高校1年生 第3学期(2002年度)
2003年度は、2学期中間考査後から始めています。
なお、2003年度の指導については、
ここ(12/13/2003)からどうぞ。

 速読とボキャビル指導(初級)<脱和訳中心授業>

はじめに  テキスト  授業の進め方  今後の指導  用語の解説  生徒の感想  
授業参観

はじめに  −和訳先渡し授業−
 
  ここで紹介する「通訳訓練法を活用した指導」は、高校(私学・進学クラス・1年生)の授業で取り入れているものです。もともと社会人を対象にこの方法で教えていましたが、高校の授業でも取り入れられないだろうかという思いがありました。そこで、まず通訳訓練法の中から、生徒が興味を持ち、無理なく取り組めそうな活動を選んで指導することにしました。

 最初に指導したのは、スラッシュリーディングとシャドーリーディングです。スラッシュリーディングというのは、サイトラを応用したもので、英文をセンスグループ毎に区切り、文頭から読み下す方法です。シャドーリーディングは、英文を見ながらシャドーイングをすることで、リピーティングでも代用できます。英文テキストの見開きに模範訳があるので、生徒は自分でチェックしながらスラッシュリーディングを進めることができます。

 通訳訓練法と平行して指導したのが音読と音読筆写でした。というのは、スラッシュリーディング、シャドーリーディング、英文リプロダクションなどの活動を高校の授業で取り入れるためには、大前提として、音読と音読筆写を家庭学習として定着させる必要があります。音読筆写でしっかり予習しておけば、授業では日英サイトラやメモ取りリプロダクションが楽しみながらできるようになるはずです。

 次に指導したのはシャドーイングで、音読練習の最終チェックとして、前に出てデモンストレーションさせました。ただし、生徒全員に要求するのは無理がありますので、できない場合にはシャドーリーディングや音読で代用させました。

 最終段階になると、メモ取りリプロダクションやウィスパリング同時通訳を指導しました。前者は、スロースピードで英語を聞きながらメモを取り、そのあとでメモを見ながら英語でリプロダクションするのです。かなり高度な活動になりますが、「授業の進め方」のところで紹介している方法で段階的に指導すればできるようになります。後者は、二人一組になり、一人が耳元で英文を見ながらスラッシング訳を囁き、もう一人はそれを英語に同時通訳するのです。

 このように、段階的に通訳技術の要素を授業に取り入れました。現在の授業では、次のような活動を取り入れています。
   1 シャドーリーディングリピーティング、シャドーイングなどを活用した、音読中心の指導
   2 英文を意味のまとまり単位で、文頭から読み下しながら理解
   3 音読筆写
   4 スラッシュリーディング(サイトラ)
   5 メモ取りリプロダクション
   6 同時通訳
   7 レシテーション

 最後に、言うまでもないことですが『和訳が授業の中心的な活動とならない』点が、和訳先渡し授業の一番の魅力です。つまり、これまでテキストを逐語訳させるといった非効率的な活動に割いてきた時間を、他のより効率的で、創造的な指導に活用できるのです。これは確かにすばらしいことですが、自由裁量の時間をいかに活用するかという点で、教師の本当の英語力・指導力が試されるとも言えます。
 ここで紹介したのは、『私の指導法』なのですが、皆さんも生徒の実態とご自身の英語力に合った『指導法』を見つけてください。

 文中に出てくる用語の解説は、このページの最後にまとめています。)
                             
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テキスト
  速読練習とボキャビルを両立できるよう工夫されている市販テキスト。初級のものを使っています。見開きの左ページに英文、右ページに和訳があり、私の考える<脱和訳中心授業>に最適のテキストです。スロースピードとナチュラルスピードの2種類の吹き込みCDが付いているのも大きな魅力です。このCDのおかげで、生徒は自宅で音読練習ができます。
                             
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速読とボキャビル指導
  文章の長さにもよりますが、1レッスンを3〜4時間でカバーします。和訳が載っているので、英文の内容理解にはあまり時間をかけませんが、最終的に英文を暗誦することになるので、全体ではこれくらいの時間は必要となります。

                    第1時間目(語彙、文法、内容理解)

予習
 1 新出単語と構文解説に目をとおしておく。
 2 スロースピードのCDを聞きながら、センスグループで区切る。
   → 発展:CDを聞く前に、センスグループで区切る。
 3 センスグループ単位で、文頭から訳出する。
   分からないところは、テキストの模範訳を参考にする。

