第51回           Space Shuttle

 このところの陽気続きで、ひょっとしたらと思い、七折れの梅を観に行った。さすがに時期が早すぎた。しかたなく、引き返したが、途中でそば屋を見つけた。実にうまかった。最後に出た蕎麦がきもいけた。なんだか得をした気分になった。店を出る頃には、梅のことはすっかり忘れてしまっていた。

 「また、落ちましたね。」ヒカリが、ため息混じりに、悲しそうな顔をして云う。
 「ああ、コロンビアのこと?」
 「そうです。チャレンジャーの時も小学校の女の先生が乗ってて、事故の映像をライブで見ていた生徒たちの悲痛な顔がいまでも忘れられません。どうして同じような悲劇が繰り返されるんでしょうね。だいたい、『なぜ宇宙開発が必要なのか』わかんないんですけど。こんなに地球上でいろいろな問題があるのに・・・。こっちの解決が先決だと思いません、センセ。アメリカなんて、イラクと戦争に突入するかどうかという非常事態の真っ只中なのに、何考えてるのかしら。」
 宇宙開発の必要性について、政治家や学者がどんなに用意周到な答えを準備していようが、今この瞬間、飢え、貧困、戦争、抑圧、差別に苦しんでいる人々を納得させることは到底できないだろう。

 「今回の事故を受けて、アメリカじゃあスペースシャトル計画の見直しが検討されているらしいよ。」
 「ということは、やっぱり安全性とかに問題があったのでしょうか?」
 「残念だけど、そう云うことになるね。ヒカリは、スペースシャトルにどんなコンピュータが搭載されているか知ってる?」
 「えーっ、よく分からないけど、やっぱ最新鋭のコンピュータなんでしょ。」
 「と思うよね。ところが、操縦室のコンピュータ(the flight-deck computers)なんて1980年代のもので、テレビゲームにさえ使わないようなペンティアム以前の代物(the sort of pre-Pentium electronics)なんだ。」
 
 宇宙開発にエネルギーを注ぎこんでいる人たちは、ひょっとしたら地球上での問題があまりに大きく、複雑になりすぎ、その解決をあきらめ、地球に見切りをつけてしまっているのかもしれない。そして、一部の選ばれた人々による新たな居住区を宇宙に求め、国際宇宙ステーションを建設しているとも考えられなくもない。その一部の選ばれた人間になる可能性のない私としては、地球を救うのは今からでも決して遅くはないと信じ、平和な世を祈るしかない。

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