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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科を専門とし、地域医療に貢献します。

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

スギ花粉・ダニの舌下免疫療法(SLIT) ゾレア デュピクセント

〇スギ花粉、ダニに対するアレルギー性鼻炎の舌下免疫療法(SLIT)を行っています。花粉症の体質改善に近いと言われるアレルゲン免疫療法です。治療開始前に検査を行い、治療中は毎日1回服薬する必要があります。当院では、紹介した基幹病院で導入期の治療の後、引き続き維持期の治療を行います。
〇ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤のゾレアが、2019年12月にスギ花粉症の治療薬として承認されました。
〇ヒト化抗IL-4及び抗IL-13の遺伝子組換えIgG4モノクローナル抗体製剤のデュピクセントが2020年3月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」の治療薬として承認されました。

〜 スギ花粉に対する舌下免疫療法(SLIT) 〜
*シダキュアの供給不全により新規の開始(導入)は現在中断されています。開始は24年5月以降になる予定です。
薬剤:シダキュア スギ花粉舌下錠 2018年4月発売   講習会受講医師が処方  
効能効果:スギ花粉症(減感作療法)
対象者:5才以上 65才未満
*妊婦、授乳婦、重症の気管支喘息、悪性腫瘍、免疫系に影響を及ぼす全身性疾患(自己免疫疾患、免疫複合体疾患、または免疫不全症等)の患者には行なわない。
服薬方法:1週目 2,000JAU 2週目以降は5,000JAU 1日1回舌下に1分間保持後、飲み込み、その後5分間はうがいや飲食を控える。
     2年間(3年間が望ましい) 毎日服用
      *1回/1ヶ月の通院が必須
      *花粉症シーズンには開始しない。開始時期は 5月〜12月初旬が目安。
     *経口免疫と注射免疫は機序が異なるため、過去に注射による減感作療法を行った患者も、導入期から行う。
     *患者は、救急時の緊急搬送先病院を明記した携帯カードを常に携帯する。
     *風邪などで体調不良時は一時休止する。1ヶ月以上休止した場合には再度導入期から開始する。
服薬期間:治療開始から2シーズンでの効果判定が多い。有効例でも短期間での中断は再発率が高いために、3〜5年の継続が推奨される。(WHOなど)
費用:薬自体の薬価は初年度37.000、次年度以降32.000円程度で自己負担は年間1万2千円程度ですが、その他に、2〜4週間毎に初再診料・管理料・処方料・調剤料、初期の検査料・基幹病院への紹介料などがかかります。
効果:10%が症状消失、70%が症状軽減、20%が改善なし。治療開始1年後の改善例が75%、2年目が85%。40%でヒノキ花粉時期も有効。ハウスダストなど他のアレルギーもあれば効果弱い。
副作用:市販前調査では重篤な副作用報告は無く、13.5%に口内炎、舌下腫脹、口腔内腫脹、咽喉頭掻痒感、耳掻痒感、頭痛などの副作用が認められました。発売後2年半では1069例の副作用報告があり、ほとんどが口内の軽い腫れやのどの違和感だが、5例でじんましんやアナフィラキシー症状などの重篤例あり。副作用発現の可能性に対しては、観察を行い適切な処置を行うことが求められています。
 当院での治療手順
 1、5才以上65才未満のスギ花粉症患者に対して、血液検査によるスギ花粉IgE抗体の保有を確認。
 2、血液検査でスギ花粉症が確認されれば、中予の耳鼻咽喉科基幹病院に事前予約で紹介。
 3、基幹病院にて治療開始。1週間の導入期の服薬を行う。
 4、当院にて維持期の投薬を最低2年間(出来れば3〜5年間)行う。1ヶ月毎の再診が必要です。
  *診察は優先的に行います。
  *花粉飛散期は効果を実感できるように初期治療は行わず、免疫応答を減じる全身的なステロイド投与は行いません。症状発現時は、別に処方する抗アレルギー薬を服薬します。
 5、有害事象発現時の緊急搬送先病院は、紹介した基幹病院になります。
 6、中予地区の基幹病院と舌下免疫療法の診察日
    愛媛大学医学部付属病院:月曜・木曜14時30分〜15時30分
    愛媛県立中央病院:水曜日14時30分〜16時30分
    鷹ノ子病院:火曜日14時〜16時

