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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科を専門とし、地域医療に貢献します。

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

院長の徒然草 過去ログ 〜12年12月

「今月の疾患情報」のコラムも一部再掲しています。
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クリスマス・プレゼント 12年12月7日
 街はクリスマス・イルミネーション一色です。当院では今週、小さな天使である子供達にささやかなクリスマス・プレゼントを用意しています。 受診する子供たちの中には、泣き続ける子、お母さんにじっとしがみつく子など、診察を怖がる子供たちも少なくありません。中には診察の前に「先生、これはやめてね」などと、処置の器具や検査キットを指さして機制を制するしっかりした子もいます。以前、インフルエンザの迅速検査が始まった当初、「こんなのが普及したら、病院嫌いになる子が増えるなあ〜」と苦笑いしていた小児科医の知人の言葉がいまでも忘れられません。子供たちにとって病院通いはかなりのストレスです。引率する保護者の方にとっても、大変な労力を要します。私は常々当院のスタッフに「病院は、誰一人として好んでくる人はいないことを忘れないで下さい」と伝えています。ささやかなプレゼントですが、嫌々ながら診察を受けた子供たちや、忙しい中、子供を連れてきた保護者の方に、少しばかりホッとしてもらいたいと思っています。

耳鼻科での消化器症状 12年12月12日
 ノロウイルスを中心とした感染性胃腸炎が増えています。例年、12月にピークを迎えますが、今年は例年より多いようです。感染性胃腸炎は当然、嘔吐下痢などの消化器症状が主体ですので、上気道感染を中心に診ている耳鼻科で一次的に診る疾患ではありません。しかしノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎では細菌性食中毒とは違い、咽頭炎などの上気道症状も出てくる場合があります。ノロウイルスの潜伏期は1〜2日と短いのですが、軽い上気道炎を前駆症状として胃腸炎を発症する場合や、胃腸炎が収まる時期に上気道症状が出てくる場合もあります。また咽頭痛などの咽頭症状が主体の溶連菌感染症で、咽頭所見が軽いにもかかわらず初期の中毒症状で嘔気嘔吐や腹痛をきたす場合があります。インフルエンザやマイコプラズマ感染症で上気道症状に続いて消化器の症状が出てくる場合、発熱や頭痛、咽頭痛、耳痛などの痛みに伴って嘔気が出る場合、風邪をひいたことから二次的に自律神経失調となり、小児で自家中毒(アセトン血性嘔吐症)を成人で過敏性腸症候群をきたす場合など、上気道症状と消化器症状がリンクして出てくる病態は様々ありますので、私も当然、消化器の症状や全身の症状に注意して診察をすすめています。

予約システムのアクセス集中 12年11月25日
 当院ではiTicketというオンライン予約システムを利用しています。このシステムを導入しているのは全国的にも小児科耳鼻科が多いのですが、この土曜日の朝9時過ぎにはアクセスが殺到してサーバーの反応が悪くなっていたとのことです。当院の予約システムは午前9時30分からの稼働ですので、当院を利用される患者様には幸にも不都合はありませんでした。例年、インフルエンザなどの風邪が流行する冬の祝日明けや土曜日にサーバーに負荷がかかるみたいです。これまでも同様な不都合が生じた際にiTicket様は迅速なサーバー増強を行っていましたので、予約システムの不都合が続くことはありませんでした。今回も適切かつ迅速な対応をして頂けるものと思っています。土曜日の朝は全国的に小児科耳鼻科が込み合っていたのでしょう。こんなことからも冬の風邪シーズンの訪れを感じます。

インフルエンザの診断 12年11月21日
 ご承知のようにインフルエンザは感染症の中でも、増殖の力が強く速いウイルスです。予防接種や過去に罹った際の基礎免疫が残っていないと、急な発熱や倦怠感、吐き気などの全身症状が現れてきます。特に気道粘膜での増殖力が強いために、咳込みが強くなります。気道粘膜の所見でインフルエンザだからといった典型的な所見はないのですが、普通のウイルスによる上気道炎よりは気道粘膜全体の反応が強くなる傾向があります。そのため、鼻粘膜だけ、のどの粘膜だけ、扁桃腺だけ、声帯を中心とした喉頭だけ反応するというよりは、鼻から気管まで粘膜表面のただれ(専門的にはびらんや発赤といいます)が広く現れます。特に発症初期から気管の反応が強くなる傾向があります。耳鼻科医は一般的な外来診療で鼻の奥の上咽頭や気管の観察ができますので、そのあたりの診断力は強いです。確定的な診断にはやはり迅速検査キットが有用ですが、ウイルス量の少ない初期には陽性になりませんので、特に発症初期には先ほど述べたような気道粘膜の所見も参考にしながら診断を進めていきます。


11月のアレルギー
 12年11月16日
 診察中にあるお母さまから印象深い話をお聞きしました。「うちの子は冬の布団にしたら鼻のグズグズが強くなった」とのことでした。今はダニやカビが増える季節ではありませんが、ダニの死骸や糞は抗原性が強いですので、布団の中のホコリやエアコンのフィルターにダニの糞が多いとハウスダストアレルギーは強くなります。急に冷え込んでくる11月は気候としても過敏症を誘発しやすい季節ですが、家の掃除のし甲斐のある季節でもあります。

予防接種をするが可能かどうかの判断 12年10月29日
 インフルエンザ・ワクチン接種の季節です。予防接種を予定しているさ中に中耳炎になるなどのケースで、保護者の方から予防接種が可能かどうかの判断を求められる機会が増えてきました。 予防接種は以前の「義務」から「努力義務」になっています。接種をするかどうかの判断は保護者に委ねられるため、明らかに37.5℃以上の発熱がある場合でなければ、お子様の体調が十分でない場合には保護者の方も接種の可否に迷うことになります。当院で治療中で判断しなければいけないのは、主に「重篤な急性疾患にかかっている場合」「過去に中耳炎や肺炎などを患い、免疫状態の異常を指摘された人」に該当しないかどうかです。当院で診察を受けているお子様に対しては、個々のお子様の病状に応じて、当科の立場からの接種の可否をお伝えしています。接種を延期した方が良いかどうか判断に迷う場合には、お電話でも結構ですので、遠慮なくお問合せ下さい。
 中耳炎や副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭炎、気管炎などで明らかに急性炎症があり増悪する可能性があったり免疫力の低下が疑われる場合には接種を見合わせます。また予防接種では稀にですが予期せぬ重大な副反応が起こる場合もあります。接種を受ける際にはその人の免疫力や自律神経の状態が万全でなけれななりません。明らかに急性炎症を起こした場合には、炎症が治まり免疫力が回復するまでの目途として1週間は接種を見合わせることが望ましいと考えます。しかし急性期を過ぎ炎症が落着いている場合、例えば急性中耳炎後の滲出性中耳炎、慢性副鼻腔炎急性増悪後に非細菌性の鼻漏過多が残っている場合、急性喉頭炎後に声帯の軽度浮腫が残っている場合などのケースでは、全身の免疫力の低下はきたしていないと思われますので、接種は可能と思われます。またそのような病期に服薬している場合は、その薬自体へのアレルギーや副反応がないのであれば全身の免疫力を低下させるものではありませんので、服薬しながらの接種も可能と考えます。以上のような観点から、個々のお子様の、直近の全身や局所の状態、服薬状況、また摂取するワクチンがしばらく体に影響の残る生ワクチンか、影響の残りにくい不活化ワクチンかなども考慮に入れて、接種の可否をお伝えします。

RSウイルス感染症  12年10月10日
 RSウイルス感染症の流行はピークを越したようです。この時期に流行するのは、日本で感染情報の統計を取って以来初めてのことです。ここ最近は、小児科でRSウイルス感染症を指摘され、中耳炎を併発して紹介される子供たちが目立ちます。RSウイルスに対する感染防御機構の弱い0〜1才児は、RSウイルス自体でも気道粘膜の反応が強くなるため、中耳炎を惹き起こすことは珍しいことではありません。また、鼻咽腔の細菌叢が活性化して二次的に細菌性中耳炎を続発する場合もあります。RSウイルス感染症では、細気管支炎や肺炎になり入院治療を必要とする場合もあるために、乳幼児では注意を要する感染症です。例年流行する11月〜1月は、寒く乾燥した時期であるためにウイルスが活性化しやすくなるとともに気道粘膜も障害を受けやすくなります。しかし、今年のような秋の流行では、冬のように重症化する乳幼児は少ない印象です。お母さま方には「どうせ何時かは初感染するのだから、真冬でない今の時期にかかった方が良かったかもしれませんよ」とお伝えしています。
 P.S. 12年9月6日:当院でも小児のRSウイルス感染症がやや目立っています。例年、年末年始を中心とした冬に多く発生しますが、今年は真夏にもやや目立っています。保育園によっては流行している施設もあります。このウイルスは常在性のウイルスで珍しいものではありませんが、0才児が初感染した際には、下気道の反応が強くなり細気管支炎で呼吸困難をきたす場合もあります。そのため、1才以下の乳幼児が初めて感染した場合には注意深く経過を見なければいけません。喘鳴をきたし血中の酸素飽和度が低下するなど、呼吸不全への進行が疑われる場合には小児科医のもとでの経過観察が必要で、重症化の可能性がある場合には入院管理が必要となります。耳鼻科的にも急性中耳炎の起炎ウイルスとしても重要です。このウイルスの増殖を抑制するような直接効く薬剤はありませんので、粘膜の炎症を軽減して二次感染を防ぐような対処療法が基本となります。初回感染だけでは十分な免疫がつかず、再感染を繰り返すうちに症状が軽くなり、学童期以降の年齢ではごく軽い一般的なウイルス性上気道炎程度の症状ですみます。当院でも感染した年齢とその症状に応じて、小児科との連携を図っています。

安藤裕子、山中教授、精神科  12年10月8日
 今日、松山で初めての安藤裕子のコンサートがありました。ファンというほどではないのですが、以前、アルバムを聴いたこともあり、聴きに行ってきました。心に響く歌声と暖かなMC(トーク)に癒されてきました。ご存知ない方には、元ちとせとアンジェラアキとCHARAを合わせたような歌声?と言ったらよいでしょうか。 YouTube 安藤裕子「のうぜんかつら」へ
 コンサートが終わると、山中教授のノーベル医学賞のニュースが飛び込んできました。山中氏は臨床の場から研究の道に進み、大きな仕事を成し遂げました。いや、多くの受賞者とは違い、今も研究は進行中ですね。一方私は、少しだけ研究をかじって、今は”こてこて”の臨床医です。医学の基礎があってこその臨床です。私も「医学」から離れないように心掛けたいと改めて思いました。また、日本にとって本当に前向きなニュースです。「日本もまだまだ捨てたものじゃない」、今日カウチポテトで観た映画「ハゲタカ」で印象に残ったセリフが、私の中でリピートしました。
 話は変わりますが、耳鼻科以外の徒然も。私は卒後の進路を決めるにあたって、耳鼻科と内科、心療内科、精神科の中でどの道を進もうか迷いました。人の心は弱いものです。弱いから、迷うからこそ人でもあります。今でも時々精神神経科の専門書に目を通しますが、一般の方向けに、私の印象の深いホームページと書籍をご紹介します。
 ホームページ 「心と脳の相談室」へ :様々な事例が紹介されています。私は精神科Q&AのAnswerを中心に目を通します。単刀直入でいて無理のない回答は読んでいてもスッキリします。統合失調症と発達障害や解離性障害の鑑別や、原疾患と薬の副作用の因果の見極めなどは難しいものですが、広い視点で無理のない鑑別を行っています。
 書籍 「精神科 セカンドオピニオン」へ :精神科疾患と発達障害、薬の作用の関係に一石を投じています。

