第48回                     XXXL

 珍しく雪が降った。めったに降らないものだから、ほんの少しでもいたるところでパニックが起こる。市内の幹線道路で一部通行止が発生した。ほんの1キロ進むのに1時間以上かかってしまった。確かに、不便で、少々危なっかしかったが、まあ年に1、2度『自然の畏れ』を感じる機会があってもいいかとも思う。

 「センセイ、なに読んでるの?」
ブレスが、ヘルメット片手に教室に入ってくるなり尋ねる。
 「タイムって雑誌なんだけど、面白い記事が載っていてね。」
 「うわーっ、難しそう。分からない単語だらけ。日本語の注釈もないんですね。」
 「ネイティブ向けの雑誌だから当たり前。まあ、それはいいから、この『XXXL』って何のことだか分かる?三回離婚した女性−バツサンレディー−なんて答えないでよ、ハハハ。」
またオヤジギャグ飛ばしてる、とでも言いたそうな顔で、ため息つきながら、
 「トリプルエルのことでしょ。」
と、即座に答える。
 「あら、よく分かったな。いつもそうゆうの買ってるんだ?」
 「そう来ると思ってた。でも、残念でした。うちの父がトリプルエルだから知ってたの。」
 「ここに書いてるんだけどね、アメリカ人の成人のうち、実に65%が標準体重を超えていて、三分の一が肥満なんだって。ほんの少し前まで、ダイエット商品、エクササイズ用具、痩せ薬が飛ぶように売れてたんだけど、結局どれを使ってもなかなかうまくやせられないんだろうね。アル・ローカーっていうアメリカの有名なお天気おじさんなんて、痩せるために胃を小さくする手術をしたそうだよ。ここまで、やるかね(Today show weatherman Al Roker underwent surgery to have their stomach capacity reduced.)。で、この肥満の人をターゲットにしたビジネスがにわかに注目を浴びているってわけ。」
 「そう言えば、アメリカでホンダ車が槍玉に上がってたと大学の先生が話してました。なんでも、体重160kgの女性が、ホンダオデッセイのシートベルトを着用しようとして、うまく締められなくて、『私の体が悪いんじゃなくて、小さすぎるコレがいけないのよ(I'm not handicaped by my body. I'm handicaped by stuff that's too small.)。』って文句言ったんですって。ここまで開き直れたら、立派ですよね。それで結局ホンダも、シビックやアコードのシート幅を5cm広げたそうですよ。海外進出企業も大変ですね。」

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