わたしたちの近代史文庫は、1953年8月に創立されました。現在に至るまで、各会員は、自分が住み働く地域住民社会集団のなかで、研究と教育と社会的実践につとめてきました。ある者は、村や町の地方(じかた)史料の収集を、ある者は、新聞記事の筆耕をこつこつと続け、ある者は、村や町の幼ない住民である児童・生徒を教えながら、父母・青年と、その村や町を変えるために活動し、またある者は労働運動のなかで、ある者は、母親運動のなかで、学びながら記録をとり続けてきました。
わたしたちは、愛媛の村や町だけでなく、全国各地で、地域住民として多くの住民とともに学習し、研究活動を続けてきました。そうした長年の活動のなかで、わたしたちは、歴史の進歩は、地域住民の主体的成長と地域社会の変革を通して可能となることを体得し、これまでの「郷土史」、「地方史」の考え方をのりこえ、地域社会の歴史をとらえる新しい観点として「地域社会史論」を提起しました。
わたしたちに、そうした自覚を促したものは、1950年代後半から現在に至る地域社会の動きであったといえましよう。とくに、愛媛における勤評闘争・安保闘争・学テ問題・地域開発・公害問題など一連の動きに示されるような、中央直結の保守県政及び70年代後半における「保守の地域主義」県政の展開によって、わたしたちは、地域社会史論の観点を一層深化させる努カをつづけてまいりました。
この間、わたしたちは、『愛媛近代史料』・『愛媛現代史料』・機関誌『愛媛近代史研究』・『愛媛資本主義社会史』を遂次刊行し、大阪の会員たちは、部落問題関係資料を、字和島の会員たちは、伊達家史料を、それぞれ、続刊しています。
近代史文庫の会員は、それぞれ、住んで働いている各地域で、地域研究会を組織し、現在、県内全国で10の地域研究会が活動しています。会員は学歴・職業に関係なく平等な研究者として結集し、地域住民の手で地域住民の歴史を記録し、分析し、総括するための共同研究を進めています。
わたしたちは、この営みを“人民の記録係”を勤めることだと考え、史料はすべて、広く公開し、多様な地域往民の共同研究の輪を広げることに努めてきました。わたしたちは、地域社会の歴史を調べ、書き、語り伝えることを通して、地域社会の歴史をつくる担い手として成長したいと思っています。
1974年1月、わたしたち近代史文庫に、愛媛新聞賞が贈られました。これは、愛媛の地域住民が私たちの活動を理解し、激励してくださったのだと考え、一層の努力の必要を感じました。
かねてから、私たちは、近代史文庫が地域社会の歴史の調査研究に役立つ資料センターとしての役割や、地域社会の多様な研究・教育・文化活動の会場としての役割をも担うことができれば幸いであると考え、1975年8月の総会で、近代史文庫会館の建設を決定しました。わたしたちは、この会館建設を、建物を建てるという見地からだけでなく、地域社会史論の観点に立った運動としてとらえ、地域住民の教育運動の一環としてとりくみました。会員家族の協カはもとより、県内・全国各地の研究者・研究団体などのご支援を得て、1979年8月に竣工することができました。
わたしたちは、地域住民の科学としての地域社会史研究と地域住民の歴史教育運動とを結合し、地域住民の主体形成運動としての「地域住民社会史学運動」を進めていきたいと念願しています。
わたしたちは、ここに生き、住み、働き、学び、闘う営みを限りなく続けていくために、さまざまな入々の新しい視点と若々しいエネルギーが注ぎ込まれることを願っています。
1981年
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