オレのお姫さま
医学生はヒマじゃない。
マフィアの用心棒は土星並みに(輪をかけて)もっと忙しい。
だから休日はオレの部屋でのんべんだらりとなるのが常のこと。
どうせ普段ろくでもねー生活送ってるんだ。
休みの日くらいなんにもしないでいてーよな。
だけど、そうたまには・・・。
「旅行なんてのもいいだろ」
古城を改装したというそのホテルは、うっかり中世にタイムスリップしたかと錯覚をおこすようで。
メルヘン趣味とか少女趣味とか揶揄されなくもないが、傍らの連れをこのロケーションにふさわしく着飾らせたさまをひそかに心の内に描いてしまう。
とはいえ、テーマパークのようなまがい物の軽薄さとは異なるしずけさとおちつきに、クラピカも気にいったようだ。
ほんものの持つ重みってやつだな。
「おまえにこういう趣味があったとは知らなかったな」
「オレは雰囲気を大事にするんでね」
いかにもな外観から、エントランス、ロビー。
でも、そこで「あの調度は○○様式の・・・」ってな講釈はやめてくれよな。
チェックイン時間の関係で荷物だけを預けて街へ出かけたので、部屋へはいったのは夜のとばりもおりた頃。
正直、奮発したスウィートルーム。
夕食ではほのかにアルコールもはいってるし。
なかなかいいムードだぞ。
「なんだか子どものころに読んだ童話に出てきそうだな」
「では、どうぞ。お姫さま」
奥に通じるドアをあけて、ぴたりとクラピカの歩が止まった。
視線の先にあるのは、天蓋のついた大きな・・・ダブルベッド。
試験の頃はもちろん、それ以降もオレたちはもう何度も同室での宿泊を重ねているのだが、あくまでもツインの部屋をとってきた。
そう、あくまでも。
・・・つっこんでくるだろうか。
「あー、えっと、その」
こほんと咳払いして、いちど空に泳がせた視線を肩先に戻す。
しかし、恐らく赤くなって俯いているだろうという予測はおおいにはずれて、なんだかひどくうれしそうに近よるとベッドの端にちょこんと腰かけた。
「レオリオ、おまえの部屋のベッドより広いな。ふたりでもゆっくり眠れそうだぞ」
そして、ぱたりと半身を横たえて、無邪気に笑う。
ああ、やっぱり・・・苦笑いでごまかしつつオレもその横に掛ける。
この無垢さは天然なのか、それとも高度な作為なのか。
「まったくムーディーさのカケラもねぇお姫さまだな」
横たわるクラピカの両脇に手をついて、そっと身をかがめる。
あきれるほどにまっすぐな瞳がオレを見つめかえす。
「近頃の王子は盗人(ぬすびと)の真似もするのか」
「王子さまより囚われの姫をさらう大泥棒の方がオレの性にはあってるんでね」
長い睫毛が伏せられる。
「・・・たまには盗まれてみるのも悪くはないな」
情景描写がへたなので、古城の表現に煮詰まった。
煮詰まったあげく・・・この程度で。
最初「いまにもかぼちゃの馬車とか走り出しそうで」と書いたのだが、シンデレラの城のイメージってなんか軽いよなあ、もすこし重厚なの・・・とか思ってやめた。
それに、なんか安っぽいラブホみたいで・・・。(ここで「ふたりの軽井沢」とか連想するひとって、いないよなあ)
しかし、あれだ、泥棒といえば旅団だよな。
ちょっとまずいか?
か、カリ城あたりでなんとかーー。
展開によっては、いつもの「うちのふたり」からは、ずれるかも。
「ムーディー」って言っていい?
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MEMO/060126