第55回            ‘Tea’って紅茶じゃないの?

 いつものようにメールチェックを終え、ミルクを多めに入れた紅茶を飲みながら一息ついている。紅茶といえばたいていの人がイギリスを思い浮かべるが、それにしても『朝から一体何倍飲むのだろうか』とあきれるほどイギリス人は頻繁に紅茶を飲む。もともと17世紀半ばのロンドンは、2000軒以上ものコーヒー店で賑わっていたそうだが、いつの間にか紅茶のとりこになってしまい、イギリスといえば紅茶が代名詞のようになってしまった。

 朝のmorning tea、昼前のelevenses、午後のafternoon teaとあり、afternoon teaなんて、high teaとかteaと呼ばれて少し早い夕食になることだってあるから、心しておくべき。その後でsupperが待っていて、またteaが出る。紅茶は、日本茶と違って発酵させてしまっているから栄養分のビタミンCは完全になくなってしまっているが、カフェインは多いままだから、私などうっかり夜遅く飲むと眠れなくなってしまう。

 (スコットランドでのホームステイ体験から) In Scotland, the people call their supper 'tea'. For them, tea is the meal likely to be eaten in the early evening. In America this meal is called 'supper.' And supper in Scotland is the meal eaten later, say, around 9:00p.m.
 ちなみに、‘tea’をThe Concise Oxford Dictionaryで引いてみると、3番目に、
 ‘a light afternoon meal consisting of sandwiches, cakes, etc., with tea to drink. A cooked evening meal.’と載ってます。

 テレビをつけるとNHKで朝ドラをやっていたので何気なく見ていると、主人公らしき女性がどこかで見たような顔立ちをしていた。目がクリッとしていて愛らしく、小さくて、薄い唇。番組が終わっても思い出せなかったが、ふとティーカップに目をやったところ立ち込めていた靄がす〜っと晴れるように一人の女性の顔が浮かび上がってきた。健康のためにいつもローズヒップ・ティーを愛飲していると云ってたスポーツ・インストラクターだ。特別美人というわけでもないが、インストラクターにしては長いソバージュがかった髪が特徴的で、スマートでキュートな会話が彼女の魅力をいっそう際立たせている。

 「こんにちは、一条さん。今日は大丈夫ですか?」
 「ん、大丈夫って?」
 「昨日のエアロ、途中で抜け出していたでしょ?」
 「気づいてたんですか。まいったなあ。」
  授業中居眠りを注意された生徒のようにバツの悪い思いをしていると、いたずらっぽく微笑みながら、
 「一条さんのことはいつもチェックしてますから・・・。」と思わせぶりなことを言う。
 そう云われて気分の悪ろうはずもないのだが、こうも屈託なくストレートに言われると、どう対処していいのか戸惑ってしまう。平静を装いながら、必死で次の言葉を捜す。
 「そのローズヒップ・ティー飲んでるカップ、素敵ですね。」と、話題を変え、彼女が手にしていたガラス製の器をほめた。
 「さすが、よくおわかりですね。これ、バカラ製なんです。」
 バカラと云えば、安くとも10万円以上はする。ほんとなのか、それともからかわれているのか、彼女の本心を掴みかねていると、クスクスと笑いだした。
 「あら、本気にされたんですか?これ、『百均』ですよ。お気に召したのでしたら、どうぞ。」と、一気に飲み干したかと思うと、取り出したハンカチで飲み口をサッと拭いて、差し出す。
 参った。完全に彼女のペース。それでいて、まったく嫌味がないから、却ってやっかいだ。

TOP