第29回                  Running with You −Part U−

 「目の不自由な方ってどうやってマラソンの練習するんですか。」とブレス。
 「そうなんだ。短距離ならトラックで練習しているのが想像できるんだけど、マラソンはロードを走るから一人じゃあできないしね。健常者に伴走してもらったり、一人の時はトラックを使うしかないだろうな。私が伴走した方は、息子さんに伴走してもらって練習したって言ってたよ。」

 初めて盲人マラソンに伴走者として参加した時の気持ちを忘れぬよう、その想いを一編の詩に託してみた。一見、盲人の立場に立って書いた詩のようだが、実は自分自身の気持ちを読んだもの。目の不自由な方の伴走をして、「目が見えるから、見えないもの」もあり、「目が見えないから、見えるもの」もあるのだと感じた。伴走をとおして、私がこれまで見えなかったもの、見ようとしなかったものが少し見えてきたのは確かだ。

( 第12回青島太平洋マラソン国際盲人マラソンの部に伴走者として参加して )青島太平洋マラソン会場前にて

昨日までの僕
自分一人で生きてきたつもりだった
誰も頼らない
誰も信じられない
人の心さえも見えなくなっていた

今日からの僕
君が教えてくれた
心構えずにあるがまま
自分らしく生きることの喜びを
人を頼り人を信じることでしか
見えない世界もあることを

君と一緒なら
なにも恐れない
君の声を信じられるから
闇の中でも走ってゆける

一本の細いロープを伝わる
君の手のぬくもり感じながら
潮風の中
僕は今風になる
I am running with you

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