第52回         English as an International Language

 早朝のファミレスでモーニングを食べた。お気に入りのクルミパンを食べたくなったから。クルミパンなら近所のベーカリーで買って食べればいいようなものだが、このファミレスのクルミパンでなければだめ。もともと美味しい上に、注文してから焼いてくれるから、これがもうたまらない。たいてい、3回追加注文して、一個は持ち帰る。ヒカリとブレスに教えてもらった。
 一度、早朝のファミレスに行ってみるといい。なかなか面白いモノが観察できる。
 夜通し遊んでいたのか、出されてた料理には一切手をつけず、ソファーで横になって爆睡している二人組の女の子。
 コーヒーをすすりながら読書に耽っている微妙な年齢の女性。
 『ここで勉強をしないで下さい』と注意書が張ってあるテーブルいっぱいに、本やノートを広げて何やら一心不乱に書き写している中年男性。
 早朝ではないが、私も以前はよく英語の本と辞書を持ち込み、250円のドリンクバーで何時間も粘っていたものだが、もうファミレスで勉強したり、本を読んじゃあいけないんだ。どこか、時間を気にせずにゆったり過ごせる喫茶店はないものだろうか。

 「この人、日本人ですよね。ずいぶん落ち着いた態度で、流暢に英語話してません?日本の政治家にもこんな人いたんですね。」ヒカリが、テレビ画面を見ながら言う。
 「ん?彼は、政治家じゃないよ。電気メーカーS社の会長I氏だよ。」
 「そうなんだ。でも、世界のS社の会長ともなるとやっぱり英語力も違いますね。」とヒカリがしきりに感心している。
 世界経済フォーラムの様子が放送されていた。もちろん、進行は英語。しばらく、I氏の発言を聞いてみる。たしかに場慣れはしているようだが、彼の英語はクセがある(聞くところによると、彼は英語よりドイツ語のほうが堪能とのこと)。“I mean”というつなぎ言葉を頻繁に使うものだから聞きづらいし、ちゃんとした文章にならない場合もある。それに、あまり細かいことは言いたくないけれど、文法的な誤りも決して少なくない。S社のI氏と言えばかなりの使い手だと思っていただけに、それほどでもなかったのは意外。まっ、発言内容に中身があればいいとは思う。
 その他の代表の発言も聞いてみる。
 日本の某大手自動車メーカーのフランス人会長。フランス語訛がきつく、ネイティブの英語からはかけ離れているがよどみがなく、簡潔な文で分かりやすい。言いたいことは100%伝わる。文法的な誤りもなかったように思う。
 日本人の証券会社社長。ゆっくりと一言一言噛みしめるように話す。自分の発言に対する他国の代表のコメントを聞き、大して面白くもないのに大げさに笑っていたのが、照れ隠しのように映った。
 シンガポールかどこかの国の代表だったろうか、多少訛はあるものの、気になるほどではない。英語力は完璧に近い。
 日本の経済財政政策担当大臣。現在は政治家だが、元私立大学教授の彼は、少なくとも経済に関しては、外国の代表と互角に討論できる英語力がある。
 日本人の英語力もずいぶんレベルアップしたとは思うが、各界のトップの人たちでさえ、諸外国の人に比べるとどうしても見劣りしてしまう。ま、それはともかく、政治家や財界人の中で、いったいどれだけの人が英語をコミュニケーションの手段として使いこなせるのだろうか。

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