「すりこみ」という言葉がある。
子供の頃や若かりし頃に食したものや見たものは、いつまでたっても忘れられないものである。
子供の頃に、両親に連れられて「城下」へよく出かけた。「城下」とは旧市内のことである。
我が家の定番は、お城山か道後動物園、そして、必ずといっていいほど三越にも立ち寄った。
あの当時は、たいした娯楽もなかったので、どこの家でも似たり寄ったりではなかったかと思う。
三越では、屋上で遊び、当時珍しかったエレベーターにもよく乗った。母親がまったく化粧っけがなかったせいか、どの店員さんもファッション雑誌に出てくるようなきれいなお姉さんに見えた。
おとんぼで甘えんぼだった私は、我が儘を言っては駄々をこね、店内の通路に座り込み、亡き母を困らせることが度々あった。
三越からの帰りは、すぐ前のロンドン屋でよく食事をした。
私にとって最高の贅沢であり、楽しみのひとつでもあった。
時代は多少前後するが、今もなつかしく、私の頭にすりこまれている物がある。
大学の時によく食べた銀天街のL字の所にあった「かめや」のうどん。値段は安く、すうどんの大まわしをよく食べた。
成人してからは、銀天街の「ことり」の鍋焼きうどん。今も家内と、月に2、3回は出かける。道後の「としだ」の肉うどん。大街道のひとつ西の通りにあった「かめ」の焼きそば。山西駅前の「日の出食堂」のあっさり中華そば。何れもそれぞれに特徴があり、実にうまかった。
まさしく、松山の味そのものである。
時代の流れの中で、ロンドン屋・としだ・かめは後継者が無く、残念ながら消えていった。今、あの味を懐かしんで何らかのご縁のあった方々が、それぞれの味を受け継いでおられると聞いている。近いうちに是非とも食してみたい。
恐るべし「すりこみ」!