2016年6月10日号にも「がん患者の8割は「栄養失調」で死んでいる」との記事もあり、週刊誌の話題提供はなかなか刺激的です。癌末期は悪液質という体質となることから栄養失調状態が死因の直接的な原因となりますので、週刊ポストの記事も真実といえば真実です。週刊現代の記事も識者がしっかりとコメントしていますので、真実を突いているといっても間違いではありませんが、大げさといえば大げさかも知れません。週刊現代は翌週さらに「現役医師が実名で証言する「アブない薬」〜売れている薬の半分以上は、飲み続けないほうがいい 薬漬け社会のタブーに切り込む」という特集も企画し、医療用医薬品の売上上位30品目の内20品目が「飲み続けることの危険性」や「その薬剤を選択することの積極的な意味が見いだせない」と指摘しています。その後、週刊文春でも追随する記事がでました。逆に週刊プレイボーイで、「「薬は飲むな」男性誌キャンペーンで診療不信の患者殺到、病院がパニックに...」というニュースや「「ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬」に騙されるな」みたいな企画もありました。当院の診察では幸いにも?これらの記事に関しての患者様からの問い合わせやパニックはありませんでしたが、今日は耳鼻科関連のお薬に対する私の考えを述べたいと思います。
 お薬を飲む必要があるのか? 飲んではいけないのか? その前提に、どの状況で医療を受けるべきか?を、その人その人の立場で明確にして議論すべきでしょう。一般的なコンセンサスとしては、悪化すれば死ぬかもしれない、日常生活が過ごせなくなる、病気の状態が不快でたまらない、などの状況で医療に頼り治療を受けようとする方がほとんどでしょう。耳鼻咽喉科気管食道科は気道を診断治療の主な領域としていますので、当院では風邪症状で受診する方が多いです。ところが、風邪は放っておいても治ります。インフルエンザでも治ります。ところがごく稀に死に至る病の前触れである場合があります。発熱や痛みのせいで仕事や学校生活が送れなくなる期間ができたりします。時に症状が慢性化して長期に渡って日常生活に制限が加わる場合もあります。どの時期にどの症状レベルで病院を受診して治療を受けるかは、その人の置かれた立場や考え方で千差万別です。風邪は放っておいても治るから治療なんかとんでもない、癌だって免疫力が高まれば自然治癒もあるから民間療法や代替治療を優先する、との論点が入れば議論がかみ合わなくなります。”医者に出された”お薬は、医者がお薬の効果を期待し処方したわけですから、その期待する効果を期待しないのであればお薬は飲む必要はない、となります。生物の反応性は複雑で多様なことから、病気の経過も一本道でないことがほとんどです。その時々で変化しますので将来の状態を確定して見通せることはほとんどありません。病気の悪化する可能性をどの程度まで織り込んで予防的な治療を受けるかという観点でも、個々人の考え方は千差万別でしょう。ウイルス一般の風邪っぽいので服薬なしで体力で頑張るという立場、扁桃腺が弱くてよく腫れるから今はウイルス性上気道炎で病原菌に直接効くお薬はないけど二次感染予防で抗菌剤を飲むという立場、大事な仕事・受験・試合を控えているので症状を抑え込むお薬を飲むという立場など、個々人のその時の立場で様々でしょう。その上で、ややこしいのが、お薬を飲んで効果を期待するということはヒトという生物に良い方向の変調作用を期待するということですが、多くの作用の陰にたとえ少なくても悪い方向への変調作用である副作用が潜んでいる可能性があることです。当院でも抗生物質や消炎鎮痛剤による薬疹、漢方薬による間質性肺炎や薬剤性肝障害などの軽くない副作用も経験しています。この副作用の可能性を許容できないレベルと判断すれば週刊現代の記事の立場になります。また生物学的な副作用以外でも、個人や社会全体での経済学的な損失の観点からの対応法も論点になります。
 週刊現代で取り上げられた薬剤の中で私が日頃処方している薬剤について、個別に言及してみます。(1)不眠症のお薬ベンゾジアゼピン系は、確かに一過性健忘や朝に効果が残る脱力、連用による依存や休薬時の反跳性不眠がありますので私は一時的な屯用としての処方です。 (2)抗インフルエンザ薬は”日本が大量消費して有熱期間が1日短縮するだけ”ですが、服薬直後から高熱や全身倦怠感が劇的に軽くなりますので生活の質を高める意味では服薬の”し甲斐”があります。(3)感染症に対する解熱鎮痛剤は確かに病原菌自体に効く訳ではありませんが、”免疫力を抑えて感染症が重症化し死亡率が高まる”というのは免疫力が当初から落ちている高齢者などへの注意喚起と捉えたいです。胃潰瘍の誘発も一般の人では目立ちません。ただし高齢者や抗凝固剤併用者に対しては注意が必要です。(4)感染症への抗生物質ですが、セフェム系抗生剤は上気道感染に対しては確かに耐性菌が増えていますし、経口剤の腸からの吸収は極めて少ない上に中耳や副鼻腔への組織移行も悪いことから、私も中耳炎や副鼻腔炎には主流では用いません。溶連菌咽頭扁桃炎やブドウ球菌による外耳炎などでは感受性もありますので処方しています。マクロライド系抗生剤は”ピロリ菌除菌などの限定されてしる場合以外は有害”とされましたが、組織移行が良く感受性のあるインフルエンザ桿菌やモラクセラ菌には良く効きます。やはり抗生剤はターゲットとする病原菌と臓器を出来る限り限定した後に投与すべきです。抗生剤乱用による耐性菌の発生も重要な観点ですが、家畜飼料への大量投与の方が実は問題になっていることも心に留めておきます。(5)花粉症への長期作動性ステロイドの注射は作用が遷延化することから私も投与には反対です。(6)アレルギー性鼻炎へのステロイド含有薬の投与ですが、私はステロイドであることをしっかり認識して短期の屯用のみでの使用としています。(7)片頭痛へのトリプタン系頭痛薬で薬剤連用頭痛が指摘されていますが、カフェイン含有の一般的な消炎鎮痛剤では注意しますが、トリプタン製剤での連用障害は少ないと思います。屯用としてであれば連用も可能だと思います。ただし頭痛の頻度が高ければ次のステップの片頭痛予防薬の適応になります。(8)下痢の止瀉剤は確かにウイルスや細菌が腸内に留まっている急性期の使用は控えめにすべきでしょう。ただし仕事に支障がでるような成人では短期の服用も致し方ないかもしれません。(9)胃酸過多へのPPI製剤も確かに年単位の服薬では副作用に注意でしょう。(私は消化器専門医でない立場上長期投与は行っていません)逆流性食道炎も青壮年の食後の酸逆流や高齢者の睡眠時の酸逆流など基本的には生活習慣に起因しますので、長期の維持療法では暴飲への注意やサポート枕での就寝などの対応も進めるべきです。

急性中耳炎の起炎菌に関する多施設共同研究   16年8月19日
 この秋、当院は「急性中耳炎の起炎菌に関する多施設共同研究」に参加することとなりました。中耳炎起炎菌である肺炎球菌の莢膜型というサブタイプが、肺炎球菌ワクチンの普及とともにどのように変化しているのかを全国規模で調査する研究です。中耳炎の膿汁を提供して頂く方には、私から研究の趣旨や方法、個人保護などついて直接お話をした上で、問診表へ記入頂き、さらに同意書を頂くという厳密な手順を踏みます。お手間を取らせることになった患者様や保護者の方には誠にありがとうございます。

硬式と軟式 我が国のテニスの歴史   16年8月19日
 リオ五輪、甲子園と連日熱戦が繰り広げられています。五輪での日本選手の活躍素晴らしいですね。勝っても負けても、スポーツの涙は見ていて清々しいです。私も元気を沢山もらいました。私は学生時代はソフトテニス(軟式テニス)をしていたのですが、錦織選手の銅メダルのニュース記事で、我が国のテニスの歴史を改めて知りました。我が国にテニスが入ってきたのは明治11(1878)年頃で、英国から渡ってきたローンテニス(硬式テニス)が横浜外国人居留地に伝わったのが最初とされています。その後、明治13年に体育伝習所教官の米人医師で体育指導者が学生に教えたのが日本人のプレーの始まりとされました。当時の硬式ボールが高価だったために明治17年に日本独自のゴムボールを使用する軟式庭球が生まれ、明治23年、東京高等師範学校の要請によってゴム製品の製造会社がテニス用ゴムボール「赤Mボール」を製造し、以後日本独自の「軟式庭球」が普及したとのことです。私が学生時代に何気に使っていた「赤Mボール」にこんな歴史があったとは今の今まで知りませんでした。ちなみにソフトテニスにも4年毎に世界選手権があり、主要参加国は日本、韓国、台湾ですが、2015年のインドでの大会では実に42カ国もの国や地域が参加しています! では我が国の硬式テニスの歴史はどうなっているのでしょうか? 大正2(1913)年に慶応義塾大が「軟式では国際交流ができない」として硬式採用に踏み切り、軟式から転向した熊谷一弥が渡米し、米国のトップを次々に倒し、大正8(1919)年には全米3位になりました。翌年のアントワープ五輪でシングルスの銀メダルを獲得。柏尾誠一郎と組んだダブルスでも準優勝し、これが日本の五輪参加史上初のメダルとなりました。ここから、錦織選手が96年ぶりのメダル獲得という話に繋がります。軟式の打法はドライブ回転が主流です。当時の日本人のドライブの強くかかった返球には欧米人もビックリしたことでしょう。

当院でのBスポット治療と扁桃縮小手術   16年7月20日
 最近、上咽頭の消炎処置である「Bスポット治療」や「扁桃縮小手術」の問い合わせが続きました。Bスポットは鼻の奥の小児期のアデノイド遺残の部位です。ここに炎症が残ると頭痛の原因のひとつとなります。簡便な処置ですので、治療を受けてみたい方は診察時にお伝えください。扁桃縮小手術をネット検索で見て県外から問い合わせるケースも続きました。県外から来られて手術を受ける場合には、手術を予約する前に、まず、手術をする必要性があるかどうかと手術を受けることに対する問題が無いかを判断するための診察を受けて頂く必要があります。また、この手術は日帰り手術といえど翌日までは手術部位周囲の腫脹が強く、術後10日前後は口内炎の形成にともなってのどの痛みが続きます。そのため手術を行うに当たっては翌日までの松山滞在と術後7~10日後の再診による経過観察が必要です。愛媛県外に在住の方で手術を検討される方には、まずは最寄りの耳鼻科で口蓋扁桃全摘出手術を検討するようお勧めしています。

高齢者の耳あか   16年7月11日
 今日は高齢者の耳垢(みみあか)について。軟らかい耳垢の人が多い欧米では、高齢者の3割が耳垢で耳の穴が詰まっている耳垢栓塞の状態であるとの報告があります。東洋人は乾いたタイプの耳垢の人の方が多く、欧米人よりは耳垢栓塞の人は少ないと考えられますが、国立長寿医療研究センターの研究では、1割に耳垢栓塞があるとされています。また耳垢を有する群では認知機能が悪いとの報告もあります。私が往診する機会のある高齢者施設でも、診察の度に耳垢栓塞の人が多い印象がありました。高齢者施設では認知症や寝たきりの人の割合が多いですので、耳掃除をする機会のない在所者が多いと思われます。80才代の方は、平均聴力50dBで話し声が聞き取りにくい位の聞聴力が標準的です。ここに耳垢栓塞が重なると聴力は90dB程度となり、耳元での大声の聞き取りが難しいレベルの聴力となります。認知症悪化の予防の為にも、耳垢栓塞の有無の確認は重要だと思われます。白内障のように目元が覚束ないと介護者も病気に気づきやすいのですが、難聴が徐々に進行する状態位では、介護者の方も加齢性難聴は治るものではないことから耳鼻科を受診させようとはなかなか思われないと思います。歯科領域では往診による口腔ケアの重要性の啓蒙がなされています。聴力の評価と補聴器適合、耳垢栓塞の治療、嚥下機能障害の評価と訓練など、これからは耳鼻咽喉科も介護の現場に積極的に関与することが望まれます。 

司馬遼太郎「関ケ原」   16年7月6日
 大河ドラマ「篤姫」放映時に私は幕末維新の立役者たちの伝記を読み漁りましたが、今年は「真田丸」に感化されています。まずは司馬遼太郎戦国4部作のひとつ「関ケ原」を読み始めました。県立図書館の書庫から借りてきた古い新書版のレトロな本が戦国時代の雰囲気を醸し出しています。この本が実に面白い! 司馬作品も「坂の上の雲」など物語の進行が遅い時には少しイラッとしますが、「関ケ原」はテンポがいいです。「この国のかたち」などのエッセイ集の如く章ごとにテンポよく物語が進行します。さらりと豊臣家臣達の一族の生い立ちや江戸時代の境遇の説明が折に触れ入りますので、戦国時代から明治維新にかけての地方の歴史も把握できるために、とにかく判りやすいです。しばらく私のマイブームは戦国時代考証になりそうです。 
 P.S. 4部作目の「城砦」をその後読みました。関ケ原のその後、大阪冬の陣から夏の陣の物語です。豊臣から徳川に代わる際の、様々な立場の人間模様が整理されました。

