コーンビームCTについて
当院では2017年3月に最新の耳鼻科用CTを導入しました。導入したCTは、コーンビームCTで骨の陰影を詳細に描画する性能と低被爆が特徴です。導入に当って、コーンビームCTの耳鼻科領域における位置付けをご説明します。
当院レントゲン室のレイジャパン社製CT
コーンビームCTの特徴:
コーンビームCTは一従来からのファンビームCTに比べ、○空間分解能が高い(0.1mmオーダーでの診断が可能) ○金属アーチファクト(画像の乱れ)が少ない ○短時間で三次元画像を構築できる などの利点があり、精細な骨画像で金属の影響のない画像が得られることから、まず歯科領域で発展してきました。CTとしては被ばく量が少ないのも特徴です。骨画像の描写には優れていますが、軟部陰影の描写は不得意です。当院で導入したレイジャパン社製のCTでは画像解析ソフトにより、咽頭腔の広さも確認出来ます。
耳鼻咽喉科領域での活用:
耳科領域:真珠腫性中耳炎や外耳道真珠腫、外耳道癌などの骨欠損の描写、乳突洞炎などの中耳炎の波及程度の把握、聴神経腫瘍などによる内耳道の拡大の確認、内耳や中耳奇形・側頭骨骨折の確認
鼻科領域:鼻骨骨折や顔面骨骨折の確認、鼻中隔弯曲症、下鼻甲介骨肥厚などの鼻閉の評価、副鼻腔炎・副鼻腔腫瘍・鼻茸の進展程度の確認などで手術術式の確定に有用、鼻副鼻腔腫瘍や膿胞性疾患の把握
口腔咽頭科・歯科領域;唾石の確認、睡眠時無呼吸における舌根部狭窄の確認、顎関節の変形の確認、根尖病巣の確認
被ばく線量について:
国際放射線防護委員会(ICRP)では年間の放射線の被ばく量の限度として、年間約1mSv(ミリシーベルト)が理想的であると勧告しています。以下に、被ばく線量の目安を挙げます。
当院のデジタル撮影では、鼻や胸部の撮影で東京~ニューヨーク片道の航空機内で受ける線量の約1/4、CTでは2~4倍となります。側頭骨を広く撮影する中耳~内耳のCTではそれなりの放射線量になります。検査では少なからず被ばくすることを改めて肝に銘じて検査を行いたいと思います。
0.006:歯科デジタル撮影(フィルム撮影0.01)
0.01~0.05:RAY SCAN耳鼻科デジタル撮影(フィルム撮影0.02)、歯科デジタルパノラマ撮影(フィルム撮影0.04)
0.06:RAY SCAN胸部デジタル撮影(フィルム撮影0.09)、胸部X線検診
0.11~0.19:東京~ニューヨーク往復の航空機内
0.21~0.79:RAY SCAN耳鼻科用CT(成人副鼻腔0.28 成人耳0.78)
0.6:胃X線
1.0:一般公衆に対する制限(年間)
2.0:頭部CT
1.5:日本での1人当たり年間自然放射線量
2~10:PET検査
2.4:世界平均での1人当たり年間自然放射線量
2.4~12.9:CT(頭部CT2.0 胸部CT6.9)
3.0:胃造影X線検診
10:ブラジル・ガラバリ市、イラン・ラムサール地方の年間自然放射線量
50:発電所作業員への制限(年間)
100:緊急作業への制限
100~6200:心臓カテーテル検査(皮膚)
200:臨床症状が確認される被ばく線量
500:全身被ばくで末梢血中のリンパ球減少
1.000:全身被ばくで10%の人が悪心嘔吐
7.000:全身被ばくで100%死亡
(単位はmSv、RAY JAPAN社ならびにアールエフ社、国連放射線影響科学委員会、電気事業連合会のデータに加筆)
費用:
健康保険3割負担で、約3.400円
このように、耳鼻科用コーンビームCTは、撮影範囲にもよりますが一般的な頭部CTの1/25~1/10の被ばく線量です。診察は一般的な鏡検(直接目で見て判断すること)、視野的に死角になる部分には内視鏡(鼻咽腔ファイバー等)を用いてまず精査しますが、コーンビームCTを用いることにより骨に囲まれた部位の診断では多くの情報を得られます。検査で得られる有用性と被ばくすることや高額な費用が掛かることのデメリットを勘案した上で、臨床の場で利用したいと思います。