此処に在る平穏

  あーー、やっぱり・・・

がしがしと髪をタオルで拭きつつシャワーから出たオレは、案の定のためいきをついた。

  だから、先にはいれって言ったのに

遠来のお姫さまは眼下のソファーで眠りこけている。

「おい、クラピカ。起きろ。起きて寝ろ」

しかし敵もさるもの、少々ゆすぶったくらいでは起きる気配はない。
かえって、ずるりとソファーに横たわってしまった。

こいつがこんなに無防備で眠り込んでしまうなんて、多分、こいつのホームグラウンドではありえない。
オレの部屋だけの光景。
それが、オレの最大の自負。
そして、最大の自己嫌悪。

人間そうそう寝だめなんてできるわけがないのだから、ある意味眠ることがこいつのストレス解消なんだろう。
それなら平穏に眠らせてやりたいけれど。

「せめて着替えろ。服がしわだらけになるぞ」

肩をつかんで半身を起こすと、そのままくたりとオレにもたれかかってしまう。
この感触にはいつもぞくりとする。
がらがら自己崩壊する寸前の「理性」とやらをフル稼働させて、同時に感じる重たっくるしい自己嫌悪。

仕方ねーなー、上衣くらいは脱がせとかないと。
クルタ特有の青いマントというか貫頭衣というかは、意外に簡単に外れるのだが、それでも一応、お伺いをたてておく。

「自分で着替えねーんなら脱がせるぞ」

「すきにしろ・・・」

     へ―――――いま、なんか言ったか

思わず手をとめて顔を見る。
が、お気楽にすーすーと寝入っているだけで。


すきにしろって、すきにしろって、すきにしろって・・・・・できるか、あほ!!!!


抱き上げて、はたと迷った。

  どこへ寝かせよう―――。

いや、寝かせるんだからベッドはあたりまえなんだけど、正直どっちへ寝かせよう。
こいつはたいていオレにくっついて眠るから窮屈なオレのベッドってことになるんだけど、すでに寝入ってるこいつをオレのベッドに引き込むってそれってどーよって気になるし、でも、もしひとりで寝かせて目が覚めたら寂しがったりしねーだろーかとか、オレがいやがってるとか誤解するんじゃねーかとか、いや、そんなのオレの欲目でしかありえないとか、そもそもやっぱり別々に寝た方がオレは熟睡できるかもしれねーとか、あーでもない、こーでもない・・・・。

結局、なんだか疲れ果てて、真新しいゲストルームのベッドにそっと下ろす。

まったく煮え切らない。
いつだって、いつまでたっても、これだ。


  せめて「おやすみのキス」くらい。

敗北感とやるせなさをどっさり背中に、灯りをおとして振り返り。

「おやすみ、クラピカ」

後ろ手でドアを閉めて・・・いや、閉まる寸前。



「・・・おやすみ、レオリオ」



ぱたん―――閉まったドアを背に、オレはかたまっていた。



――――――――あ、あ、あ、あ、あの、狸寝入りがーーーー
元々、あたまの中で発酵しかけてたマンガのネームを、会社の企画ネタ「おやすみ」に出せないかと突発でいじってみたもの。
「狸寝入りのクラピカ」が妙に好評だった。
ほんとうに狸寝入りだったか否かは、とりあえず不明ということで。
どちらにしても、うちのレオリオは不憫である。

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MEMO/050630