第49回    Pneunomoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis ? ? ?

 1か月ぶりになるだろうか、ヒカリとブレスの3人でお気に入りのラーメン屋に行った。大学の後期考査勉強中のヒカリから急に『ラーメン食べたいメール』が入ったのだ。少しは時間を考えてお誘いしてもらいたいものだが、日付が変わりかけようとしている時間帯にもかかわらず、入れ替わり立ち替わり客がやってくる。それほど広くない店内は常にほぼ満席状態。ただ、以前と違うのはスタッフの顔ぶれが一新していること。若いスタッフばかりで、誰もトレードマークの赤い帽子をかぶっていない。いつものメンバーは、最近開店した支店の方に行っているのだろうか・・・。
 ブレスとヒカリは、常連らしく注文の仕方もなかなか堂に入ったもの。
 「コクアジ・カタメンとモトアジ・フツウメンで。ニタマゴも付けてね。」
 私も『通』の面目にかけて、負けじと注文。
 「コクアジ・ヤワメンとメンタイコゴハンね。カエダマも付けてね。」
 「替え玉は、麺を召し上がってからご注文ください。」と若いお兄さんが、笑いをこらえた面持ちで応える。
 「あ、そうだよね。」
 ブレスとヒカリが顔を見合わせて、プッと吹き出した。
 「センセイ、なにブッてるの。恥ずかしいから、やめてください。」
 「ところで、この前のクイズにあった『一番長い英単語』、もう覚えた?」
 「あんなの、無理ですよ。」ヒカリとブレスが口をそろえて言った。

 話は、数日前にさかのぼる。3人で丘の上の公園近くにオープンした、テラスのあるレストランでブランチをとっていた時のこと。
 「おっ、ブレス、面白そうな本持ってるね。」
 「はい、昨日本屋で見かけて、読みやすかったし、話のネタにいいかなっと思って買いました。英語の雑学辞典で、クイズ形式になってるんですよ。」
 「あっ、それ使ってセンセイの英語力試してみようよ。いつも、いじめられてるんだから。」とヒカリ。
 「それ、いいわね。」とブレスも調子を合わせる。
 「これなんか難しそうよ。エッヘン。それでは、出題しまーす。『一番長い英単語』は?はい、すぐ答えて。」
 今日はいつもと立場が違うので、生き生きとした感じのヒカリが質問してきた。
 「そんなの簡単。smilesだろ。sとsとの間が、1.6km (mile)もあるからね。こんなの、初心者向けだよ。」
少し、得意げにに答える。
 「それって、ジョークでしょ。そんなんじゃなくて、まじめに答えてくださいよ。英語のセンセイなんだから。もう一度質問しますよ。『世界で一番長〜い英単語』は?」
 以前ある本に、「この単語を覚えられたら、もうどんな単語も恐くない」と紹介されていたので、おまじないのつもりで覚えていたのだが、こんなところで役に立つとは。もう二度とお目にかかることもないし、使うこともない単語だと思っていたのに。
 「えーっと・・・、見たことはあるんだけどなあ・・・」少し困った様子で考え込むフリをする。私の様子を見て、二人ともしてやったりと得意顔。
 「ちょっと待って。たしか、ニューモノ・ウルトラ・マイクロ・スコピック・シリコ・ボルケーノ・コーニオーシスで、『塵肺症』という病名だったと思うけど。シンパイショウ(心配性)じゃないよ、ジンパイショウね。僕の記憶が正しければ、pneumonoが肺、ultramicroscopicが超顕微鏡的な、silicoが珪素、volcanoが今にも爆発しそうな事態、で最後のconiosisは塵埃という意味だったと思うんだけど。いかがでしょうか、ブレス・センセイ、ヒカリ・センセイ。」
 「うわーっ、なんでこんな単語そこまで知ってるの。嫌味よね、ブレス。」
 「う〜ん。でも、こんなの知ってるなんて、やっぱり英語のセンセイって感じ。」
 二人と別れた後しばらくして、知らなかった時のことを想像し冷や汗が出た。英語のセンセイやるのも、大変なのです。

 で、今夜もまた、スープまでぜんぶ飲んで、器の底に書いてある「ありがとう」の文字を出して帰った。

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