鼻のレーザー治療について

 鼻アレルギーの新しい治療法として、レーザー治療が新聞、テレビなどで、取り上げられて注目されています。当院でも平成六年(1994年)暮から施行していますが、非常に問い合わせが多いのでまとめてみました。

Q レーザー治療とはどんなものですか

A 発作性再発性のくしゃみ、水様性鼻汁鼻閉を三主徴とする鼻アレルギーや年中鼻閉のある慢性鼻炎に対して行う治療で、十数年前から行われるようになった比較的新しい治療法です。鼻の中の粘膜に弱い出力のレーザー光を当てて、粘膜の腫れ、むくみをとり、花粉やダニ、家のホコリなどに過敏になった粘膜の感受性を低下させる方法です。鼻に使用できるレーザー光の種類には炭酸ガスレーザー、ヤグレーザーなど数種類あります。当院では炭酸ガスレーザーを使用しています。

Q どういう場合にするのですか

A もともと鼻アレルギーは非常に複雑な体内の反応の結果起こりますので、本来はレーザー治療のような鼻の中だけの部分的な治療よりは、薬などを用いる治療が合理的で、年々、新しい内服薬、点鼻薬などが開発されてきています。しかし、そのような治療でうまくコントロールできない場合や、何らかの理由で薬がのめない場合、また鼻粘膜の腫れが高度となり、むくみがもとに戻りにくくなってしまった場合に行います。本来は慢性的な鼻炎(通年性)に行うのが良いと考えられていますが、実際月別に当院の治療件数を見てみますと表、グラフのように一月、二月、三月に圧倒的に多く集中しています。いかにスギ花粉症のひとが沢山お悩みかわかります。

Q 実際どのような方法でするのですか

A レーザーの種類や出力によって鼻の外からやんわりとレーザー光を当てる方法、鼻粘膜をある程度大きく処理するため、一、二日間入院治療が必要なものなどいくつかの方法がありますが、一番ポピュラーな標準的な炭酸ガスレーザーによる方法をご紹介します。外来診察の後、レーザー治療が必要と診断されますと、薬液のついた小ガーゼを鼻の中に一、二枚入れておきます。約十、十五分で粘膜の表面は充分麻酔されますので、注射などは不要です。ガーゼを取り出して、ハンドピースと呼ばれる鼻用の細いパイプ型の器具から導かれるレーザー光を鼻粘膜に当てます。処置自体は両側でたいていは五分から、十分足らずで終了します

Q 痛みや出血は

A レーザー光によって鼻粘膜が凝固されますので、少しツーンとにおいがするのと、奥深い部分に当てる時、少しチクチクするような感じがすることがありますが、麻酔を追加するようなひどい痛みはありません。また出血はほとんどありませんので、通常は特に止血処置をする必要もありません。これが外来でできるレーザー治療の大きな特徴です。

Q 治療は一回で終了ですか

A 以前のレーザー装置、方法では「一週間に一度、五回をワンセット」というようなやり方で患者さんの負担が大きかったのですが、今は通常は一回で終了です。

Q 治療した日のお風呂など、注意することは

A 車の運転、お風呂は勿論、晩酌程度ならアルコールも問題ありません。ただし余り強く鼻をかむと少し血が出易いかも知れません。

Q レーザー治療の効果は

A 一回の治療で大体75%位のひとに効果があると考えられています。くしゃみ、水バナには薬の併用が必要なこともありますが、鼻づまりには特に効果があります。

Q レーザー治療で非常に良くなったというひとと、余り効果がなかったというひとがいるようですが

A レーザー治療の効果は例えば花粉の粒子が十個くっつけば鼻がムズムズしてくしゃみが連発したり、水バナがでて、鼻がつまっていたのが、百個くっついても過敏反応が起きなくなる、つまり症状がでなくなるということです。アレルギー体質そのものが治るということではありません。花粉が何百個と大量に飛ぶ日や、年によって、花粉の飛散が極端に多いときは治療効果が出にくく、症状がでてしまう場合もあります。どの程度過敏状態かは非常に個人差があり、血液検査でその数値がわかります。またレーザー光に対する粘膜の反応にも個人差がかなりあります。しばらくは調子がよくても、過敏性を帯びた粘膜が再生しやすいひとは再発しやすい傾向があります。

Q 治療効果はすぐ出ますか

A レーザー光を当てた粘膜には薄く痂皮(かさぶた)がつきます。それが取れるのに十日前後かかり、そのあとに過敏性の減った新しい粘膜が再生してきます。治療後、二、三日はむしろ鼻づまりがやや増えますがその後、効果が出てきます。

Q 効果の持続はどうですか

A 鼻粘膜のアレルギー反応の強さ、レーザー光に対する粘膜の反応は個人差が非常に強く、五年以上再発のない例がある反面、花粉症などでは各シーズン毎に治療を追加する必要のある場合もあります。

