鼻アレルギー(アレルギー性鼻炎)

 「ハックショーン!」「あら風邪(カゼ)を引いたの?」これは昔風の会話です。今どきなら「ハックッショーン!」「あら、鼻炎?花粉症?」というのが正解でしょう。また、くしゃみがでて、鼻水が止まらず、夜になると鼻づまりがひどくなるので、「鼻カゼ」と思い込んで、風邪薬をのんでも治らず、風邪が長引いているとばっかり考えているひとも結構、多く見受けられます。

 アレルギー性疾患は現代病、文明病と言われ、今や日本人の三人に一人は何らかのアレルギーがあり、十人に一人はスギ花粉症だとまで言われています。平成七年(1995年)の春のスギ花粉症は猛威をふるいました。テレビ、週刊誌などマスコミが大々的に取り上げたこともあって、松山でも三月十日前後はどこの耳鼻科でもパニック状態でした。

 スギ花粉症は鼻アレルギーの一つで、最もポピュラーなものですが、他にも五―六月頃にはイネ科花粉症があり、九ー十月頃のブタクサや、十一月頃のヨモギなどのキク科花粉で発症するひとも決して少なくありません。また花粉症ではありませんが、ハウスダスト、ダニなども深刻な鼻炎症状を出します。この場合は、梅雨時にひどくなるなどの多少の変動はありますが、一年中鼻の調子が悪いことになります。

 以上が日本での鼻アレルギーの主な原因物質(アレルゲン)ですが、他にも犬や猫毛などに反応したり、温室栽培のイチゴが原因で起こることもあり、「こんなものが原因?」とびっくりするようなものもあります。

 スギ花粉症はニホンスギによって起こりますので、日本特有です。欧米諸国ではむしろブタクサなどのほうが原因として多く、そもそもはブタクサなど牧草の干し草から発症して発見された病気(枯草熱)という歴史があります。またあるひとは原因は一つだけでなく、複数のものに反応することも多いのです。

 現在、病院のアレルゲン検査は血液検査で二百種類余りの原因物質について調べることができるようになっています。検査の精度がどんどん向上しており、特定できる原因物質はますます増え続けています。その結果、鼻アレルギーを起こす花粉は五十種以上が確認されています。(ただし医療機関でカバーできる検査は一回につき十種類までとなっています。)

 鼻アレルギーはいわゆるアレルギー体質のひとにだけ発症します。「去年までは何ともなかったのに今年は症状がでた」というひとも沢山います。何ともないひとから見れば不思議以外の何物でもなく、これくらい個人差が激しい病気はありません。

 なぜそういう差がでるかは、大変複雑なメカニズムがあり、すべてわかっているわけではありません。簡単に言えば、アレルギー体質のひとの場合、空気中を飛散している花粉などの原因物質が呼吸をすることによって鼻の粘膜に到達すると、免疫システムがそれを自分の体にとって「異物」と認識し、それを排除しようとする抗体(免疫グロブリンE)が体内に産出されます。抗体ができるのには一定期間必要ですが、いったん抗体ができると、次に原因物質が鼻粘膜に吸着すると「抗原抗体反応」が起こり、その結果、ある種類の化学物質が細胞から分泌され、粘膜が腫れて、それ以上中へ侵入するのを防げ、くしゃみが連発し、鼻水がでて、原因物質を体外へ押し出そうとするわけです。本来なら身体にとって決して悪い反応ではないのですが、それが、余りにも過剰に反応してしまい、生活上に支障を来たす状態と考えていいでしょう。

もう少し専門的に言い換えれば、体内の免疫に関係するT細胞は分化段階や機能の異なる様々なサブセットにより構成されており、細胞性免疫に関与するTh1細胞と液性免疫に関与するTh2細胞に大別されます。両者の免疫バランスはさまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患の発生に関与していると考えられており、スギ花粉症などのアレルギー性疾患ではTh2細胞が主に関係し、増加し、Th1/Th2のバランスを崩している状態と考えられています。(この項、日本医事新報 4160号 吉良潤一氏論文 「アレルギー性疾患に伴う神経障害の臨床」 を参考に追加、2004/03/01)

 花粉症などを起こしやすくする原因はその花粉の飛散量もさることながら、デイーゼルエンジンから排出される微粒子などによる大気汚染が関係すると考えられています。実際、スギ林の近くに住んでいるひとよりは都市部で生活するひとに多く発症しています。鼻アレルギーとりわけ、日本独特で、国民病とも言われるようにもなったスギ花粉症の注目度はますます高まってきています。

