第36回                   It cannot be helped

 今朝は、昨日のぽかぽか陽気とは打って変わって、上着を着ていないとブルッ震えるほどの寒さ。昨夜から断続的に降り続いている横殴りの雨のせいで、車の乗り降りだけでシャツの中まで濡れてしまった。おまけに、職場の駐車場近くにある竹林から笹の葉が飛んできて、車のボディーにしっかり張り付いている。乾けば自然に取れるのだろうが、自分の体が蛭に吸いつかれているような感じがしてどうも落ち着かない。もう濡れついでなので、雨に濡れながら笹の葉を一枚ずつ剥がしていた。
 すると、いつからそこに居たのだろうか、
 「センセ、こんな雨の中、何やってるの?」
とヒカリが背後から声をかけてきた。
 「葉っぱ剥がし。」
ボソッと、聞こえるか聞こえないかの小さな声で返事する。いつものように、明け透けな口調で追い討ちをかけてくるとんじゃないかと覚悟していると、黙って傘を差しかけてきた。大雨の中を濡れている私を哀れに思ったのかもしれない・・・。冷えたからだが、少し温まったような気がした。

 「『それはしかたない。』っていうのは、英語で"It cannot be helped."って言うんですね。」
ブレスが、大学で習ったばかりの表現について訊いてきた。
 「まあ、無難な英語ということになるとそうなんだけど、状況によっては別の表現が必要だろうね。」
 「例えば?」
 「そうだな、『そうするより他に選択の余地がなく、もうどうしようもない』というあきらめの気持ちを強く表す時に使う『しかたがない』は、
 "What choice do I have?"や
 "There is nothing more I can do for it."
がぴったりだと思うよ。
 それから、小泉さんの十八番になってる、
 構造改革断行の為には、『多少の痛みはしかたない。』
というのは、言い換えると『多少の痛みは受け入れなければならない。』ということだから、
 "We have to accept some pains."とか
 "Some pains are inevitable."がいいだろうね。」
 「ふ〜ん、おもしろいですね!日本語って英語に比べると、あいまいに使われているのかなあ。」
 「さすが、ブレス。いいところに気づいたね。だから、日本語独特の表現を英語に訳す時には、いったん別の日本語に置き換えてみるといい場合が多いんだ。
 もう一つ例を挙げると、『やはり』なんてのがあるけど、これなんかは状況に応じて
『依然として』、『〜もまた』、『結局』、『予想通り』と言い換えてみるといいよ。
それぞれ、"remain""even now"、"as well"、"after all、as expected"という英語に訳せるだろ。」
 「具体的には、どんな文脈で使われるんですか?」とヒカリ。
 「『やはり、これは私にとってはいい思い出ではありませんね。』は、
  "I am afraid that this will remain with me an unpleasant memory."
  『ヨーロッパでもやはり、彼のアニメは好評だった。』は、
  "In Europe as well, his animated film has been favorably accepted."
  『やはり、彼は失敗した。』は
  "As might be expected, he failed."
どう、分かった。」
 「はい。それにしても、日本語ってややこしいんですね。」

参考文献:『訳せそうで訳せない日本語』 The Japan Times 

HOME