新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症について
<2024年7月22日更新 厚労省診療の手引き、日本医師会外来診療ガイド、感染症学会提言)より改変追加>
2019年11月に発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が12月に中国武漢市で集団発生し、1月23日に都市封鎖されました。WHOは緊急事態を20年1月30日に宣言。日本国内では1月15日に初めて患者が報告され、2 月1 日指定感染症2類に指定、同日ダイヤモンドプリンセス号での感染が確認されました。緊急事態宣言が21年4月7日~5月25日に発出。7月下旬に感染第2波が、11月下旬から全国的に第3波が到来、1月7日~3月22日に2回目の緊急事態宣言が発出されました。20年12月初旬、英国より感染力の強いアルファ株が確認され、21年4月にはより病原性の強いデルタ株が確認され、5月に入り日本でも大部分がデルタ株に置き換わりました。3月下旬より感染第4波入りし、4月25日より3回目の緊急事態宣言が発出されました。7月下旬よりデルタ株によるワクチン未接種の50才代以下を中心に過去最大の第5波が到来し、7月12日~10月1日まで4回目の宣言が出されました。わが国では、9月下旬以降は短期集中的にワクチン接種を実施できたことや、デルタ株の増殖が抑制される変異などで劇的な感染者数の減少をみました。22年1月に入りオミクロン株BA.1の流行で第6波入りし、4月に感染力の強いBA.2に、7月にBA.5に置き換わり、過去最多かつ同時期の国別最多感染者数の第7波が到来し8月中旬にピークを迎えました。12月にはBA.5、BQ.1、BA.7等により第8波入りし、一日当たり死亡者は過去最高となりました。23年1月にインフルエンザと同時流行し、2月に減少に転じました。5月WHOが緊急事態宣言を解除、5月8日よりわが国でも感染症法5類として厳格な感染対策を終了しました。7~8月に第9波が、24年2月を中心にJN.1が主体の第10波が発生。7月には感染力の強いKP.3による第11波入りが懸念されています。オミクロン株で複数回発症するケースも見られています。
23年5月6日最終統計での我が国の感染者3779万人、死者74.645人(愛媛県31.9万人、700人)です。世界の感染者は3月最終統計で6.76億人、死者は688万人です。日本発の「3密回避」の概念が、3C(Crowded
places、Close-contact settings、Confined and enclosed spaces)として世界に普及しました。
病原体:従来からある従来型コロナ(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の4種)は、風邪の15~20%、冬の流行期では3割程度の原因とされます。2002
年に中国広東省よりコウモリ(あるいはハクビシン)のコロナウイルスがヒト- ヒト感染を起こしたSARS(重症急性呼吸器症候群)で8千人を超える感染者を出しました,2012年にアラビア半島でヒトコブラクダからMERS(中東呼吸器症候群)が発生しました。中国武漢市で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はWHOよりCOVID-19と命名され、動物由来のβコロナウイルスと判明したものの起源はいまだに判明していません。
COVID-19はウイルス表面(エンベロープ)に王冠(ギリシア語でコロナ)様の突起を有します。ACE2 をレセプターとしてヒトの細胞に侵入します。環境表面でも5日程度は感染性を保つとされます。エンベロープを持つためアルコール消毒が有効です。肺が反応の主体ですが、血管内皮障害やサイトカインストームが起こると血栓形成で全身の血管が障害されます。これまでに数万の変異ウイルスが発生していますが、感染力に影響を与える重要な変異がウイルス表面のスパイク蛋白の変異です。スパイク蛋白変異によりアルファ株、デルタ株、ラムダ株、ベータ株、カッパ株、イプシロン株、感染力の強いオミクロン株(BA.1→
