SIDE-C
『引っ越した。だから今度来るときは、絶対に連絡してくれ』
レオリオから携帯にメールが届いていた。
電話もメールも彼の方からよこすのがほとんど。私は返信も3回に1回できればいい方。普通、女の方がこういうことには、まめだと聞くのだが。
別に邪険にしているわけではない。
本音をいえば・・・うれしい。けれど、素直な感情を出せない。出し方がわからない。忙しさを建前に、迷っているうちに、結局、機を逸してしまう。
この小さな機械がいまの私たちの距離を縮めてくれる唯一の手立てだというのに。
普通なら、これだけで充分嫌われて然るべきなのだ。私は、すきだという彼の言葉にこたえたことがない。こたえられない。こたえかたがわからない。それなのに、なぜこんなにも私にかまうのだろう。なぜ、こんなにやさしいのだろう。
『いつ行けるかわからない。とりあえず住所を知らせてくれ』
ぶっきらぼうとしかいえない返信。
さすがにあきれたか、返すメールは来なかった。
その夜遅くに携帯が鳴った。
「寝てた?いま、大丈夫か」
「いや起きている、何か用か」
いつもどおりの声。
空間を圧縮して伝わる暖かな。
「用って言われたらたいしたことじゃねーんだけど、今度の家な、最初はオレがエスコートしてぇんだよ。だから」
「エスコート?!」
「あー、ちょっと大げさだな。とにかく、来れるようになったら連絡くれよな」
何の思惑があるのか、あくまで内緒にしておくつもりらしい。
いやな予感がしなくもないが、まあいざとなれば探すことに不便はない。
「しかし、急にどうしたのだ。別に、おまえの住まいなのだから、私がどうこう口出しすべき問題ではないのだが」
「ゲストルームもないようなボロアパートじゃ、胸はっておまえにいつでも来いなんて言えねーじゃねーか」
「・・・私のせいなのか」
絶句した。
「そんなんじゃねーよ。オレも迂闊だったよなー。あれだけ誘っといて、よく考えりゃ泊める部屋ねーんだもんな」
「それでも、泊めてくれたではないか」
そう、危うく部屋の主を狭いソファーに追いやるところだったのだが。
「あ・・・あー、いちおーな。でも、いつもあれじゃーさー、おまえ嫌だろ」
「まあ、確かに2人ではさすがにきついな」
「・・・はは、きついって、それだけか」
なんだか弱々しげな、苦笑まじりに聞こえるのは気のせいか。
心地よい暖かさがよみがえってくる。
しかし、大柄な彼には申し訳ないことをした・・・と反省している。
「とにかく、おまえに気兼ねなく来てほしいんだよ。予約もされてんだし」
身勝手な暴挙に及んだことがフラッシュバックした。
わ、私はなんてことを言ったんだ。
「すまない」
「いちいち、あやまるなー」
「す、すまない」
私のせい?私のため?
あの時はどうにかしていたのだ。
そう気づくと、急に頭が真っ白になって、同時に胸のあたりが痛くなって。
「クラピカ、クラピカ、どうしたんだ」
無意識にオフのボタンを叩いていた。
呆然と携帯の暗い画面を見つめていると、メール受信を知らせる青い光。
『なんか怒らせた?ごめんな』
なぜ、おまえがあやまるのだ。
澱む気持ちを抑えてメールを打つ。
『いや、なるたけ早く都合をつける・・・ありがとう』
『引っ越した。だから今度来るときは、絶対に連絡してくれ』
レオリオから携帯にメールが届いていた。
電話もメールも彼の方からよこすのがほとんど。私は返信も3回に1回できればいい方。普通、女の方がこういうことには、まめだと聞くのだが。
別に邪険にしているわけではない。
本音をいえば・・・うれしい。けれど、素直な感情を出せない。出し方がわからない。忙しさを建前に、迷っているうちに、結局、機を逸してしまう。
この小さな機械がいまの私たちの距離を縮めてくれる唯一の手立てだというのに。
普通なら、これだけで充分嫌われて然るべきなのだ。私は、すきだという彼の言葉にこたえたことがない。こたえられない。こたえかたがわからない。それなのに、なぜこんなにも私にかまうのだろう。なぜ、こんなにやさしいのだろう。
『いつ行けるかわからない。とりあえず住所を知らせてくれ』
ぶっきらぼうとしかいえない返信。
さすがにあきれたか、返すメールは来なかった。
その夜遅くに携帯が鳴った。
「寝てた?いま、大丈夫か」
「いや起きている、何か用か」
いつもどおりの声。