    松山赤十字病院:月曜日午後
*数回の注射で長期的に症状が寛解する、スギ花粉治療ワクチンの臨床治験が日本で始まります。

〜 ダニへの舌下免疫療法 〜
薬剤:ミティキュア ダニ舌下錠(鳥居薬品)  2015年12月発売
   アシテア ダニ舌下錠(塩野義製薬)   2015年11月発売
     コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニの2種のアレルゲン抽出物含有
効能効果:ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する減感作療法
対象者:5才以上、65才未満(65才以上は使用経験が無いため慎重に投与)
      *妊婦、授乳婦、重症の気管支喘息、悪性腫瘍、免疫系に影響を及ぼす全身性疾患(自己免疫疾患、免疫複合体疾患、または免疫不全症等)の患者には行なわない。
服薬方法:@1日1回、舌下に保持し、ミティキュア1分間・アシテア2分間保持した後、飲み込む。その後5分間は、うがい・飲食を控える。
      Aミティキュア1週目導入期→2週目維持期、アシテア最低3日漸増期→治療継続:毎日服用 まず1年後に効果を評価 3年継続が推奨される。
     B服用記録・症状日誌の記録が望ましい。
      *1回/1ヶ月(発売後1年間の新薬期間は2週間毎)の通院が必須
      *服用前後2時間は激しい運動、飲酒、入浴は避ける。服用は日中。
      *他の現感作療法薬との併用のデータはなく、併用には十分注意する。
     *1年以上の投与で効果が得られなければ継続は慎重に判断
     *患者は、かかりつけ病院を明記した携帯カードを常に携帯する。
     *治療開始初期1ヶ月は特に副作用発現に注意
     *風邪などで体調不良時は一時休止する。
費用:薬自体の薬価は72.000円程度で自己負担は30.000円程度ですが、その他に、2〜4週間毎に初再診料・管理料・処方料・調剤料、初期の検査料・基幹病院への紹介料などがかかります。
効果:ミティキュア:3ヶ月後より症状軽減、1年後に有意な症状軽減。
   アシテア:1年後に有意な鼻症状軽減、総合評価で著明改善22%、軽度以上改善58%
副作用:国内臨床試験ミティキュア627例・アシテア989例ではアナフィラキシーショックなどの重大な副反応は報告されていませんが、発現の可能性に対して、観察を行い、適切な処置を行うことが求められています。ミティキュア63.%  *アシテア68%で口内炎、舌下腫脹、口腔内腫脹、咽喉頭掻痒感、耳掻痒感、頭痛などの副作用が認められています。
  *2018年2月より5才以上の小児に適応年齢が拡大され、より低年齢からの治療が可能となりました。
 当院での治療手順
 1、5才以上65才未満のハウスダスト鼻炎患者に対して、血液検査によるダニIgE抗体の保有を確認。
 2、血液検査でダニ・アレルギーが確認されれば、中予の耳鼻咽喉科基幹病院に事前予約で紹介。
 3、基幹病院にて治療開始。導入期の服薬を行う。
 4、当院にて維持期の投薬を行う。1年後に効果判定の上、3年以上の継続が推奨されます。1ヶ月毎の再診が必要です。診察は優先的に行います。
 5、有害事象発現時の緊急搬送先病院は、紹介した基幹病院になります。
 6、中予地区の基幹病院と舌下免疫療法の診察日
    愛媛大学医学部付属病院:月曜・木曜14時30分〜15時30分
    愛媛県立中央病院:水曜日14時30分〜16時30分
    鷹ノ子病院:火曜日14時〜16時
    松山赤十字病院:月曜日午後

〜 ダニ・スギへの同時舌下免疫療法 〜
スギとダニの治療を同時に行う(dual SLIT)が2019年より愛媛でも行われるようになりました。 スギまたはダニのどちらかを先に導入の後、1ヶ月以上開けて次の導入を行います。 

★舌下免疫療法の詳細は以下のサイトをご参照下さい。
 ・アレルゲン免疫療法.jp(鳥居薬品) 

〜 ゾレア (ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体) 〜
 抗IgE抗体を注射することにより、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体総量の働きを阻害することによりアレルギー反応を抑えます。世界的にも花粉症に反応する患者数の多い日本が2019年12月に世界で初めて季節性アレルギー薬として承認されました。
 既存治療で効果不十分な重症又は最重症の12才以上で、スギIgE抗体がクラス3以上かつIgE抗体総量(RIST)が1500以下の患者に限定されます。対象患者の総IgE量と体重に基づいて投与量が設定され、スギ+ヒノキ花粉症シーズンの2〜5月に月1〜2回投与します。遺伝子組換え製剤であることから高価で、スギ+ヒノキ花粉症の方で標準的なIgE量の方の薬剤費は3割自己負担で1回9千円〜1万7千円(シーズンで4回計2万8千円〜6万8千円)です。(20年4月改定より)ただし、高額医療費控除制度を利用すれば住民税によって2.5〜14万円以上の負担はありません。
 スギ特異的なIgE抗体だけでなく全てのIgE抗体の働きを抑えることから、副次的なアレルギー反応の発生に注意し、抗アレルギー剤の同時服薬も必要です。
 当院では主に耳鼻科基幹病院への紹介による治療します。
   *2020年4月効能変化再算定制度でゾレアは37%の大幅な薬価引下げとなりました。