小っちゃい子供が耳を気にする  12年10月3日
 当院でも、よく子供さんが耳を触るとのことでお母さまに連れられて来院されることがあります。お母さまが一番気にされるのは、耳あかが溜まっているのではないかとの心配です。大人の人ではよく、耳垢の小さなかたまりが鼓膜にひっついたり、鼓膜に倒れこむように接しているために、あごを動かした際にゴソゴソ聞こえたり違和感を感じる場合があります。しかし、子供さんでは案外少ないものです。最も多いのが、アレルギー性鼻炎の体質が出てきて、耳の奥を底痒く感じることです。人間は本来、鼻から耳の奥へは迷走神経の枝の知覚神経が走っており、鼻の奥の痒みを耳の奥で感じやすくなります。逆に、耳掃除で外耳道を刺激すると、のどがイガイガして咳き込むこともあります。また、アレルギー性鼻炎でなくとも風邪に罹った後や、アデノイドなどの扁桃肥大の体質があると鼻の奥から中耳への換気が悪くなり耳が塞がった感じが惹き起こされる耳管狭窄という状態になります。極端に換気が悪い場合や、上気道炎の炎症が波及した場合には中耳滲出液が溜まってくる中耳炎の状態になり、より一層、耳閉感や違和感が強くなります。中耳は、耳の穴の奥にあると言うよりは、鼻の奥にある洞穴といった表現の方が、中耳の病態を知る上では理解しやすいと思います。子供さんがよく耳を気にしている時には、結構、鼻炎が隠れている場合が多いのです。よく、2〜4才くらいの子供さんが耳の穴にビーズ玉を詰めたり、鼻の穴におもちゃの部品を詰めたりすることがあります。時に、鼻にティッシュペーパーを詰めると、2〜3週間経つと片方の鼻だけ臭ってきたりします。耳や鼻に異物を子供さんが詰めた場合には、私はまず鼻炎体質が隠れていないかに注意して診察をすすめるようにしています。一方で、耳あかのせいで子供さんが違和感を訴える場合は、家庭での耳掃除で耳垢を奥に押しやっている場合もあります。「うちの子は耳掃除を嫌がって全くさせてくれません」とお母さまが訴えることもよくあります。こんな時は案外、耳掃除を行う際に綿棒でくるくると掃除するだけに終わって、耳垢を少しずつ奥に押しやってしまい、耳垢が鼓膜に接するくらいに押し込まれていて逆に痛がっている場合があります。小さなお子様の耳掃除はなかなか難しいものです。奥が見えていないのに綿棒でクリクリと掃除していたら子供が嫌がる、という場合には本当に子供さんが耳の奥を痛がっている可能性もあります。そういう場合は、見える範囲でお子様の耳の奥を覗いてみて下さい。あきらかに耳垢が奥で詰まっているようならば、一度耳鼻科を受診してもいいかもしれません。

愛媛大学城北キャンパス  12年9月16日
 今日は敬老の日、私も休みを利用して少しばかり市内を散策しました。今日、向かったのは愛媛大学城北キャンパスです。私の”出身大学”ではありませんが、キャンパスには”俗世間から離れた”アカデミックで若いエネルギーがあります。学生会館のレストランや図書館は学外者でも利用可能です。愛媛大学から隣接する松山大学にかけての文教地区は私のお気に入りの散歩コースです。キャンパスでは、日本金属学会が開かれており、いつもにも増してアカデミックな雰囲気でした。すれ違う人々のネームプレートを見ると、北海道から九州まで全国の研究者が集っていました。

 図書館の前には、ヒポクラテスのスズカケノキが植樹されています。1977年、日本赤十字社創立100周年を記念してギリシャ赤十字社から種子が分譲され全国の赤十字病院に植樹、89年に愛媛大学に高知医科大より枝の分譲を受けたそうです。ヒポクラテスは医学の父とも言われ、「ヒポクラテスの誓い」という医者が医の神に宣誓する誓いが有名です。私も医学生の時分に折に触れて読んでいました。
 図書館の掲示板でふと目に留まったのが、今年上半期の貸出ベスト10です。ちなみに、1位がウィルト発生生物学、2位 Essential細胞生物学、3位 親米日本の構築、4位 集合・位相入門、、とのことです。これらは試験やレポートの課題図書でしょうか。1位、2位の対象は医学部理学部の学生があやしいです。学生手製の立て看板(昔よりは嘘みたいに少なくなりましたが)や色々な学部の掲示板をみたり、談笑したり読書したりサークル活動している学生達に接すると、私もそこはかとなく啓発されます。

 大学関係のアカデミックな話題をひとつ。昨年Scienceと双璧をなす科学雑誌であるNatureに、京都大学の島村氏をはじめとする研究グループのアレルギーの細胞レセプターに関する論文が掲載されました。花粉症・アレルギーの発症因子の立体構造を世界で初めて解明−副作用を抑えた治療薬の探索・設計が可能に− へ 
 アレルギー反応のトリガーとなるレセプターの構造を明らかにするだけでなく、抗アレルギー薬が分子レベルでどのように作用するかも明らかにしています。私の立場からすれば画期的な研究で、分子生物学レベルでの創薬への期待が高まります。

外リンパ瘻、耳管開放症、慢性耳鳴、突発性難聴 12年9月16日
ここ数日で外リンパ瘻を疑う方が複数見られました。外リンパ瘻は、急激な圧変化が内耳と中耳の間に起こり、中耳と内耳の境界である内耳窓に小さな穴(瘻孔)が開き、内耳の外リンパ液(髄液)が洩れて、内耳機能が低下し難聴や耳鳴、めまいを生じるものです。プールでの飛び込みなどで耳を強く打った後に生じることが多いです。ただし鼓膜所見から判別するのは難しく、メニエール病や突発性難聴と聴力検査どの検査所見が似ており鑑別診断が難しい病態です。頭を高くするなどで数日様子を見て瘻孔が閉鎖して徐々によくなる場合が多いのですが、改善しない場合には手術(試験的鼓室解放術)で直接内耳窓の状態を確認して確定診断します。耳鼻科外来では、帯状疱疹ヘルペスによるハント症候群などとともに経過を見ることが重要な疾患のひとつです。
 鼓膜に病的な所見がなく気を付ける疾患には、耳管開放症、老人性難聴にともなう耳鳴症などもあります。注意してみれば当院外来でも結構見かけることは多いです。耳管開放症は鼻炎にともなう耳管狭窄症と違い、鼻に問題がない若者や妊婦さん、高齢者の方、など幅広い年代で見られます。急な体重減少などのエピソードに注意しながら、トインビー現象という鼓膜の振動所見や耳管通気音をもとに診断をすすめていきます。速効性のある根本的な治療法がないことが多いのですが、当院では特に鼓膜に医療用のテープを貼って鼓膜の過剰な振動を抑える鼓膜テーピング 療法が好評です。
 経過が6ヶ月以上に及ぶ慢性耳鳴も加齢などの慢性的な難聴に伴うものは、これも根本的な治療がありません。私は時に、将来内耳細胞の再生医療がヒトでも可能になれば部分的な根本治療になるかも知れません、とはお伝えしているのですが、治療はどうしても試してみる、とのスタンスになります。個々の方の日常生活における不便さの度合いに応じて、治療をしない経過観察のみや、ビタミン剤投与、血流改善、マスカー療法、TRT療法、代替医療のひとつである甜茶、漢方治療など複数の治療法を提案しています。特に老人性難聴にともなうものは年令的な体質とう状態ですので、私はよく漢方治療をお勧めしています。ただし、急に発生した難聴や持続的な耳鳴は、特に片側で起こった場合には急に神経を傷める突発性難聴を中心とした急性神経炎にご注意下さい。耳鼻科関係では聴神経、平衡感覚を司る神経である前庭神経、味覚や唾液の分泌機能にも関わる顔面神経、嗅神経、声帯の動きを司る迷走神経の枝である反回神経などが、脳から直接出てくる脳神経です。脳神経は母体の中でほぼ完成して一生を同じ神経で過ごします。皮膚や粘膜の細胞のように再生を繰り返すものではありません。そのため病気で傷むと、2週間から1ヶ月経過すると再生しません。急激に脳神経の働きが弱ったと感じた際には、出来るだけ早い段階で受診して下さい。また急性の脳神経麻痺の多くは片側性に起こります。片方だけに症状がでた場合には特に注意して下さい。

ミラーレス一眼  12年9月12日

 久しぶりに診察室のフラワーアレンジメントの紹介です。私もこの度、ミラーレス一眼デビューです。!(^^)! 一眼レフは躯体の大きさや重さから、持ち歩くのが億劫になるので、私はこれまでもっぱら写真はコンパクトデジカメで間に合わせてきました。コンデジの中でも特にパナソニックの製品は、手振れ補正が秀逸かつ16×などの高倍率ズームの製品が多く愛用していました。ところがマイクロフォーサーズCCDのミラーレス一眼は、レンズ込みの大きさもコンパクトで、おもわず気に入ってしまいました。この写真は、20o F1.7の大口径パンケーキレンズで、赤のワンポイントカラーのエフェクトをかけて撮影しています。これからは、ちょっとマニアっぽい写真をお届けできます! DATA:Lumix DMC-GF5 プログラムAE 1/200秒 F1.7 ISO160 40o(35o版換算) 

花火大会と伊予鉄余戸駅 12年9月12日
 


 5日に松山まつりの三津浜花火大会がありました。いつかは桟敷席で大迫力の花火を、と思いつつも、今年も梅津寺海水浴場からまったりと見物です。行き帰りには伊予鉄電車を利用しました。伊予鉄は今年創立125周年ということで、記念電車「だんだん125」の臨時便に乗車です。車内では伊予鉄歴史写真館開催中で、さまざまな記録写真が展示されていました。写真館の中には当院の最寄駅である余戸駅の昔の写真も。(写真中) 余戸駅は、明治29年(1896年)7月4日開業、南予鉄道の藤原〜郡中間開通に合わせて営業開始。明治33年に南予鉄道を合併して「外側(現松山市駅)」まで延長。昭和25年に電化されています。市内電車や三津浜線と同様、我が余戸駅も古くから営業されていることを知り、すこしビックリでした。今年の花火大会の開催時間中は、本当に無風状態が続きました。後半の花火は、けむりで霞んでしまいました。^^;
 