BA.2→ 遺伝子組代わりXE→ BA.4→ BA.5→ BQ.1、XBB1.15[BA.2の変異]、BA.7[BA.5の変異]→ GE.5、HK.3[XBBの変異]→JN.1[BA.2の変異]→XDQ→
KP.3[BA.2の変異] と次々に変異して発生しています。
感染経路・潜伏期・感染可能期間:
・飛沫感染が主体であるが、エアロゾル状態での感染もあり得る、変異株では空気感染の可能性も示唆される
・SARSよりも発症時から感染性が高い
・有症者が感染伝播の主体であり,無症状保有者からの感染については現時点において確定的なことは不明
・潜伏期は1-14日(平均5-6日、オミクロン株は1.5日)、ウイルス排出のピークは発症前日、感染力のあるウイルス排出期間は発症2日前~発症後7~10日(発症後5日間が感染させるリスクが高い)、無症状感染は数-60%で小児に多いが、変異型では小児の発症例、若年者の重症例が多くなっている。
臨床像:1週間程度の軽症期を経て、デルタ株以前では1週間後の分岐点から始まる急速なガス交換障害で重症化し2~3%で致命的となる。オミクロン株では1週間以内に軽快する例が99%を占めるが、発症6日目以降に自己免疫性肺炎で重症化する場合もある。呼吸困難、倦怠感が重症化のサイン。インフルエンザとの鑑別は初期症状だけでは困難である。
主な標的臓器は肺(広範性肺胞障害)と血管(ACE-2レセプターを有する血管内皮細胞が障害され血栓性微小血管障害、抗リン脂質抗体症候群が起こり全身の静脈・微小血管・大血管で血栓症を発症)である。血栓症と急性免疫不全を引き起こす。
・致死率 デルタ株以前:成人2-3%、小児0-0.2% オミクロン株:0.7% (インフルエンザは0.1%以下)
・重症化リスクは65才以上の高齢者,基礎疾患(悪性腫瘍,COPD、腎臓病、糖尿病,高血圧、脂質異常、肥満など)、妊娠後期など
・10才前後で川崎病の小児多系統炎症性症候群MIS-C(25日後に発症、発疹、結膜充血、ショック、肝動脈瘤、発熱、嘔吐下痢、欧米で多数報告)
・オミクロン株では99%が軽症または無症状、致死率0.7%
*咳や労作性呼吸困難(階段を昇るなどの軽い運動で呼吸が苦しくなるなど)の悪化、嗅覚味覚の消失に注意して下さい
以下の様々な報告がある。
*便中に長くウイルスが排出
*ウイルスが血管に侵入するためのACE2レセプターは高齢者で多い
*ACE2レセプターを介して感染することから、降圧剤のARBやACE阻害剤、消炎鎮痛剤イブプロフェンやチアゾリジン系糖尿病薬でACE2の発現が上昇するという動物モデルの研究
*BCGで基礎免疫が得られている
*体内での感染が長引く(PCR陰性でもIgM抗体が減らない)
*終生免疫がつかない(IgG抗体が3ヶ月で消失)
*中和抗体は持続する
*サイトカインストームによる免疫の暴走
*血管炎、血栓形成で心臓をはじめとする全身の血管障害による急激な重症化
*HIVに似た遺伝子配列がありTリンパ球が機能しなくなる
*武漢株 欧州株 米国株とウイルスの変異が早く突起の変異で感染力が強くなってきている
*ウイルス干渉によりインフルの流行が抑制された
*日本では2019年に発生した初期型による集団免疫が抗体検査検出限界以下のレベルで獲得されているために重症者が少ないとの仮説
*回復後も細胞性免疫応答系に長期影響
*ネアンデルタール人の遺伝子の多い欧米南米人で重症化が目立つ
*日本人の6割がインド株に対する免疫が低い
*健診の胸部X線でコロナ肺炎判明例
*経胎盤で胎児が感染
診 断:
ウイルスゲノム(核酸PCR 鼻ぬぐい液唾液で採取):無症状にも有効 判定時間2~4時間
ウイルス蛋白(N抗原 鼻腔ぬぐい液で採取):定性の判定時間15分 発症9日までが有効
*感度(感染を正確に判定)PCR約90% 抗原定性約86%(無症状者40~80%) 特異度(非感染を正確に判定)95~100%
IgG抗体(血液でN抗体,S抗体検出):発症後10日で感度90% 急性期の診断困難 集団免疫獲得の評価
保険適応なし、当院では抗体定量検査を行っています 費用5.500円 約4日で結果が出ます
*IgMの感度は低く用いられない *中和抗体検査:研究室レベルのみ
重症化を疑う指標:臨床所見;呼吸数>24 酸素飽和度SpO2≦93
血液検査;リンパ球<800 CRP著名上昇 心トロポニン上昇 D-dimmer>21 IL-6>10 ミオグロビン上昇