〜 デュピクセント (ヒト化抗IL-4抗IL-13遺伝子組換えIgG4モノクローナル抗体) 〜
 デュピクセントは、好酸球性副鼻腔炎の病因である2型炎症を抑える生物学的製剤(抗IL-4及び抗IL-13の遺伝子組換えIgG4モノクローナル抗体)です。好酸球性副鼻腔炎は、2型炎症と呼ばれるIgE抗体や好酸球、サイトカインのIL-4及びIL-13を通じた炎症反応によって引き起こされることが近年解明されました。デュピクセントはステロイドに頼らずに2型炎症反応を抑制します。

適応:鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎 *好酸球性副鼻腔炎や好酸球性中耳炎に有用です
患者要件
 ア 慢性副鼻腔炎の確定診断がなされている。
 イ「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対して、手術による治療歴がある」又は「既存の治療を行ってもコントロール不十分であって、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対する手術が適応とならない」
 ウ 既存の治療によっても以下のすべての症状が認められる。
   内視鏡検査による鼻茸スコアが各鼻腔とも2点以上かつ両側の合計が5点以上
   鼻閉重症度スコアが2(中等症)以上(8週間以上持続していること)
   嗅覚障害、鼻汁(前鼻漏/後鼻漏)等(8週間以上持続していること)
 エ 投与24週時までの適切な時期に効果の確認を行う
対象:15才以上の成人 妊婦:IgGは胎盤関門を通過し乳汁へ移行することから妊婦には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与
          授乳婦:授乳婦は治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し授乳の継続又は中止を検討
          高齢者:一般的に生理機能(免疫機能等)が低下していることから慎重投与
投与方法:月2回 皮下注射(厳重に管理できれば家庭内での自己注射も可能)
         *当院では、院内での注射で有害事象の現れないことを確認した後に、自己注射を検討
副作用
〇発赤腫脹や痒みなどの注射部位反応 
〇0.1%未満でアナフィラキシー反応の発現 
〇他のアレルギー性疾患の症状の変化;他のアレルギー性疾患を合併している場合、投与によって他のアレルギー性疾患の症状が変化(適切な治療を怠った場合に症状が急激に変化したり喘息等では死亡に至るおそれ)する可能性があることから、投与中は合併するアレルギー性疾患担当医師と適切に連携し治療内容を変更しないこと
〇組織への好酸球の浸潤を阻害することによる一時的な好酸球増加症(血管炎性皮疹、肺症状の悪化、心臓合併症及びニューロパチー等の臨床症状の発現) 
〇免疫シグナルに作用するため、寄生虫を含む感染症が発現重篤化する可能性あり 
〇長期ステロイド療法を受けている患者でのステロイドの減量は行わない 
〇投与中の生ワクチンの接種は安全性が確認されていないので避ける 
〇ヒト抗体ながら非自己タンパク質であるため抗薬物抗体(ADA)による免疫原性の可能性がある 
適応施設:初期研修修了後に4年以上の耳鼻咽喉科診療の臨床研修を行い、そのうち3年以上は鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を含むアレルギー診療の臨床研修を行っている医師が治療責任者として配置されている 
医療費:3割負担月2回投与で診療費+薬剤費で39.940円
医療費の助成制度
〇高額療養費制度:年収370〜770万でひと月の世帯上限額80.100円+α(年間4ヶ月以上は44.400円)
〇指定難病医療費助成制度:
  年収 〜80万で月2.500円 
     〜160万で月5.000円 
     〜370万で月10.000円(自己注射3ヶ月毎受診で3400円)(年間7ヶ月以上は5.000円)
     〜810万で月20.000円(自己注射3ヶ月毎受診で6千円)(年間7ヶ月以上は10.000円)
     810万〜で月30.000円(自己注射3ヶ月毎受診で9千円)(年間7ヶ月以上は20.000円) 
〇付加給付制度:健康保険組合等の独自制度、学生などへの医療費補助制度、ひとり親への医療費補助制度など