スマホの話題
    16年6月23日&16年7月25日&16年8月24日
 今日はスマホの話題を。最近は診察室でスマホを上手にタップしてユーチューブ動画を見る子供達も珍しくなくなりました。診察が始まったのにスマホの動画から目が離せない、、そんな2才のお子様も目にします。(^^♪ 2016年度の携帯電話端末の出荷予想台数は3.420万台で、内スマートフォンが81%との業界予想がありますが、診察室で見ていると、若いお母様方が使う携帯電話のほとんどがスマートフォンになった印象です。スマホの普及とともに耳鼻科外来の診察に際しての利便性もでてきました。いびきや睡眠時無呼吸の確認のために家族に睡眠中の動画を取ってもらう、耳下腺やリンパ節など首が腫れた際や薬疹などの皮疹が疑われた際に写真で記録してもらう、などで、所見を動画や写真で記録して診察時に見せて頂くと、診断に大いに役立ちます。百聞は一見に如かず、正にそのままです。気になる症状や所見があればどうぞ記録して診察時に見せて下さい。特に、小児でいびきや睡眠時無呼吸が疑われた際には、パジャマの前を開けて、首やお腹の動きが分かる動画も撮ってみて下さい。首の付け根やお腹が吸気時に引き込まれる陥没呼吸があれば睡眠時無呼吸症候群の上気道閉塞の程度が判ります。近年、小児の睡眠時無呼吸と不登校の関連性が注目されています。小中学生で朝の寝起きが極端に悪い場合には、保護者の方が、就寝時間・起床時間・入眠時のいびきの有無にも注意して見て下さい。
 ポケモンGOの人気は凄いの一言です。ここ数日にしてゲームの歴史を書き換えたみたいです。話によれば城山公園や道後公園は、いかにもという人達で一杯だったそうです。ネットでは早速、ポケストップ検索サイト なるものまで出来ています。気になって検索したところ、当院近辺では、余戸駅、鎌田駅、余戸郵便局、パルティ余戸がポケストップとなっていました。余戸の隣町の土居田町にある杉浦内科もポケストップです。病院の前ではバトルする人が集まっているのでしょうか?? ポケストップは公園や神社仏閣教会、交差点、大規模商業施設を中心に満遍なく散らばっています。恐らくコンピューターソフトでグーグルマップ上に自動的に設定しているのでしょうが、それにしてもグーグルマップがゲームにまで紐づけられるとは。私は時代についていけません。('_') 当院診察室でポケモンをゲットする人の登場も直ぐでしょうね。
 8月24日の診察室、4才の男の子がスマホに集中していたのでなにかと思えば、、ポケモンを取り逃がしたとのこと。私が把握した初めての診察室内ポケモンGOのプレイでした。(^^♪ 

子供たちへのプレゼント   16年6月19日
 金曜日の午後は診察が途切れる時間帯がありました。空いた時間を利用して、受付スタッフは、頑張った子供達へのご褒美の「風船ヨーヨー」を作成してくれました。鼓膜切開や鼓膜チューブ留置、採血、迅速検査などの処置時の痛みや抑制のせいで、頑張り屋さんの子供でもどうしても泣いたり暴れたりすることがあります。そんな際の”ちょっとしたおもちゃ”は、子供達がにこやかになったり泣き止んだりする魔法のグッズです。子供達の笑顔が戻ると、お母さんだけでなく私達病院スタッフもホッとします。昨日土曜日は松山中心商店街である大街道銀天街の土曜夜市の初日でした。この夜市では長いアーケード街の端から端まで夜店が出ます。当院の”ちょっとしたおもちゃ”も夏祭りバージョンです。

変革期を迎える医学教育       16年6月19日
 我が国の医学教育は戦後のGHQ主導による改変以来の変革期を迎えています。
 平成16年度に新研修医制度が始まり、2年以上の臨床研修が義務づけられました。それまでの、無給医局員がアルバイトしながら研修したり、医局講座制で教授を中心とした閉鎖的な権力構造といった弊害は無くなりましたが、研修医の大都市への局在が進み大学在籍の医師が少なくなったことから、地方の大学や公的病院の医師不足は深刻になりました。
 先月の学会出席時にも触れましたが、平成26年度より日本専門医機構が発足し専門医制度の認定基準が専門各科で独自に行われるものから統一されたものになります。今年がこの制度下の専門医が初めて誕生します。新制度に反対の立場の学会もあり、新制度には賛否両論が飛び交っています。私も来年度が耳鼻咽喉科専門医の更新年度に当りますので、今年1年新たな対応に迫られています。学会や講習会への出席義務が増え、研修レポートも提出しなければいけません。
 学生の医学教育に大きな影響を及ぼしそうな改革も始まりました。平成27年度に日本医学教育認証評価機構が発足しました。今年度から5年間かけて全国80大学が分野別国際認証を受審することになります。なぜ国際認証を取らなければいけないのか。ここでも米国の制度改定が契機となっています。背景としては、世界の医師養成状況をみると、世界には2600校の医学部があり卒業生は年間50万人で、この20年間で倍増しました。ちなみに最大はインドの300校、ブラジル200校、米国180校、中国150校で日本は第7位、人口比の医学部数は世界全体では人口260万人に1校、日本は160万人に1校、韓国120万人に1校、カリブ諸国は56万人に1校とのこと。日本にいるとピンときませんが、近年世界的に増えた医師は国境を越えて活発に移動しています。英語圏の米国や英国では医師の25%が国外から参入しています。従来の米国の医師国家試験では試験の成績がよければ国外からの医学生も合格させていました。そのため適性の無い医師が米国で増えているとの反省から、医師としての適性を、成績だけでなく医師を教育してきた医学部の質として担保したいとの考えから、2023年度からは医学教育基準に沿った教育プログラムの認証が得られていない医学部の卒業生には受験資格を出さないことになりました。このため日本の大学も国際認証を得る流れとなりました。TPP交渉など様々な制度で米国は自国の制度を押し付けて?きます。医療保険や新薬の承認だけでなく、医学教育の場でも米国基準がスタンダードになろうとしています。基礎教育よりも臨床実習により一層ウェートがかかるようです。これでドイツ式の医局講座制の医学部のシステムはほぼ米国式のシステムに置き換わりそうです。貿易や投資、財政などなど米国式の倫理観が全てにおいて善なのか、私としては怖いところもあります。では医学教育の場で何が不都合かといえば、私の中でも具体的な問題は思い当たらず漠たる不安だけですが、、さてどうなることでしょうか?

鼻出血
  16年6月15日
  耳鼻科外来の処置の中でも曲者は鼻出血の止血処置です。小児の鼻出血は頻度は多いものの、そのほとんどはアレルギー性鼻炎などの鼻炎による鼻入口部の湿疹や痂皮形成による毛細血管の拡張によるものです。多くは鼻の入り口の圧迫止血で事なきを得ます。しかし、最近増えてきているのが、抗凝固薬を服薬中の壮年~高齢者の鼻出血です。血液が固まるのを予防するお薬を飲んでいる訳ですから、当然出血は止まりにくくなっています。そのような方は基礎疾患として高血圧を合併していることも多く、出血時の緊張で血圧も更に高くなっていますので、益々止血が難しくなります。また出血部位も、鼻の入り口だけでなく後方や上方の動脈からの出血もあります。
 血液をサラサラにするお薬、抗凝固薬は血栓性や塞栓性の疾患の治療に用いられ、ここ10年来、服薬する方が増えており、服薬患者は数百万人とも言われています。心臓弁膜症、心臓弁置換術、冠血管バイパス術、心房細動などの循環器疾患、慢性動脈閉塞症、深部静脈血栓症のような血管外科疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作などの脳外科疾患、川崎病による冠動脈瘤などの小児科疾患など多岐に渡ります。主な薬には、抗凝固薬(ワーファリン、プラザキサ、イグザレルト)、抗血小板薬(パナルジン、バイアスピリン、プレタール、エパデール、アンプラーグ、プラビックス、ドルナー)、冠拡張薬(ペルサンチン)、血管拡張薬(オパルモン)などがあります。
 坑血小板薬の服用では、胃潰瘍や胃出血が消化器分野の救急医療で問題となっています。 歯科領域では抜歯時の出血への対応が問題となることから「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2010年版」などの治療指針も作られています。この指針や日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法ガイドラインでは、”抜歯時には抗血栓薬の継続が望ましい”とされ”出血時には止血処置で対応可能”とされています。しかし鼻出血では鼻腔の深部からの出血では、出血部位が確定出来ない場合があり、凝固や圧迫止血が十分に行えない部位からの出血もあります。そのため止血困難な抗凝固薬を服用中の鼻出血は、当院外来において処置が難しい病気の筆頭と言っても過言ではありません。鼻出血を起こしたからといって安易に休薬することは出来ません。抜歯時のワーファリン休薬は血栓塞栓症のリスクを増加させるとされて、ワーファリン休薬した1%に血栓塞栓症が生じたとの報告や、抗血小板薬を休薬すると脳梗塞発症のリスクが3倍になるとの報告もあります。特に心臓の弁置換術後は血栓が出来やすいために抗凝固薬の中止は一時的としても難しい場合が多いです。当院でも出血している患者様の心臓血管外科の主治医に一時的な休薬が可能かどうか問い合わせるのですが、極力休薬しないで欲しいと依頼させる場合が多いです。
 夏の気配で、今月に入り成人の鼻出血の方が増えてきました。その中で止血が難しいケースや再出血するケースのほとんどが抗凝固薬や抗血小板薬を服用している方です。抗凝固薬を服用している高血圧の鼻出血の方を前にすると、私も思わず気合が入ります。  

薬剤耐性菌     16年6月11日
 先の伊勢志摩サミットでも「薬剤耐性菌」問題が議題となり、耐性菌研究の推進が首脳宣言に盛り込まれました。日本政府は抗生剤の投与を3割削減するとの目標を打ち出しました。この考えが医学界でも徐々に浸透しつつあります。ここ1年ほど、松山の小児科でも普通の風邪であるウイルス性上気道炎への抗生物質の処方は少なくなっていると実感します。強力な薬剤耐性菌の報告が増える一方で、抗生物質の開発は儲からないとの医療経済上の問題もあり、世界で新たに開発される抗生物質は30年前の1/5以下になっています。今後10~20年後、薬剤耐性菌が制御できなくなる可能性は否定できません。耳鼻科は外来レベルでは1990年代末から一足早く薬剤耐性菌の問題に直面していました。これまで良く効いていたセフェム系抗生物質が小児の中耳炎で目に見えて効かなくなったためです。小児の中耳炎は、小児の感染症の中でも細菌感染の割合が多い代表的な疾患です。抗生物質をいかに効かすか?鼓膜切開、鼓膜チューブ留置などの外科的治療をどのレベルで行うか? ここ20年来の耳鼻科外来は耐性菌との闘いの最前線でした。サミットで話題になったこともきっかけとして、私の「小児の中耳炎Q&A」の抗生物質の項を更新しました。

