ささやかなジェラシー
目覚めると、ベッドの半分は男の香りを残して、もぬけの殻だった。
確か、今日は講義はないと言っていたはずだが・・・。
クラピカは訝しく思いながらも洗顔を済ませ、さてどうしたものかと再びベッドのふちに腰掛けた。
ひとりでいると妙に広くうすらさむく感じる。
ベッドサイドの携帯に手をのばしたはずみで、そばにおいてあった硬貨がばらばらとちらばった。
ベッドの下にころがった1枚を追って覗き込む。うっすらホコリの積もった中に、乱雑に詰め込まれた箱やら雑誌の束やら・・・。
そして、「それ」に視線がとまった。
それは、独り暮らしの男の部屋に無造作にころがっていても特段珍しいものではなかったが。
眉間にしわをよせて元のところへ戻そうとして、ふと、その動きが止まる。誰もいない部屋だというのに、なんとはなしにあたりをうかがって、おそるおそるページをめくる。
そこには、同性とはとても思えないナイスバディなおねーちゃんの悩ましげなポーズがこれでもかとばかりに炸裂していた。
うしろめたさと恥ずかしさで気が滅入る。
やはり、男というものは、こんなたわわとした胸がよいのだろうか。
大きくため息をついて、タンクトップの襟元をつまんで覗きこむ。
見事なほどに、まっすぐだ・・・・。
男の嗜好や欲など、はかりしることはできないけれど・・・揉みたいとか思うのだろうか。
こんな筋肉と紙一重のうすっぺらな胸では、少年のそれとなんら変わりなく、まして・・・とうてい不可能だ。
男の大きな手を思い、ぞくりとする。
まるで子どもをあやすように抱きしめるだけで、指一本触れようとしないのは、多分、女として見られていないからなのだろう。
どこかほっとするようで・・・どこか寂しい。
少年と見まがうような成長しか成しえなかったことは、ひとりでいるには好都合だった。
けれど、今はそれが恨めしい。
いっそ、ほんとうに男だったらよかったのに。
そうしたら、こんな想いを抱えずにいられたかもしれないのに。
何の気兼ねもなくつきあえたかもしれないのに。
それでも・・・男でも女でも、多分、私はあの男にひかれていただろう。
ならば、どちらでも辛さは同じだ。
ど、どうにかしている、私。
なんてことを考えているのだ。
突然、我に返った。
手にしているのも恥ずかしくなって思わず放りだそうとした時、ドアの開く音がした。
「わ、わ・・・レオリオ?!」
いきなりパニックに陥って、件の雑誌を隠そうとおたおたしていると
「クラピカ、起きてたか。・・・どうしたんだ?」
「ど、どこに消えていたのだ」
「いや、パンがきれてたから買いに。焼きたてだぜ」
口調はきわめてのんきに、しかし、背中にまわしたクラピカの手の先を肩越しに伺っている。
「なにやってんだ、おまえ」
「別に」
「・・・あやしい。なに隠してんだ、見せろ」
「あ、ばか!やめろ!!」
「やめろと言われると、やりたくなんだよなー」
長身の男にのしかかられてはたまったものではない。
クラピカの手をはなれたそれに、ふたりの視線が同時にぶつかった。
―――――気まずい沈黙
「あ、あの、クラピカ、これはだな」
「かまわんっ。別にたいしたコトではない」
「たいしたって・・・」
「いつも言っているではないか。自他ともに認める女好きのすけべだと」
「・・・すけべとまでは自称してねーぞ」
「エロ本くらい、あって当然ではないか。かえって興味もないようでは、健康状態に不安を抱くぞ」
よもやクラピカの口から「エロ本」などという単語を聞くとは思いもよらぬことで、レオリオは目を丸くして二の句がつげないでいた。
「おまえがどういう写真にうつつを抜かそうが、どういう使い方をしようが、私にはあずかり知らぬことだ。・・・ただ」
「ただ?」
「・・・私を比較しないでくれ」
最後の方は消え入りそうで・・・。
その様がレオリオにはひどくかわいいと思えてしまう。
「言っとくがな、クラピカ。グラビアねーちゃんとはりあっても意味ねーぞ」
「なに」
「勝負になんねーんだよ、ばか」
あんまりかわいいから、その先は言わないでおこう。
オレはおまえを他の誰かと、まして写真なんかと比べるほど愚かじゃないっての
「勝負にならない」の意図、わかってもらえますよね。
ピカと同じ誤解生みそうな・・・。
ボツセリフ
「きれいごとは言わねーよ。オレは普通のただの男だから、生理的なもんには勝てねー。ああいうもんにだって反応しちまう。
軽蔑したってかまわねー。
ただ、おまえには、そんな衝動てか欲求だけのことはしたかねーんだよ」
・・・なんか、かっこよすぎてさ(苦笑)
タイトル、最初「天然彼女100%」であげたんだけど、(「天然果汁」のひっかけ)にしては天然度合いが足りない?とか思って変更しました。「嫉妬」とか「やきもち」系だなあと。
もっと最初は「青い果実」だったんだ・・・そりゃ、あんまりだろって。でも、山口百恵の曲名からなんだよ。ちなみに今度のも「ささやかな欲望」って確か「赤いシリーズ」からの・・・。
<< TOP >>
NEXT >>
MEMO/050717