第1週 7月4日(水) 18:30〜20:00


 まず、NHK文化センターの所長さんの挨拶に続いて、私が自己紹介をし、開講の趣旨などを説明しました。通訳の訓練が、リスニングによる知識のインプットと音声によるアウトプット練習なので、リスニング力とスピーキング力が自然な形で習得できることや、そのバリエーション豊かな訓練方法によって英語学習にありがちな単調さからも解放され、楽しみながら英語を学べるとことや日本語を話すことにも意識的になれるといった内容の話をしました。
 簡単なアンケートに答えてもらってから、受講生一人一人に自己紹介をお願いしました。皆さんしっかりした声でお話いただいたので、これからが楽しみです。

 最初ということなので、通訳の種類・方法を大まかに説明しました。大まかといっても、種類には<アテンド通訳、ウィスパー通訳、パーティー通訳、スピーチ通訳、会議通訳、商談通訳>などがあり、方法には、<要約、逐次、同時>とあるのでかなり時間を費やしてしまいました。
 一段落ついたところで、天声人語の日本文を全員が音読。内容は、アメリカのミサイル防衛構想に関するものです。5回ほど音読練習をした後、一人一人が読みました。「人に気持ちよく聞いてもらえる読み方」の難しさを感じてもらえたと思います。
 次に、小泉首相ヨーロッパ訪問を取材したNHKニュースのビデオを見て、一人一人日本語でシャドウイングをしました。文を目で追いながら読むのとは違って、「耳から、音声だけを頼りに言葉を発するシャドウイング練習」の難しさを実感してもらえたと思います。皆さん、初めてということでしたが、予想以上に上手だったのには驚きました。

通訳の種類と
方法
種類
 アテンド通訳・ウィスパ-通訳・パーティー通訳・スピーチ通訳・会議通訳・商談通訳
方法
 要約通訳・逐次通訳・同時通訳
日本語の音読とシャドウイング 日本語音読…朝日新聞『天声人語』より
 「ならずもの国家というのが、消えたり現れたりする。考えてみれば変な話だ。クリントン前政権の時にいなくなったと思ったら、ブッシュ政権で息を吹き返した。…」

日本語シャドウイング…NHKニュース7のビデオ『小泉首相ヨーロッパ訪問』より
 「両首脳はアメリカが反対している地球温暖化防止のための京都議定書について、アメリカが協定の枠組みに参加するよう粘り強く話し合いを継続させることを確認する見通しです。
 小泉総理大臣とブレア首相との始めての会談は、日本時間の8時半からロンドン市内にある首相官邸で始まりました。会談の焦点はアメリカとヨーロッパ諸国との間に意見の相違がある、京都議定書の問題やアメリカの新たなミサイル防衛構想への対応です。とりわけ…」

 ここで紹介した音読やシャドウイング練習も含めて、すべての通訳訓練で欠かせない作業は「自分の声を録音する」ということです。(このことは英語学習全般にも当てはまりますが。)誰しも自分の声を録音してチェックするというのは嫌なものです。英語・日本語に関わらず自分の話し方の欠点が悲しいほど分かってしまうからでしょう。(読み・書きの能力は自分で客観的にチェックできますが、発話―スピーキング―に関しては録音することによってでしかできません。)自分の発話の欠点を知ることは英語を学ぶ上で非常に重要なことです。勇気を出して積極的に録音するようにしてください。マイクを通して聞こえる自分の声の大きさ・抑揚・滑舌などをチェックし、聞き手にやさしい発話をすることを心がけて練習すると上達も速いと思います。

 受講生は共通して、次の点でつまづいていたようです。

時事用語
 今回のニュースにはあまり難しい時事用語は含まれていなかったのですが、「サミット主要国首脳会議、京都議定書、ミサイル防衛構想」などは日ごろから新聞に目を通し、スムーズに言えるようにしておきたいものです。
ニュース独特の言い回し
 例えば、 「・・・について、アメリカが協定の枠組みに参加するよう粘り強く話し合いを継続させることを確認する見通しです。」という文。
 イタリック体部分のように、動詞が3つ(継続させる・確認する・見通しです)も続き、終わりそうでなかなか終わらない文というのはイントネーションも取りづらく、シャドウイングする時には厄介なものです。
出だしのひと声
 これは、実際の通訳の場合も当てはまるのですが、第一声で出遅れないことです。ここでつまづくと、その後のシャドウイングにかなり影響が出ます。こんな時は気持ちを切り替えて早く次の文に移ってください。

 今日のレッスンで扱ったニュースというのは音読スピードも速く、教材としては難しいのですが、これがこなせれば日本語シャドウイングはもう大丈夫ということになります。

 レッスン終了後に提出してもらった反省カードには、
  「実際にきちんと発話することは大変難しいということが分かりました。」
  「日本語をきちんと話すことの難しさを感じさせられました。」
  「日本語のシャドウイングがむつかしかったです。」
 といった感想が書かれていました。『通訳はまず日本語』ということを分かっていただき、うれしく思います。とまれ、受講生の熱心な姿を見るにつけ、より質の高いレッスンを提供できるよう、英語も日本語もこれまで以上に勉強しなければと決意を新たにしました。

HOME