抗生物質について;
 飲み始めでは薬が合わないために起こるアレルギー(湿疹,かゆみ,下痢など) が無ければ心配はありません。大人は胃を荒らすこともありますが,小児ではまずありません。抗生物質特有の副作用としては,以下の3点に注意してください。
  下痢-腸内細菌を乱すことによる(特に血便には注意!)
  カビの繁殖-皮膚や粘膜の雑菌が死ぬ⇒雑菌を殺す白血球が皮膚にいなくなる⇒
        隠れていたカビが増殖する(抵抗力のまだ十分でない乳児)
  腸内細菌の乱れー腸内の免疫が乱され腸や皮膚のアレルギー反応を悪化させるとの考えもあります
 抗生物質で一番の課題は、抗生物質が効かない耐性菌の存在です。2016年の伊勢志摩サミットでも議題となり、政府は抗生物資の投与を3割削減するとの目標を打ち出しました。細菌は分裂時の遺伝子変異により抗生物質が効かなくなる耐性を獲得します。1964年にはメチシリンというセフェム系の抗生物質に耐性の黄色ブドウ球菌が出現、1996年にはバンコマイシン耐性のブドウ球菌が出現、2016年にはコリスチンというカルバペネム系の中でも最後の切り札とも呼ばれる抗生物質への耐性菌が米国中国欧州で見つかりました。耐性菌は養豚養鶏や魚養殖に用いる抗生物質や、人体にわずかに存在する抗生物質耐性菌が生き残り過増殖することによる広まるとされています。中耳炎なでの細菌感染の治療に際しては、細菌検査などで耐性菌の存在を確認しながら、有効な抗生物質を十分な量で充分な期間服薬しなければいけません。2010年代に入り我が国では小児用内服抗生物質の新薬が2種類発売されました。このおかげで、セフェム系耐性菌が蔓延して治りにくくなった小児中耳炎が以前よりも治り、その結果、鼓膜切開の施行回数が全国的に減ったことが保険統計上も確認されています。世界的な視点で薬剤耐性菌の発生の助長には注意しながら、個々人の細菌感染に対しては、耐性菌の有無を確認しながら、病原菌のしっかりとした除菌を目指して、中途半端でないしっかりとした抗生物質の服用が必要です。
 よく飲み続けると効きが悪くなると心配される方もいますが、病原菌が消失したのに漫然と同じ薬を長期に飲み続けて他の細菌が増殖して菌交代現象が起こる問題や、体内にわずかに存在する耐性菌のみが残って過増殖する耐性菌増殖の問題がありますが,耐性菌の市中での蔓延は、ウイルス感染による一般的な風邪の初期に二次的な細菌感染の予防のためとして抗生物質を全国的に頻用したために増加したものと考えられています。耐性菌が原因で難治性反復性中耳炎になった場合には、中途半端に効きの悪い抗生物質を服用しても効果は期待できません。有効な抗生物質を、十分な量で十分な期間服用する必要があります。「鼻水が止まったから」「元気で痛みもないから」と自己判断で服薬を中止しないようにして下さい。 

在宅医療への対応       16年6月5日
 松山市在宅医療支援センター主催の在宅医療連絡会に出席してきました。老年期の医療を病院だけに頼らず、介護保険を活用して在宅で看取る、、。 老人医療費の破綻を防ぐためにも、介護保険制度の創設は高齢化スピードが世界一の我が国にとって先見性のある政策だったと思います。それでもなお介護保険の医療費が予想を上回るペースで増えているのは悩ましい問題です。在宅医療を国が推進する中、松山市医師会も在宅医療への対応を進めています。在宅医療を担うとなると看取りをせねばなりません。そうすれば365日24時間の対応を医師は迫られます。私も大学時代には経験していましたが、看取るためには24時間待機してお酒も控えなければいけません。それでも総合病院であれば、主治医が学会出張などの”医学上已むを得ない”事情の際は診療チーム全体で対応します。総合病院の入院では専門領域以外で問題のある障害が発生すれば他科紹介の上の共診という制度もあります。しかしホームドクター制では、総合病院で行われるような診療チームにる医療や他科連携は困難です。在宅医療支援センターでは、副主治医制や専門往診の制度を作りました。主治医となるホームドクターが24時間対応できかねる時期に副主治医を依頼して連携する、専門外の問題があれば他科医に紹介する制度を設けました。副主治医制、他科往診依頼制という制度です。制度はまだ始まったばかりですが、在宅医療連絡会では耳鼻科も含めた他科への診察の要望も取り上げられていました。私はこれまで外来診療が主体で往診は已む終えない事情下のみで受けていたのですが、他科往診依頼制への協力は必要だと感じました。在宅医からの依頼には、当院の診療体制の許す限り出来るだけ答えたいと思います。

お勧めの映画       16年5月28日
 映画のランキング・サイトを参考にして、久しぶりにカウチポテトで映画三昧しました。私のお勧めの映画が増えました。特に「セントオブウーマン~夢の香り~」と「ライフ・イズ・ビューティフル」は私の感激した映画ベスト20に入ります。
〇元気になれる映画
セントオブウーマン~夢の香り~:こんな名作、見落としていました。1992年作アル・パチーノがこの作品でやっとオスカー最優秀男優賞を取りました。全く目を動かさない壮絶な演技、タンゴのダンスシーンは最も美しいダンスシーンともされました。盲目の退役軍人と名門寄宿学校の生徒の交流を描いています。寄宿学校でのアル・パチーノの演説、ラストシーンの余韻、元気になること請負です!
北京ヴァイオリン:2002年作 母の形見のバイオリンを携えて一流のバイオリニストを目指して北京に出てきた父と子の交流の物語です。中国の庶民の暮らし振りが窺えます。
レオン:1994年作 再見です。やはりジャン・レノがかっこ良すぎです。ニューヨークの香りも素敵です。
〇泣きたい時に観たい映画
ベンジャミン・バトン 数奇な人生:2008年作 老人で生まれて赤ちゃんで亡くなる。こんな設定がドラマになるんですね。
戦場のピアニスト:2002年作 泣けるというより、ユダヤ人居住区ゲットーの設立から崩壊までの過程が良く判ります。
ライフ・イズ・ビューティフル:1997年作 ジュゼッペ・トルナトーレ監督 再再見です。人物も風景も音楽も、何度見てもどのシーンを見てもいいです! 
海の上のピアニスト:1998年作 ライフ・イズ・ビューティフルの監督作品です。泣ける、というよりは不思議な映画です。
きみに読む物語:2004年作 女性から見た名台詞が満載です。 

第117回日本耳鼻咽喉科学会総会学術講演会       16年5月24日
 今回の学会は平成29年度より開始される新専門医制度に則り講演会のスタイルも変わりました。これまでの専門医制度では各学会が個別に専門医を認定していたのですが、新制度では日本専門医機構という中立的な第三者機関が統一的に評価認定を行うこととなりました。新設される総合診療科を含む耳鼻咽喉科、内科、外科などの19基本領域専門医と臓器別内科(消化器 内科、呼吸器内科など)、心臓血管外科、消化器外科などのsubspecialty専門医からなります。新制度では、5年間に診療した耳鼻咽喉科疾患症例 200 症例(1症例/週)の報告、医療安全・感染対策・医療倫理などの専門医共通講習、耳鼻咽喉科領域講習などの講習受講が義務付けられました。今回の学会で初めて講習が開催され、私も参加しました。これまでは純粋にアカデミックな学会として参加できましたが、これからは講習会に参加するという点にもウェートをかけなければいけなくなります。私も一日の参加だけでは講習受講数が足りませんので、学会参加日数も増やさなければなりません。専門医制度がより信頼を得るための一里塚ですが、従来のアカデミックな学会の方が楽しいです。(-_-メ)
 今学会は名古屋市立大学耳鼻咽喉科頭頸部外科教室が担当しました。名古屋市大の村上教授は愛媛大学のご出身です。総会は全国の耳鼻科医約1万人の中の6千人程が参加する最も規模の大きな学会です。学会場では、普段お目にかかれない昔の同僚や先輩後輩とも話すことができ、機械展示で最新の医療機器に触れることもできました。
 学術集会としては、今年は耳鼻科関連領域のエポックメイキングな新知見は少なかったかな、、というのが私の印象でしたが、それでも興味深い新知見に触れることが出来ました。私が印象深かった報告を挙げると、鼻性NK/T細胞リンパ腫、顔面神経麻痺への神経移植術、耳鼻科領域の新しい指定難病(Usher症候群、好酸球性副鼻腔炎、若年発症型両側性感音難聴、遅発性内リンパ水腫)の扱い、内視鏡下鼓室形成・アブミ骨手術、顔面神経麻痺の病的共同運動の予防、睡眠時無呼吸症候群への手術適応、耳管開放症へのゼラチンスポンジ挿入・耳管内ルゴール塗布、聴神経腫瘍の手術、鼻中隔矯正術Wodak法、難治性急性中耳炎への対応法(クラリスロマイシン・アモキシリン併用療法など)、好酸球性副鼻腔炎による嗅覚障害へのステロイド投与、頭頸部扁平上皮癌への分子標的薬併用療法、経皮感作アレルギー、喉頭肉芽腫への音声治療、脳脊髄液減少症によるめまい、外リンパ瘻に対する外リンパ特異的蛋白の測定、中耳コレステリン肉芽腫、耳かき外傷によるアブミ骨損傷、超高精細CT(スライス幅0.15㎜)、結核性中耳炎、星状神経節近傍照射・補聴器による耳鳴治療、突発性難聴への3者併用療法(全身+鼓室内ステロイド+高圧酸素)、慢性浮動性めまい、ENT-DIB副鼻腔洗浄カテーテル療法、小児アレルギー性鼻炎に対する鼻洗浄併用療法、中高齢者IgA腎症への扁摘パルス療法、下咽頭梨状窩瘻による化膿性甲状腺炎、扁桃周囲膿瘍の細菌学的検討(ブ菌66%嫌気性菌3%で46%が合成抗菌剤5%がAMPC/SBT耐性)、IgG4関連疾患などです。これらの発表から私の外来での活用を考えると、中耳炎への静菌作用のクラリスロマイシンと殺菌作用のアモキシリン併用の有効性は? 耳管開放症へのルゴール注入を再評価する、副鼻腔洗浄カテーテル療法はより積極的に行うべき、化膿性甲状腺炎では梨状窩瘻の存在も念頭に、扁桃周囲膿瘍ではペニシリン系抗菌薬の活用などを考慮したいと思います。一度スライス幅0.15㎜の中耳画像をじっくり見たいものです。