写真集 12年7月21日
 当院の診察室には、私が撮ったつたない四国カルストの写真を飾ってあります。受診されたアマチュア・カメラマンの野本 亭氏から飾ってある私の写真へのコメントを頂き、後日、野本氏に写真を見せて頂く機会がありました。その際、私のたっての希望で氏の写真を当ホームページに掲載させて頂くことになりました。四国カルスト、小田深山、下灘、長浜などの当地愛媛県の風景だけでなく、倉敷や乗鞍、南アルプスの写真もあります。いずれもシャッター・チャンスをものにした力作です。当ホームページは当然のことながら病気に関する話題がほとんどですので、当院ホームページを訪れた方々の清涼剤になればと思います。ぜひご覧下さい。  写真集のページへ


SNS 12年4月30日
 フェイスブック(Facebook)に当院のページを開設しました。ページのアドレスは http://www.facebook.com/yamaguchijibika です。今日の時点ではまだリンクしていませんが、ファイスブックのページを利用すると、地図とのリンクから当院へのアクセスが瞬時に分かるなどの利点もあります。
 皆様ご存知の方も多いと思いますが、フェイスブックは、人と人とのつながりを促進・サポートするコミュニティ型のウェブサイトSNS(Social Networking Site)の中でも最も勢いのあるサービスです。私はこれまで携帯電話ではメールもネット検索もほとんど利用せず、mixiやtwitterとも縁がなかったのですが、先のお正月休みにはホームページ作成ソフトのホームページビルダーがスマートフォン用ページ作成に対応したことから、当ホームページをスマホ対応としました。つい先日には私もスマホを持つことになり、また、雑誌や新聞記事で、企業もSNS上で情報発信を行いだしたとの情報を目にしていたこともあり、当院もSNS上での情報提供を行うことにしました。
 もともと私のフェイスブックへの知識は、2010年に公開された映画ソーシャル・ネットワークの方が先でした。それも映画公開から遅れて、昨年秋にレンタル・ビデオでの鑑賞です。アカデミー賞作品賞にノミネートされており、ハーバードの学生であったマーク・ザッカーバーグ氏のITビジネス上の足跡も気になっていたために、興味深く鑑賞しました。フェイスブックは実名による登録が基本とされているために、仕事上有益であるとの記事もあれば、一方アメリカではSNS上のトラブルから事件が惹き起こされる社会現象も見られています。SNSは即時的な相方向の交流が特徴ですが、私はまだ当院ではコメントに即時的に応答することは、残念ながら難しいと思っています。理由は、当院を受診された方はお判りになるかとも思いますが、忙しい時期の私は診察が始まると夜までまとまった時間が持てません。そのため、SNS上の即時性のあるコミュニケーションは、当院の体制では負担になりそうだからです。相方向の利用は難しいことを前提にしつつも、フェイスブックを当院の情報提供のひとつの手段として活用するために、当院ホームページに掲載している「今月の疾患情報」を転載することとしました。何卒、ご理解の程、お願い致します。また、当院ホームページをご覧の皆様も、SNSを利用する際は、個人情報をネット上に出すことの意味を十分に理解して活用して頂ければと思います。
 スマートフォンは、携帯電話でありかつ携帯音楽プレーヤー、携帯カメラ、ノートパソコン、ゲーム機の複合機です。スマホを劇的に普及させたスティーブ・ジョブズの偉大な足跡には、私も畏敬の念を持ちます。アップル社の創生期のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウィズニアックの自伝、マイクロ・ソフトのビル・ゲイツとの知的財産権を巡る争いを描いた本など、私も興味深く読みました。20世紀の革命的技術であるインターネットで個人が世界につながるだけでなく、SNSは個人と個人をメール機能以上に深く繋げていきます。21世紀、私もどこまでこのITの流れについていけるのかいささか不安ですが、当院もSNSのサービスに参加しようと思います。
 追伸ですが、私が日本人として、Walkman、Playstation、テレビ、携帯電話、デジカメの技術と、さらには音楽映像の知的所有権も手にしていたSONYが、なぜiPhoneを作れなかったのか? 残念でなりません。SONY、Panasonic、SHARP、アドバンテストなどのIT企業の経営悪化を目にするにつけ、日本の若い世代のこれからのがんばりに期待したいです。若い世代が将来の心配をせずに飛び跳ねることのできる明日になるよう、心から念じています。

耳鼻科関連の文献よりあれこれ 12年2月4日
  最近目を通した耳鼻科関連の論文・文献からそれこそ徒然にトピックスを挙げてみます。
1、溶連菌感染症 90年代よりペニシリン耐性菌が増えてきており、ペニシリン系抗生物質よりセフェム系抗生物質の方が効果が高い。セフェム系では従来の10〜14日服用でなくても5日の服用で十分である。ただし除菌不良や健康保菌者が疑われる場合には10日程度の服薬が必要。またマクロライド系抗生物質の耐性菌は10〜20%存在する。家族への予防投薬の有用性は低い。 

テレビの医療情報などなど  11年10月14日
 診察をしていると、時にマスコミ報道やテレビ番組に関する問合せがあります。数あるテレビ番組の中でも、NHKの「ためしてがってん」は反響の大きさではNo1です。 「ためしてガッテン」の9月28日の放送が、不眠・めまい・耳鳴の対応法をテーマにしたものでした。普段バラエティ番組はほとんど見ないのですが、問合せもあり、番組ホームページで確認しました。めまい・耳鳴を感じる人の中には、以前の片頭痛体質が残っていて「脳が過敏」になったことから惹き起こされるもので、片頭痛の治療薬や抗てんかん薬や抗うつ薬が有効であるとの内容です。
 私の立場からしても、なるほどと思う面があります。特に耳鳴は、脳内ニューロン間の過剰な伝達や伝達の抑制が原因で発生する原因因子となったり、耳鳴をより過剰に感じるようになる増悪因子になることは想像に難くありません。以前より耳鳴の治療に抗不安剤や抗うつ剤が有効との報告もあり、私も大学での診療では、患者様の体質や背景を考えてある程度積極的に処方するケースもありました。また私が当時属していた咽喉頭異常感症研究グループでは”特別な所見がなく、他の明確な器質的な疾患がないにもかかわらずのどに違和感を感じる”という咽喉頭異常感症に対する臨床研究として、抗うつ剤を試験的服用するデータをまとめたり、バイオフィードバックなどの自律神経訓練法を試みたりもしていましたので、精神神経学的治療や神経内科学的治療が有効な例も多数経験しました。しかし現在のような地域医療の立場になると、当院の診察を受ける方のほとんどが精神神経科的な形のない病気(機能性疾患)ではなく、なんらかの所見がある病気(基質的疾患)の特定とその治療を求めます。そのため、実際に抗うつ剤の服用などの精神神経科的な治療を希望する方は少数です。これまでの当院での耳鳴治療でも、抗うつ剤も治療のひとつである資料もお見せして、希望があれば抗うつ剤を試して頂くスタンスで治療を提案したりしていましたが、実際に処方する機会はほとんどありませんでした。私は以前より車酔い(動揺病)の診察の際に、”ためしてガッテンの特効的治療”などを紹介したりしていたのですが、それと同様、”ためしてガッテンでも紹介したような”このような治療法もありますよ、と提示して、患者様の希望する治療の選択肢が増える気がしています。
 ただし医師として常に注意するのは、決して単視眼にならないようにすることです。「ためしてガッテン」でもしっかりと”原因不明の不眠・めまい・耳鳴の全ての原因が脳の過敏状態というわけではありません”と断っているように、あくまでもめまいや耳鳴症の中には脳内神経伝達物質の伝達異常から惹き起こされるものがあり、さらにそのような病態の中には抗てんかん剤や抗うつ剤が有効な例がある、ということです。耳鳴症という母集団の中で臨床研究を行うと、恐らく抗うつ剤は統計学的な有意差を得るのは難しいと思われます。片頭痛体質などの過去の体質(病歴)にも注意しながら、診療を進めたいと思います。
 蛇足ですが、テレビ番組のお勧めをひとつ。この10月よりBSのチャンネルが増えました。WOWOWがハイビジョンで3チャンネルになるなどご存知の方も多いと思います。BSで放送されている放送大学もハイビジョン化されました。文字通り総合大学のごとく様々なジャンルの知的好奇心をそそられます。語学講座は結構実践的かつ実用的です。録画して、自分のリズムに合わないスローテンポな講義の部分を早送りにして見れば、得られる知識は半端ではありません。Eテレ(NHK教育放送)やNHK特集、BS特集以上に、生涯学習に役立ちます。

風邪をひいた際の再診の目安   11年9月14日
 風邪に罹って当院を受診した方から、どのようなタイミングで再診したら良いのか、診察時に質問を受けることがあります。その際にお伝えしている再診の目安をご紹介します。
 一般的に“風邪は自然に治る”ものです。ゆっくりと休養して、睡眠を取り、しっかりと栄養をつければ徐々に治っていきます。しかし一方で“風邪は万病のもと”とも言われます。最初は風邪の様であっても、生活に支障をきたすようになる様々な病気の初期であることが後で明らかになる場合があります。以下のふたつの観点から病院を上手に利用して、再診する目途として下さい。
@自然に治る風邪かどうかの見極めるために、あるいは風邪をこじらせて長期化しないために再診する
A現在の苦痛な症状を早く軽減するために再診する