空間を圧縮して伝わる暖かな。
「用って言われたらたいしたことじゃねーんだけど、今度の家な、最初はオレがエスコートしてぇんだよ。だから」
「エスコート?!」
「あー、ちょっと大げさだな。とにかく、来れるようになったら連絡くれよな」
何の思惑があるのか、あくまで内緒にしておくつもりらしい。
いやな予感がしなくもないが、まあいざとなれば探すことに不便はない。
「しかし、急にどうしたのだ。別に、おまえの住まいなのだから、私がどうこう口出しすべき問題ではないのだが」
「ゲストルームもないようなボロアパートじゃ、胸はっておまえにいつでも来いなんて言えねーじゃねーか」
「・・・私のせいなのか」
絶句した。
「そんなんじゃねーよ。オレも迂闊だったよなー。あれだけ誘っといて、よく考えりゃ泊める部屋ねーんだもんな」
「それでも、泊めてくれたではないか」
そう、危うく部屋の主を狭いソファーに追いやるところだったのだが。
「あ・・・あー、いちおーな。でも、いつもあれじゃーさー、おまえ嫌だろ」
「まあ、確かに2人ではさすがにきついな」
「・・・はは、きついって、それだけか」
なんだか弱々しげな、苦笑まじりに聞こえるのは気のせいか。
心地よい暖かさがよみがえってくる。
しかし、大柄な彼には申し訳ないことをした・・・と反省している。
「とにかく、おまえに気兼ねなく来てほしいんだよ。予約もされてんだし」
身勝手な暴挙に及んだことがフラッシュバックした。
わ、私はなんてことを言ったんだ。
「すまない」
「いちいち、あやまるなー」
「す、すまない」
私のせい?私のため?
あの時はどうにかしていたのだ。
そう気づくと、急に頭が真っ白になって、同時に胸のあたりが痛くなって。
「クラピカ、クラピカ、どうしたんだ」
無意識にオフのボタンを叩いていた。
呆然と携帯の暗い画面を見つめていると、メール受信を知らせる青い光。
『なんか怒らせた?ごめんな』
なぜ、おまえがあやまるのだ。
澱む気持ちを抑えてメールを打つ。
『いや、なるたけ早く都合をつける・・・ありがとう』
SIDE-L
『引っ越した。だから今度来るときは、絶対に連絡してくれ』
クラピカの携帯にメールを送った。
電話もメールもオレが送りつけるのがほとんど。あいつからは3回に1回も返ってくれば御の字だ。普通、男の方がこういうことは、苦手だと聞くのだが。
別に避けられているわけではないと思う。
本音をいえば・・・もう少し声が聞きたい。けれど、あいつの立場ではそういうわけにもいかないのだろう。頻繁なメールも迷惑かもしれない。
しかし、この小さな機械があいつの消息を確認できる唯一の手立て。
心底迷惑なら、辛辣なあいつのことだ。もう少し再起不能なまでにはっきりした態度をとるんじゃないかというのが、オレの欲目。すきだとあいつに言い続け、実のところ明確な返事をもらったことはない。微妙な暗黙の関係。いまさら確かめるのも不自然なくらいに。
『いつ行けるかわからない。とりあえず住所を知らせてくれ』
ぶっきらぼうとしかいえない返信。
いかにもあいつらしい。
その夜遅く、めずらしく容易くつながった。
「寝てた?いま、大丈夫か」
「いや起きている、何か用か」
いつもどおりの声。
その変化のなさに無意識に安心する。
「用って言われたらたいしたことじゃねーんだけど、今度の家な、最初はオレがエスコートしてぇんだよ。だから」
「エスコート?!」
「あー、ちょっと大げさだな。とにかく、来れるようになったら連絡くれよな」
そう、ささやかな野望のためには内緒にしておきたいのだ。
教えなければ探してしまうであろう可能性は、この際頭からおしやって。
「しかし、急にどうしたのだ。別に、おまえの住まいなのだから、私がどうこう口出しすべき問題ではないのだが」
「ゲストルームもないようなボロアパートじゃ、胸はっておまえにいつでも来いなんて言えねーじゃねーか」
「・・・私のせいなのか」
電話口の向こうで絶句する気配がした。
「そんなんじゃねーよ。オレも迂闊だったよなー。あれだけ誘っといて、よく考えりゃ泊める部屋ねーんだもんな」
「それでも、泊めてくれたではないか」
オレがおまえを泊めないわけがなかろーが。
「あ・・・あー、いちおーな(汗)。でも、いつもあれじゃーさー、おまえ嫌だろ」
オレはいいけど、いや、よかないけど。
「まあ、確かに2人ではさすがにきついな」