医学ニュース あれこれ       16年5月16日
 今日は、私が最近注目した医学ニュースをご紹介します。今回は専門的かつ長文になってしまいました。私の研修メモと思ってお許し下さい。(-_-;) 
〇米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会議が小児滲出性中耳炎のガイドラインを改定:診断を確実にするために気密耳鏡検査を推奨することとなりました。視診だけでは滲出性中耳炎の適切な評価は難しいものです。浸出液の有無や鼓膜の変形の評価のためには、拡大顕微鏡下の観察、気密耳鏡を通しての観察、チンパノメトリー、聴力検査が時に必要になります。また、滲出性中耳炎のリスクとなる疾患、口蓋裂やダウン症候群などでは、その疾患の診断時および生後12-18カ月に滲出性中耳炎の評価が必要とされました。さらに、滲出性中耳炎は再発しやすいことから、発症後3カ月間の経過観察も推奨されました。滲出性中耳炎の治療に抗生物質は必要なく、唯一の有効な治療法である鼓室内チューブ留置術の適応と、自然治癒にまかせた方がいいケースについても概説しています。急性中耳炎から滲出性中耳炎への移行期を除き、換気不良が主体の純粋な滲出性中耳炎では抗生物質は必要ありません。今回の改定の諸点は、私の臨床経験から見ても妥当なものと思われました。
〇米国内科学会と米国疾病対策センターは成人の急性気道感染症での抗生物質の処方について助言する勧告を発表:外来診療部門で処方される抗生物質の50%は不要または不適切な可能性があり、それによる余分な医療費は30億ドルを超えると推測され、また、抗生物質は医薬品関連の有害事象において最多の原因とのこと。一般的な風邪症状に対しては、抗生物質を処方すべきでないと明記。合併症を伴わない気管支炎に対しても、肺炎が疑われない限りは検査や抗生物質の処方を行うべきではないとしている。一方、持続的な発熱やその他の合併症状など、A群溶連菌咽頭炎が疑われる患者については、迅速検査または培養検査を推奨。A群溶連菌咽頭炎が確認された場合においてのみ、抗生物質で治療すべきとしています。また、合併症のない副鼻腔炎については、細菌感染であっても抗生物質を使用しなくても軽快すると説明。10日間以上続く発熱、3日連続で続く膿性鼻汁や顔面痛、および5日間継続する典型的なウイルス感染に続発する症状悪化が認められるまで、抗生物質は温存すべきとしています。私の感想は、確かに抗生物質の過剰な投与は薬剤耐性菌の増加を促し、国民医療費にも負担をかけますので、必要最小限にとどめるべきだと思います。ただし、発熱が10日以上続くまで、膿性鼻汁や顔面痛が3日続くまで経過をみるのは勇気が要ります。勧告では、嫌気性菌の混合感染、小児の常在細菌化した病原菌の活性化、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳などの緩徐に発症する病原菌の初期への対応に対してやや及び腰のような印象です。臨床所見でウイルス感染後の二次感染の所見が認められた場合には、もう少し早期に抗生剤の処方を行った方がよいケースもあると思います。
〇米国救急医学会がマクロライド系抗生物質の心リスクを紹介:マクロライド系抗生物質の使用により心臓突然死および心室頻拍のリスクが増大するが、全死因死亡には有意差が見られないとする中国の研究を紹介しています。著者らは、マクロライド系抗生物質の使用群では使用しない群と比べて、心臓突然死、または心室頻拍の発症リスクが2.42倍高かったが、各研究間の不均一性(heterogeneity)があるとしています。ただし、100万回の治療につき増加する心臓突然死は118.1件、心室頻拍は36.6件と推測されており、実際のリスクは低かく、心血管系死亡リスクは31%増加したが、全死因死亡、非心血管系死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスクは増加しなかったとしています。そのため、マクロライド系抗生物質の心血管に対する安全性をより明確にするには適切にデザインされた大規模なランダム化比較対照試験が必要と指摘しています。今回の結果で見られたリスク増大が薬剤によるものと結論するには早すぎるが、医師は心毒性の可能性についてもっと注意を払うべきだとのコメントもあります。この報告から私達が留意すべきなのは、リスクは極めて少ないと思われるが、副作用への留意は必要とのことだと思います。マクロライド系抗生物質は私もよく処方する薬剤です。心疾患のリスクのある方の投与では、副作用のリスクにも留意したいと思います。
〇米国小児科学会が小児の多剤耐性菌感染リスク増で警告:畜産動物への不必要な抗菌薬の使用により若年患者での致死的感染症における治療薬の効果が脅かされていると指摘する最新の報告書を学会誌に掲載しています。連邦統計データによれば、米国では毎年200万人以上が抗菌薬耐性感染症に罹患し、2万3000人以上が死亡しているとしています。子どもたちは、抗菌薬を与えられた動物への接触やその肉の摂取により、感染すると治療が非常に困難な多剤耐性細菌にさらされているとしています。人間間での抗生剤の過剰使用による薬剤耐性菌問題は有名ですが、実は根が深いのが、人間が使用しなくなった古いタイプの安価な抗生物質が畜産動物の飼育に大量に使われている問題です。経済的な問題でもあり、人間と家畜の感染症が直接リンクしないことから、畜産動物への抗生剤の使用の抑制はなかなか困難な課題です。発展途上国を含む世界の畜産業界への啓蒙になればと思います。
〇米国疾病対策センター(CDC)は、インフルエンザ疑い例では迅速陰性も治療を行うよう勧告:主な勧告は下記の通りです。1、今シーズン、ワクチン未接種者には予防接種を推奨する。生後6カ月以上でインフルエンザワクチンに禁忌でない者は全て該当 2、2歳以下、65歳以上、免疫抑制、慢性病患者などの合併症を引き起こしやすいハイリスク群でインフルエンザ様症状を呈した場合は、抗ウイルス治療の適応かを判断するため直ちに受診を促す 3、インフルエンザ疑い患者における抗ウイルス治療の判断は、検査結果を待つべきではない。迅速診断は偽陰性が多いため、陰性だった場合も必要であれば経験的抗ウイルス治療を遅滞なく行う 4、経験的抗ウイルス治療の適応と考えられる場合は、可能な限り発症48時間以内に治療を開始する。早期治療による臨床的利益は大きいが、48時間を過ぎた場合であっても、重症例や合併症を伴う症例、進行性の疾患を持つ患者に対して利益をもたらす可能性があるとのエビデンスが得られている 5、予防接種歴があっても疑わしい症状があればインフルエンザを除外せずに抗ウイルス治療の開始を検討すべき 私は以前、発熱第1病日つまり発熱が始まった当日の迅速検査陽性率は3割、2日目の陽性率8割との論文を読んだ記憶があります。今シーズンも、3日目でやっと迅速検査が陽性となったお子様を複数経験しました。臨床的な所見を総合するとインフルエンザが極めて疑われるが迅速検査が陰性の場合、10才代以下の小児でもタミフルの服用に際しては異常行動を観察する必要もあり、抗ウイルス薬を投与せずにまず1日経過を見ることが多いのですが、世界的に権威あるCDCの勧告が我が国でも認知されてくれば、我が国でも抗ウイルス薬をより早期から用いる方向になるかも知れません。
〇抗生剤によるせん妄が想定外の頻度と米国神経学会が報告:薬剤によりせん妄が引き起こされる頻度は高いが、せん妄の原因として最初に抗生物質を疑うことは少ないのが現状ですが、研究チームは、入手可能な報告書を過去70年遡り、抗生物質投与後にせん妄等の脳疾患を発症した患者391人の症例報告を特定し検討しています。その結果、抗生物質に関連するせん妄を3タイプ特定し、タイプ1は、突発的な発作が特徴で、多くの場合がペニシリンやセファロスポリンに関連。また、タイプ2については精神病の症状が特徴で、プロカインペニシリン、スルホンアミド、フルオロキノロンおよびマクロライドに関連。タイプ3は脳画像検査で異常所見が認められ、筋肉調整の喪失や脳機能障害などの徴候が認められている。唯一、メトロニダゾール投与に関連としています。私も抗生物質がせん妄の誘因となる認識は無かったのですが、今後は潜在的誘因原因として注意したいと思います。
〇米国救急医学会が知っておくべきギランバレー症候群(GBS)の8つの臨床兆候を紹介:GBSは乳児から高齢者までどの年齢でも発症する稀ではあるが重篤な麻痺を起こす末梢神経疾患で、治療が遅れると呼吸不全や生命も脅かす不整脈を発症することがあります。早期診断が重要ですが、脱力など一般的な症状を呈するだけで、診断のための簡易な検査もないことから、発症初期には見逃されやすい疾患です。GBSは年間10万人あたり1-2人に発症し、死亡率は3-5%に上る。患者の約3分の1には挿管や機械的換気が必要になり、20%には生涯にわたる後遺症が生じる。徐脈を呈することは稀だが、発症した場合は一時的にペースメーカーを要することがあります。救急医が疑うべきGBSの8つの臨床兆候は、・比較的最近(1日から3-4週間以内)始まった脱力 ・脱力は片側よりも両側性であることが多く、左右対称 ・典型なケースでは、脱力は上行性に進行し、「アヒル歩行(鶏歩)」、「階段をのぼれない」、「ベッドや椅子、床などから起き上がるのが困難」などの症状を呈する ・大腿や腰に生じる痛みなどの疼痛は、GBSの早期徴候で、初発症状となり得る ・知覚麻痺、刺痛、蟻走感などの知覚異常が早期に起こる。手足や四肢遠位に起こることが多いが、顔や歯肉にも起こることもある ・深部腱反射の消失または低下は、GBSの顕著な特徴 ・脳脊髄液のタンパク細胞乖離もGBSに特徴的 ・ウイルス性またはその他の感染症(上気道炎、のどの痛み、下痢など)の最近の既往は、GBS患者の3分の2に認められる です。専門的な記載で恐縮ですが、私が注目するのは最後の、上気道炎罹患後に発症するケースが多いということです。私が上気道炎を治療した後に経過をみてGBSと診断して神経内科に紹介したケースは過去に数例のみですが、実際の発生数はもっと多いと考えられます。多くの方は脱力が強くなった時点で内科や脳外科を受診していると思われます。上気道炎後に起こり得る疾患として、私も再度認識を新たにしました。
〇米国癌協会が「減る癌」「増える癌」2016年予測を報告:2009-2012年のデータを見ると、男性では新規癌発症が毎年3.1%減少したが、女性ではほぼ横ばいだった。男性で新規癌発症が減った原因として、前立腺癌の検診に過剰診断率が23-42%と高いと言われるPSA検査が推奨されなくなったことが挙げられている。一方、肺癌の発症は、喫煙者の減少に伴い男女ともに低下。大腸癌の新規発症も急速に減ったが、その一因として検診時に大腸ポリープを予防的に切除できる大腸スコープの普及が寄与したと分析している。一方、2003-2012年に発症率が上がったのは、白血病、舌癌、扁桃癌、小腸癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌だった。男女別で見ると、男性ではメラノーマ、多発性骨髄腫、男性乳癌、睾丸癌、咽頭癌および下咽頭癌が増え、女性では肛門癌、外陰癌、子宮内膜癌が増加した。
〇米国食品医薬品局(FDA)が未承認の耳科用薬について製造販売停止に乗り出した:ベンゾカインやクロロキシレノールなどを含有する製品だそうです。我が国では未承認の点耳薬はまず流通していません。米国では未承認薬が結構流通しているのでしょうか?
〇米国食品医薬品局(FDA)が小児へのコデイン製品使用の安全性を調査:コデイン含有製品については欧州医薬品庁(EMA)が、呼吸抑制や呼吸困難といった副作用が喘息や呼吸疾患の既往のある小児で懸念されるため12歳未満への使用禁忌を宣言しています。FDAは18歳未満の咳や風邪症状への使用に関する安全性データを調査中とのことです。コデイン含有製剤は本邦でも小児に承認されており、乾性咳嗽には良く効きます。しかし、喘息状態ではコデインは痰の排出困難などで呼吸困難を悪化させる恐れがあります。私も喘息状態への処方は控えています。
〇米国内科学会は一過性血尿の専門医への紹介を勧告:内科学会では肉眼的、顕微鏡的、無症候性の血尿の対応方法を提示しています。特に顕微鏡的血尿では全ての患者に肉眼的血尿の有無を確認しすべきとしています。当院でも溶連菌咽頭炎後の腎炎の確認や、感冒時の尿路感染や脱水、アセトン血性嘔吐症の確認などのために尿検査は行っています。肉眼的血尿は癌と強い関連性がありますので、尿定性検査の際には肉眼的血尿の有無も確実に確認したいと思います。
〇米国神経学会が片頭痛へのボツリヌス毒素の使用を取り上げる:ボツリヌス毒素は、一般の方にはボトックスとして美容外科領域でののしわ取りで有名だと思います。神経学会のこれまでのボツリヌス治療のガイドラインでは、痙縮、頸部ジストニア、眼瞼痙攣が適応疾患でしたが、今回、片頭痛への適応も取り上げました。まだ推奨レベルではないとのことです。本態性震戦、半側顔面痙攣、発声障害に関しても推奨レベルには至ってないとのことです。我が国の耳鼻科関連では、痙攣性発声障害(喉頭ジスキネジア)へのボツリヌス注射が一部の施設で研究として行われていますが、治療法として国の承認を得るまでは至っていません。痙攣性発声障害への承認適応はまだ先のことになりそうです。
〇我が国の溶連菌の薬剤耐性化状況:2004-2008年ではマクロライド耐性が45%、リンコマイシン耐性が6.3%。2009-2013年には、マクロライド耐性が62%に増え、リンコマイシン系のクリンダマイシン耐性も23%まで上がってきたと報告されています。扁桃肥大や慢性扁桃炎の方が繰り返し溶連菌咽頭炎を発症した場合には、除菌不良と健康保菌者化が問題となります。当院でも溶連菌の再発は珍しいことではなく、溶連菌の薬剤耐性の広がりには注目していました。以前からマクロライド耐性が多いのは判っていたのですが、ここ10年でさらに耐性が進み、ペニシリン耐性などでの除菌不良時に用いるクリンダマイシン(ダラシン)への耐性も進みつつあるようです。クリンダマイシンは嫌気性菌に良く効くため、慢性扁桃炎や誤嚥性肺炎に用いられます。私も嫌気性菌による感染が主体と考えられる扁桃炎にはよく用いています。溶連菌への耐性がこれ以上増えないことを願っています。

救急対応  16年5月5日
 連休の中盤、総合病院の耳鼻科に救急として紹介する例が続きました。最初の例は、魚の骨がのどに立った咽頭異物の幼児のお子様でした。大きな骨が舌の付け根(喉頭蓋谷)にありましたが、処置用ファイバースコープはなんとか挿入できたものの、泣くことによる喉頭の動きが大きいために当院での摘出は断念しました。次の例は、出血点が特定出来なかった鼻出血の大人の方です。出血箇所についてのある程度の目星はつきましたが、特定は出来かねました。周囲を広くパッキングし、一旦止血を確認しましたが、残念ながら当日の夜間から再出血が始まりました。耳鼻科医としての外来診療の中でも、出血点が特定出来ない鼻出血は難敵です。特に高血圧や抗凝固剤を服薬中の例では、止血困難や再出血することも珍しくありません。最初の例のお子様は、安全面からは全身麻酔下の処置が望まれました。次の例の方は、出血が止まらなければ入院下での管理が必要となります。患者様には力及ばす、恐縮しきりです。より最善の処置法があったのではと反省しながら、今後の診療の糧としたいと思います。休日や夜間にもかかわらず救急対応して頂いた当直担当医の先生方には、感謝の気持ちを伝えたいです。

