第22回                Describing the Movie Scene

 「センセイ、一緒に授業受けてみません?」突然ヒカリが言い出した。
 「うちの大学、今注目されてるらしいの全国的に。1回生の英語の授業、先生はほとんどネイティブで、すべての授業がオールイングリッシュ。とにかく、英語でのコミュニケ−ションを最重視しているみたい。」
 「そうらしいね。新聞で読んだことがあるよ。とても興味あるし、どんな授業が行われているのか実際に参観してみたいという気持ちはあるけど、学生の中にオジさんがひとりだけ混じるのはなんだか気が引けるな・・・。」
 「それは、ゼンゼン大丈夫。見かけはセンセイよりオジンみたいな子もいるし、それに英語はオープンにしている授業もあると思うから。授業の前に、教授に許可得ておけばいいんじゃないの?」
 とは言うものの、ヒカリの言葉を100%鵜呑みにして、当日いきなりお願いをするのでは失礼だろうから、事前に電話して聴講をお願いすると快く許可して下さった。

 たったひとつのフェンスで仕切られているだけなのに、そこには外部とは全く違う空間と空気があった。ちょうど紅葉の時期を迎えていることもあり、キャンパス全体がうっすらと秋色に染まっているようにも見えた。ひんやりとした空気を肺の奥底まで取り込みながら、プラタナス(plane tree)のコロネード(colonnade)を、ゆったりとした足取りで歩く。立ち止まってふと空を見上げると、幾重にも重なる紅葉の間から青空が遠くのほうにのぞいている。目を瞑って、もう一度大きく深呼吸をした。こんな環境の中で好きな学問ができれば幸せだろうなと思う。
と、後ろから誰かが『ドン』とぶつかってきて、体がよろけそうになった。
 「センセイ、もう、こんなところで瞑想なんかしてる場合じゃないでしょ。授業に遅れるよ。」
ヒカリが10メートルほど先を走りながら声を投げかけてくる。
 「あっ、ほんとだ。」あわてて走り出す。「こちらからお願いしておいて、遅刻したんじゃまずいな・・・。」

 ヒカリから聞いていたとおり、ネイティブの教授によるオールイングリッシュの授業だった。教科書は、学内のスタッフによって編集されたオリジナルテキストが使われていた。この日カバーしたのは、"At the Movies"という映画を扱ったパートだった。ページの上半分に、新旧有名な映画のタイトルがアトランダムに並べられている。これらのタイトルを参考にしながら、ペアになって質疑応答の形で会話をする。
 1 Do you recognize any of the titles above?  Which ones would you recommend?  Why?
 2 Describe the different types of movies you see above( e.g., comedy, drama, SF, etc.)  What type of movie do you prefer?
といった質問が用意されている。
 さらに、自分のお気に入りの映画を説明するのに役立つDescriptive Wordsも欄外にまとめられていて、とても使いやすく工夫されている。  Descriptive Wordsの中には、ネイティブは普通に使うのかもしれないが、私も知らない単語が含まれていた。例えば、creepy, hilarious, spine-tinglingなど。ちなみに、それぞれcreepy = scary, hilarious = cheerful, spine-tingling (chilling) = frighteningという意味だ。
 最後にMovie Quizというのをしたが、
 In what city in the world are the most movies made every year?
という質問があったので、私は間髪入れず"Hollywood"と答えた。すると、パートナーの学生が待ってましたとばかり、にやりと笑い、
 "No. it's not Hollywood."と言う。
絶対間違いないと思ってたものだから、少しいらだって、
 "I can't think of any other city."と強い口調で答える。
数秒、間があって
 "It is Bollywood."という答えが返ってきた。
 その地名を聞いて、「あっ」と思った。そう言えば、作品のレベルは別にして、インドのどこかでとんでもない数の映画を製作している場所があって、その地名は"Hollywood"に似ているって聞いたことがあるのを思い出した。

 90分間の授業を受けて思ったことは、「大学でこんなレッスンを受けられるここの学生は幸せ」ということだ。このような取組みを全学で継続的に実践していくということなので、少なくとも「英語を話すことに抵抗がなくなり」、「英語を学ぶインセンティブは確実に高まる」と思う。

 ところで、映画を活用した指導と言えば、エジンバラ大学で夏期英語集中コースを受講した時に、おもしろい演習があったのを思い出した。
 二人一組のペアを作り、一人(A)がテレビ画面が見えるように教室の前を向いて座り、もう一人(B)は画面が見えないように教室の後ろを向いて、つまりお互い向かい合って座る。そこで、TV画面にビデオの一部が流される。もちろん日本語のサブタイトルはなく、音声も消されている。私たちが観たのは、ミスタービーンのひとコマだった。
 数分間観た後、画面を見ていないパートナー(B)に、身振りや顔の表情はまったく使わずに、英語で物語の展開を説明する。
 Bは、内容を理解したら、できるだけ早く先生のところへ行って、これまた英語で説明するといった活動だ。

 今日はヒカリとココロを相手に、ケビンコスナー主演作の「ティンカップ」と「フィールドオブドリームズ」を使って同じ演習を試みた。
ティンカップの方は、一人の女性を巡って男性二人がゴルフのドライバーで飛距離を勝負するという場面。

 Descriptive expressionsとして以下の表現を与える。

 travel as far as -  the paved road = the pavement
 in a different direction  keep bouncing
 一方、フィールドオブドリームズは、 自分の畑を改造して作った野球場で『古きよき時代の名選手達』が野球の試合を楽しんでいるのを観ていた娘が、 スタンドから落ちて意識不明になってしまう場面。同じく、Descriptive expressionsは以下のとおり。
 fall down from -  change into
 become unconscious  choke
 call an ambulance  come out of -
 walk across the boundary  come back to live = become conscious

 二人に交代で演習させた後、最後にModel Descriptionとして次の英文を与えた。 
Model Description for "Field of Dreams"
 A girl fell down from the bleachers and became unconscious. Parents were worried about her. The mother was going to call an ambulance. But the father told her to wait. He looked at one of the baseball players. The young baseball player walked across the boundary of the field. At that time, he changed into an old doctor.
 He looked at the girl and found that something was choking her. So he slapped her on the back and a piece of hot dog came out of her throat. She came to life. But he was never to come back to the young baseball player.

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