 では“自然に治る一般的な風邪”とはどのようなものでしょうか? かぜ症状をきたす病原菌で最も多いウイルスは、冬季で200種類、夏季で70種類とも言われます。免疫の“たまった”大人は軽い症状のインフルエンザも含めて年間2回前後風邪に罹ると言われています。現在の医学では、風邪のウイルスの中で直接作用する薬があるのは、インフルエンザとヘルペスのふたつしかありません。その作用はウイルスの増殖を抑えることによって、徐々にウイルスが少なくなることによって治癒していきます。人は病原菌に罹ることによって免疫ができて、再度その病原菌に接触した際に、まったく増殖しない、わずかな増殖で抑えられる、などによって“風邪に罹らない”か“風邪が軽く終わる”かします。0才児、特に生後6ヶ月まではでは母親の免疫が残っていることから大人並みの免疫力を有します。ところが1才頃からはその免疫が無くなることによって、風邪に罹りやすいです。風邪に罹る度に免疫がついてゆきます。1〜5才頃は“大人になって困らないために風邪に罹って免疫力をつける”ことも仕事の内と言えます。特に重大な病気に対して人工的に免疫力をつけるのが予防接種です。
 ウイルスに感染して対内の細胞が障害をうけた場合、一般的には、ウイルスが増殖する潜伏期が2〜4日です。発症して増殖のピークを迎えるのが発症後3〜5日で、その際に、体内で熱を産生してインターフェイロンなどの一般的な防御因子が産生され始めるまでがピークですので、徐々に増殖するタイプのウイルスでは発症後3日後前後に発熱のピークが、インフルエンザのように増殖の強いものでは発症後1〜2日で発熱のピークが、ゆっくり増殖するウイルスでは発熱が5日以上続きます。その後、病原菌が死滅してゆき、障害された組織が再生することによって徐々に治ってゆきます。この修復に発症後4〜7日程度かかるのが一般的なウイルス感染です。この過程で、個々の病原菌に対する免疫が体内に出来てきます。 その際、一部の臓器の障害が強いと“風邪が治らない”“後遺症が残る”状態となり、障害された臓器に二次的に異なる病原菌が付着増殖して障害が強くなった状態が二次感染です。その原因の多くは細菌によるもので、ウイルスとは違い大多数の細菌に対しては抗生物質が有効です。しかし抗生物質が効きにくい耐性菌もあります。
 上記の点から、一般的なウイルス感染に対して直接効く薬はないので、発症後2〜4日目のピークを迎えるまでは“ある程度しかたない”ことになり、その後、5〜7日程度で自然に治れば“普通の風邪でこじれなかった”ことになります。この風邪の期間は、一般的なウイルス感染が疑われるのであれば、当院では対処療法で快適に過ごせることを念頭に治療します。このことから@の観点から再診が必要となるのは、一般的な風邪の経過からあきらかに外れた以下の状態 A)発症1〜2日目に症状が激烈であったり多彩である場合 B)発症4〜6日過ぎても症状が徐々に悪くなりピークを迎えない場合です。またAの観点からは、本人の苦痛が強ければ何時でも再診が望ましいことになります。
 以下は、当院でお渡しいている風邪の経過の注意点の抜粋です。ご参照下さい。

*急性上気道炎(いわゆる風邪)について 合併症の予防 より
 扁桃腺が弱い体質やアレルギー体質などのない健康な大人が普通感冒にかかっても高度な合併症を起こすことはほとんどありません。しかし、インフルエンザ型や喉頭気管炎型、肺炎型は高度な合併症を起こしたり、治りが悪くなる場合があります。また、一方、子供や老人では普通感冒であってもしばしば合併症を引き起こしますので、用心深く観察する必要があります。子供は気道が狭く、扁桃組織も過剰に反応しやすいため、中耳炎、喘息性気管支炎、気管支肺炎、声門下喉頭炎(仮性クループ)などに注意します。また、まだ十分な病原菌に対する抗体も備えていないため、家族で同じ病原菌にかかっても症状が強くでるとともに、感染が広がる傾向があります。脳炎、髄膜炎、脱水症にも注意します。また、当初は一般的なかぜの初期にみえても様々な病気の初期症状であることもあります。小児では「なんとなくいつもと違って体調が悪い=not doing well」という印象が大事です。あまりにもウトウトして反応が鈍い、突発的な嘔吐を繰り返す、首や全身がこわばってひきつれている、水分を飲む元気もない、尿が半日以上全く出ない、などの症状に注意して下さい。老人は痰の排出能力が落ちることもあり、若い頃よりも容易に上気道の感染が下気道におよび二次感染を来たしやすくなり、気管支炎が肺炎に進行する可能性が高くなります。若年者と異なり肺炎になっても高熱がでることなく、すぐに呼吸困難や心不全を起こすことがあります。
  一般的には、次のような症状がある場合には重症化の傾向ですので注意が必要です。
 *3日過ぎても高熱が持続する時、5日過ぎても微熱が続く時、1〜2日目で風邪症状が強い時
 ・水分摂取が不十分で尿が半日以上出ない時、強い頭痛や吐き気が持続するとき
 ・呼吸が浅く速く肩で息をするような時、睡眠中に呼吸が停止する時
 ・意識レベルが低下して反応がにぶい時
     * 初診時に病院で受けた説明の見込みより悪化したり、新しい症状が発現したり、長引いて良くならない場合には、適宜再診が必要です。

肺炎球菌ワクチン、Hib(ヒブ)ワクチンについて 11年2月10日
 肺炎球菌ワクチン、Hib(ヒブ)ワクチン、子宮頚癌ワクチンの公費補助制度が松山でも平成23年2月15日から始まります。昨年秋に助成制度を始めるとの報道はあり、時々外来でも無料化の話題はお伝えしていましたが、現況の国会情勢では予算化は難しいのでは、、とお伝えしていました。その後補正予算で予算化が実現し、この2月から国の補助が始まるため、自治体によっては全額無料化されることとなり、松山市でも無料化が実現しました。
 これまでもお母さま方から肺炎球菌ワクチンやHibワクチンを受けた方がよいかどうかの質問をいただく事が多かったこともあり、改めて私の考えを述べておきます。
 肺炎球菌も90種ほどありますが、このワクチンの中には90種の内の病原性の強い7種類の成分が含まれ、小児でも抗体が残るとされるワクチンです。(従来の成人用のワクチンは、小児では持続的な抗体はつきませんでした)(補追;2013年より13種類含まれるワクチンに変更になっています) 肺炎球菌の中でも中耳炎を誘発するタイプの半数をこの7種のタイプでカバーするとの報告もあり、ワクチンを接種していればある程度の効果はあると思われます。しかし小児の中耳炎に有効との論文はまだ少なく、ワクチンの直接の承認理由である0〜1才児を中心に発症する髄膜炎や菌血症の発症予防効果ほどの統計学的な有効性は実証されていない段階だと思われます。1〜7才ぐらいの小児で、肺炎球菌が鼻の奥のアデノイドを中心とする鼻咽腔に感染していたりそのことが主体となって細菌性の急性鼻炎や急性中耳炎を起こしていたり、またそれが持続感染化して、副鼻腔炎化したり反復性や難治性の中耳炎になっている場合、ワクチンを接種したからといって、てきめん肺炎球菌が消失するものでもありません。しかし感染している肺炎球菌のタイプがワクチンの成分に含まれるものであれば鼻や耳の局所の免疫力が高まり、感染の広がりが軽減したり、新たな肺炎球菌の感染を部分的に防げることになります。小児の中耳や鼻咽腔では、肺炎球菌以外の細菌との混合感染や持続感染がおこりやすいですので単純に感染が予防できたり治癒する訳ではありませんが、”なんにせよ病原菌に対する免疫力を高めておこう” ”結構高価だったのが無料になった” との考えで、反復性中耳炎などで耳が弱い幼児が接種を受けるのは好ましいと考えます。またワクチン自体は発熱や注射部位の腫脹などの軽微な副反応がほとんどで、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用可能性はごくまれとされています。WHOでも定期接種化が推奨されています。
 またHibワクチンも耳鼻科関連でもやはり有用だと思われます。インフルエンザ桿菌の中の1種のHibですが、こインフルエンザ桿菌自体が小児の鼻咽腔で持続感染する代表菌です。また重症化する喉頭炎(仮性クループ)や喉頭蓋炎の病原菌でもありますので、のどや気管が弱いお子様にも有用だと思われます。
 残念ながら当院では診療時間の制約から、予防接種は行っておりません。実際に接種しているドクターではありませんので偉そうなことは言えません。やはり任意の予防接種ですので、実際に接種されるドクターの考えに従い、よく相談して納得されてから接種を受けるようにして下さい。 <(_ _)>

平成20年度診療報酬改定にあたって 08年3月31日
 明日からは新年度です。庶民としてはガソリンの値段が気になるところですが、医療の現場では2年毎の診療報酬改定が行われます。昨年の建築基準法の改定による建築業界のドタバタほどではないにしろ、毎回実施の細目が決まるのが直前ですので、いつもレセコンと呼ばれる医事会計システムが無事に稼動するかやきもきします。今日も、その準備と確認を行いながら、このホームページを更新しています。
 今回の改訂では、後期高齢者医療制度の発足で、内科的には後期高齢者診療料と呼ばれる包括的な外来での医療制度が始まります。当院では直接この制度を利用することはありませんが、内科で包括的な医療を受けている方の診療のサポートでは服用中の薬剤の確認などこれまで以上に注意深い診療が望まれそうです。
 また、外来管理と呼ばれる診療報酬体系が5分間以上の診療で認められることになりました。診察時間に5分の区切りが出来るという初めての試みで、全国的にも外来診療の雰囲気が微妙に変化するかも知れません。この制度が外来診療が少しゆったりするという意味で良い方向に向かうのか、ぎくしゃくするのか私にはまだ判断がつきかねます。
 愛媛県では診療報酬改定により6才未満児の自己負担割合が減るのに期を一にして、6歳未満の未就学児の通院自己負担への県と市町村による公費負担が始まります。聞けば東京都区部では15才未満まで医療費無料の地区が多いとの事で、全国的には導入の遅い地方に入ります。保険医は皆そうだと思いますが、日頃の診療では私も通院されている保護者の方の医療費の負担を気にしてどこまで検査すべきか迷う場合も多々あるので、医療費の負担が減ることは私にとってもプレッシャーが減って良いのですが、国民医療費の観点から見ても、どの程度まで患者個人が負担するのがベターなのかなかなかに悩ましい点です。
 さらに、小児救急を代表とする救急医療の人的資源と財源の確保の観点から、平日土曜日や日曜日、平日午後6時以降の初診料、再診料と呼ばれる基本の診察料が増額されることになりました。これまでは救急医療の現場で、待ち時間が惜しいので気軽に夜間救急を利用するなどの医療の「コンビニ」化で本当に必要な患者に十分な治療が施せないなどの暗の部分などもあり、やはり救急医療的な医療を求める人にはそれなりの負担を求めるのは好ましいことだと思います。当院も、これまでの日曜診療は、日曜日でも前もって届け出た定期の診察日ですので、平日となんら変わらぬ診察料でしたが、今回の改定を期に土曜午後と日曜の診療は診察料が割高になります。3割負担の方で150円UP、院外調剤薬局も同時に利用すればそちらでも負担が増えます。さて、みなさんはこれを安いと見るでしょうか?高いとみるでしょうか?
 耳鼻咽喉科関連では、15才未満の難治性滲出性中耳炎の患児に耳鼻咽喉科特定疾患指導管理料という料金が新設されました。滲出性中耳炎から派生した様々な病態で長期管理が必要な場合に月1回、3割負担の小児で450円負担が増えます。耳鼻科外来診療の現場では、最も後遺症が残りやすい病気の代表的なもので、我々はいかに難治性反復性中耳炎の患児を健康な大人にしてあげられるのかが、診療の大きな柱の一つです。耳鼻科医にとっては専門性のある技術をやっと適正に評価して頂いた想いです。さてこの治療費もみなさんはどう評価されるでしょうか?
 最後に、医療費抑制の柱として後発医薬品(ジェネリック)医薬品の使用促進も今回の改訂の大きな柱です。前回の改定で、院外処方箋に後発品への変更を許可する欄が新設されましたが、今回の改訂では後発品への変更が標準仕様となりました。応需する調剤薬局が先発品と後発品を用意して患者様に提示する必要があり、在庫管理などで調剤薬局にとっては大きな改定になったようです。当院では、最寄のエンゼル調剤さんともども前回の改定でいち早く後発品の使用促進に取り組みましたので、今回の改訂ではスムースに移行できそうです。 

