上手な「すき」の伝え方 < 2 >

一方、電話の向こうでレオリオは困惑していた。
バレンタインにデートに誘って忙しいからと断られた愛しい恋人から、突然「今から行く」と言われたのだ。本来なら大歓迎すべきところだが、どうも甘い展開を期待できるような雰囲気ではない。むしろ、どうにもえらい剣幕なようで。
すぐにかけなおしたものの、電源から切られている。
なにか怒りにふれるようなことをしたかと内心びくついていた。バレンタインがなんたるか知らないだろう彼女をデートに誘った下心がばれたか。
ああ、それとも、それとも・・・・。


そしてそろそろシンデレラも帰り支度をはじめる頃。
ようやく着いたクラピカをとりあえず平静を装って迎え入れる。
「よく来たな。休めそうにないって言ってたからうれしいぜ」
奥へとうながすが、それには応えず。
「まだ日付は変わっていないな」
「あ?ああ、まだ13日だ」
「そうか、よかった。まにあった」
まにあったって、14日のうちにチョコレートを渡したいとかいうのならわからないでもないが。
時差ぼけでもないだろ。

「レオリオ、おまえに言っておきたいことがある」
何と問い返す間もなく、両の手首をつかまれた。
見上げる真剣なまなざしに気おされて、思わず、ごくりと唾を飲む。
クラピカは一瞬目を伏せてふうっと大きく息をつくと、あらためてまっすぐに瞳を見据えた。


「私は・・・私はおまえがすきだ」


   え”・・・・えーーーーーっ?!

思考回路がショートした。

「そ、それだけ言うために来てくれたのか?」
こくんと頷く。

私は世間並みなこともできないが、世間がするからというのはどうにもなじめない。
私は私の意志で「14日」にならないうちに言いたかった。
なんだか明日になってしまえば、ひどく軽くなってしまうような気がして、それはおまえに対しても失礼だと思ってしまったから。

ぼそぼそと、まるで言い訳のように。

「なんだよ、もうクラピカちゃんは。普段、何も言ってくんねーから、こっちは疑心暗鬼になって、よけいにこーゆー時に期待しちまうんだぜ」
レオリオはひどく浮かれた気分になって、くしゃくしゃと俯く金の髪をもしゃぐる。

「ば、ばかものっ」
その手を払おうとして、しかし、へなへなとその場にすわりこんだ。
「おい、クラピカ、どした」
「・・・なんだかものすごく疲れたのだよ」
つられてレオリオもすわりこむ。
「オレもだ。おまえ・・・ほんっとに考えなしだな」
自分の行動を自覚して、クラピカの頬が染まる。
「考えなしで悪かったな」
「けど、うれしい。こんなうれしいことねーよ」

狭い玄関ですわりこんだままに抱き寄せると、素直にその身を委ねてきた。

「な、クラピカ、もっかい言ってくれねーか」
「いやだ」
「なんで」
「大事なことはそう軽々に口にしてはならないものだ」
「そんなーー」


さて、おっせかいなオコサマたちが愛のキューピッドになりえたかどうか?・・・は神のみぞ知る。
昨年(05年)のバレンタインは、日記の小噺的ネタでごまかした。
お祭り騒ぎ的な慣習は日本独特のもので、どちらかというと欧州的なハンター界ではどうなのかという気もするが、まあ妄想の世界ではよしとしてもらいたい。意外に日本的な部分も垣間見られる世界だし。
そういえば以前の日本では「女の子の方から告白してもいい日」みたいに言われてたように思う。さすがに現在はそんなこと聞かれないが、ピカはかちんとくるに違いない。
でも「イベントにのせられるのが嫌」と「その日がくるまえに」とこだわるあたり、完全にのせられてしまってるよね。

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060215