7万人目の患者様をお迎えして     16年4月27日
 今月25日に7万人目の初来院された方を診察しました。平成6年5月の開院後、9年後の平成14年4月に3万人目の方をお迎えし、その後、平成25年1月に6万人目の方をお迎えしていました。3年前にも述べましたが、松山市の人口が約52万人、中予圏の人口が約60万人ですので、住民の転入出はありますが、中予にお住いの方の9人にひとりを診察させて頂いた事になります。このホームページをご覧になったりして県外からの来院される方もおられます。開院以来20年、年間の受診者数もいまだに増えております。恐縮するとともに有り難く思っております。幸いにも開院以来医療紛争などのトラブルなく、私の病欠による休診は1日たりともなく診察を続けることができましたのも、患者様はじめスタッフや当院を支えて頂いている方々の協力の賜物だと思っております。今後の当院がどのような姿になっているのか? 医学や医療情勢が どのようになっているのか? 先を見通すのが難しい時代ですが、これからも私自身の健康にも留意しながら診察を続けたいと思っています。これからも山口耳鼻咽喉科クリニックを宜しくお願いいたします。これも3年前にも触れましたが、私の初心を再確認するためにも、今一度、開院の際に掲げた診療理念を挙げたいと思います。
 1、「説明と同意」の治療を基本とし、医の倫理に反しない。
 2、自己研讃を怠ることなく、常に最新の医学知識、医療技術を提供する。
 3、最短の時間・最少の費用で、最大の効果を上げるべく努力する。
 4、治療に際しては、不安や苦痛を与えない。
 5、安易に薬に頼らず、自然の治癒力を高める医療を実践する。
 6、最善の治療を行うべく、高次医療機関との連携を密にする。
 7、東洋医学の利点を取り入れる。
 8、地域の家庭医として、救急医療に対応する。
 9、病気と薬に関する情報を可能な限り公開する。
 私自身改めて見直し、気持ちも新たに診療に臨む所存です。開院以来、当院に通院される患者様の平均の再診回数は、全国の耳鼻咽喉科施設の平均よりかなり少ない回数を保っています。これからも、当院を受診された患者様が「最短の時間・最少の費用で、最大の効果が得られる」よう、「当院を受診して、安心を得られる」よう、日々、心掛けていきたいと思います。 

保育園児の診察にあたって      16年4月9日
 新年度にあたって新しく保育園に入園したお子様も来院されます。耳鼻科医として保育園入園が悩ましいのは、免疫力の十分でない幼児が初めて集団生活を行うということです。入園後直ぐに風邪に罹かってしまうことも珍しくありません。早く集団生活した方が社会性が身につくという意見もあります。風邪はこじれなければよい訳で、様々な病原菌に対する免疫を獲得するのも子供の仕事ですので、早期に病原菌に対する抵抗力をつけるのも悪くはありません。しかし、中耳炎になりやすいような耳の弱い幼児が頻回に風邪に罹り、その結果、耐性菌を保菌するようになると、反復性中耳炎や遷延性中耳炎を起こしやすくなりますので、このような意味で耳鼻科医としてはなかなか悩ましいのです。保護者の方の視点で悩ましいのは、風邪に罹った場合に保育園に預けるのを休まなければならないことでしょう。急な熱発などでは、お仕事を早退してお迎えに向かわなくてはなりません。その際に頼よれるのが病児保育施設です。中予地域でも徐々に定員は増えていますが、風邪の流行期には利用できないケースもみられます。集団保育を受ける子供たちが、出来るだけ保育園を休まずに済むように、また、健やかに成長することを祈りながら、診察しています。

薬剤の再評価      16年4月2日
 3月にお薬の、リゾチーム製剤などの坑炎症・蛋白分解酵素製剤の販売中止が決定しました。蛋白分解酵素製剤は、ムチンと呼ばれる糖蛋白を主に分解して痰の切れを良くします。そのお薬の中の”ダーゼン”が、プラセボ(偽薬)と比較して有効性がないことからメーカーが2011年に自主回収していました。”エンピナース”と”レフトーゼやノイチーム”も、有効性に係る再評価指定を受けて2012年から再評価のための臨床試験を行っていましたが、医療上の有用性が無いとの結論がでました。これらの製剤は、副鼻腔炎や気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症で広く用いられていましたので服薬された記憶がある方も多いと思います。今になって”有用性がない”とはどういうことでしょうか? 関連分野の医師が20年以上自信をもって処方していたお薬だったはずでした。やはり、過去の臨床試験の評価が甘かったと言わざるを得ません。臨床治験だけでなくその前段階の動物実験も含めて評価にバイアスがかかっていたのでしょう。私も投薬後の局所所見を見る際に、知らず知らずに良くなったと欲目で判断していたかもしれません。薬剤の有効性を評価する上での、今後の教訓にしたいと思います。

東日本大震災から5年  書評「メルトダウン 連鎖の真相」     16年3月11日&16年4月8日
 東日本大震災発生から5周年を迎えました。震災当日、私はいつものように情報から隔絶されて診察を続けていましたが、待合室のテレビを見たスタッフから”大変なことになっているようです”と伝えられ、言い知れぬ不安がよぎったことを昨日のように思い出します。福島第一原発では、1号機の水素爆発に続き3号機が水素爆発しました。その後トラブルが前面に出たのが2号機です。そして2号機が我が国史上最悪の危機に瀕していました。もし原子炉容器への水の注入がもう少し遅くなっていれば、メルトダウンで格納容器が破壊されていました、、、政府は最悪時には”原発から半径170㎞圏内の強制避難と250㎞圏内の避難勧告”を想定していました。そうなれば首都圏を含む3600万人が避難しなければならず、まさに東日本崩壊、国家崩壊の危機の瀬戸際でした。原発事故では幾多の不運が重なりましたが、また髪の毛1本の際どさで幸運も重なりました。今この時に国が機能している幸せをかみしめながら、粛々と復興を進め、また、そう遠くない時期に必ず来るであろう数百年に一度の規模の南海トラフ地震や富士山噴火に備えたいです。
  「メルトダウン 連鎖の真相」 NHKスペシャル”メルトダウン”取材班著 2013年、「福島第一原発事故 7つの謎」 NHKスペシャル”メルトダウン”取材班著 2015年、「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の500日」 門田隆昌著 2012年 の3冊を読みました。私は、福島第一原発の事故の情報は、折々のNHK特集の番組で見る程度だったのですが、第67回文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞受賞のシリーズ「メルトダウン」を、「メルトダウン 連鎖の真相」では豊富な写真や図を駆使して視覚的に分かりやすくまとめています。「福島第一原発事故 7つの謎」では、東電の原子力部門のトップで事故時に本社で指揮を執った武藤栄氏への初めてのインタビューも掲載されています。これらを読むと、3つの原子炉が同時多発的にメルトダウンするという未曾有の事態に見舞われた原発事故の時系列の流れが良く分かりました。当時の菅総理が原発に直接視察に行き、また東電本社に直接乗り込むといった行動のタイミングや、米国が在留アメリカ人に対して原発から半径80㎞以内からの退避勧告を出したタイミングにも、ある程度納得しました。東電の協力企業の社員で遺書をしたためた人もいました。東電社員だけでなく協力企業、警察、消防、自衛隊、命をかけた人たちの尊いドラマでもありました。
 医療者の目から見ると、原子炉格納容器を包むドライウェルという容器から圧を逃がすベントが100㎜つまり0.1シーベルトの放射能レベルに阻まれてできなかったのですが、医療の現場では、心臓カテーテル検査や脳動脈瘤のカテーテル手術では一度に2シーベルトの放射線を浴び、複雑な心臓血管手術ではさらに高レベルの放射線を浴びます。チェルノブイリ原発事故で石棺を作る作業に当たった軍人達の多くがその後亡くなったことから、拙速な被爆環境は許されませんが、シビアアクシンデント時にどのレベルまでなら一時的な被爆が許されるのか、医学的な再検証も必要と思われました。
 この原発事故で私が怖かったのは、原子力委員会の近藤駿介委員長が私人の立場で作成しその後官邸内でも機密扱いとされた「不測事態シナリオ」の内容です。メルトダウン→原子炉格納容器の破壊→作業員総退避→使用済み核燃料プールの燃料溶融 まで至れば、原発の半径170㎞までがチェルノブイリ事故の強制移住基準に相当し、250㎞圏内までが住民が移住を希望した場合の汚染地域になるとしています。250㎞圏内となれば、都心はもとより盛岡~秋田~長野~横浜までが含まれ3000万人以上の人が退避の対象となり、文字通り日本は3分割されます。小説「日本沈没」の如く国外移住の必要性にも迫られるところでした。様々な条件が重なって全電源喪失→3機のメルトダウンとなりましたが、逆に、幸運な条件が重なって最悪のシナリオも避けられました。しかし、なぜ避けられたのかの実態が、現在も事故現場で続く放射能汚染のせいで未だに判っていないのです。また、さらに私が最も怖いのが戦争事態です。本では、原子炉建屋が水素爆発した直後を見た東電社員が、”まるで空爆を受けたみたいだ”との印象を語っていました。もし原子炉格納容器に弾道ミサイルやトマホークミサイルがピンポイントで突っ込んだら、そこまで高度な武器でなくても、戦闘機からあるいは地上や海上戦力によるミサイルで原子炉建屋の屋上が破壊され使用済み核燃料プールの冷却が出来なくなったら、、原子力発電所一カ所への攻撃だけでも日本は壊滅的打撃を受けますが、2~4カ所に同時に攻撃されれば日本はほぼ全域で居住が不可能となってしまいます。各原発施設がミサイル攻撃を防ぐためには、それこそ半径数十キロレベルの防空圏を設定して侵略機にはスクランブル発進だけでなく高精度なミサイル迎撃システムも必要になります。福島原発の事故による全国の原発稼働停止のために、化石燃料の輸入が増大して日本の国富が年間数兆円余分に失われるようになりました。私はこれまでは、なにげなく代替エネルギーが確保されるまでは原発稼働もやむなしと感じていましたが、もし原発を攻撃目標とする戦争事態が起これば、核兵器による”短期的”な影響よりもさらに恐ろしい”広範囲”かつ”数十年にわたる長期的”な破壊を日本が受けることになります。自然災害による原発事故以上に、テロや戦争事態による原発攻撃が怖いです。

愛媛マラソン      16年2月11日
 松山の一大イベント、愛媛マラソンがこの日曜日に終わりました。当院でも、出場前に風邪気味で体調の悪化を心配して来院された方、マラソン出走後に体調不良となって来院された方など、出場ランナーの方も来院されました、ということで当院の診療でも少しは愛媛マラソンの雰囲気が伝わります。聞くところによると、愛媛マラソンは数あるマラソン大会の中でも沿道の応援が途切れないとのこと。ランナーの皆さんはゴールまでずっと励まされることで、元気が出るんでしょうね。マラソン大会の最中、私はずっと診察中ですので大会自体の雰囲気は伺いしれなかったのですが、今年は初めてテレビ中継を録画して後ほどみました。ランナー達の笑顔や汗を見ていると、私もなんだかうらやましくなりました。友人知人の完走の報を聞くと思わずおめでとう!と私も嬉しくなります。いつかは私もエントリーをとも思いましたが、ふと我に返ると、、とても完走できる体力はありません。(-_-;)
 写真はスタートの準備が始まった県庁前です。スタッフの皆さんが手際よく、道路に誘導用のコーンを並べていました。大会運営、交通整理、医療などなど、スタッフの方たちのしっかりした準備や対応にも頭が下がります。

突発性難聴     16年1月28日
 突発性難聴の程度の強い方が複数見られました。突発性難聴の重症度分類では、初診時聴力レベルで判断して、Grade1:40dB未満、Grade2:40dB以上60dB未満、Grade3:60dB以上90dB未満、Grade4:90dB以上(5周波数の閾値の平均、発症後2週間までの症例に適用、初診時めまいのあるものをaないものをbをとして区分)となっています。ここ2週間ほどでGrade4aの方を複数診ました。やはりGradeが高いほうが予後がよくないことが多く、発症後1ヵ月以内の改善が不十分だと難聴や耳鳴が後遺症となる可能性が高くなります。突発性難聴は、神経麻痺の原因を特定することが困難なことから”突発性”と称されます。原因が特定できないことから治療は総合的な神経炎の治療となります。発症早期にステロイドや末梢循環改善剤の点滴による十分な投与が望まれます。発症後の急性期でGradeが高ければ、総合病院耳鼻咽喉科に可及的早期に紹介しています。

