第32回                       Repeating 

 新年になったと思ったら、早いものでもう立春。いくら天気がよくてもまだ部屋の窓は開放できない。暦だけは春になったが、むしろこれからが冬の本番だ。昔の人も、これからが本格的な寒さだと分かっていたので、せめて気持ちの上だけでも春の始まりだと言い聞かせて、厳しい冬を乗り越えようとしていたのではなかろうか。

        君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ     光孝天皇

 「さて、二人とも今日はシャドーイング練習しっかりやってきたかな?」
 「やっぱり、むつかしかった。」とブレスが控えめに言う。
 一方、ヒカリのほうは、
 「ばっちり。午前中も練習してたもんね。」と自身たっぷり。
 ということで、ヒカリにはシャドーリーディングを飛ばして、いきなりシャドーイングをしてもらう。さすがに、大口叩くだけのことあって、アフガン情勢のニュースを流暢にシャドーイングする。ただ、一箇所、
 "Kabul residents shouted out their congratulations, honked car horns, rang bells on the bycicles."
という文の"their"を弱音化(reduction)してうまく読み流すところでつまずいたが、後はすばらしいできだった。一般的に、"your, him, her, our, their"といった代名詞は弱音化されることはしっかり押さえておきたい。
 ブレスの方は、レッスンを受け初めてまだ4回目で慣れていないこともあり、モデルスピーカーのスピードについていけず自分のリズムでシャドーイングできていない感じがする。それでも、短期間にシャドーイン技術がかなりのレベルにまで達したのは、見事だ。

 ここで、二人にリピーティングをさせてみた。リピーティングというのは、本来はシャドーイング練習の前に行うもので、リテンション能力を高め、英語のプロソディーを身につける音読方法だ。意味のまとまりごと(センス・グループ)あるいは文単位で聞いた英語を繰り返す作業だが、必ず声に出しながら行い、テープを聞きながらイントネーション、アクセント、リエゾン、リダクションなど注意すべき音声変化をスクリプトにマークする。最初は短いセンス・グループから、そして最終的には文単位でできるようにし、モデルスピーカーと同じスピードで文を再生できるようになるのが望ましい。ただし、短時間で消化する場合には、センス・グループ単位でのリピーティングができればよしとしたい。
 リピーティングでしっかり練習した後にシャドーイングをすれば、ほとんど音の崩れもなく、またスピードに対する遅れもなくシャドーイングができるようになるはず。特に、ブレスにはこの方法をしっかり身につけて、自分で練習し、シャドーイングの精度を高めてもらいたい。

 「ところで、来週からのレッスン予定だけど、大学の試験と重なるようだったら調整してもいいよ。」
 「大学の試験って、集中してあるんじゃなくて、2週間くらいの間にそれぞれの授業中に実施するんです。だから、レッスンの方はいつもどおりで大丈夫です。」
とブレス。二人とも文系なので、似たような予定らしい。
 「ふ〜ん。昔もそんなだったかなあ。なんだか、間延びしてしまって気分がだれてしまう感じがするけど・・・。」
ヒカリも同感なのか、
 「そうなんです。試験勉強も焦らなくても、いつでもできるって感じがしてしまって。」
と今ひとつ真剣になれないようす。

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