授業
 1 新出単語と構文の説明をする。別冊の解説書を活用する。
 2 単語テスト。
   → ペーパーテストもしくは口頭テスト。
 3 スロースピードに合わせ、センスグループ単位で指差しリーディングをさせる。
   → 訳させるのではなく、内容を読み取らせる。
 4 ナチュラルスピードで、「3」と同じ活動をさせる。
   → 指の動きがスムーズになるまで繰り返しさせる
 5 センスグループ単位で、文頭から訳出させる。
 6 パラグラフごとに、自分の言葉で説明させる。
 7 スロースピードで、音読指導をする。
   → イントネーションや音声変化に意識を向けさせる。
 8 スロースピードでシャドーリーディングをさせる。


                       第2時間目(音読指導)

予習
 1 スロースピードとナチュラルスピードで、シャドーリーディングをする。
 2 音読練習10回。
 3 文単位音読筆写 2回。

授業
 1 スロースピードで、センスグループ毎にリピーティングをさせる。(2回)
 2 ナチュラルスピードでシャドーリーディングをさせる(2回)。
 3 各自で音読練習。
   → この間に、活動「4」を個別指導してもよい。
 4 音読の仕上げとして、音読及びシャドーイングを数名の生徒に発表させる。
 5 リスニングテスト or ディクテーションテスト。
   → 上級レベルの場合、第1時間目に実施してもよい。
 6 日本文を見ながら、声に出して英文リプロダクション(筆記)。
   → この活動が難しい生徒は、音読筆写。
 7 英文リプロダクションで書いた英文を訂正・提出させる。
 8 英文リプロダクションを口頭で発表させる。


                      第3時間目(英文の定着)
予習
 1 文単位音読筆写2回。
 2 プラスワン・アクティビティーの英文を考えておく。
 3 同時通訳ができるように、サイトラ練習をしておく。
 4 復習テストの勉強をしておく。

授業
 1 スロースピードを聞き(2回)ながら、英語でメモを取る。
   → センスグループ毎に、1〜2単語のメモ取りが目安。
 2 メモ取りリプロダクション(書き取ったメモを見ながら口頭で英文リプロダクションをする)
   → 主語、述語、時制などに気をつけさせる。
 3 レシテーション or 同時通訳。
 4 プラス・ワン・アクティビティ。
   → テキストの英文の最後に付け加える英文や内容に関する質問文を発表させる。
     (疑問文を作るコツを説明。Why, How, Whatを含む疑問文が望ましい。)
 5 内容理解確認テスト。
     (文中の誤り・余分語・不足語を捜す問題、英作文整序問題、指示語内容理解度問題など)

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今後の指導
  現在の指導法は、できるだけ大量の英文を読み込み、英単語や構文を文脈の中で覚えるという考え方に基づいたもので、ボキャビルと同時に長文の速読・速解にはもっとも効率の良い方法だと信じています。しかし、一方で英文の定着を運用レベルまで高めるために、「日英サイトラ」、「メモ取りリプロダクション」、「同時通訳」といった通訳訓練法を取り入れた指導をしていますので、生徒にとってかなり大きな負担となっているはずです。生徒サイドに立てば、こういった負担に見合うだけの成果を実感できなければ、学習へのモティベーションを維持することができないのは当然です。

  生徒に学習の成果を実感させるためには、センター試験レベルの長文を読み、内容をスムーズに理解できるだけの力をつけさせたいと考えています。したがって、今後は授業と平行して長文読解問題などを投げ込み教材として積極的に活用し、このレベルの英文でも読めるようになったという自信を持たせたいと思います。2年生になれば全国模試も頻繁に実施されるようになり、模試対策上からもこういった指導が必要になるので、次のテーマには「実践的長文読解指導法」を考えています。

  1 今使っているテキストで、ボキャビル・多読・音読指導を継続する。(週4時間)
  2 実践的長文読解指導。(週2時間)
  3 文法・語法の強化をはかる。(週2時間)
                               