「・・・はは、きついって、それだけか」
なんだか一気に脱力した。
オレはよっぽど信頼されているのか、それとも、バカにされているのか・・・。
しかし、理由はどうあれ少しぐらいの「トクベツ」を自負しても罰はあたらないだろう。
「とにかく、おまえに気兼ねなく来てほしいんだよ。予約もされてんだし」
気を取り直し、そう、あの予約は快挙以外の何物でもない。いまさらキャンセルは勘弁してくれよ。
「すまない」
「いちいち、あやまるなー」
「す、すまない」
なにを、おまえはあやまってるんだ。
オレはめちゃくちゃうれしかったんだぞ。
けれど、携帯のむこうではとまどったような沈黙が続いていて。
「クラピカ、クラピカ、どうしたんだ」
一方的に通話が切られた。
呆然と携帯の暗い画面を見つめ、なにが気に障ったのか反芻するが・・・。
『なんか怒らせた?ごめんな』
ほどなく返信のメールが届く。
あいつにしては奇跡的な速さで。
『いや、なるたけ早く都合をつける・・・ありがとう』
『引っ越した。だから今度来るときは、絶対に連絡してくれ』
クラピカの携帯にメールを送った。
電話もメールもオレが送りつけるのがほとんど。あいつからは3回に1回も返ってくれば御の字だ。普通、男の方がこういうことは、苦手だと聞くのだが。
別に避けられているわけではないと思う。
本音をいえば・・・もう少し声が聞きたい。けれど、あいつの立場ではそういうわけにもいかないのだろう。頻繁なメールも迷惑かもしれない。
しかし、この小さな機械があいつの消息を確認できる唯一の手立て。
心底迷惑なら、辛辣なあいつのことだ。もう少し再起不能なまでにはっきりした態度をとるんじゃないかというのが、オレの欲目。すきだとあいつに言い続け、実のところ明確な返事をもらったことはない。微妙な暗黙の関係。いまさら確かめるのも不自然なくらいに。
『いつ行けるかわからない。とりあえず住所を知らせてくれ』
ぶっきらぼうとしかいえない返信。
いかにもあいつらしい。
その夜遅く、めずらしく容易くつながった。
「寝てた?いま、大丈夫か」
「いや起きている、何か用か」
いつもどおりの声。
その変化のなさに無意識に安心する。
「用って言われたらたいしたことじゃねーんだけど、今度の家な、最初はオレがエスコートしてぇんだよ。だから」
「エスコート?!」
「あー、ちょっと大げさだな。とにかく、来れるようになったら連絡くれよな」
そう、ささやかな野望のためには内緒にしておきたいのだ。
教えなければ探してしまうであろう可能性は、この際頭からおしやって。
「しかし、急にどうしたのだ。別に、おまえの住まいなのだから、私がどうこう口出しすべき問題ではないのだが」
「ゲストルームもないようなボロアパートじゃ、胸はっておまえにいつでも来いなんて言えねーじゃねーか」
「・・・私のせいなのか」
電話口の向こうで絶句する気配がした。
「そんなんじゃねーよ。オレも迂闊だったよなー。あれだけ誘っといて、よく考えりゃ泊める部屋ねーんだもんな」
「それでも、泊めてくれたではないか」
オレがおまえを泊めないわけがなかろーが。
「あ・・・あー、いちおーな(汗)。でも、いつもあれじゃーさー、おまえ嫌だろ」
オレはいいけど、いや、よかないけど。
「まあ、確かに2人ではさすがにきついな」
「・・・はは、きついって、それだけか」
なんだか一気に脱力した。
オレはよっぽど信頼されているのか、それとも、バカにされているのか・・・。
しかし、理由はどうあれ少しぐらいの「トクベツ」を自負しても罰はあたらないだろう。
「とにかく、おまえに気兼ねなく来てほしいんだよ。予約もされてんだし」
気を取り直し、そう、あの予約は快挙以外の何物でもない。いまさらキャンセルは勘弁してくれよ。
「すまない」
「いちいち、あやまるなー」
「す、すまない」
なにを、おまえはあやまってるんだ。
オレはめちゃくちゃうれしかったんだぞ。
けれど、携帯のむこうではとまどったような沈黙が続いていて。
「クラピカ、クラピカ、どうしたんだ」
一方的に通話が切られた。
呆然と携帯の暗い画面を見つめ、なにが気に障ったのか反芻するが・・・。
『なんか怒らせた?ごめんな』
ほどなく返信のメールが届く。
あいつにしては奇跡的な速さで。
『いや、なるたけ早く都合をつける・・・ありがとう』