阿波踊り  07年8月22日
 私は徳島生まれの松山育ちです。幼稚園の頃は、運動会の練習などでも阿波踊りを練習していたのだそうです。大学が徳島だったものですから、毎年夏になると阿波踊りのお囃子である「よしこの」を聞くと心が躍ります。徳島では、夏になると大学病院の中でも夕刻には練習のよしこのが聞こえます。阿波踊りの4日間は、それぞれの科が連を出します。市内に踊りに繰り出す前には、病院内でひと踊りするのが通例ですから、期間中は大学の研究室ではっぴを着ていても違和感はありません。私の属していた耳鼻咽喉科学教室の連は「みみはな連」です。ちなみに学生連は「たけのこ連」で、"末はやぶになる”とのしゃれです。泌尿器科の連は「珍宝連」です。
 映画「眉山」の影響もあり、久方振りに阿波踊りを見てきました。時間の都合で、みみはな連で演舞場に踊り込めなかったのが少し残念でしたが、阿波踊りの熱気を堪能してきました。最近は高知のよさこいに少し押され気味の阿波踊りですが、写真のように、道々で踊りの輪が出来て観光客も思い思いに輪になって踊るエネルギーは本場の阿波踊りならではと思います。
 以下に、6月に発行された大学の同窓会(青藍会といいます)の会誌に私が寄稿した文章を転載します。
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 5月12日公開の映画「眉山」を観て来ました。徳島では、昨年の阿波おどりの後に残しておいた演舞場に17..200人ものエキストラを集めて大規模な撮影が行われたこともあり、かなり話題になっているようですが、愛媛青藍会の皆様にも私からネタバレしない程度にご紹介します。さだまさし原作、犬童一子監督、松嶋奈々子、大沢たかお、宮本信子主演、東宝配給の映画です。末期癌に侵され大学病院に入院した母は献体登録していた、というところから物語りは始まります。山と川と海に包まれた徳島の町や、練習風景も含めた阿波踊りを実に美しく映像化しており、徳島のご当地映画の本命になりそうです。ロケでは、実際の徳大病院の正面玄関が登場し、病棟は旧小松島赤十字病院、病院の庭は鳴門教育大のキャンパスが使われています。私は、秋田町のネオン街の看板や、献体慰霊祭の会場となった大塚講堂の緞帳横の大塚グループの字幕を見つけただけで、ストーリそっちのけで充分楽しめました。青藍会会員の立場からすると、恐らく青藍会出身であろう青年医師に感情移入するか、青藍会出身でない?年配の開業医に感情移入するかで、受けるプレッシャーも違うと思いますが、映画終盤では劇場のそこここで女性のすすり泣きが聞こえる、決して押し付けがましくない泣ける系の映画になっています。徳島を少し離れた愛媛青藍会の会員にとっても必見の映画だと思います。私は久しぶりにダイナミックな演舞を見て、鑑賞後に「今年の夏は久しぶりにみみはな連に参加したい」との想いを抱きました。
 

 



医学文献あれこれ 07年1月8日
 最近気になった耳鼻科関連の情報を紹介してみます。(主にMedical Tribune Vol.39 No.48より)
 1、小児の滲出性中耳炎の遷延化因子には、先行する上気道のウイルスや細菌感染、耳管機能不全、扁桃組織を中心とした遺伝的な免疫能の弱さ、炎症性メディエーターの持続など様々な要因が絡み合っていると考えられています。また、中には胃酸の逆流が要因との報告まであります。このような中で、滲出性中耳炎の中耳粘膜をみると、滲出液から細菌が検出されなくても、バイオフィルムというカプセルの中に隠れて細菌が存在するとの報告がありました。(JAMA 296;202-211,2006) 急性中耳炎の治りが悪く滲出性中耳炎化した際に、どこまで抗菌療法を続けるか判断に苦しむことが多いのですが、このような知見が集積されてくればと思いました。
 2、舌で味を感じる味蕾の発生に重要な遺伝子が同定されたとのことです。(Genes and Developmennt 20;2654-2659,2006) このような遺伝子情報を幹細胞に組み込めれば、幹細胞からの味蕾の再生が将来可能になるかも知れません。私も診察でよく「年齢変化で、残念ながら治りません」とか「若い頃よりは、だんだん弱いところは弱くなります」などと、内心忸怩たる想いで伝えています。老人性難聴や突発性難聴、メニエール病、BPPVなどのの後遺症で神経性難聴が残り耳鳴りが止まらない、めまい感が取れない、、はたまた萎縮性舌炎が強く舌痛が取れない、反回神経麻痺の後遺症で声がれが治らない、などの後遺症的な病態の根本治療は現代医療では今はまだ夢物語ですが、再生医療や遺伝子医療が進歩すると可能になるかも知れません。果たして何年後に可能になるでしょうか? 20年後?50年後?
 3、雑草による花粉症の代表的な原因であるブタクサ・アレルギーに新ワクチンを開発したとの報告がありました。(New England of Medicine 355;1445-1455,2006) 免疫系細胞であるヘルパーT細胞の抑制を利用したもので、まだ実用段階ではないのですが、従来の減感作療法が数年の期間を必要としていたのが、数週間で済む可能性があるとのことです。原因抗原を少しずつ注射して体を「慣らしていく」減感作療法は、極々まれながらショックなどの重篤な副作用を起こす可能性もあり普及していません。経口減感作や急速減感作もまたしかりです。アレルギーの治療は、原因を避ける除去療法と、漢方薬も含めた薬物治療が主体です。鼻はレーザー治療などの手術的な治療が可能ですが、本当の体質改善とも言える根本治療はまだありません。減感作療法も厳密な作用機序はまだ解っていません。医療、医学は解らないことだらけです。結局、アレルギーの体質改善は遺伝子治療まで行わなければならないと思いますが、将来の早い時期に、副作用の心配のない体質改善の治療法が開発されて欲しいものです。

医者を見分ける10カ条 07年1月3日
 年始に、昨年秋以来撮りためていたテレビを見ていました。
 美しい風景の紀行物で気分転換を行いつつも、医療情勢のドキュメンタリーを見ると、改めてこれからの医療制度がどうなるのか暗澹とした気分になりました。高齢化社会の急速な進展と国の財政の逼迫というここ20年来言い尽くされている大命題が、いよいよごまかしが効かなくなって国民ひとりひとりにのしかかってきたようです。長期入院が許されない医療保険制度となってきました。国民健康保険の疲弊も表に出てきました。社会的入院に甘える立場、かたや家庭での介護が出来ない立場。保険料を払えても払わない立場、かたや払いたくても払えない立場。国の立場、地方自治体の立場、患者個々人の立場、各々の立場でその主張には整合性があり、どこで折合いをつけるか、今後の行く末に明快な答えがないだけに考えさせられるレポートがほとんどでした。また、医療の進歩、医師数の増加と、かたや医者患者関係の変化、医療訴訟の増加、医師の偏在、医療関係者の過重労働、様々な番組を見るたびに答えのないパズルを見る想いです。
 そんな医療関係の番組のなかで、私の診療姿勢を考えさせられるものがありましたので、私自身の記憶に留めるためにも、このコーナーで取り上げてみます。番組はテレビ東京系の「カンブリア宮殿」、諏訪中央病院 名誉院長の鎌田 實氏と司会者、医学生看護学生との対談でした。その中で、「医者を見分ける10カ条」が紹介されていました。(「病院なんか嫌いだ―「良医」にめぐりあうための10箇条」という著書もありますので、早速読みたいと思います) 10カ条は、1、話をよく聞く 2、わかりやすい言葉で説明 3、薬よりも生活改善を指導 4、必要な時は専門医を紹介する 5、患者・家族の気持ちを考える 6、地域の医療を知っている 7、医療の限界を知っている 8、痛みを理解、共感してくれる 9、セカンド・オピニオンに応じる 10、ショックを与えず病状を伝える です。自戒を込めて自己判断すると、この中で私が自信を持ってハイと言えるのはこの中の5項目でした。耳鼻咽喉科領域は直接目で見て判断できる部分が多いので他の科より問診にたよる部分が少ない、やもすれば時間に追われる診療になることが多い、などの言い訳はありますが、私の耳に痛切に響く面もあります。さて、私の診療を実際に受けてこのコラムを読んだ方は私の診療に果たして何点下さるでしょうか?及第点は頂けるでしょうか? 鎌田氏の10カ条を心に留めながら、今後の診療を行って行きたいと思います。

ジェネリック医薬品 
06年12月3日
 12月から本格的に後発医薬品(ジェネリック医薬品)に対応するようにしました。当院で発行する処方箋の内、後発医薬品が発売されている薬剤が記載されている処方箋には後発医薬品も選択可能である記載を入れるようにしました。このような形式の処方箋では、応需する調剤薬局は、先発品と信頼性のある後発品の両方を用意した上で患者様に説明しなければならず、また在庫の面からもなかなか準備が大変なのだそうですが、当院もよりのエンゼル調剤薬局の協力で、対応が可能となりました。今日薬局に問合せたところでは、ほとんどの方が後発医薬品を選択されているとのことです。患者様の自己判断で選択して頂く形式は、私にとっても、医療がより開かれたものになることでもあり、うれしい限りです。
 先発品と後発品とどちらがよいのか?後発品で問題はないのか?私の立場での意見を述べてみます。基本的には、国が同等と認めて承認している訳ですから、患者様にも同等と考えて選択して頂いて問題ないと考えます。これからの高齢化社会、国民医療費が少なくなるにこしたことはありません。患者様の負担が減って、国の負担も減って、両得だと思います。 ただし、 1、米国よりも承認時の同等化試験の項目が少ない  2、薬剤成分が一緒であっても薬剤を包む部分の成分は全く同一ではないので、血中濃度の推移が完全に同一でないことが多い。例え血中濃度が同じであっても個々の組織への移行が全く同一でない可能性がある  3、万一薬剤へのアレルギー反応を起こした場合にどの成分に対して起こしたのか確定できない、などの問題があります。また処方する立場から言えば、先発品は処方し慣れているため、薬剤の効果に対する経験的な蓄積があります。また先発品メーカーの方が副作用情報などの豊富なデーターがあるため、薬剤を処方する上で不都合があった場合に相談しやすいこともあります。そのような観点から考えれば、当科に関連した分野で言えば、点鼻液のような局所に作用する外用剤は厳密な同等性を求めなくても問題はほとんどないと思います。気管支拡張剤などの血中濃度の推移に注意しなければいけない薬剤にはより慎重に対応すべきと思います。また、同じ後発品でも医薬品情報の提供のしっかりした担当者のいる薬剤メーカーのものを選択する必要があると思います。このような点を踏まえ、今回後発医薬品に対応するに当たっては、調剤薬局ともよく相談の上、患者様に選択して頂いても問題の無いと考えられる薬剤を用意してもらいました。
 一方、直接的な患者利益とは関係なしに医薬品開発の観点から見れば、やはり先発品も大切にしなければいけないでしょう。例をひとつ挙げれば、近年、対費用効果の問題から世界的に新しい抗生物質の開発が停滞しているとのことです。世界レベルでみても、病原微生物に対する薬剤耐性は確実にすすみますので、たとえイタチごっこになるとはいえ、新薬の開発が行われないと、今後我々人類が被る不利益は計りしれません。先発品メーカーが開発意欲をそがれない程度の先行開発者利益は、確保してあげる必要があると思います。日本もEU諸国並みにもう少し特許期間を延長したほうが良いのではないでしょうか。


