第45回                             Autumn-colored

 「四国最大の売り場面積」をキャッチフレーズにした新しい本屋が北部郊外にオープンしたというので、ヒカリとブレスが一緒に行ってみた。
 「『郊外に、専門書の充実した本屋ができればいいのになあ』っていつもこぼしていたじゃないですか。念願かなって良かったですね。」
 本屋というと、映画「ノッティンヒルの恋人」に出てくるブルーのドアがトレードマークの小さな旅行書専門店を思い出す。イギリスには、特定の分野の専門書店をあちこちに見かけた。数年前、エジンバラ大に留学していた頃、サスペンスものばかりおいてある、数坪ほどのこじんまりとした店に入って、チャンドラーを読んだのを思い出す。わずかばかりの喫茶スペースもあり、コーヒーを飲みながらくつろげるようになっていた。松山にもこういった書店があれば休日など専門書めぐりで一日中楽しめるのになあと思うが、一方で書店にしてみれば、とても採算が合わないだろうなとも思う。

 ブレスの言うとおり、市街にまで出かければそれなりの専門書を置いてある本屋もあるが、いずれも駐車場がなく、閉店時間も早いので利用者側にすればきわめて不便。さて、どれほど充実した書籍が置いてあるのだろうかと、さっそく出かけた。

 なるほど、駐車場はかなり広く、地下にも設けられていた。しかし、店内に入ると意外に狭く感じた。多くの人でごった返していたためだろうか。この程度の広さの書店なら他にもあるし、少なくとも高松のM書店には及ばないような気がするが・・・。また、専門書類も他の郊外店とあまり変わりがなく、期待はずれ。そのうえ、NHKなどのテキスト類も音声教材のストックがほとんどなく、バックナンバーも置いていない。
 まあ、このご時世だから本屋も生き残りのために大衆受けする本を充実させるのは当然。外出したついでにそのまま足をのばして峠まで紅葉を見に行くことにした。あいにくの雨で、途中から霰(あられ)に見舞われたりしたが、車の中からでも真っ赤に紅葉した木々を見ることができ、私たちの目を楽しませてくれた。

 「紅葉(こうよう)って、どう言うんですか?」何でもすぐに聞きたがる、ヒカリ。
 「紅葉の意味を考えれば分かると思うよ。」とワンクッション置く。
 「えーっと、紅葉(こうよう)っていうのは、葉が紅く色づくことだから、red leafですか。」ヒカリなりの答えを出す。
 「なかなかいいね。もちろん、それでもいいんだけれど、もう少し風情を出して、autumn-colored leaves(秋色に染まった葉)なんてのはどうかな。」
 「な〜るほど。ロマンティックな感じがしますね。」少し頬を染めながら言う。
 「でも、これって意味は伝わると思うけど、正しい英語かどうかはわかんないよ。思いつきで作った英語だから。」
 「それでも、センセイのは好きだな。なんだか、私も秋色に染まってしまいそう。」
 「さっ、もうそろそろ帰るか。」目配せしながらブレスに言うと、
 「その方がいいみたいですね。」と、一人黄昏れているヒカリを横目で見ながら答えた。

 付言しておくと、実際は、"autumn leaves″か、"colored leaves″で十分。むしろ、"autumn-colored leaves″は、ネイティブにとっては、"redundant″だと映るに違いない。

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