愚者の贈り物 < 2 >

    「あんたをプレゼントにすりゃいいんだよ」


すっかりオコサマにかき乱されて、
ロビー中の視線を集めて、
クラピカはかたまってしまった。

コドモのからかいや冗談をそれとして受け止められないほど生真面目で、それでもある意味たいした進歩かもしれない。
なにしろほんの少し前まで、正直「冗談」の意味すら解してくれなかったのだから。
この天然のお嬢さんは。


「すまない、取り乱してしまった」
口ではそう言うものの、身体中ガチガチに緊張しているし、目は緋くなったまま戻らないし。
レオリオはそんなクラピカの背をあやすようにやさしくなぜる。
「まったく、あのマセガキときたら。なんてことふきこみやがるんだ」
とっくにガキ共が消え去ったエントランスに向かって毒づいた。

「レオリオ・・・少しはなしてくれないか」
「え?」
「おまえに抱かれていると永遠に戻らない気がする」

緋の目をいつまでもこんな公衆の面前にさらしておくわけにもいかないので、自然、レオリオの胸に顔をうずめる体勢になっていたのだが、かえってそれが逆効果だったようで。

「おい、チェックインしようか?」
びくりとクラピカが顔をあげる。
瞳はまだ緋い。
「そんなんじゃねーよ、ここじゃ落ち着かないだろ」
早合点を恥じるように頬を染めて俯いた。



ルームサービスの熱いミルクティーで、クラピカはようやく人心地がついたようだ。

「キルアは、私自身を贈り物にすればいいといった。それがどういうことを意味するのかわかってしまう自分が・・・あさましい」

  あ、あさましいって、じゃあ、頭ん中そればっかなオレの立場はどうなる・・・

思わず本音が口をつきそうになるのを、かろうじて押しとどめる。
「そんなの、なんもおかしくないって。普通だ、普通」
「普通・・・なのか?おまえもそうなのか?」
「オレ?」

家族や恋人と「すごす」意味が、だんだんイベント化してずれているのは知っている。
そんなものにのっかるのがなさけないこともわかっている。
けれど、それを口実にしてしまえば罪悪感も減るのではと打算が働いたのも事実。

「オレは・・・ガキにそそのかされてなんてのは、どうにも気にいらねーけど」
ああ言ったはものの、もしやこれは千載一遇のチャンスかもしれない。
さりげなくクラピカの肩に手をまわし、耳元でそっとささやいた。
「なあ、せっかくあいつらも気ぃきかせてくれてんだし、おまえもそう思ってんなら・・・」

「その言い方は卑怯だ」
「へ?」
ぴしゃりと断言されて、レオリオの目が点になった。
「そもそもおまえがそのつもりだったのではないのか。それをいまさらキルアたちに責任転嫁するつもりか、見苦しいぞ」
やはりごまかせない。
しっかり瞳の色も戻ってしまっている。

「・・・そりゃーまー、あわよくばってはかない期待もなくはねーけど。ま、まあ、正直けっこー気合いはいってたんだけど・・・」
しどろもどろに頭をかき弁解するさまは、どうにも格好がつかない。
すこし言い過ぎたかと思うと、クラピカに急に迷いが生じてきた。

「私は・・・どうすればいいのだ?」
どこかすがるような目で見上げられたら、ヨコシマな下心など吹っ飛んでしまう。

「どうもしなくっていいって・・・だいたい、聖夜に天使に手ぇつけるなんてばちあたりなことできるか」
レオリオが苦笑いした。
クラピカの胸がすこし痛んだ。

「そのかわりっちゃーなんだけど、今日1日オレのすきにさせてくんねーかなー」
「そ、それは結局同じことではないのか///」
「ちげーよ、まず買い物だ♪」
反射的にあとずさりするクラピカを満面の笑みでずるずるひきずって・・・。



そうして今宵限りと、金髪に編みこんだブルーサテンのリボンとキャミソールドレス。

予想通りというか、予想以上のできばえに
さすがのオコサマたちも言葉を失い
やさしすぎる恋人は己のおひとよしさ加減に後悔し

親しき者と愛する者と共に過ごすクリスマス
このしあわせと、このあたたかさが、どうか彼女のこころに届きますように

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060103