第37回                   Fancy meeting you !

 4月14日日曜日。
 2時過ぎからのミーティングまでにはまだ少し早い。ロープウェー街をゆっくりと歩いてゆくと、城山へ続く石段が目に入った。ちょっと急だけど、上ってみようか。一瞬時計に目をやったが、足はすでに石段に掛かっていた。
 少し歩くと陽気のせいで体が汗ばんでくる。横道に逸れて新緑の木立の中に入ると、それまで吹き出していた汗が嘘のように「スーッ」と引いていくのが分かる。
 頭の上で声がした。大学生だろうか、若者達のグループがリフトに乗っているのが雑木林の間から見えた。リフトの前後で、楽しそうに笑いながら声を掛け合っている。あんなふうに周りを気にせず、無邪気に腹の底から笑うことはもうないかもしれない。それが、人生の折り返し点を過ぎてしまったということかとも思う。

 石段を登りきったところに、こじんまりとした神社があり、その境内には、屋外の能楽堂があった。
 「5月になれば、ここで薪能が行われるのだろうな。」とまだライブでは観たことのない薪能の幻想的な舞台に想いを馳せた。
 ふと時計を見るとミーティングまでもう5分ほどしかない。あわてて石段を下り、ロープウェイ街をもと来た方へ歩いていると、向こうから数人の男女がやってきた。そのなかに、どこかで見たことのある女の子がいた。にわかには思い出せないのだが、確かにどこかで会っている。とにかくとてつもなくかわいい。なんであんなかわいい女の子の名前が出てこないんだろう。思い出そうと焦っているうちにも、彼女との距離は急速に縮まってくる。
 「えーっと、ショートカットで、小顔のこの子の名前は…」
 まさに、二人がすれ違おうとしたその刹那、「あっ」という声と共に思い出した。
 「ヒロスエ・リョウコ。」
 こういう出会い方をした時に、
 "Fancy meeting you!"(こんなところで会うなんて!)
って言うのがぴったりなんだろうな。
 もちろん、生ヒロスエを見たのは初めてだったので、少しうれしくなり、その場でヒカリに携帯でメールを送った。で、その返事。 『ヒロスエ!?超メジャー芸能人じゃないですか。いいなあ。私も芸能人を見てみたい。それでは、また明日。』
 
 先日も花見客でにぎわっていた石手川公園で、キャイーンのアマノくんを見かけた。とても気さくな感じで、周りに集まった子供達のサインにも気軽に応じていた。
 春先というのは、芸能人たちも充電のため、プライベートで地方にお出かけする時期なのかもしれない。ミーティングは4時過ぎには終わるだろうから、後でゆっくり城山にでも登ってみるか。

(ちなみに、2002年4月14日日曜日午後2時頃、松山のロープウェー街で広末涼子さんに会ったのは本当です。)

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