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舌下免疫療法について  (2013年11月3日 「今月の疾患情報」より抜粋)
 スギ花粉に対する舌下免疫(減感作)療法が薬事法上で認可され、今後順調に薬剤が承認されれば来シーズンからは保険診療が可能となります。日本耳鼻咽喉科学会でも、11月の専門医講習会、2月の耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、5月の総会学術集会の折に講習会が開かれます。新しい治療法でこれだけ大規模に講習会を開くのは、日耳鼻学会としては初めてではないでしょうか。それだけ耳鼻科診療の世界でもepoch-making なのだと思います。
 当院でもこれまで保険診療の認められていたスギやハウスダストに対する注射による減感作療法は行っていましたが、ごくまれにアナフィラキシー・ショックなどの重大な有害事象がある、私の印象では3年程度治療を続けても有効率は半分以下、長期の通院を必要とする、などから、当院の患者様には主に、ハウスダストなどの通年性過敏症の方にはレーザー治療や化学剤治療を勧めて、花粉症の方には、予防投薬(初期治療)などの薬剤でコントロールして頂くことをお勧めしていました。当院でも、今後保険診療が認められれば、この経口免疫療法の導入を検討します。
 さて、スギの舌下免疫療法ですが、これは舌下のパンに含ませるなどで、スギ・アレルゲンを、低濃度、少量から連日投与し、徐々に増量、高濃度へ移行させ、最高用量に到達後その用量を維持用量とする治療方法です。アレルゲン免疫療法、減感作療法とも呼ばれるアレルギーに対する変調療法で、アレルゲンに対する過敏性を減少させる治療法です。世界的には既にWHOも有効性を認め、米国、英国、フランスなどの諸外国で既に行われています。一方日本では、予防接種も含め副作用に対して慎重な国民性の為か、臨床研究や承認が遅れていました。来シーズンのスギから、ようやく国が承認する治療法となる見込みです。
 作用機序自体は十分解明されている訳ではありません。”原因物質を摂取することによって体が慣れて再調整される”のですが、作用機序の説明として、1)この再調整により調節T細胞の一種であるTh2細胞が増加する、2)アレルゲン特異的IgE産生の代わりにアレルゲンと結合し中和するアレルゲン特異的なIgG誘導が起こる、3)特にIgGの中のIgG4がIL-4やIL-13を介してIgEを産生するB細胞からIgG4を産生するB細胞に切り替わるためにIgEの作用が減弱する、4)Th2細胞や肥満細胞に作用するIL-10の産生を増大させIL-10を介してTh2はロイコトリエン産生を抑制しヒスタミン分泌を予防するように働く、、 などの様々なデータが報告されています。アレルギーの遅発性反応では、ひとつの機序だけでなくアレルギー性炎症を鎮める方向で様々なネットワークが働きます。恐らく免疫療法でも、様々な機序が複合的に作用しているものと私は考えます。もともと生物は遺伝子レベルで固体を守る方向に進化します。進化した個体が生き残っていきます。アレルギー反応はもともと個体を守る為の反応です。過剰に反応し過ぎることがアレルギーという”病気”になります。免疫療法ではマイルドに個体を守る機序が遺伝子レベルで総合的に起こっているものと思われます。ちょうどiPS細胞が山中因子の活性化で作られるように、アレルギー体質も、根源ではどこかの遺伝子にトリガーによる刺激が加わってカスケードとしてのネットワークが働き出すのかもしれません。将来、そのような遺伝子が特定できれば、遺伝子治療でピンポイントで体質を変えることができるかも知れませんが、現時点では、この免疫療法が最も体質改善に近いものと言えます。
 経口免疫療法は、これまでも食物アレルギーの分野では経口減感作療法が、研究的な機関で行われていました。急速減感作と呼ばれる短期間で高容量を投与するヒトに対する研究的治療も行なわれていました。(急速減感作はスギやハウスダスト対して注射では試みられています)しかしこれらの治療では、ショックなどの副作用の可能性があるため、入院の上厳重な管理のもとで行う必要がありました。今回のスギに対する経口免疫療法は家庭での服用が前提となっています。今のところ国内での臨床研究データでは、注射による投与とは違い、重篤な有害事象は報告されていません。その意味では安全な治療法のようですが、有効率は注射による投与よりはやや劣っているようです。つまり、副作用の可能性は少ないが有効性は低い?これまで重篤な副作用の報告はないが全く起こらないわけではない?などの心配があります。これから、講習会の開催や経口減感作薬の承認に伴って、より詳細な情報が得られると思われます。私も情報をよく吟味して、舌下免疫療法を実際に行う否か、対象となる個々の患者様とよく相談したいと思います。        (2019年11月3日 当院ホームページより抜粋)