映画少年?  06年11月15日
 私の中で一番印象深い映画は「砂の器」です。(ちなみに一番のテレビドラマは「大地の子」、昨年度の映画では「Always 3丁目の夕日」「ニライカナイからの手紙」が、映画監督は岩井俊二の感性が好きです) 松本清張原作、野村芳太郎監督の「砂の器」は日本映画の名作のひとつですのでご存知の方も多いと思います。当時私は中学1年生で、多感にもならない時期で、男が映画ごときで泣けるか、という年齢でしたが、あのラストシーンの美しい映像と音楽の波の中で、こらえにこらえながらも号泣しました。いろんな意味で衝撃を受け、恐らく私が今の仕事を選んだことの潜在意識の中での理由のひとつにもなっていると思います。その後、ビデオで見直したり、サントラ盤を聞いたりはしていたのですが、いつかはもう一度映画館で観たいと思っていた矢先、今年の秋の松山映画祭で上映されることになりました。ちょうど水曜日の夕方で時間の都合がつき、32年振りにみることができました。若々しい丹波哲郎、森田健作、加藤剛、島田陽子、緒方拳などの名優、少し登場するだけで劇場に笑いの漏れる渥美清さんなどを観ながら、少し大袈裟にいえば、中学以来の私の人生をオーバーラップさせながら観ることができました。
 私の中学高校時代(こんなことを書くと当時の学校の先生方に怒られそうですが)当時、大街道にあった名画座「銀映」に入り浸った時期がありました。また、山田太一や倉本聰の脚本に感激しました。バブル華やかかりし大学時代には、クライマックスにここぞとばかりにテーマ曲が流れるフジ月9のトレンディードラマが脚光を浴びており、そんなこんなで月刊シナリオを読んだりしていたこともありました。こんなことから、ほんとうにささやかな私の夢のひとつに、40歳代に医療現場をテーマに脚本をかいてみたい、というのがあったのですが、いつのまにか心の片隅に忘れていました。
 また、最近の私と映画館の係わりといえば、大画面ならでは特撮やメカもの(最近では、「亡国のイージス」「ダビンチコード」「日本沈没」「ワールドトレードセンター」「父親たちの星条旗」など)、子供と一緒に観るアニメ、なぜか「踊る大捜査線」シリーズなどだったのですが、「砂の器」を観たことがきっかけでで、この秋久々に邦画に入り浸ってしまいました。最近の興行成績をみると、上位の多くを邦画が占めています。最近のハリウッド映画大作が、ハッピーエンドでマンネリの傾向があることもあるのでしょうが、それにしても邦画の元気がいいです。また、インターネット上で、気軽に予告編をみたり、多くの人のレビューをみることができることから、公開作が気になって仕方ないパターンに陥ってしまいました。という訳で、「せかちゅー」「いまあい」以降公開続出の、泣ける系?&気になる女優が出演する青春映画系を最近連続して観てきました。「涙そうそう」「地下鉄(メトロ)に乗って」「シュガー&スパイス 〜風味絶佳〜」「手紙」「好きだ、」「ただ、君を愛してる」「フラガール」「虹の女神 Rainbow Song」などです。洋画は洋画でいいですが、邦画は、見慣れた風景が中心で、俳優さんのチョッとした声のイントネーションも聞き分けられることから、素直に感情移入できるのがいいですね。逆に言えば、演技の下手さも解ってしまうのですが、、 
 などと、とりとめの無いことを書きましたが、最後にこのページに関連して映画評をひとつだけ書き留めます。「ただ、君を愛してる」は、市川拓司さんの原作にもあるように スキナヒトガ スキナヒトヲ スキニナリタイ というフレーズがとっても印象的なのですが、私にとっては別にハッとする台詞がありました。周りの誰もが病気と知らないヒロインの静流(しずる)が、片思いの誠人の友人にからかわれた時に言ったことばです。 「私は変人なんかじゃないよ。ただ、他の人よりちょっとオリジナルなだけ、、」 障害は個性である、という考えと相通ずる台詞でしょうが、私は原作は読まずに映画を観たものですから、この台詞を聞いた時点では病気のことは知らず、もっと普遍的な意味で、ハッとしました。ヒロインが、背が低い、目が悪い、髪がボサボサ、幼い容姿、などの特徴を、自分でサラッとこのように表現できるのは、なんて素晴しいことでしょう。耳鼻科の外来診療では、小児の鼻炎や滲出性中耳炎、高齢者の鼻炎や難聴、耳鳴など、病気というべきか、体質というべきか、どこまで治療が必要なのか判断に苦しむことがままあります。そのような患者様にとって、他の人よりちょっとオリジナルなだけ、、との考えで現状の不都合を乗り越えられれば素晴しいと思います。私もこの映画を観て、病状を説明したり治療の選択枝を患者様に説明する際に、もう少しだけ、肩の力を抜いてみようと思いました。
 なんだかこんなことを書くと、映画を観ていない人には、気になって仕方なくなるかもしれませんね。^_^;  今日触れた映画は全て素晴しかったのですが、中でも「涙そうそう」はエンドロールの最後の最後まで目が離せなかったです。「ただ、君を愛してる」のキスシーンはほんとうにきれいでした。また、今年の私の中での一番の作品は「フラガール」になりそうです。一番印象的なシーンは、作品としては評価の分かれるところかもしれませんが「虹の女神 Rainbow Song」のなんともいえないキスシーン(べつにキスばかりにこだわる訳ではないのですが)でした。機会があれば、ぜひ劇場やDVDで観てみて下さい。
 ここまで書くなら、ついでのついでに、という訳で、私がこの秋に読んで印象深かった本も紹介しておきます。私の読書法は、図書館の返却コーナーに並んでいる本の中から適当に借りて乱読&斜め読みする、ということになるでしょうか。ただ敢えて好きなジャンルを挙げるとすれば、近現代史や地政学方面になります。近著で印象深かった本を挙げると、怨霊思想という視点から日本の歴史を通観した伊沢元彦氏のベストセラー「逆説の日本史」、日本外交の諜報活動の視点から旧ソ連の崩壊過程をみつめた佐藤優氏の「自壊する帝国」「国家の崩壊」などです。自分の仕事に関する書籍や文献にはゲップがでるほど接していますので、就眠前に仕事と関係の無い本に目を通すのは私の至福のひと時です。
  (07年3月16日補追)
 本家のアカデミー賞を最後に昨年度の映画賞がほぼ出揃ったようです。引き続き、それなりに映画鑑賞しましたので、今年の映画各賞の結果発表は楽しめました。私の最近の鑑賞作品からベスト10を挙げてみます。さて、映画好きの皆さんはどう評価されるでしょうか。
 1、フラガール  2、嫌われ松子の一生  3、ユナイッテド93  4、硫黄島からの手紙  5、ゆれる 6、007 カジノ・ロワイヤル  7、ドリームガールズ(07年)  8、虹の女神 Rainbow Song   9、それでもボクはやってない(07年)  10、明日の記憶  次点、ホテル・ルワンダ(06年)、ありがとう、ただ君を愛してる、手紙、ライフ・イズ・ビューティフル(98年)、 海を飛ぶ夢(05年) ぐらいでしょうか。気になる女優は蒼井 優、男優は二宮和也、音楽は「嫌われ松子の一生」。家族を連れて2回目観たのは「フラガール」、DVDで見直したのは「ゆれる」、劇場ならではの音響設備の中で歌声に感嘆したのが「ドリームガールズ」、見逃して気になっているのは「鉄コン筋クリート」、今年公開で待ちどおしいのは「バベル」「Always 続・3丁目の夕日」です。 あまり観ませんが、過年度含む連ドラでは、「優しい時間」「白夜行」「1リットルの涙」「華麗なる一族」「光とともに」「オレンジデイズ」などに引きこまれました。

情報開示と治療法の選択 
06年1月9日
 理想の医療の形のひとつとして、様々な医療上の情報を開示して、その上で、患者自身が治療の主体となって治療法を選択する、というものがあります。開示するべき情報には、いろいろなものがあると思います。病院の設備、医師の経歴、症例数や手術件数、治療成績、治療費の内訳などです、その上で、患者自身が、充分理解し納得した上で治療を行なうことが出来れば、しっかりと病気に立ち向かうころが出来ると思います。
 確かに、これは崇高な理想です。私も目指すところです。しかし、徒然に考えれば、理想と現実のギャップ、どこで折り合いをつければ良いかという現実もあります。例えば、治療成績の開示をとってみると、昨年、全国のがん治療病院の協会で癌の治療成績を公開するかどうか検討したところ、とりあえず見合わせることにしたそうです。一般の人が見れば、けしからん白い巨塔の中での隠匿体質と思われるかもしれませんが、医療従事者の立場からすれば、現時点では致し方ないとも思います。癌の悪性度、進展度の分類自体が難しい、母集団である患者背景が病院で異なる、特に母集団が異なれば、統計学的には比較自体が困難です。そんな所で、各々の病院が独自の判断基準で情報を開示すれば混乱するのは目に見えています。また、今年度の医療制度改革で求められた治療費の開示についてみると、明細な領収書を発行するのはどんな業界でも常識ですが、現在の保険医療制度の値段(診療報酬点数といいます)は、長年の制度変更を繰り返した産物で、もはや誰もその全体像を把握出来ないといわれるくらいに複雑化しています。ちょっと外来の診察料を見ただけでも、翌月に診察を受けたのに<初診>であったり、毎回同じ治療を受けても、<加算>や<指導>によって料金が違ったり、些細だと思われる検査を受けて料金が高額だったり、長時間の大変な処置を受けても料金が格安だったり、と、患者の感覚との一致はやさしいものではありません。例えれば、レストランでメニューの料金表を見た上で注文するのではなく、最低入札価格もないオークションに出品して、オークションのその場でも、出品作品の状態が変わるような状況でしょう。
 このような状況を踏まえて、説明と同意の治療を行おうとすれば、治療法の選択であれば医師が、薬剤で先発品とジェネリックの選択であれば薬剤師が、充分な時間を割いて、対費用効果も含めて色々な選択枝の利点(有効性)と欠点(副作用など)を提示しながら治療を進めなければいけません。このような診察を行おうとすれば、一人当たり何十分もの時間をかけなければいけないでしょう。
 私も、「次のステップの検査をするしない」「抗生物質を服用するしない」「高位の病院に紹介するしない」「気管支拡張剤を投与するしない」「鼓膜チューブを入れる入れない」などなど、様々な場面で治療法の選択を提示しているつもりではありますが、次の方々の待ち時間を短くするなどの観点との両にらみで充分な問診や選択枝の提示が出来ているかと言えば心もとないのが現状です。それでも、医療情報を開示し患者様自身に治療法を選択して頂く、理想の治療に一歩でも近づけるよう心がけながら診察に臨み続けたいと思います。
  (06年4月1日補追)
 平成18年度診療報酬(療養担当規則)改定が本日から施行されました。改定に伴い、当院でも明細領収書を発行するようになりました。改定に当たり、「同じ検査を受けたり処置を受けたりしても診察日によって料金が違う」などの不都合は解消され、1月段階の私の指摘した問題点は改善されています。今回の改定で、医療を提供する側と受ける側が情報を共有して、患者側がより納得できる治療を受けることができるようになればと思います。

