上手な「すき」の伝え方 < 1 >

  「クラピカはレオリオにチョコあげるのかな」

バレンタイン仕様の甘ったるいディスプレイを物色しながら、ゴンがつぶやいた。
正直、オレもゴンもこのイベントにはあんまり縁はない。
チョコ自体には、おおいにキョーミあるんだけどな。
そして、オレたちの周囲でいちばん重要事項なはずのふたりが、多分いちばん遠いところにいるような気がする。

あいつが世俗に疎いってことはクリスマスに思いしらされてるから、これはレクチャーの必要おおありだと思ったわけ。
だけどこっちもいろいろ忙しいし、あいつときたらもっとわけわかんねー生活してるし、結局呼び出せたのは『Xデー前日』。

「明日、レオリオと会うの?」
単刀直入にゴンが切り出したら、きょとんとしてきっぱり否定した。
「誘われたのだが、私の予定がまったく定まっていなかったので断ったのだよ。来週なら確実に時間がとれるから、その方がいいと思って」
オレたちは顔を見あわせた。

来週じゃ意味ねーんだよ。やっぱ、これってそもそも気がついてない?

「あれじゃレオリオかわいそーだよ」っていうのはゴン。
(でも、ゴンの「かわいそう」って何を指してんだか)
オレは、あのふたりはつつけばつつくほどおもしろいからってのが半分・・・いや、7割方。

なんつーか、はたで見てても煮え切らないってゆーか、イラつくってゆーか。
おっさんも「女好き」を自認するわりには肝心なとこじゃ押しが甘いんだよな。
なにエンリョしてんだよって、背中蹴飛ばしたくなる。
それに輪かけて、あの「天然」だろ。おっさんが強引になんなくって、どーすんだよ。

クラピカって「レンアイ」には笑っちゃうくらい免疫がないから、ぜーーったい照れて「すき」なんて言えないに決まってんだし。
バレンタインなんてのは、いいキッカケだって思うんだけどな。
いくらあいつでも「世間並み」ってオブラートにくるんじまえば、どうにかなるんじゃないかって・・・。
ま、おっさんひとりにいい目見させるのも、しゃくっていやしゃくだけどさ。
とにかく、これでどうにかなったら、オレたちってキューピッドみたいじゃん♪


だけど・・・敵もさるもの、難攻不落。
「だーかーらー、この日は女の子の方から告白する日なわけ。確実に、おっさん期待してるぜ」
「民俗学的な見地からは、男女の出会いを目的とした祭りといった風習は珍しくもないが・・・その中には女性に選択権があるものも少なくないと思うが、どうもそういったものとは違うようだな」
「そんな深く考えなくたっていいじゃん。そういうやつの現代版だって思えば」
「しかし、なぜチョコレートなのだ。だいたい、おまえたちと違ってあの男は甘いものは好まないと思うが」
「チョコレートは象徴なんだよ。すききらいじゃなっくて」
「チョコレート会社の陰謀なんだろ」
「・・・なにか腑に落ちないな」

「クラピカ、レオリオのことすきなんでしょ」

うわー、すごいわかりやすい反応。ここは、もう一押し。

「いっぺんくらい『すき』とか『あいしてる』とか言ったことあんのかよ」
「そ、そんなこと、面と向かってなど言えるものか」

じゃあ、ちょうどいいじゃん。


ガタン。突然クラピカが立ち上がった。
「そういうのは、ごめんこうむる」

「思いを伝えるということは、それほど軽々しいものではないし、『告白していい日』などと他人に許可を受ける覚えはない」
そういうと携帯を取り出して、すっかり暗記しているらしいナンバーをたたく。

やべ。もしかして、キレた?!

「私だ。いまどこにいる。家か、わかった。いまからそちらへ向かう」
『・・・って、おまえこそいまどこにいんだよ。近くなのか』
「いや、しかし半日もあれば着けるだろう。おまえに言うことがある」

言うだけ言うと、おそらく返事も待たずにぶちっと切っちまった。

「レオリオ?」
「そのお祭り騒ぎとは関係ない。それからキルア、先に根回しなどするな。わかったな」
ぴしゃりと言い放つと、伝票をつかんで出て行った。

えーと、これっていったい・・・。

「なんか逆効果だったみたい。レオリオに言っといた方がよくない?」
「もう、いーや。ほっとこーぜ。どのみち、いまから行ったら当日はいっしょなんだしさ。あとは、おっさん次第じゃん」

あー、もう、ほとほと世話がやける。

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060215