書評「検証バブル 犯意なき過ち」     16年1月4日
 お正月に読んだ本の紹介をしたいと思います。実はある経済雑誌のオススメで挙げられていた「検証 バブル失政――エリートたちはなぜ誤ったのか」軽部 謙介著 2015年、を読もうと思ったのですが、図書館が貸し出中だったこともあり、少し古い本ですが「検証バブル 犯意なき過ち」日本経済新聞社編 2000年、を読みました。日本は1990年のバブル崩壊から今に至るまでまだ失われた20年から脱出出来ていません。アベノミクスが持続するかどうかの評価もこれからでしょう。本書は経済バブル発生の原因とその後の対応の適否についての検証行っています。経済バブルはそれを経験している渦中の人にはわからず、バブルが崩壊して初めてバブルだとわかると言われます。この本の巻頭言にとても興味深いフレーズがありましたので、以下に紹介します。
○「どうしてあんなことをしたのか」「なぜ人々は間違えたのか」-。現在という高みから過去を批判するのは簡単だが、安易な批判はしばしば真相から微妙に遊離する。バブルに踊った人もバブル崩壊後の処理を誤った人も、あえて「失敗を犯そう」と思ってやった人はまずいまい。多くの人たちは「これで何とかなるかもしれない」「今の状況ではこれしか手立てがない」と思い、それぞれの決断をしたに違いない。なぜ仕方がないと思ったのか。その人が置かれていた立場は、その人が属した行政や企業を支配していた当時の論理は、社会の空気はどうだったのか....。そうした要素を丹念に拾い、そういう判断に至った経緯を探ることで、日本が犯した失敗の本質をえぐりだす。それが我々取材班の目指した手法であり、そこから浮かんできたのは人間の愚かさであり、人間の弱さだった。「犯意なき過ち」というタイトルにはそんな思いが込められている。
 もとより、犯意がなかったから過ちが許されるというのでは、バブルの教訓は生かされない。他人を気にする横並び意識、保身、あきらめといった人間の弱さや、興奮と熱狂を喜ぶ人間の業。問題のねっこにあるそれらをどう補うか。我々は一定の答えを出したつもりだ。
 このフレーズは、経済だけに留まらず、過去の歴史や人間の本質を考える上での普遍的で大切な点が述べられていると思います。昨年は戦後70年、集団的自衛権の法制化や慰安婦問題の合意など歴史の転機となるニュースがありましたが、バブルに対する対応の仕方はこれら歴史問題全てに通じるものだと思います。戦争が終わった後でその時代を批判することは簡単です。でも人間の本質はそう変わるものではありません。その時代の空気や背景をしっかりと理解していなければ、結局同じ事が起こり得るのです。今年は参議院議員選挙の年です、18歳から選挙権が持つことになります。私も歳をとりました、、、若い世代の人はどうか、時代の背景をしっかり把握するという視点を持ったうえで歴史の勉強をして下さい。その上で、これからの日本の進むべき道を決めてもらいたいと思います。

鼓膜切開と中耳炎からの内耳炎     15年12月28日
 年末押し迫っても感染症の流行が多彩なこともあり、今年は例年以上に鼓膜切開を余儀なくされるお子様が目立ちます。小児のRSウイルス感染症の50%で中耳炎を合併するとの報告もあります。RSウイルス自体による中耳炎には直接効く抗菌薬はありません。細気管支炎で呼吸状態の良くないところに中耳炎を合併していると患児の負担も大きくなります。解熱し難くもなります。小児科と共診の上で鼓膜切開を行う赤ちゃんが目立ちました。また、ノロウイルスによる嘔吐下痢症に合併した急性上気道炎も目立ちます。食当りによる細菌性胃腸炎とは異なり、ノロウイルスやロタウイルス、サボウイルスなどによるウイルス性胃腸炎では上気道炎も合併することがあります。アデノウイルスによる胃腸炎では上気道や結膜の症状の方が強い傾向があります。反復性中耳炎や難治性滲出性中耳炎のお子様の場合、嘔吐下痢症に続発する上気道炎自体は軽いものであっても中耳炎が増悪する場合があります。感染性胃腸炎の流行が耳鼻科外来にも影響するケースです。
 大人の方で鼓膜の反応が強い水疱性鼓膜炎様の急性中耳炎で内耳炎を併発して感音難聴を来す場合があります。ウイルス性内耳炎、マイコプラズマ性内耳炎、好酸球性、結核性など様々な原因がありますが、坑好中球自己抗体(ANCA)による血管炎の存在にも注意しなければいけません。今年は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に細分類されるANCA関連血管炎を疑いMPO-ANCAやPR3-ANCAなどの関連抗体を調べる機会が増えました。

耳掃除グッズと航空性中耳炎     15年12月27日
 ここ1ヵ月程、耳掃除の際にご自分で耳あかを奥に詰めてしまい来院された方が目立ちました。最近、耳掃除グッズも多彩です。匠製の竹や鋳鉄の耳かき、らせん状の耳かき、粘着剤で耳あかを吸着するもの、耳の穴を明るく照らす耳かき、小型CCDカメラやファイバー状のスコープで耳の穴を覗けるものなど、本当にいろんなものが発売されています。耳あか自体も、工夫をして自宅で取れる場合もあれば、奥まで押し込んでしまい病院の顕微鏡下でやっと取れるものまで多彩です。診察時には「耳掃除はどうやればいいのですか」とよく質問されます。耳あかも軟らかいタイプから乾燥タイプまで、耳の穴も狭いタイプ、広いタイプ、ストレートなタイプ、曲がったタイプなど、個人差は多彩です。お答えする際には、いろいろな耳掃除用グッズを思い浮かべてします。
 帰省ラッシュを前にして、航空性中耳炎の相談にこられる方も目立ちます。松山発羽田行ならば与圧が高く耳抜き不良になりにくい全日空最新鋭機B878搭乗を勧めたり、圧変化予防用の耳栓を勧めたりしながら、耳管狭窄症の治療を行います。特に悩ましいのがやはり滲出性中耳炎のお子様の旅行です。鼓膜切開まで行わずに、内服薬や点鼻薬の治療だけで快適な飛行機による旅行が続けられればと、祈念しながら診察しています。

小児の細菌性副鼻腔炎     15年11月23日
 小児の細菌性副鼻腔炎についてお話します。鼻(鼻腔)の奥の骨に囲まれた空洞を副鼻腔といいます。副鼻腔の生理学的意義としては、頭部をハニカム構造で丈夫にしながら軽くする、気道の入り口である鼻腔を保湿する、共鳴腔となる、などが言われていますが、耳鼻科としては風邪がこじれる原因部位となる点で重要です。一般的な風邪であるウイルス性上気道炎の後に二次感染として細菌感染が続発した場合に、中耳炎や扁桃炎同様、細菌感染が遷延して慢性化することが問題となります。小児の副鼻腔は2才頃から発育が始まります。最近はCT所見などから1才から形成されるとの意見もあります。その後、頭蓋骨の発育に連動して発育します。4才で膿汁が溜まる腔となり、頭の骨が完成する15才前後で完成します。副鼻腔自体が大きくなるのと反比例して、鼻腔と副鼻腔をつなぐトンネル(自然孔と呼びます)が狭くなることから、6才頃より膿汁が排出されず副鼻腔内が乾きにくくなる慢性化が始まります。骨の発育が完成した中学生以降で本格的な”慢性”という状態になります。このため、副鼻腔の骨を削る手術は中学生以降に行うのが一般的です。ただし、以前の副鼻腔前壁に穴を開ける手術と異なり、近年の内視鏡下手術では、本来の自然孔周囲のみを広げますので、鼻ポリープが形成されるなどの炎症が強い副鼻腔炎では、小学校高学年で手術も行うケースもあります。副鼻腔で細菌感染が続くと、いわゆる副鼻腔炎という状態になりますが、幼児では、小学生以降とは異なった観点での注意が必要です。それは、幼児では免疫の発達が不十分である、アデノイド肥大などで物理的に鼻腔粘膜が乾きにくい、最近の日本の集団保育児が薬剤耐性菌に集団感染していることなどから、鼻腔副鼻腔が一体となって持続感染化しやすいことです。持続感染を言い換えると、潜伏感染、健康保菌、定着などと表現する場合もあります。私が診療を行うに当って留意するのは、鼻副鼻腔に細菌が持続感染し定着している幼児が風邪をひいた場合に、どこで抗生物質を活用するかという点です。鼻副鼻腔の細菌感染が原因で、中耳炎が反復化遷延化している場合や細菌性の急性中耳炎を惹き起こしている場合、細菌性の鼻汁がのどの奥に流れてくる後鼻漏が顕著で、副鼻腔気管支症候群的に気管支に明らかに悪影響を及ぼしている場合、などには抗生物質の投与を考慮します。鼻副鼻腔の細菌感染が慢性化していても”鼻だけ”で収まっている場合については、乳児では生理食塩水や重曹水による鼻汁吸引を、幼児では”鼻かみ”の練習と励行の指導を心がけています。

副鼻腔炎治療用カテーテル     15年10月25日
 ここ1ヵ月程、副鼻腔炎治療用カテーテルを用いた慢性副鼻腔炎の治療を行う機会を多く得ました。当院ではこの治療法を昨年11月より導入していましたが、改めて紹介すると、この治療の歴史は古く、カテーテルはロシアで1980年代に開発されヤミック(YAMIK)と呼ばれていました。日本では1991年の国際鼻科学会で初めて紹介された後、2000年には保険適応となりました。2008年に輸入許可が無くなりましたが、日本の医療品メーカーが改良版を開発したことから、当院ではこの国産カテーテルを昨年導入しました。副鼻腔の排膿や換気を行う治療法としては以前から上顎洞穿刺洗浄とプレッツ置換法がありましたが、上顎洞穿刺洗浄は太い針で鼻腔内から骨を破って上顎洞を洗浄するもので、施行時に緊張や痛みを与えやすく、空気塞栓や眼窩壁の損傷などの副損傷の恐れもあります。 プレッツ置換法も、首を伸ばす懸垂頭位を続けた上で発声を続けなければ耳痛を誘発する場合があり、特に小児では行えません。今回導入した治療法は、簡便な麻酔で行え、無理な姿勢をとる必要もなく、安全に上顎洞はもとより篩骨洞や前頭洞の排膿や薬液注入もできます。今回、一般的な服薬やネブライザー治療に難治だった複数の方に施行したところ、いづれの方でも副鼻腔内に含気が認められ粘膜肥厚が軽減するというはっきりとした治療効果がでました。この治療法では副鼻腔の入り口である自然孔が慢性的に閉塞した方でも、十分な換気と排膿、高濃度の抗生剤の注入が行えますので、慢性副鼻腔炎が難治なケースでは試してみる価値のある治療法だと思われます。ただしこの治療法を取り入れている耳鼻科は全国的にもいまだ数少ないのが現状です。これまで当院にも県外からこの治療法についての問い合わせが複数ありました。当院では現在、この治療は少なくとも3回以上は行こなった上で効果をみたいことから頻回の通院が困難な方には残念ながら行っていませんが、全国的にもこのロシア発の治療法が広がって欲しいものです。

難病医療費助成制度の対象疾病    15年10月18日
 今年7月より難病医療費助成制度の対象疾病が拡大され、従来の110疾病から306疾病になりました。耳鼻咽喉科関連では、従来はシェーグレン病が主な対象でしたが、今回の改定で好酸球性副鼻腔炎も対象疾患となりました。また、今回の改定で難病知指定医は都道府県で指定された医師へと変更されました。このため私も難病指定医を申請し、この度指定されました。また当院も難病指定医療機関に認定されました。難病対象者が保健所に申請し認められると、医療保険の自己負担額3割の方が2割に減額され、月当たりの医療費も所得によって上限が設けられます。外来で鼻茸摘出術を複数回行ったり、入院して副鼻腔炎の手術を受ける場合には、医療費助成のメリットが出てきます。対象となるかかりつけの患者様には、この制度について順次ご案内しています。なお、好酸球性副鼻腔炎の指定のための診断書(臨床調査個人票)の作成にはCT撮影が必要ですので、CT検査に関しては当院からの紹介による他院での検査が必要になります。

聴覚過敏症  15年10月4日
  「聴覚過敏―仕組みと診断そして治療法」(デービッド バグリー、ゲルハルト アンダーソン共著 2012年)を読みました。聴覚過敏が主な症状で、かつ聴力や外耳・中耳・耳管機能が正常な対象患者は耳鼻科外来では多くはありません。実際、耳鼻科の外来で聴覚過敏の患者様を診た場合には、特別な異常所見がなく訴えも自覚症状だけであることから、まずは治療しないで様子を見る、脳内や内耳の血流を良くする薬剤やマイナートランキライザーなどの薬物療法を試してみる程度のアプローチが大半だと思われます。積極的に検査や治療を進めるとすれば、神経内科的にMRIなどの画像診断を行う、精神科での精査加療を試みるなどのアプローチがほとんどだと思われます。聴覚過敏についての研究は少ないので、私も興味深く目を通しました。本書では聴覚過敏に関する様々な研究や考えを紹介しています。例えば ○鼓膜張筋症候群として捉える 1981年 ○内耳も脳内神経伝達物質であるセロトニン系に影響される 1998年 ○音響ショックとして捉える 2007年 ○鼓膜張筋の関与が示唆される 2006年 ○低周波の環境要因の影響を疑う などです。治療も、耳鳴の治療とよく似たアプローチで、ピンクノイズを利用する音響療法や認知行動療法が紹介されています。私もこれらの知見を参考にして、幅広い視点で聴覚過敏症の患者様に向かいたいと思います。