当ホームページを介して 06年1月8日
 先日、ある大手製薬会社の本社より、社内研修用に当ホームページの使用許諾の依頼がありました。当ホームページの「今月の疾患情報」を元に、耳鼻咽喉科診療所の1年を把握しようとするものだそうです。当ホームページは当院かかりつけの患者様はもとより医療従事者の方々の閲覧も想定していましたが、インターネットの時代、このような利用の仕方もあるのだなと、感心してしまいました。もちろん医療関係者に活用して頂けるのは本望ですので快諾しました。
 時たま、旧友や昔お世話になった方から、当ホームページを介してメールを頂く事があり、びっくりするやらうれしいやらという時があります。昨今は学校や職場の名簿も無くなる時代ですが、個人情報の開示も悪いことばかりではないですね。


繁忙期の待ち時間について 
05年2月13日
 2月10日の木曜日から祝日を挟んでの土日は、連日当院が混み合いました。全国的な情報をみても、知人の話を聞いても、耳鼻科や小児科では12日の土曜日がこの冬一番混み合った病院が多かったようです。来院された皆様に対しては、待ち時間が長くなり恐縮しきりでした。普段ならば、例えば鼓膜切開の前には保護者の方に実際の鼓膜の様子をみて頂いたり、花粉症の治療法や薬の選択をある程度患者の方自身に選択して頂いたりしているのですが、ここ数日はどうしても急ぎ足の説明になったきらいがあります。医療の質を落とさない範囲内でいかに診察のペースを上げるかということと、いかにじっくり説明して納得して頂けるか、この時期は二律背反の命題に苦しみます。また、受付での問合せも多くなります。待たれている方は当然のことながらご自身の順番が気になりますし、ましてや体調不良な方は一刻も早く診察を終わらせたいのは当然です。医院の立場からは、受付スタッフは、受付や電話での問合せに対応し、体調の悪い方の様子にも目配りをしなければいけないので緊張感の持続を余儀なくされます。私の立場からは、受付スタッフにも頭の下がる思いです。
 このような背景もあり、現在、携帯電話から受付したり待ち時間が確認できる電話受付システムの導入を鋭意検討中です。当院は、どうしても体調の悪い方を優先的に診察しなければいけない場合が多いため、これまでの時間予約の受付システムの導入は見合わせていたのですが、受付後の待ち時間の確認が主体のシステムならな当院でも活用できそうです。それでも、土曜午前や日曜、祝日前後、平日の診察終了間際など、受付が混みあう時間は円滑なシステムの運営は難しそうです。既に導入した医療機関や当院のスタッフの意見もよく聞いて、導入するのが良いのかどうか考慮中です。
  (05年3月より、携帯電話も含めてインターネットを介して順番や待ち時間の確認が出来るシステムを導入しました。詳しくは オンライン受付・待ち時間確認システムのページへ )

スギ花粉症の予防治療について  
05年1月17日
 各種のデータをみればみるほど、やはり今の勢いだと2月にはかなりの大量飛散が予想されます。花粉に大量に暴露した場合、たとえ初期治療(予防投薬)やレーザー治療を受けていたとしても、かなり強いアレルギー反応を起こす人もいます。(当然、未治療よりは症状は軽いのですが) よく都市圏では花粉の季節にはゴーグルやマスクで身構えて通勤する人を見かけるのですが、松山の方はその点鷹揚なのかほとんど見かけません。これまで一度でもある程度症状の強い花粉症に悩まれた覚えのある方は、今年の2月はこのような予防グッズを用意したほうがよいと思われます。
 スギ花粉症に関するマスコミ報道が目立ってきたせいでしょうか初期治療=予防投薬や予防的なレーザー治療を希望して来院される方が、例年より多くみられます。最近診察中に「花粉症の予防薬を下さい」という質問や要望をよく受けます。その際には、以下のような説明をしています。
 1、予防用に特殊な薬があるのではないこと 
 2、抗アレルギー作用のある薬を症状の出ないうちから服用していれば、花粉が付着しても反応が起こりにくくなり、その後のアレルギー炎症や過敏症の亢進と呼ばれる悪循環が起こりにくいこと、このような目的で処方するお薬を便宜的に予防薬と称していること (付記:耳鼻科の学会では初期治療という呼称が標準となりつつあります)
 3、予防薬を服用していても大量や持続的な花粉への暴露があると発症を防ぎ切れるものではないこと 
 4、特に今年は予防治療をしていても2、3月に大量飛散があれば、花粉自体を避ける努力をかなりしなければある程度強い症状が出る可能性のあること
 5、ただし、症状が出るにしても未治療よりは格段症状が軽く、市販の薬と違い眠気や口の渇きなどの副作用がほとんど出ずに効果の高い薬剤が処方できること
 6、一般的な抗アレルギー剤や抗炎症剤を服用していても高度の症状が出た場合には、少量で短期作用の抗炎症・抗アレルギー作用のあるホルモン剤(ステロイド)も使用するが、予防的なホルモン剤の注射は原則的にしないこと
   (当院の月別疾患情報の欄で述べたことですが、スギ花粉症の予防治療に関する考え方を、このコーナーにも転記しておきます)

救急受診の必要性の目安(小児の耳鼻科疾患について) 04年10月6日
 私の知り合いの外科医から、ある小児の保護者向けの講演会の発表のためにと問合せがあった際にまとめたものです。それこそ徒然にまとめたものですので、このコーナーでご紹介します。地域の特性や、各科の連携の度合い、病院の規模によって対応は様々だと思いますので、あくまでも当院での考えであることをお断りしておきますが、まさかの際の参考になりましたら幸いです。
  以下に、注意する疾患と初期の対応法、受診までの時間(すぐに受診すべきかどうか)についてまとめてみました。
側頭部、耳周囲の打撲
まず頭部打撲に準じて経過観察(頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害の注意)
1時間経過を見た後で
耳鳴、めまいがあれば適宜救急か耳科受診ー内耳振盪症、音響外傷のため
耳出血、耳痛ー介達性鼓膜穿孔(平手、ボールで注意)
開口障害ー顎関節障害
外耳道外傷 (お箸など)
   1時間経過を見た後で耳鼻科受診
   耳出血、耳痛、難聴ー直達性鼓膜穿孔、耳小骨脱臼、外耳道挫創
   耳鳴、めまいー介達性(圧刺激による)内耳障害
 鼻打撲
  1、鼻出血で鼻翼圧迫止血、氷罨法
     1時間後出血持続で耳鼻科受診
  2、鼻根部の変形
     適宜受診、周囲の腫脹があり美容上の変形がはっきりしない場合も念のため耳鼻科受診
 顔面打撲
   まず頭部打撲に準じて経過観察
   開口障害ー顎関節障害
   複視、顔面の陥没性変形ー顔面骨骨折
    適宜、救急や耳科受診、周囲の腫脹があり美容上の変形がはっきりしない場合も念のため受診
   顔面の動きがおかしいー顔面神経障害
 顔面外傷
   かすかな傷なら園内消毒
   裂傷、ある程度深い傷、広汎な傷ー救急、外科、皮膚科、形成外科、耳鼻科
   (将来的に美容上問題になる場合もあるので、念のため受傷1〜2日以内に
   皮膚科形成外科を受診をしておく方がベター)
 口腔外傷
   まず頭部打撲に準じて経過観察(特に鋭利なものでの外傷は残存物の確認と保存も)
   念のため耳科受診(激しい出血、疼痛の持続では早急に)
   歯の動揺、歯肉の高度裂傷ー歯科へ
    *顔面外からの打撲で口腔内の軽い挫創のみならば経過観察可
      数日後の開口障害、咀嚼痛でも念のため受診
 頚部打撲
   まず頭部、頸椎打撲に準じて経過観察
   特に前頸部の強い外力が疑われた場合には、嗄声、呼吸困難感で耳鼻科も受診
 咽頭、食道、気管支異物
   食直後咽頭痛ー異物、熱い食事による熱傷をまず疑う(小児は扁桃腺に魚骨が刺さり易い)
     ー水が飲めて軽い嚥下時痛のみならゆっくり耳鼻科受診
   呼吸困難ー救急へ
   咽頭痛が主体ー耳鼻科へ
   咳、胸部痛、腹痛が主体ー小児科、小児外科へ
 外耳道、鼻腔異物
   変動する耳痛、異音なら昆虫異物疑い懐中電灯で覗くー耳鼻科へ
   固形物の異物疑いー耳科へ(手慰みによる自己挿入と児童間のいたずらに注意)

上手なセカンドオピニオンの求め方     04年10月5日
 最近、セカンドオピニオンやマルチオピニオンが医療の中に浸透しつつあります。病気はその個人個人で様々なパターンがあり、ある病気だから、ある腫瘍だから、ある感染症だからといって典型的でないことがほとんどです。当然、治療の考え方も複数あることがほとんどですので、病院や医師によってある程度治療方針に違いが出るのはある意味当然でしょう。これからの医療は、EBM(証拠に基づいた医学)の蓄積や情報開示の進展によってどんどん治療方針の選択の幅は狭くなっていくものと思われますが、一方で医療が日進月歩で変化していくのも当然ですし、医療が究極のオーダーメイドである事には変わりませんので、複数の医療者の情報や意見を参考にして、治療効果と副作用を天秤にかけて、患者自身の置かれた立場を勘案して、患者とその家族が自ら納得して治療方針を決定できればそれにこしたことはありません。
 当院にも、セカンドオピニオンを求めて来院される方が徐々にではありますが増えています。では、患者の立場で上手に(スムーズに)セカンドオピニオンを得るにはどうしたらよいのでしょうか。皆さんの中には気兼ねして、どのように受診してどう説明したらよいか自信のない方も多いと思います。セカンドオピニオンを求められる立場からアドバイスしますと、「とにかく診察の最初にはっきり言う」これにつきると思います。まず、「先生の意見を聞きたい」との受診の目的を告げて、5W1Hに沿って、いつからどんな症状で、どこの病院にかかり、どんな検査を受けて、どんな病名や説明を受けて、どんな治療法をすすめられたか、を患者自身の判る範囲で簡潔に伝えればよいのです。セカンドオピニオンを求められることは、医師にとっても信頼されていると感じられますので、普通は快く受け入れられると思います。ただし、診察や検査の後で受診の目的を告げた場合には、全てが逆効果となります。
 また、本来の主治医の治療に反映させたいのなら、セカンドオピニオンを求めに行くことを、行く前に主治医に告げておく事が大切です。診断力や治療に自信がある医師ならば快く了解してくれるものと思います。ただし、そのことによって紹介状を書いたり、データをまとめなければいけないことになると、時間的な面で本来の主治医に負担をかけることになります。主治医に事務的な負担を出来るだけかけないようにするにはどのような紹介の形態がいいのか、も主治医に最初に聞いておくべきでしょう。そこまで配慮していることが主治医に伝われば、気持ちよく最善の方法をとってくれると思います。

