第20回 GREEN PARK
この時期にはめずらしく雨が続いたが、今日は秋らしい青空が広がっている。「こんな日に部屋の中に閉じこもっているのはもったいない」ということで意見が一致したので、レッスンを早めに切り上げてドライブ。空のペットボトル3本抱えて出かけた行き先は、「ていれぎの里」。泉の湧水を汲んで、芝生の上に大の字になって横たわる。こうしていると、数年前ロンドンに行った時のことを思い出す・・・。 「ヨーロッパの夏は、ちょうどこんな気候なんだ。日差しが柔らかくて風はひんやり気持ちいいし、いつまでもこうしていたい気分にさせてくれる。それに、日没も遅いから9時過ぎても明るい。ま、あっちはサマータイム( 英:summer time / 米:daylight saving time )を採用しているせいもあるけど。」 「センセイは、イギリスの話をする時はいつもうれしそうなんだけど、なにかト・ク・ベ・ツ・いい想い出でもあるの?」 と、青空を見上げたままヒカリが訊ねる。 焦点を定めることなく少しの間遠くの方を見やった後、ひとつ深呼吸をしてから口を開く。 「というわけでもないけど、日本にいるときには味わえないゆったりとした時間の流れの中で生活できたからね。1ヵ月ほどだったけどエジンバラ大学で英語もたっぷり学べたし、なんだか学生時代に戻ったような気分だったな。」 と同じく澄み切った空を見ながらこたえる。その時ちょうど飛行機雲が、西の空から東の空へ二本の細いクモの糸を引いたように伸び始めていた。 「ロンドンには、帰国する前の3日間だけ滞在して、昼間は博物館や美術館めぐり、疲れると市内の公園で本を読んだり、こうして芝生に寝転がったり。で、夜はミュージカルにお出かけ。安売りチケットをうまく手に入れたのが痛快だったな。コベントガーデンの裏にある小さなスタンドでね、『キャッツ』が20ポンドで買えたんだ。英語はあまり分からなかったんだけど、とにかく感動したのを今でも覚えてる。ただ、周囲がドレスアップした紳士・淑女ばかりだったのにはまいったけど。こっちはシャツとチノパンに、スニーカーだったもんな。」 「ふ~ん。いいなあ。私もイギリスかアメリカに行きたいなあ。英語もすぐうまくなるんでしょう?」 とゆっくり体を起こし、左ひじをついて半身のままヒカリが訊いてくる。 「外国に行って英語がうまくなるんなら、みんなうまくなってるよ。外国に行くことで、モティベーションが高まったり、異文化体験ができるといった効果はたしかにあるけど、それ以上を期待してもダメ。日本で地道に毎日コツコツ英語の勉強ができない人は、外国でも同じというわけ。」 「たしかに。友達でアメリカに留学していた子がいて、少し話せるようになって帰ってきたけど、留学しただけじゃだめって言ってたなあ。あれって、謙遜していたのかと思ってたけど、本当だったんですね。」と、妙にしおらしくヒカリが言う。 「ところでセンセイ、イギリスじゃあ得意のポエムは作らなかったんですか。」とココロ。 「なんで、『得意のポエム』なわけ?そんなの作るわけないだろ。」 「じゃあ、ミーハーっぽく、『リッツ』とか『サボイ』で食事は?」とヒカリ。 「するわけないじゃん。でも、そういう日本人て多いらしいね。」と答える声が妙に弱々しいのが自分でも情けなかった・・・。 |
Millennium
グリーンパークに降り注ぐ柔らかな日差しの中で
確かに君と僕は二人きり
何を語るでもなく 何を眺めるでもない
しかし二人同じ想いを楽しむ
ナショナルギャラリーでルノアールに魅せられて
コベントガーデンに着いたのはもう夕方
君が大道芸とショッピングに夢中だったから
キャッツのチケット買うのすっかり忘れてしまった
おかげで(!?)安売りスタンドで20ポンドで手に入ったときは、
大はしゃぎ
夕食はあこがれのホテル ザ・サボイ
やっぱりスーツとドレス持ってくればよかっただろ
まるで二人紳士淑女に囲まれた貧乏学生
あの時 泊まったホテル
Millenniumという覚えにくい名前だったけど
今にして思えば、誰もが知っているミレニアムだったんだね
もう忘れない
千年後、また行こう
ダスティン・ホフマンに出会った街へ
The SAVOY |
![]() |
Mr. Richard Spears,
The gereral manager of 'The River Restaurant'
of The Savoy
HOME