ゾレアについて  (2019年12月21日 「今月の疾患情報」より抜粋)
 11日に遺伝子組換え抗体製剤のゾレアが世界で初めて季節性アレルギー性鼻炎薬として承認されました。ゾレアは抗IgEモノクローナル抗体の皮下注射薬で、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体に結合して、IgE抗体自体の働きをなくすことによりアレルギー反応を抑える作用があります。2009年1月にまず成人気管支喘息に適応が、2013年8月に小児気管支喘息、2017年3月に慢性蕁麻疹と適応が拡大されてきました。12才以上の小児にも適応されます。先日、このコーナーで私が紹介した好酸球性副鼻腔炎による鼻茸に作用する抗IL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブに先んじて承認されました。ゾレアは耳鼻科領域では頭頚部癌以外では初の抗体製剤となりました。これまでの抗アレルギー作用薬でも症状が抑えられなかった方にとっては、新たな機序を加えて治療することが可能となります。なぜ日本が世界で初めて承認されたか製薬会社の人に伺うと、やはり日本は世界でも最も花粉症が目立つ国だからとのことでした。欧米での雑草やヒノキ花粉症よりも、日本のスギ花粉症が季節性アレルギーとしては最も目立つからでしょう。季節性アレルギー治療薬ですが、まずはスギ・ヒノキ花粉症の治療薬ということになります。
 この薬に問題点は治療費がとんでもなく高価になるということです。薬価がゾレア150mg1瓶で4万6422円ですので、総IgE抗体が200U/ml台の中ぐらいのレベルで抗体を持つアレルギーの人がこの治療を受けると、2〜5月に月1回計4回の注射で、かかる費用は月8万円計32万円、医療費3割負担の方で、月2万5千円シーズンで10万円かかることになります。また経口抗アレルギー剤の併用も必要ですので、従来の治療薬の費用もかかります。体重が重く高い抗体価を持つ人は、最大で1か月37万円シーズンで計150万円、3割負担で月11万円(高額医療費控除制度を利用すれば住民税によって2.5〜14万円以上の負担はありませんが)かかることになります! このため、保険収載の薬剤を認定する中医協でも医療保険財政への影響が懸念されたことから、厚労省は、取得予定の効能・効果を「既存治療で効果不十分な重症または最重症患者に限る」と明確化しています。施設要件や患者要件を明確化した「最適使用推進ガイドライン」と医療保険上の取り扱いを示した「保険診療上の留意事項通知」の順守が義務付けられました。ゾレアが非常に多くの花粉症患者に使用される可能性も否定できないことから、抗がん剤のオブジーボ同様、市場規模が1000億円を超える場合には「費用対効果評価」が行われて価格が引き下げられることになります。
 治療を行う医療施設がどうなるのか? 当院からは現状の舌下免疫療法のように地域の基幹病院に紹介して治療を行うのか? など、今後の耳鼻咽喉科学会やアレルギー学会の意向を注意してみていきたいと思います。

デュピクセントについて  (2020年3月27日 「今月の疾患情報」より抜粋)
 3月25日にデュピクセントの慢性副鼻腔炎への適応拡大が承認されました。抗体医薬品である生物学的製剤は、関節リウマチと気管支喘息でまず臨床応用が進み、続いてアトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚科領域に適応が広がりました。昨年からは耳鼻科領域でゾレアの臨床応用が始まり、今回のデュピクセントと続きます。デュピクセントは、重症アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹、重症喘息に続いて、「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」つまり好酸球性副鼻腔炎に対しての適応です。当院でも”治療に難渋する”好酸球性副鼻腔炎や好酸球性中耳炎の方がおられます。当院に通院される好酸球性副鼻腔炎かつ喘息の方が、重症アトピー性皮膚炎として皮膚科でデュピクセントの注射を始めたとたんに皮膚症状だけでなく気道症状も顕著に軽減した方を見ていますので、好酸球性副鼻腔炎でも重症かつ難治性のケースでは新たな治療の選択肢として期待しています。
 デュピクセントは、月2回の皮下注射(自宅での自己注射も可能です)で3割負担の人で月4万円の薬剤費です。指定難病に対する医療費助成制度や高額療養費制度を利用しても、やはり患者負担額は高価です。患者様とはよく相談の上、この新しい薬剤を活用したいと思います。

バナースペース

医療法人 大輝会

山口耳鼻咽喉科
クリニック

院 長 山 口 幹 夫

〒790-0045
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  TEL 089-973-8787