第53回              Breakthrough   

 「ヒカリやブレスが高校生の時、教科書の全訳を配って授業をしている先生っていた?」
 あまりに唐突だったので、二人とも面食らい、質問のよく意味が飲み込めていないようだった。
 「つまり、生徒を順番に指名して、教科書の和訳をさせるような授業をしない先生がいたかってこと。」
 「えっ。それって授業をしないってことですか?」大きな目をさらに大きく見開いてヒカリが尋ねる。
 『教科書の和訳を生徒に言わせること=英語の授業』という固定観念を植えつけられ、そうした授業しか受けたことがない二人にとっては、質問の意味が分からなくてもしかたがないかもしれない。私が訊きたかったのは、和訳を授業の活動から外し、和訳させるのに割いていた時間を有効に活用し、コミュニケーション能力を高めるような授業をしている先生がいるかどうか、ということだった。
 「そんな授業受けたことありません。それに、うちの学校は進学校だったしね。」ブレスがヒカリに同意を求めた。
 進学校だからこそ、大半を和訳に費やすような授業から生徒たちを開放し、もっとレベルの高い活動に取り組ませてもらいたいんだけどなあ。

 高校の英語の先生にお願いしたいのですが、一度、生徒と対等な立場に立って授業をしてみてはいかがでしょうか。すなわち、教科書の訳をあらかじめ生徒に与えてから、授業をするということ。教師が生徒に対して圧倒的な優位を保てるのは、ティーチャーズ・マニュアルという、日本語訳も、文法解説も、背景知識もすべてが載っている教師用の指導書を持っているからではないでしょうか。教育実習のとき、ティーチャーズ・マニュアルなるものの存在を始めて知り、「先生はこんなもの使っていたんだ」と驚いたのを覚えているでしょう。そして今、「マニュアルさえあれば、先生は必要ないかも」と生徒たちが思うような授業をしてはいませんか。

  生徒にあらかじめ訳を与えて授業をしてみると、「訳をオシエル」ことでなく、「何を教えるのか」ということを考えるようになります。そして、「和訳中心」のティーチャーズ・マニュアルに頼りきった授業」から脱却しようともがくことは、独自の授業スタイルを確立することにつながり、きっと英語教師としての資質を高めてくれるでしょう。

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