CT; 網目状パターン、Consolidation(硬化像)
画像所見:
胸部レントゲン;両側末梢優位の多発性すりガラス影、索状影(浸潤影や胸水は乏しい)
胸部CT 検査;X線検査より感度が高く,無症状であっても早期に異常所見を認めることがある。
・発症から1~3週間の経過でスリガラス陰影から浸潤影に変化する。第14 病日頃にピークとなることが多い。
重症度分類治療:
軽症 SpO2≧96 肺炎所見なし 経口薬:ラゲブリオ(65才以上高齢者と18才以上の基礎疾患者)
パキロビッド(基礎疾患者12才以上)
ゾコーバ(軽症者向け 12才以上国産 塩野義)
重症化リスク者にカシリブマブ/イムデビマブ(中和抗体薬)
中等症Ⅰ SpO2 94~95 呼吸困難、肺炎所見 レムデシビル(承認、抗エボラウイルス薬核酸アナログ剤)
中等症Ⅱ SpO2≦93 酸素投与必要 デキサメタゾン(ステロイド、サイトカインストームに有効)バリシチニブ(JAK阻害剤)
重症 人工呼吸必要 L型;肺は肺循環障害による低酸素、無気肺,肺水腫なし H型;肺水腫で体外式膜式人工肺ECMO導入検討
*適応外使用;アクテムラ(炎症性サイトカインIL-6阻害抗体製剤)、アビガン(抗インフルエンザRNA 合成酵素阻害剤)、オルベスコ(吸入ステロイド薬)、イベルメクチン(寄生虫薬、有意な有効性なしとの報告)やマクロライド系抗生剤、回復者血漿
罹患後症状(後遺症 LONG COVID):発症後6か月後に26%、1年後に9%に認める。女性に1.6~3倍多い。筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群(ME/CFS)、心筋障害、呼吸障害、脳障害(ブレインフォグ脳の霧
睡眠障害)、精神障害や脱毛、嗅覚味覚障害など多種の後遺症が報告されている。血管障害に加えT細胞系の機能異常、ウイルスの残存、ウイルスタンパク質が心臓や腎臓を障害が原因との報告がある。
*上咽頭擦過療法が有効、ゾコーバで後遺症45%軽減との知見あり *幹細胞治療の治験進行
外出を控えることが推奨される期間(個人の判断):
感染者::発症日の翌日から5日かつ、症状軽快から24時間経過するまで *小児の出席停止期間も同様
無症状陽性者:検査陽性の翌日より5日
*いずれも10日間が経過するまでは、ウイルス排出の可能性があることから、不織布マスクを着用したり、高齢者等ハイリスク者との接触は控える等、周りの方へうつさないよう配慮
濃厚接触者:制限はありません
ワクチン:020年12月に英国、米国でワクチンの接種が始まり、日本でも2月17日から始まる。主なワクチンはファイザー・モデルナ・第一三共(メッセンジャーRNAに作用する初めての作用機序、接種後のアナフィラキシー発生率は10/100万、有効率95%、アルファ株デルタ株変異でも有効、2021年12月よりBA.5対応型の接種開始)、アストラゼネカ(ウイルスベクターを用いる、有効率70%、ごくまれに血栓を誘発)、ノババックス(蛋白質再合成を用いる)、スプートニク(ロシア)。流行拡大やワクチンで人口の7~8割が集団免疫を得られれば流行が抑えられるとされる。承認後の有効性(中和抗体の持続期間、抗体依存性感染増強AEDの有無、ウイルス変異への有効性など)のデータ追跡も行われている。
中和抗体価:従来株感染1年後に、中~重傷者100%、軽症者97%、無症状者96%が抗体を有する。変異株では軽症無症状者では抗体保有者が少ない傾向あり、などの研究報告が続いています。ワクチンによる抗体価の持続期間は研究中です。
~~~ 本日の当院での対応 ~~~~~~~~~
新型コロナウイルス感染症を疑い、抗原定性検査、PCR検査を実施
□ 抗原検査陰性 新型コロナウイルス感染症も完全には否定できないことから、体調が回復するまでは感染予防を心がけ
て下さい。また、病原病因が確定できていないことから、体調の悪化時には再診もご検討下さい。
*PCR検査を提出した方へ:結果は1~3日以内に当院より電話でお伝えします。
* PCR検査でも10%は検出できないとされています
□ 抗原検査、PCR検査で陽性が確認され自宅にて療養 *症状悪化時にはまず電話で当院に相談してください