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用語の解説

音読筆写
 ベストセラーの「英会話ぜったい音読」で推奨されている勉強法です。テキストを音読しながらノートに書き写すという簡単な作業です。生徒には、音読筆写を応用した「文単位音読筆写」を勧めています。まず、一文単位で見ないで言えるようになるまで音読します。覚えたなと思ったら、英文を見ないで、音読しながら一気に書き写します。綴りを間違えていたり、途中で忘れたら、もう一度最初からやり直し。この方法で、テキストの英文を全部写します。普通の音読筆写は5回程度繰り返す必要があるようですが、「文単位音読筆写」だと1回か2回で十分です。

スロースピード、ナチュラルスピード
 使用しているテキストの場合、スロー100wpm、ナチュラル150wpmのスピードで録音されています。

指差しリーディング(CNNEE4月号より引用)
 読むときに指先、あるいは鉛筆などの先で追いながら読んでいく。指先を一定の速さで追っていくこと。英語の話される平均速度(150wpm)を保つよう心がける。テキストを指差しながら読んでみて、語句の意味が分からず、指の動きが止まりがちであれば、読むことができていないということ。その場合、もう一度指先が止まった語句の意味を調べる。訳すのではなく、あくまで内容を読み取っていく。指の動きが一定になるまで何度も繰り返して理解しなおす。

シャドーイング
 ヘッドフォンから流れてくる音声を、聞き手がほぼ同時に模倣していく作業で、音声感覚を磨くために有効とされています。この訓練により、学習者は無意識のうちにリエゾンやリダクションなどの音声現象を学び、英語のリズムやイントネーションを体得できます。
 ただ、シャドーイングは元来通訳者のためのスピーキング及びリスニング強化法で、上級者を対象とした英語学習法です。したがって、初級レベルの学習者を対象とする場合は、訓練を積んだ指導者のもとで行う必要があります。高校の授業ではリピーティングで英語のプロソディーをできるだけ忠実に再生させた後、シャドーリーディングさせることをお勧めします。

シャドーリーディング
 英文スクリプトを見ながらシャドーイングをする方法。文単位リピーティングがしっかりできるようになってから、シャドーリーディングで音読させるといいでしょう。この方法だと、聞こえてくる英語を文字で確認できるので、シャドーイングに比べて生徒の負担は大幅に軽減され、初心者でも無理なく取り組めます。

リピーティング
 まずセンスグループ単位で区切り読みされたCDに合わせて、ポーズの間にリピートさせます。最初はテキストを見て、イントネーションやストレスを書き込みながら行います。その後、テキストを見ないで実施します。一気に一息で言ってしまうのがポイントです。
 最終的には、文単位リピーティングができるようになることをめざします。
                             
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生徒の感想

 現在使用しているテキストで通訳訓練法を本格的に取り入れた授業を始め、実質2か月が過ぎましたが(2002年1月現在)、細かい修正をしながらなんとか上述のようなスタイルに落ち着くことができました。むろん、これも完成したものではなく、今後も生徒の英語力に応じて進化させるつもりで、その都度更新し続けていきたいと思っています。
 授業スタイルが一応落ち着いたところで、「同通訓練法を取り入れた授業」に対する生徒の反応はいかがなものか、コメントを書いてもらいました。ただ、生徒はどの部分が通訳訓練法だとか分かっていませんし、指導法に対する正当な評価能力があるとは思えませんので、参考程度に受け止めています。やはり、他の先生方に実際に授業を観てもらい、客観的に評価していただくことも必要だと思います。

○音読筆写すると、単語も覚えられるし、使い方も分かるので、とても役に立ちます。(多数)

○家でCDを聞きながら音読練習できるのがいい。授業の中で英文を自然に覚えられるようになっているので、単語や構文をスムーズに思い出すことができる。(多数)

○テープを聞いて、テキストにスラッシュを入れて訳すのと、CDを聞きながらの音読は、英語力がつくと思います。

○長文を読む力がついたと思う。

○単語力はついていると思うが、文法などはいまいち。
                              
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授業参観された他校の先生から届いたメール

 驚きと刺激で一杯の授業でした。特に、1年生にもかかわらず同通方式の授業を楽しみながらこなしている生徒達からさわやかな感動をもらいました。
 教師の資質向上のためには次の3点が必要だと云われてます。
 1 継続
 2 仲間
 3 外へ出ての刺激
 自分の中だけに留まらず新しい刺激を受けることの大切さを痛感しました。また英語を教えることへの新たな勇気が湧いてきました。ありがとうございました。
                             
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