太陽の東月の西<1>





欲しい物は、たぶんきっと手に入らないモノ
解っていて、それを欲しいと願う自分は
きっと、とても我儘です




そろそろ来るなぁと思っていたら、7月に入った途端、直江が訊いてき

た。それこそ喜色満面の笑みを浮かべて。

「もうすぐ、あなたのお誕生日ですね。何か欲しい物はありますか?」と。

夕食もお風呂もすんで、のんびり気分の夜。

今年初めての西瓜をマンションのベランダデッキで、都会の星空を眺めな

がら食べている時だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

もうすぐったって・・・、また七月の一日なんですけど・・・・・・

「いいえ、もし注文とかしないといけない物だったら間に合わなくなるで

しょう。それを考えると遅いくらいです」

俺がそんなモン欲しがらないと知ってて訊くあたりが、意地悪と言えば意

地悪だ。

「なんでも?」

「勿論です」

やけにキッパリ言い切ってくれるもんだと、ため息が出た。

俺の性格と購買欲の限界を熟知しているせいだろうけど、毎回こうだと、

何か、非常に、とっても・・・・ムカツク。

「そうだなぁ・・・・・・。欲しいモンがあるんだ、直江」

俺も負けじと笑顔で応酬。

直江いわく、天下無敵な景虎モードの高耶さんスペシャルボンバーな笑顔

だ。俺の攻撃を敏感に悟ってか、直江の背筋がピッと伸びた。

うーん・・・伊達に俺と400年付き合ってきてないな。誉めてやるぞ。

「何ですか?」

「ん〜・・・、でも,無理かもなぁ・・・」

「私の辞書に不可能という文字はありません!」

ナポレオンかお前は。

でも、直江が言うとあながち嘘じゃないとこが恐いんだよな。

「えーっと、今回、俺が欲しいのはね・・・・・・ア、レ・・・・・・」

俺が指差した方向を見て、直江は、はいっと首を傾げた。

「高耶さん、ここよりもあちらのマンションの方がいいんですか?まぁ、

確かにあちらの方が街には近くなりますが・・・・」

「馬鹿っ、違う。俺が欲しいのは、もっと上、真上にあるものだよ」

ぺちっと直江の頭を叩いて、俺は、上、つまり空の方を指差した。

「上って・・・・、空・・・ですか。えぇ〜っ!?空ぁ!!!」

直江がさすがに目を白黒させた。

普段、悠然と構えているからこんな奴を見れただけでも、俺は密かに嬉し

くなった。

「あのさぁ、いくら俺でもそんな事は言わない。俺が欲いのは、お星さま」

「星・・・・・・ですか?」

「うん。誰ぁれも見たことがないくらい、宙(そら)の遠くで輝く星がい

いなぁ〜」

我ながら、なんつー乙女チックモード。

スペシャルボンバースマイルにハートも上乗せ状態だ

「不可能は無いんだよな、直江。期待して待ってるぜ。」

呆然とする直江を尻目に、俺はにっこり笑って念を押し、残りの西瓜にか

ぶりついた。



大学で千秋と譲にこの話を強制的に引出され、何故か受けた。

特に千秋には大受けで、それこそ腹を抱えて笑われた。

「ひぃ〜、可笑し過ぎ。で・・・、旦那は何て?」

誰の旦那だという突っ込みは置いといて、

「解りましたって、一言」

「直江さん、どうする気なんだろう」

まだ千秋が笑ってるそばで、譲はもう落着いている。

「隕石でも買ってくんじゃねぇか」

隕石も物によったら、けっこういい値段になるらしい。

「えー、でも、それじゃぁ高耶の欲しい物にはならないんじゃない?」

「うん、まぁ確かに違うなぁ」

「じゃぁ、星を石にひっかけて、宝石とか」

「いらねぇよ、そんなもん」

アクセサリーの類をつけるタイプじゃないから、貰ったって困る。

「でもさぁ、何で高耶は今回そんなモノが欲しいなんて言い出したの?」

ぐっ・・・、やっぱりそう来たか・・・・。

「何でって・・・・、こう星空を見てたせいかも・・・・・。まぁ、何となくって言

うか、そのなぁ・・・」

「ふぅん・・・・・・」

何でって訊かれても困るんだよ。

しどろもどろな説明をどう受け止めたのか、譲はそれ以上追求してこなか

った。

折りしもタイミングよく、次講予鈴が鳴ってくれてこの話は打ち止め。

あぁ、助かった。千秋とダブルで責められたら、マジに太刀打不可能だ。

星が欲しい理由なんて、上手く説明できやしない。

本当は、別に星である必要は何処にもないんだから。

ただ俺は場所が欲しかっただけ。

俺の本当の願いを叶える場所が。




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コメント

出だしだけは、お誕生日モード(苦笑)
高耶さんの「お星さまが欲しい〜」科白は、ある歌詞の一部分です。
もう随分古い歌で、あるTVアニメのイメージアルバムだったもの。
歌い手以外はタイトルも覚えていませんが、この部分だけはしっかり
記憶していて口ずさむ事も出来ます。