ホームページ作成ソフトの更新    15年9月23日
 シルバーウィーク後半も良い天気が続いています。私もゆっくりすることが出来ました。連休を前に、このホームページをアップしているパソコンが壊れてしまいました。ここ数か月、パソコンが急に落ちるようになっていたのですが、遂に初期画面も出なくなりました。ハードディスクやOSの不調ではなく、マザーボードの障害と考えられました。こうなると清々しいものです。久方ぶりにメインにパソコンを更新しました。実はこのホームページは、ホームページ作成ソフトのホームページ・ビルダーで自作しているのですが、パソコン更新に合わせてソフトもVer.16からVer.19へバージョン・アップしました。ホームページ・ビルダーは10月5日には最新版Ver.20が発売されるので、少し気になりながら、それは待たずに更新です。やはりこのソフトも進化していました。全く新しい作成モードのspモードと従来のモードの二本立てとなりました。以前のデータの移設ですので、従来のモード(クラシックモード)での作成で、作成方法に大きな変化はありませんが、それでも機能は増えているみたいです。今後、徐々にでもこのサイトを改良出来ればと思っています。

睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン  15年9月5日
 厚労省「呼吸不全に関する調査研究」班がSASの診療ガイドラインの策定を開始し、その進捗状況が7月の日本睡眠学会で報告されました ○無呼吸低呼吸指数AHIが5以上の軽症が50才以上の男性の15~70%、女性の15~40%。AHI15以上の中等症が50才以上男性の10~20%、女性の10%程度 ○SASと高血圧の合併が多いが、肥満が両要因に関わっている。持続陽圧呼吸(CPAP)療法で難治性高血圧が改善 ○CPAPは1日6時間以上、可能な限り毎日の使用を推奨 ○中枢性無呼吸への非侵襲的陽圧換気療法のadaptive servo ventilation(ASV)は心不全患者には慎重に行う、また、コスト面からはまずCPAPを行う ○日中の眠気と閉塞型SAS(OSAS)の重症度は必ずしも相関しない ○重症SASへの睡眠薬投与は、CPAPなどで十分コントロールした後に投与。呼吸抑制や筋弛緩作用の無い非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のベルソムラやロゼルムは中等症までのOSASでは使用可(ちなみに現在我が国の一般成人の5%が睡眠薬を服用)などの報告がありました。私としては、軽症SASを有する人の割合が結構多いのに少しビックリしました。今後、ガイドラインが発表されると、治療としてのCPAPの推奨度がより高くなりそうです。

私のパンフレット整理とインフルエンザの抗原解析  15年8月13日
  休みを機会に当院でお渡しいているパンフレットの更新を諸々行いました。例えば頭痛関係では、国際頭痛分類の更新にともない、群発頭痛の表記を群発頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛)にしたり、低髄液圧症候群の項を更新したり、天気痛や薬剤連用性頭痛、片頭痛の誘引や原因論を修正したり、、患者様にお渡しするパンフレットを更新することは私にとっても頭の整理になっています。
 インフルエンザも、9月になればワクチンの話題も含めて15/16シーズンへの移行期になります。厚労省から14/15シーズンの総括もでてきており、花粉症に続き、こちらも更新です。当院ホームページのトップページのインフルエンザのバナーも15/16シーズンに更新しました。
 ちなみに当院での14/15シーズンのタイプ別に流行の推移をみると、以下の通りです。2月中旬まではA型がほとんどでしたが、2月下旬からはB型が徐々に増えて、3月中旬には半数がB型に、4月からは90%がB型となり、7月中旬まで観測しました。A型は1年以内に2度目の流行となり、過去の感染による基礎免疫を有する人が多く、12月までの発症者の多くが40才以下でした。1月に入り高齢者にも感染は広がりましたが、高校生の学級閉鎖は目立って少なく、シーズン中にインフルに2回感染した例はわずかでした。
 シーズンを終わっての厚労省の抗原解析の報告では、14/15シーズンはA香港型が91%、A09年型が0.9%、B山形系統が7%、Bビクトリア系統が0.5%でした。(因みに13/14シーズンは先の順番で21%、43%、24%、9%。12/13シーズンが46%、2%、13%、6%。11/12シーズンが71%、0.2%、8%、16%でした。Aソ連型は09/10シーズンより観測されていません) 今シーズン、A香港型のサブタイプ(サブクレード)が前シーズンと変化して予防接種の株とはタイプが代わっていたことから、来シーズンの予防接種ではA香港型のタイプを変更します。B型は山形系統の流行株に一部変化はあったことから予防接種のタイプも変更しますが、もともとB型は抗原の差異が少ないとのことです。また2シーズン続けて国内でのタミフル耐性株は報告されませんでした。沖縄でのB型の通年性の発生は10年目に入りました。世界的には香港でA香港型の発生が注目を集めました。このような報告も記載して14/15シーズンをまとめ、パンフレットやホームページは15/16シーズン用としました。あと3ヶ月でインフル予防接種のシーズンになり、例年ならば当院でも迅速検査陽性の方が見られます。季節の移ろいはあっという間です。

鼻の病気と頭痛  15年8月1日
 今日は鼻の病気と頭痛についてお話します。頭痛については国際頭痛分類原著第3版(=日本語版第2版)など詳細な分類があります。様々な頭痛が網羅され、片頭痛や緊張型頭痛が代表的ですが、耳鼻科医の立場からみると鼻が弱くて頭痛を来すケースも珍しくはありません。以下に鼻の病気から誘発される頭痛について紹介します。
 風邪をひいた後にはっきりした細菌性の急性副鼻腔炎化するまで至らなくても、鼻炎が強くて副鼻腔の換気障害があれば、航空性副鼻腔炎やダイビング時のサイナス・ブロックなどの特殊な環境下まで至らなくても副鼻腔ブロックで目の周囲が重たくなる、耳管狭窄で耳の後ろが重たくなることがあります。副鼻腔ブロックは真空頭痛(vacuum headache)とも呼ばれます。また、蝶形洞の副鼻腔炎は群発頭痛に匹敵するほどの高度な頭痛を来す場合があります。また小児では鼻炎だけでも頭痛が目立ちます。学校健診で鼻炎を指摘された小学生を診察する際に、私が保護者の方によくお伝えするのは「小学生の半数がハウスダスト・アレルギーの時代ですし、徹底的な環境改善や体質自体を根本的に治すことは困難ですので、鼻炎であっても平素が元気であればよいのですが、ただし、鼻炎が頭痛や集中力不足の原因になっているのならば治療をお勧めします」ということです。
 最近提唱されている病態としては、鼻腔接触点頭痛があります。これは鼻中隔と鼻腔の外側にある中鼻甲介などの側壁が接しているために誘発される頭痛です。中鼻甲介頭痛症候群とも呼ばれます。国際頭痛分類でも付録として掲載されています。最近私も、鼻中隔の出っ張り(棘)が中鼻甲介に接していて、その同側の後頭部に頭痛を感じるケースを経験しました。厳密に鼻腔接触点症候群と確定診断するには、接触点を局所麻酔して痛みが軽減したり、接触点を手術的に開放して痛みが消失することが必要ですので、確定診断には至りませんでした。
 鼻と痛みの関係についてみると、ヒトの鼻腺や鼻粘膜血管には神経ペプチドが豊富なことから、脳内の血管周囲痛である片頭痛と似た機序が鼻粘膜でも起こりうるとの研究報告があります。逆に、急性副鼻腔炎では頭痛は顕著だが慢性副鼻腔炎ではあまり起こらないという報告や、副鼻腔からの痛みの8割以上が実は片頭痛だったという論文もあります。痛みなどの感覚は実は自覚的であり他覚的客観的な評価が出来ません。痛みを感じる機序にも様々なものがあります。放散痛といってある部位の痛みを違う部位の痛みと感じることがあります。腰痛の原因が腰であると思っていたが実は脳内の異常で感じていた、交通事故などで失ってないはずの腕や足が傷む幻肢痛などの機序もありますので、鼻の障害と頭痛を1対1で単純に結び付けることには慎重でなければいけませんが、耳鼻科医としては鼻の障害からの痛みに注意してのアプローチも重要だと思います。

上咽頭炎とBスポット治療  15年7月11日
 耳鼻科医からみると上咽頭の炎症が頭痛の原因となることはよく経験します。今日は上咽頭の慢性炎症とその治療についてお話します。鼻の奥の上咽頭正中部には、咽頭扁桃があります。5才前後が腫大のピークで、小学校高学年には劇的に縮小しますが、時に腫大が残ってアデノイド遺残と言われる扁桃肥大の状態になり、慢性扁桃炎化する例があります。また体が形成される胎児期に脊索の遺残からトーンワルト(Thornwaldt)嚢胞(孔)が成人の3%で出来ます。そこが感染の巣になってトーンワルト病という状態になる例もあります。アデノイド遺残でもトーンワルト病でも炎症が強ければ、MRIなどの画像診断で確認の上、根本的治療として手術があります。症状を軽減する処置としては、東京医科歯科大耳鼻科教授だった故堀口博士が提唱した上咽頭を消毒液で擦過するBスポット療法があります。私もアデノイド遺残部やトーンワルト孔に炎症が見られた場合には、必要に応じて行なっています。頭痛が軽減するケースも見られます。

中耳炎罹患児のスイミング参加の目安  15年6月10日
 今週から小中学校がプール開きです。 5月が耳・鼻には良い気候だったこともあり、中耳炎が劇的に治るお子様が多いのですが、中には残念ながら治らないお子様もおられます。中耳炎が治らないお子様の保護者の方から、スイミングしてよいかどうかの判断を求められる時期になりました。私は当ホームページでも小児がスイミングに参加する目安を挙げています。急性中耳炎や滲出性中耳炎では、○耳だれがでる、鼓膜が乾いていない、急性期の鼓膜の穴が閉じていない、などの場合は控える。○中耳に滲出性の水が残る、鼻からの換気不良で鼓膜の陥凹が強い場合は控えた方が好ましい。○急性中耳炎の場合は治癒の経過で一概には言えないが、反応の強い中耳炎の場合は最低1週間、多くは2週間前後控えるのが目安である。○中耳炎を繰り返す(反復性中耳炎の)小児の冬期のスイミングスク-ルはお勧めできない。としています。穿孔性中耳炎、鼓膜チュ-ブ留置では、○鼓膜が乾燥化していれば、防水耳栓とスイムキャップの使用で可能。○飛び込み、潜水は出来ない。○夏期に学校活動の一環として行われる水泳に限れば,確実な経過観察のもとで出来る限り参加させたい。○寒い時期の水の入れ替えが不十分な室内プールでの水泳は避けたほうがよい。としています。今年初めて発表された小児滲出性中耳炎治療ガイドラインでも、チューブ留置後の入浴や水泳に関する論文データの解析がありました。常時耳栓を使用すると耳漏の頻度が優位に低下したとの論文もあるものの、常時の耳栓で耳漏の頻度が56%から47%に減じただけとの論文もあります。このことからガイドラインでは、患児に過度の行動制限を行わないために、常時の耳栓装用は勧めるべきではない、としています。ただし、感染の機会の高まる湖や海での水泳、プールでの深い潜水、バスタブでの潜水は避けて、反復する耳漏があったり水泳で耳痛を訴える患児では耳栓の使用を指導すべきとしています。私もこのガイドラインを踏まえて、チューブ留置にもかかわらず急性増悪化しやすいお子様には耳栓を着用してもらおうと思います。