Q 治療の時期は

A スギ花粉症のように発症が予測できる場合はその二週間くらい前(松山近辺では一月下旬)にやれば良いと思います。一年中の慢性的な鼻炎の場合は特にどの時期ということはありませんが、あまりにも鼻がズルズルで最悪の状態のときは鼻の奥のほうの処置が困難なことがあります。

Q 通院は

A 原則的には、治療一週後、二週後です。絶対的なものではなく、具合がいい場合はそのまま様子をみてもらう場合も多々あります。

Q 再発した時、再治療は可能ですか

A 治療自体に危険性はありませんので、再治療は何度でも可能です。このこともレーザー治療の大きな利点です。

Q 子供でもできますか

A 最近は以前と較べて花粉症も随分低年齢化が進んでおり、鼻ズルズルの子供さんの鼻を何とかしてあげたいとお悩みのご家庭も多くなっています。レーザー光を当てること自体は殆ど無痛で、子供の身体にも無害と考えられていますが、実際に行うとなると、治療に対する恐怖心をいかになくすかが問題となります。薬のついた小ガーゼを鼻に入れることができるかどうかが目安となります。実質的には小学校高学年くらいならほぼ問題なくできます。

Q 副作用、安全性は

A 局部的、部分的な治療であり、レーザー光は鼻粘膜表面で吸収され、体内には入りませんので、安全性は非常に高く、薬が不適当なひとにはむしろ第一選択の治療法です。妊娠中のかた、授乳中のかたでも外来でできる安全な治療法と言えます。

Q  嗅覚が変化しておかしくなると聞きましたが

A レーザー治療中にこげくさいにおいがして、少し後までその影響があり、そのような感じを持たれることがあるかもしれませんが、レーザー治療では嗅覚に関連のある部位は触りませんので、原理上そのようなことは発生しません
むしろ鼻炎の状態では嗅覚は決して鋭敏とは言えず、逆に治療によって改善することが多いです。

Q 治療の値段は

A 保険医療が適用されます。診察料や、投薬料を除いたレーザー治療自体の費用は二割負担の方で4,320円、三割負担の方で、6,480円です(令和2年4月現在)。

耳鼻科の病気あれこれ、「鼻アレルギーについて」[ステロイド筋注とレーザー治療」もご覧ください。)



参考資料
(以下の文章は朝日新聞 2005年1月17日 科学・医療 田部哲也 防衛医科大助教授(耳鼻咽喉科)「どうしました」記事より引用させていただきました)

鼻炎のレーザー治療ー日帰り手術で症状改善

質問 9歳の息子。生後4ヶ月からアトピー性疾患に悩まされていて、最近、特に鼻炎がひどくなってきました。通院しても効果がなく、鼻づまりのため息苦しいときもあります。レーザー治療を考えていますが、有効でしょうか。安全性やデメリットも教えてください。(横浜市・Y)

Q: どんな治療ですか。
A: 鼻の粘膜を部分的にレーザーで焼いて切り取り、鼻の通りをよくしたり、鼻水やくしゃみを抑えたりする手術です。アレルギー性鼻炎の人に使います。メスより出血が少ないのが利点です。

Q: 子供でもできますか
A: 通常は局所麻酔を使う日帰り手術で、片側10分程度です。その間、じっとしていられるお子さんなら大丈夫です。ただ、まず飲み薬や薬を吸入するネブライザー治療などを試し、効果がないときに行うのが一般的です。

Q: どこを切るのですか。
A: 鼻の穴からのぞいて見える膨らみの部分です。粘膜表面だけを薄く焼く方法から、粘膜を厚く切除する方法など、必要に応じていろいろなやり方があります。事前によく説明を受けてください。

Q: 副作用はありますか
A: 切った直後は多少の鼻血が出ますが、殆ど心配ありません。また、しばらくは鼻の中にかさぶたができるので、かえって鼻がつまってつらい期間がありますが、1ヶ月ほどで落ち着きます。

Q: 効果は
A: これまで診た1,300人のうち、95%の方は術後2ヶ月後に何らかの改善が見られます。術前の症状がひどかった人ほど実感があるようです。ただ、アレルギーの体質がなくなるわけではありません

Q: 時間がたつと効果が薄れると聞きました。
A: 2年後もなんらかの効果が続いている人は75%程度。中には5年以上続く人もいて個人差があるようです。

Q: 再手術できますか
A: 身体への負担は少なく何回やっても大丈夫です。本人の希望を聞いて決めるのがいいと思います。

Q: 費用は。
A: 健康保険が利きます。手術代の自己負担は一万円程度でしょう。ただし、自由診療で保険が利かない医療機関もあるので事前に確認してください。

Q: 耳鼻咽喉科に行くのがいいですか。
A: 皮膚科や形成外科でも取り組んでいるところもありますが、何科でもレーザー治療の専門家が望ましいです。通院中の耳鼻咽喉科で、近くの専門医を紹介してもらうのがいいと思います。