くちびるに魔法

「ほれ、使えよ」

そう言って目の前につきだされたのは、半透明な細いプラスチックの。

「なんだ?」
「リップクリーム。おまえ、唇なめてただろ。悪化するだけだぞ」

無意識にそんなことをしていたかと、口元をおさえる。

「色とかはいってねーから」

ピンクのリップなどされたら少女の生活環境を思うと余計な心配事がかさむだけだ。

「・・・すまない」

ほんとうはありがとうと言いたい気持ちを、そんなことを気にかけさせていたのかという後ろめたさが素直な感情を抑えてしまう。

「そのうち、ちゃんとした口紅もやっからな♪」
「私は化粧などしないぞ」

そんな「いつか」を夢想した男がおどけて言うと、抗議しつつも少女もほんのすこしそれを夢想して微笑った。
私はほとんどノーメイクだが、リップクリームは手放せない。
これはメイク以前の問題だけれど。
でも、17才の頃はそれすらつけなくてもよかったわけで、多分クラピカも。

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MEMO/060115