高額医療  15年5月31日
 高薬価なお薬の話題を。3月26日に承認され、この6月に薬価収載される予定のC型肝炎の治療薬、米バイオ医薬品会社ギリアド社製「ソバルディ」は、1錠で1日分の薬価が6万1799円です。国内に200万人とされるC型肝炎患者の2型に有効で、12週投与で96%ウイルスが消失します。ただし医療費は550万円かかります。厚労省はこの薬を医療保険の対象かつ医療費助成の対象としました。米国では既にこの薬が、承認後の初年度売上高が新薬として史上最高になる見込みで、保険会社の収益を圧迫し始めています。上場保険大手10社によるC型肝炎薬の費用負担が、今年は昨年より7億9800万ドル多くなると予想され、連邦議会では高薬価が妥当かどうかの審議を行うように議員からの申請が出ています。ギリアド社は、肝臓移植と比較すればソバルディによる医療費の負担は小さいとの立場です。薬価を決めるにあたっては、この薬が”ピカ新”で唯一の薬であり、製造原価をある程度オープンにしたからこそ認められた高薬価なのだとは思いますが、今後も抗がん剤を中心に抗体医薬や遺伝子工学などのバイオ技術で開発される薬が、続々と後に続くと思われます。今、理化学研究所では「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」を進めていますが、iPS細胞を必要量増殖させるには1例5千万~1億円かかるそうです。当然、コストダウンの研究や機材開発も進めていますが、これからの夢の医療と国民負担についてのガイドライン策定も進めなければいけません。
 P.S. 高価なC型肝炎治療薬「ソバルディ」の薬価算定方法ですが、詳細なレポートがありました。薬価の算定は、!)従来のインターフェロン治療と同等として2万3996.7円 2)新規性&有効性と安全性が高い&治療法の改善が客観的に示されているの”画期性加算”がついて2倍の4万6793.4円 3)米国では12万8400円、ドイツでは9万9997.2円で、米英独仏四ヶ国の平均価格と比較する”外国平均価格調整”を行って、最終的に6万1799.3円になったとのことです。画期的加算はこの制度が作られた2008年以降では初めての適応例とのことで、この薬が強烈なピカ新なのが判ります。アメリカの半値ということで良しとしましょうか、、  

日本耳鼻咽喉科学会総会のトピックス   15年5月23日
 日耳鼻総会の一般演題の中で、昨年以上に関心が高まっていると私が感じたトピックスは、○2012年12月より頭頸部癌に対する分子標的薬セツキシマブが承認されたことからの臨床成績、○アレルギー性鼻炎における制御性T細胞とサイトカインや自然免疫の関係、○神経毒であるボツリヌス毒素のアレルギー性鼻炎への応用、○内視鏡下耳科手術、○IgG4関連疾患とANCA関連血管炎性中耳炎、○突発性難聴へのサルベージや顔面神経麻痺への鼓室内ステロイド治療、○骨導人工中耳、でした。
 同じくアレルギー学会の演題で、注目されつつあるトピックスは、○皮膚バリア機能と食餌アレルギーとの関連、○喘息での呼気NOなどのバイオマーカーの活用、○気道炎症と自然免疫応答、サイトカインとの関連、○高齢者における喘息と慢性気管支炎が合併した病態である喘息COPDオーバーラップ症候群、○アレルゲンの中のより細かい成分アレルゲンコンポーネントを利用しての食物アレルギーの診断、○ANCA関連血管炎、○ダニアレルギーへのアレルゲン免疫療法、などでした。
 以上で紹介したような学会で注目される領域の業績は、速ければ数年で臨床の場へもフィードバックされます。私のような臨床医としても今後の発展が楽しみな領域ばかりです。

 日耳鼻関連の話題で、今年、私の診療に大いに影響を及ぼしそうなのが、「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版」の発表です。小児滲出性中耳炎は、耳鼻科クリニックにとっても長期経過観察を要する患者数が最も多い疾患ですので、データに基づいた治療の目安となるガイドラインが出来れば大いに参考になります。海外では2004年に米国版が、2008年に英国版が発表されていますが、本邦では今回が初めての発表です。欧米では”プライマリケア医がガイドラインに沿って耳鼻科専門医に紹介するか”のガイドラインですが、我が国では耳鼻科医がプライマリケアも担当する背景で作られたガイドラインですので、私にとっても実地に即しています。同ガイドラインの肝は、急性の要因が少なくなった段階で、3ヶ月以上遷延した場合に、片側なら鼓膜の病的変化があればチューブ留置を、両側で中等度難聴ならばチューブ留置をするというものです。またチューブ留置後2年で抜去も検討します。実地臨床の場では、急性中耳炎と滲出性中耳炎は別個のものではなくて移行したり反復しますので、それこそ、急性中耳炎、滲出性中耳炎、急性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、扁桃腺摘出など諸々のガイドラインを、個々の患者様の通院治療になにが最善かを考えながら、実地に即して臨機応変に診療しなければなりません。
 ガイドラインの前書きには、中耳炎の疫学的データとして、○滲出性中耳炎は、1才までに50%、2才までに60%、就学前までに90%が罹患 ○3ヶ月以内に治癒することが多いが、30-40%で再発し、5-10%では治癒までに1年以上を要す ○後遺症が生じる場合もあり長期の医学管理を要する疾患 と紹介されています。小児の中耳炎は、遷延反復難治化するケースもままあることから、当院でも通院に疲れる保護者の方も珍しくありません。簡単な疫学データですが、通院の目安の参考になりますので、今日の診察から早速、お母さま方にこのデータをお伝えしました。

松山の地名 余戸と生石  15年4月8日
 松山市の地名に関して私が混乱するものがふたつあります。
 ひとつが「余戸」と「余土」です。当院は余戸中1丁目にあり、駅名も余戸駅ですが、学校は余土小、余土中で、地区名でも余土地区と表記する場合があります。同じ地区なのにふたつの似た表記があります。江戸時代からの地名は「余戸」だったところが、明治時代の町村制施行時に県の担当者が誤って「余土」と登録したために「温泉郡余土村大字余戸」となったそうです。その後、松山市編入時に松山市「余戸町」となったものの小中学校名に「余土」が残ったとのことです。今なら登録間違いが判った時点で訂正されるのでしょうが、当時はおおらかだったのか、はたまた、お上には逆らわないようにしたのでしょうか。
 もうひとつが「生石(いくし)町」と「生石(しょうせき)小学校」です。どちらも松山市西部の旧空港通り沿いの近い場所にあり、ややこしいのですが、生石小学校は高岡町にあります。調べると、「生石(しょうせき)」は、生石八幡宮から取られた名前で、「生石」は朝鮮半島から渡来し神功皇后の母系の祖先の天日矛という一族に関係する地名の「出石」が由来です。この一族が但馬国出石郡出石郷に本拠を定める前に「出石」や「生石」の地名を各地に残しました。江戸時代までは卑弥呼が神功皇后であると考えられていたそうで、「生石(しょうせき)」に飛鳥時代以前にまでさかのぼる歴史があったとはビックリです。

しゃっくりと耳鳴  15年3月4日
 「ためしてガッテン」の話題です。 いやー、この番組はなかなか優れものです! 
 先週は「しゃっくりを止める裏技」でした。しゃっくりは、1、延髄が過剰に興奮して、2、延髄から出る脳神経である迷走神経の反応が高まり、3、迷走神経の枝である声帯の動きを司る反回神経と横隔膜の運動を司る横隔神経が痙攣性に反応し、4、しゃっくりが止まらない の機序で発生します。裏技は”両外耳道の入口部を痛みを感じるまで強く押す”というものです。外耳道皮膚にも迷走神経から枝分かれした知覚神経が走行していますので、外耳の刺激で迷走神経の反応が静まる事を期待するというものです。私にとっても”なるほど”の裏技でした。私も以前から診療中にしゃっくりが止まらない方に”しゃっくりが止まるおまじない”をしているのですが、私の方法は、軟口蓋を刺激するものです。軟口蓋にも舌咽迷走神経の知覚神経が走行していますので、同じような機序になるでしょうか。今度、しゃっくりが止まっていない患者様を見つけたら、耳を押さえる方法も試してみます。ただし、赤ちゃんや小さなお子様は泣きそうですので、従来の私のやり方だけにしておきます。先週のもう一つの話題も「周期性四肢運動障害」で、睡眠障害の分野ですので私に関連していました。むずむず脚症候群の中に”しゃっくり足”症候群があり、貯蔵鉄フェリチンを増やしたり、ドパミン受容体刺激薬レキップなdが効果があるというものです。閉塞型睡眠時無呼吸とは違う機序ですので、直接私が治療する訳ではありませんが、鑑別診断の疾患のひとつです。
 今日の話題は「ついに!耳鳴りが治る」と「”スッキリ!正しい耳掃除」で、なんとぴったり耳鼻科の話題です。耳鼻科では一般的に、老人性難聴や急性感音難聴の後遺症を原因とする耳鳴の根本は治らない、として対応します。ついに治る、とはショッキングなタイトルです。また全国ネットの放送で耳掃除を医療として取上げるのも珍しいです。と言うことで、興味深々で視聴しました。耳鳴については、加齢などで難聴が進むと音刺激が視床に達しないために脳内で耳鳴が発生し不快と感じる、というものでした。従来、耳鳴の原因については、ストレス性や自律神経失調による一時的な血行障害や、感染などによる神経炎から聴神経が障害されて発生するものが多いとされていました。突発性難聴の前駆段階程度の急性感音難聴で急性に耳鳴が発生するような場合がこれに相当します。しかし、最近、音刺激が少ないことにより脳内が音に対して過敏になるという機序が報告されて、耳鳴順応療法TRTを支持するようになっています。今回の番組では、この機序に沿った耳鳴治療を紹介しています。難聴で音刺激の少なくなった周波数に補聴器で音刺激を加えるというものです。番組では、耳鳴を感じたことのない健常人を無響室に連れて行って耳鳴を感じる事を示す、高齢になるほど高音部が聞き取りにくくなることを軽妙に示す(私もよく耳鳴の診察で、授業中に生徒は聞き取れても先生には聞こえないガラケーのモスキート着信を紹介しています)など、志の輔師匠とアナウンサーの軽妙な掛け合いで、視聴者をぐいぐいと引き込みます。とにかくこの番組は、テーマの選択や番組の進行が素晴らしいです。耳掃除の話題でも、鼓膜から外耳道への皮膚の移動(migration)について解りやすくかつ面白く紹介しています。私にはここまで楽しく説明することは出来ません。これもさすが!、でした。
 私は今ちょうど、NHK取材班著「グーグル革命の衝撃」を読んでいます。私が新聞の連載記事で良く目を通すのが日経「私の履歴書」です。なぜか起業物語が好きで、海外のIT関連ではマイクロソフト、アップル、IBM、ファイスブック、サムスン、小米などは把握していましたが、不思議とグーグルを知る機会がありませんでした。この本では、革新的だった検索連動広告の開発経緯や、謎めいているグーグルのサーバーについて、創業者エリック・シュミットへのインタビューも交えて興味深く紹介しています。NHKも公共放送として様々な意見がありますので、無条件に絶賛という訳にはいきませんが、「ためしてガッテン」や科学関連「NHKスペシャル」には頑張ってほしいものです。

語音聴力検査  15年3月22日
 今日の診察では、語音聴力検査を行いました。難聴の評価のために”言葉の聞き取り能力”を評価するための検査です。久方ぶりの検査でしたので、検査用CDプレーヤーの電池が切れている!など、診察の合間に準備が整わず、思わず焦りました。^^; 診療機器は何時でも用意万端にしておかなければと大いに反省です。その後、検査は無事終了し、被検者の方は正常域でしたので、ホッとしました。聴力検査の中でも、語音聴力検査や自記オージオメトリーは行う機会の少ない検査です。聴覚障害の認定基準では、4級で最良語音明瞭度が50%以下という基準があります。標準純音聴力検査で80㏈未満で聞き取れていても言葉としての認知力が弱い場合に、標準語音聴力検査で認定します。補聴器を装用して十分な利得を得ているはずなのに言葉の聞き取りが悪い場合にも語音聴検で評価します。語音聴検は実際の言葉を聞いてその言葉を聞き取れているかどうか判断する検査ですので、耳鼻科臨床の場で行う機会は多くはありませんが、時には必要となる重要な検査です。

聴覚障害の認定  15年3月9日
 厚労省より身体障害者福祉法の変更の通達がありました。来年4月からは聴覚障害2級(両耳全ろう)の新規認定には脳波聴力検査などの他覚的聴覚検査が必要とされます。これは、昨年2月に「耳の聞こえない作曲家」として活動していた佐村河内守さんが実は全ろうではなかったことが発覚して障害者手帳を返還した問題を受けたものです。厚労省が昨年10月に聴覚障害の認定方法に関する検討会を開き、身体障害者手帳を取得したことのない人がいきなり全ろう(2級)の認定を受ける場合は、従来の聴力検査に加え他覚的聴力検査を義務付けることとしました。役所の仕事としては迅速、といっては失礼でしょうか。従来の標準純音聴力検査や語音明瞭度検査は”自覚的”検査ですので、被検者がデータを操作することも可能です。聴力検査だけでも、下降法と呼ばれる大きい音から徐々に音圧を下げる検査や、ベケシー検査と呼ばれる連続音検査を行うと詐聴かどうかある程度は判断できますが、やはり聴力レベルを厳密に評価することは困難です。私も以前、データに一貫性がないことから当院での判定は留保して公的病院で再度診断してもらったこともありました。公的扶助の運営には、国民からの信頼が大切です。今回の変更は有意義であると思います。

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