追加
スギ花粉症の低年齢化

平成8年度の調査報告によると、スギ花粉症有病率は19.4%過去10年で約2倍に増加した。とりわけ増加が目立ったのが0−14歳で、その率は3.6倍にのぼった。就学児童だけでなく、就学前幼児の発症および受診は決して珍しくなくなってきている。

スギ花粉症幼児では、すでに気管支喘息やアトピー性皮膚炎などアトピー疾患の診断を受けているケースが多い。小児科アレルギー専門外来でのスギ花粉CAP-RAST陽性例は約3割、ダニ陽性例では4割以上と有意に高く、最年少は1歳8か月男児だった。これら抗体陽性例のうち、スギ花粉症の症状があったのは約3分の2で、感作例イコール発症例ではない。一方、耳鼻咽喉科では、スギ花粉症児の4割はスギ(およびヒノキ)花粉のみに感作されており、スギ花粉症単独例があることも明らかだった。
   (ノバルテイス ファーマ(株)資料 「アレルギーthe辞典 no.6」より抜粋引用)

スギ花粉の正体は、、、

 スギ花粉の正体は雄花です。花粉葯(やく)中には約3300個の花粉があります。雄花は7月のはじめ頃から作られますが、この季節に暑い天気が続きますと花芽が多くつき、初秋へと発育し、雄花の花粉が豊作になります。
   (シオノギ製薬資料から引用)

 スギ花は雄花と雌花に分かれていて、花粉を飛ばすのは雄花です。この雄花は毎年7月の初めから8月に成長を始めます。11月頃までには成長が終わり、その後休眠してしまいます。12月の末から1月の初めになると休眠から覚めて開花の準備に入ります。この開花準備期間に当たる1月の気温が高いと早めに開花し、花粉を飛ばすようになります。
   (ライフサイエンス Prog.Med 別冊 23:105-109 アレルギー性鼻炎 Q&A)

スギ花粉飛散数の多い日、多い時間帯

 スギ花粉は飛散開始から1週間−10日でその飛散量が増え、飛散開始から1ヶ月ほどでピークに達します。そして1)晴れて気温が高い日、2)空気が乾燥して風の強い日、3)雨の翌日の晴れた日、などに花粉の飛散量が増え、とくに3)の条件で大量飛散が起こる場合があります。
 また一般的には、昼前後と、日没後に飛散数は多くなります。さらに、極端な風向きの変化、気温の急上昇が2−3日続く場合などに、飛散数が多くなることがよくあります。

スギ花粉総飛散数の予測方法

 花粉情報の中で最も重要なものは飛散する花粉の総数です。総飛散数とは観測地点における1シーズンあたりの花粉の総数であり、これをいくつかの条件から予測します。
 春先に飛散するスギ花粉の数は前年夏の気象条件の影響を大きく受けます。スギ花粉の雄花は7−8月に分化して成長を始めるため、この時期の気温、日射量、降水量などによって、雄花の着花状況が変化し、翌年春のスギ花粉総飛散数を規定する大きな要因となります。
 気象条件のなかでは、「気温が高い」「日射量が多い」ほど、スギ花粉の総飛散数が多くなり、「雨量が多い」「湿度が高い」ほど少なくなります。つまり7月の平均気温が高いと翌年春の花粉数が多くなるという関係が見られます。また、スギは場所によるものの、ほぼ1年おきに雄花の豊作、不作を繰り返しているため、7月の最高気温の年次差に基づいた予測も行います。
 さらに、気象条件による予測だけでは差異が生じるので、実際に雄花のでき具合も観察します。9−12月にかけて実際にスギ林で雄花の着花状況を観察して予測の参考にします。スギ花粉総飛散数は、最終的には気象条件と雄花の着花数との組み合わせで予測されます。
   (第一製薬「Zyrtec 耳鼻科Q&Aより引用)

花粉の計測方法

 花粉の計測はスライドガラス上に落下した花粉を顕微鏡で数えます。1平方cm当たりの花粉数が2日以上連続して1個以上になる日が花粉の飛散開始日と決められています。従って飛散開始日の前にも少量の花粉が飛ぶ日があることになります。また1月1日以降で初めて1個以上飛んだ日初観測日3日連続して0個が続いた最初の日の前日飛散終了日としています。


(「レーザー治療について」「ステロイド筋注とレーザー治療」もご覧ください。)