黄昏に堕ちていく  < at 軍艦島.2 >

血のような緋い夕陽に染められた難破船の墓場。

クラピカの瞳の緋。
怒りの緋。
絶望の緋。

魔性の緋。



「ハンターにならなきゃな」

思わず口をついて出たけれど、励ましというよりは気休め。
そうでも言わないと納得できない。

もとよりオレが納得する必要などないのに。

ハンターになれなくても、あいつは仇を追うことをやめない。
それならば、少しでも有利な情報を得られるハンターである方が、生き延びる可能性はわずかに高いかもしれない。
それとも、よりディープな世界へのみこまれて抜けられなくなるか。
どちらにしても、オレの手は届かなくなるだろう。

それが無性に悔しい。
ばかばかしいような、この感情をなんて言えばいい。

緋い残照に神経まであてられてしまったか。



「おまえには、どうしてこうトップシークレットばかり話してしまうのだろうか」
自嘲気味に笑った。
「オレの人徳だろ」
わざと、ふざけた。
「・・・冗談もたいがいにしろ」

こいつは、ものすごく脆い。
それだけは確実だ。

このこわれものみたいな危うい微笑を消したくない。

   それは、おこがましい望みか。





「クラピカ・・・ひとつ聞いときたいんだがな」
「なんだ」
まじまじと見つめられると、微妙な罪悪感にとらわれる。
「そのー、つまり・・・」
「言いたいことがあるのなら、はっきり言え」
「あー、じゃあ言うけど・・・どっちにころんでもすっげー失礼なんだけど・・・」
「失礼と承知なら言うな」

  先に釘さすなよ。

「・・・おまえ、女、だよな」
「?!・・・////」


大きな瞳をことさらに見開いて、クラピカがかたまる。
けれど、多分、身の置き所がないのはオレも同じで。

やばすぎる。
男に対して女に見えたってのも、女にいまさら女かって聞くのも。
けど、やっぱゴンたちがそう言うからって、はいさいでって信用するのもしゃくに障る。


この際はっきりさせときたい。ルームメイトとしては。
そして、願わくば・・・。

「・・・男」
「え?」

  ちきしょー、やっぱ、男なのかよ

「男として見てくれ・・・」

  見てくれ?ってことは、えっと、おい・・・

「その方がいいだろう。いままでもそうしてきたし・・・これからも」

それで終わりだと言わんばかりに、踵を返す。

「いやだ」
「え・・・」
歩が止まった。
「なんかわかんねーけど、オレはいやだ」


「レオリオ・・・」
「そ、そりゃ、おまえの経歴考えたら、その方が都合いいんだろうけど・・・」
「わかっているなら」
気まずそうに視線をそらした。

「・・・他の者にも、気づかれているのだろうか」
「いや、ゴンとキルア以外は・・・あのふたりはトクベツだし」
「それならば、やはりこのままで通してくれ・・・無用な面倒は避けたいのだ」

「他の連中には言わねーから!」
気づいたらクラピカの両の手首をつかんでいた。
「では、どうしろと言うのだ。おまえの前では女のようにふるまえとでも言うのか。何を企んでいる!」
オレの手から逃れようともがく。
「何も企んでなんかねーよ。けど、おまえのことが」


「黙れっ!!」

振り払われた。





「・・・とんだトップシークレットだ」
かすれたような声。


「・・・そろそろ戻ろう。日もおちてしまった」

先に立つ背中。
どんな表情なのかわからない。


  オレは、おまえのこと・・・



「すきだ・・・」




思考と別のところで紡がれる言葉。

「いま・・・なにか言ったか」

「・・・いや、なんでもない」


聞こえなかったのは幸いか。
言いたださなかったのは卑怯か。

   本気か、オレ?




















  とりあえず考えてもはじまらない
  いままでどおり、いままでどおり・・・


「そ、そんな格好をさらして、貴様、どういうつもりだーーーー///!!!」


   ぼかっ


・・・わざわざ至近距離まで自分で近づいて殴ることもないと思うのだが。

「男として見ろって言ったの、てめーじゃねーかよ!!」
例のホテルの小部屋で「男同士でなに考えてんだ」みたいなセリフがあったよなあと(確認していないのだけど)、しかしうちのレオ兄はこの時点では女の子だって気づいてたはずだと、迷ってメッセンジャーで某さまにそのことを言ったところ
「ピカが『男としてみろ』と言ったとか(で、男同士だな、と逆切れする)」との助言を。

そうか、男としてみろ・・・してみろ?なにを?!

ちがーーう、男として見てくれ、だーーー

  ああ、腐ってる

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MEMO/050924