アレルギー疾患の増加 03年11月20日
 耳鼻咽喉科医として常々診療していて感じる疾患の変遷で目に付くのは、10年単位で見れば、アレルギー疾患の増加と抗生物質耐性菌の増加のふたつです。
 今回はアレルギー疾患の増加について触れてみます。学校健診などを通じての印象では、近年の小学生の約3割はアレルギー性鼻炎を持っています。ホコリによる通年性アレルギーが約2割、花粉症が約2割で、両者の合併例も少なくありません。耳鼻科でいえば鼻だけでなく、滲出性中耳炎、副鼻腔炎、口腔、喉頭などあらゆる部位でアレルギー疾患は増えていますし、気管、気管支、皮膚、目などアレルギー科として捉えてもアレルギー疾患は増えているという報告が目に付きます。
 増加してきた原因についても、様々な報告があります。いわく、寄生虫が減ったり抗生物質の多用で感染に機会が少なくなったのでリンパ球のバランスがアレルギーに傾いた、肉、卵、牛乳などの動物性蛋白の摂取が増えた、戦後の学校給食制度でパン食が増えた、食品添加物や環境ホルモンの増加、排気ガスのディーゼル重合物の影響、ストレスが多い夜型の社会、ここ20年間スギの植林の樹勢が強かった、などなどです。では何が本当の原因でしょうか。実は私にも解りませんが、恐らく全てが本当なのでしょう。それぞれが複合的にからんで増強しあって、ということだと感じています。マスコミの取り上げ方で何時も気になるのですが、マスコミはどうしても興味を引くようにしむけるために起承転結を無理やりはっきりさせるきらいがあります。民間療法ではありませんが、特定の情報に振り回されない心構えも必要でしょう。

医学博士     03年10月20日
 医療と医学という話題でもう一題。皆さんは「医学博士」という肩書きにどういうイメージを持っておられるでしょうか。博士号は世界で初めての有意義な研究だと認定されればその大学で出されるものですが、世界で初めてかどうかの評価は、過去の業績の文献検索が容易な現代ではまず間違いないのですが、有意義かどうかというのはやはりその研究グループや大学の主観が多かれ少なかれ入ります。マスコミがやや興味本位にとりあげる際の常套に、医学博士なのに一見医学と全く関係ない研究で博士号を取得した、という見方があります。ノーベル医学賞を獲るような医学の世界を一変させるような研究から自己満足みたいな研究まで様々なレベルがあります。その個人のアイディアで研究仮説を立てて研究をまとめあげたものから、医局の研究方針の一環で指導者のお膳立てに乗った受身的な研究もあります。このように研究の重みや中身の評価は様々です。私の主任教授からは常々、医学博士を取得したことは研究者の入り口であってその後が研究者としての真価である、と言われていました。
 ただ、ここで敢えて私が言及したいのは、博士号を取る過程で“科学的な物の見方”を身に付けるトレーニングをしていることです。医療は、科学である医学と熟達した技術や知識に基づいた施術、経験則に基づいた医療、癒しの心に基づいた精神的なアプローチの複合したものだと思っています。博士号の取得によって、医学の最先端を極めるだけでなく、医学の限界もわきまえるようになるのだと思います。

民間療法    03年9月20日
 時々診察中に、「なになにという民間療法を続けてもよいものか」とか「マスコミでみた民間療法は効果があるのか」などの質問を受けます。私がよくお答えしているのは、「あまりに極端な治療法だったり、商業ベースのうさんくささが強くなければ、かかる費用に納得するのであれば、自己責任で副作用の発現に気遣いながら、試してみるのは悪くないでしょう」ということです。怪我は別としても、体調不良=病気と捉えるならば、体調を整えるだけで治る可能性もあります。自己の免疫力が高まれば抗菌剤にたよらなくても自分の白血球や免疫のネットワークで病原菌は死滅しますし、奇跡的なケースでは“医者が見放した”癌でも消失することもあり得るのです。民間療法の中には、栄養状態を改善する、生活改善からストレスを軽減させて自律神経を調整したり免疫力を高める、などの効果が期待できるものもあります。先に述べたように、マイルドな治療法である程度普及していたり歴史のあるものは、たとえ効果がはっきりしなくてもかかる費用に後悔しない信念があるのならば試してみるのも結構だと思います。
 ただしここからは、民間療法うんぬんよりもむしろ、医療と医学の違いというものになりますが、民間療法は経験則であって、誰が行っても答えがひとつである科学や最低限統計学的な有意差に裏打ちされた医学ではありません。経験則でも多くの人に効果があればよいのですが、商業ベースの“効いた例を紹介する”療法はその背景に効かなかった例がどれだけ隠れているのか、ひょっとしたら副作用に困る例が隠れているのかが判りません。また、ブームというのもくせものです。音楽やファッションのブームは結構ですが、医療のブームは対費用効果面でうさんくさいイメージがあります。例えれば、いま“紅茶きのこ”を愛飲している方がどれだけいるでしょうか。逆に、効果がなくても効果がある、という面もあります。薬学では偽薬効果というものがあります。薬理効果の全くない薬剤でも精神的な面から効果を感じる、というものです。これは西洋医学でもいえる事ですが、たとえ効果の無い民間療法でも“有難がって”治療すれば治ることもあるかも知れません。どうか極端に走らずに、西洋医学、東洋医学、民間療法、生活改善などなど試してみて下さい。

救急蘇生の講習会に参加して 03年8月30日
 昨日、医師会主催の救急蘇生の講習会に私と看護師一同で参加してきました。院内でも折に触れ救急処置の手順の確認は行っていますが、講習に参加して、除細動器の使い方、心肺蘇生の手順などを再確認出来ました。アメリカでは学校や空港、駅、フィットネスクラブなどの人が集まる場所にだれにでも簡単に扱える「自動体外式除細動器(AED)」を設置し、救命効果を上げているとのこと。日本でも最近、航空機内に設置され、客室乗務員が訓練を受けたとのことでした。心室細動などの致死性不整脈は1分ごとに救命率が1割低下するとの報告もあり、文字通り一分一秒を争います。幸いにして開院以来当院では、除細動器を使ったり、挿管や心マッサージを行わなければならないような救命処置をする必要にせまられる機会はありませんでしたが、体調の優れない方が集まる場所には違いありません。夏の外来に余裕のあるこの時期に、スタッフ一同、救急蘇生の必要性を再認識しました。

患者様と患者さん    03年4月20日
 病院で00様と呼ばれるのと00さんと呼ばれるのと、これをお読み方はどちらが好ましいとお考えでしょうか? 最近の患者主体の医療の実践やサービス業として医療を捉える流れから、医療関係者の間でもどちらが良いのか話題に上ります。心がこもっていればどちらでもよいのでしょうが、私は、医者と患者は「ある程度リラックスした状態で対等な立場で相談し合える間柄であるべき」と感じてますので、当院の院内では00さんとの敬称でお呼びしています。

3万人の方を診察して 03年4月18日
 今日の診察で3万人目の初来院される方を診察しました。平成6年5月の開院いらいほぼ9年での数字です。おかげさまで医療事故なく診察を続けることが出来ました。来院された方それぞれが、来院して楽になった、安心したと感じて頂けるよう私はじめスタッフ一同これからも心して診察にあたろうと思います。

睡眠時無呼吸症候群の家庭での見つけ方  03年4月16日
 新幹線運転士の居眠り事故をきっかけに、睡眠時無呼吸症候群と昼間の眠気の関係が注目されています。当院でもマスコミの報道の後、診察される方が増えました。睡眠時無呼吸症候群の方は全国で200万人いるとの推定もあるくらいで、決して珍しい病気ではありません。ただ、「若い頃より体力が落ちたし、気合がないな」ぐらいの感覚で、昼間の眠気や倦怠感だけで病気を自覚する人は少ないのが現状です。しかし、睡眠時無呼吸が原因で、それを改善すれば劇的に生活の質が改善される方も少なくありません。ご家庭でもある程度出来る睡眠時無呼吸症かどうかの診断のツボをご紹介します。
 中年期より睡眠時無呼吸が目だってくる人のほとんどが閉塞型無呼吸というタイプののどが睡眠中に狭くなって起こる無呼吸です。このタイプの無呼吸を起こす方は、1、首が太く肥満体型である 2、扁桃腺が大きいか口の奥が狭いかあごが小さいか という特徴があります。このような体型の方で毎晩乱れたリズムのいびきをかいている場合、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いのです。細かな睡眠リズムは90m分で1周期で、特に入眠30日追加)分後のノンレム睡眠と呼ばれる状態で舌の筋肉の脱力が強くなりますので、睡眠時無呼吸症が疑われる方は寝入りばなの30〜40分後の状態を家族に見てもらって下さい。その際にあお向けの姿勢でいびきが止まった時に10秒以上の息をしていない状態がくり返し起こっているようなら、1、睡眠中の体内への酸素の取りこみが病的に不足して 2、脈拍が速くなり血圧が上がる 脳や心臓に慢性的に負担がかかっているために治療の必要がある睡眠時無呼吸症である可能性が高いと推察できます。     インフルエンザ・ワクチン接種の季節です。予防接種を予定しているさ中に中耳炎になるなどのケースで、保護者の方から予防接種が可能かどうかの判断を求められる機会が増えてきました。 予防接種は以前の「義務」から「努力義務」になっています。接種をするかどうかの判断は保護者に委ねられるため、明らかに37.5℃以上の発熱がある場合でなければ、お子様の体調が十分でない場合には保護者の方も接種の可否に迷うことになります。当院で治療中で判断しなければいけないのは、主に「重篤な急性疾患にかかっている場合」「過去に中耳炎や肺炎などを患い、免疫状態の異常を指摘された人」に該当しないかどうかです。当院で診察を受けているお子様に対しては、個々のお子様の病状に応じて、当科の立場からの接種の可否をお伝えしています。接種を延期した方が良いかどうか判断に迷う場合には、お電話でも結構ですので、遠慮なくお問合せ下さい。
           

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