強攻な彼女

しばらく連絡がとれなかった。よくあることだ。
だから半分あきらめていた。
オレから「オレの誕生日に会いたい」とは切り出せなかった。
カンタンに会えないのは物理的な距離だけではなく、オレのためにそういう都合をつけてくれなんてとても言えない現実が横たわっているから。
無論、そんなこじつけでもなければ、たちまち手の届かないところへ飛んでいってしまいかねないのも現実。
そして、自分の優柔不断さとか気弱さとかの言い訳にしていることも現実。




「3日はあいているか」

唐突に告げる携帯。
「その、他に予定などなければ・・・確定できる話ではないので無理は言えないのだが」
まさに予想外のサプライズ!
どんな予定だってキャンセルしますって、そんなこと言えばたちまちへそを曲げるのが目に見えているから言わないが。

「予定がタイトなら、どっかで落ち合うとかしねーか」
「いや、私が出向くのが筋というものだ」

強硬に言い張る。ほんとうに変なところで頑固だ。

自分の誕生日のセッティングをわざわざするほどナルシストではない。しかし、たまにしか会えない恋人と共に過ごせるのなら話は別。たちまち頭の中はデートプラン作成モードだ。
だが、結局「あえればそれでいい」という結論におちついた。どれほど余裕がとれるかわからない。へたに予定など組めば、叶わなかった時のやつの重荷を増やしてしまう。

そして、かろうじて間にあった。



間にあったのだが・・・

「すまない、レオリオ」

会うなりあやまられてオレはたじろいだ。まさか、時間がないからココでUターンとか言わねーよな。
不気味な予感におののきつつも、ここは「オトナの余裕」ってやつでにっこり微笑み、なんとかもちこたえるが。



「実は、その・・・」
クラピカが口ごもる。
オレはごくりと唾をのみこんで次の言葉を待った。



「・・・祝いの品が何もないのだ」



・・・へ? 品?・・・ってプレゼントとかのことか?

なんだ、そんなことを気にしていたのか。安心と脱力でほっと胸をなでおろす。
にしても、なかなかかわいいとこあるじゃねーか。


「品なんて・・・そんなものいらねーよ。おまえがいるだけで充分だぜ」

我ながら決まったな。

「ほんとうか。あとでぐずぐず言われてはかなわん」
「おまっ・・・その言い方、ひとを物欲の権化みたいに」
「違うのか。偽証と強欲は等しく卑しい行為だぞ」
「あのなあ・・・」
どうしてこう話がおおげさになるんだ。

「そんなにオレが信用できねーのかよ」
「しかし、おまえはいつも私にはなにかれとしてくれるではないか」
「そりゃオレがすきでやってることだっての」

おまえが誕生日を覚えていてくれる、ここまで来てくれる、そんな行動や気持ちがどんな「物」よりうれしいかって。


クラピカが目をぱちくりさせる。
眉根をよせてしばし考えていたが、やがて。


「つまり、それは・・・ずいぶんとお手軽だな」



・・・・???!


「どこがーーーーー!!」


直に声を聞くのも、顔を見るのも、手を握るのも、いや、へたすりゃ生きてるのか死んでるのか確認するのもままならねえってのに、お手軽だと。
普段あれほど饒舌で口達者なくせに、なんだってこんなとぼけたこと言いやがるんだ。

「じゃあ、もっとお手軽におまえを実感させろよ」

肩をつかもうとした瞬間、逆にどんと胸を突かれて、オレはバランスを崩し背後のソファーにしりもちをついた。
抗議するまもなく、視界が翳る。
オレの膝の間にその身をすべりこませ、片膝立ちで見下ろすクラピカ。
その手がオレの肩に、そして頬に。
うっすら艶を帯びた唇が至近距離に。
一瞬、緋をたたえた瞳がふせられる。

なんの真似だ、おい。


びくつくオレをよそに吐息は近づき、そして。

軽い、あまりにも儚い感触は、オレの額へ。
まるで母親が幼子にするように。
けれど、目の前の白いのどが妙に艶めかしい。

予期せぬ凶行にオレはすっかり恐慌状態で、陸に上がった金魚みたいに口をぱくぱくさせていた。

「なにを怯えている。とって喰おうというわけではないぞ」
「・・・いや、むしろ・・・喰ってください
不覚にも掠れ声しか出てこない。なさけないったらねぇ。
「真に受けるな」



「それより、いまは・・・眠・・・い・・のだ・」







そして。




オレの膝の上にはむしゃぶりつきたくなるほど無防備なクラピカの寝顔。

強行軍の故か、そもそもうちに来た条件反射なのか。
これも至福の時と納得してしまうオレは、強攻さが足りないのか。


神さま、この「バースデーケーキ」、喰っちまってもいいですか



<< TOP >>



レオクラ誕生月間も過ぎようというのに、いまさらですが・・・。

もともとレオ誕TOP絵にいただいたメッセージの一文にいたく反応して書きはじめたものです。ネタ的には「一晩即興SSレベル」であったと思うのですが、ひさしぶりに書いたら進まないことこのうえない。
てか、ここまで長くなるはずではなかった。

当初の思いつきでは「タイミングを逸して『誕生日おめでとう』を言いそびれて挙動不審なクラピカが実力行使に出る」だったのですが、どうすればタイミングを逸するかがうまくつながらず、また某所で「挙動不審」なる表現を見かけてしまったりして、結局このような形に変貌した次第。
まあ、結果オーライということで。
にしても、ほんとうにうちのレオリオときたら・・・。

某さま、勝手にネタにさせていただきました。


070417