彼方の青

クラピカは頑固だ。素直じゃないし、言い出したら絶対ひかない。
それは重々わかっているのだけど・・・だけど結婚式はいやだって、いくらなんでもそれはないだろう。

ま、まさか「結婚」そのものがいやだってんじゃ。
「いや、それはかまわない。前言を取り消すつもりはない」
一生に一度のことだぞ。(まあ何回もするやつもいるが、こいつに限っては2度目は絶対ありえない)
「書類上の手続きですむだろう。何をそんなに式にこだわる」
そりゃー、今まで世話になったひとたちにも知らせたいし。(てゆーか、クラピカはオレのもんだーって言いたいのが本心だったり)
みんな祝ってくれてるんだぜ。
「だから、それがいやなのだ」
はあ? 
「いまさらそんなこと・・・」
オレから目をそらせてぼそぼそ口ごもるようになんか言ってる。
オレはそっぽを向いているクラピカの横にすわり、下からのぞきこんだ。わずかに赤くなって、なんだか子どもがすねたような表情。こういう表情の時はたいていいわゆる「コドモのわがまま」。
肩に手をかけると少し身をよじったが、自分にひけめがあると案外おとなしい。ますますあさっての方を向いてオレと目をあわせないようにするので、オレも身体をねじってわざと追いつめる。
だから、なんなんだよ。それじゃ納得できない。
「いやだ。言えば絶対に笑う」
笑うようなしょーもない理由かよ。
そのままソファーに押し倒した。
笑わないから言ってみ。いやだ。しばらく押し問答を続けたあげく――。
「・・・くない」
え?
「きたくない」
なに?
「あ、あんなドレスなど着たくないのだよ・・・」
・・・そ、それが理由かーーー?!
一気に脱力した。
みんな、がっかりすると思うぜ。(いちばんがっかりしてんのはオレだ)
とりあえずそれぐらいしか言葉が思いつかない。
「とにかく、そういうことだ。明日は早いからもう休む」
そう言ってオレからすり抜けると、翌朝あいつは多分1ヶ月くらいの予定だという仕事に行ってしまった。
一応オレの名誉のためにいっておくが、これは前々から入っていた仕事で、断じて出て行かれたわけではない。わけではないのだが・・・


「おっさん、この期に及んで嫌がられるようなやーらしーマネでもしたわけ?」
するか、そんなマネ!!


こと色恋沙汰に関しては天然記念物並に疎くて、オレの必死のアプローチもまったく意に介さず(というか気づかず)、おまけに超がつくくらいに潔癖ときている。世の中の普通の恋人同士なら難なく通り過ぎるシチュエーションを越えるのに、いちいちどれだけ苦労しまくってきたか。
オレってかなり忍耐力あるかも・・・とため息をついたら、単にマゾなんじゃないといつものオコサマにツッコまれた。
「結婚などせずとも、こうしていっしょにくらしているのだからそれでよいではないか」
一世一代の大決心でプロポーズした時も最初はそうだった。
それをなんとかなだめすかして、説き伏せて、まるめこんで、やっとの思いで得た「YES」だというのに、このままでは反古にされかねない。
ことは単純、至極簡単。クラピカのウェディングドレス姿をあきらめりゃいい。
けど・・・そう簡単にあきらめられるくらいなら苦労はない。
多分おそらく、肩や腕をあらわにした身体のラインくっきりのそんなドレスに拒否反応をおこしているんだろう。(絶対似合うと思うんだが)いつものあいつからすれば裸も同然の。
それは・・・わかる。
そんなデザインでないものも、とーぜんある。
でも、どうせなら―――見・た・い!!
こんな機会でもなくば、一生拝めないに決まっている。
いや別にいまのあいつのスタイルに不足を感じてるわけじゃ決してない。だけど、あいつは自分が実は人もふりかえるような美人だって自覚がゼロに等しくて、装うとか飾るとかいうことに罪悪感めいたものを持っているみたいで、ひどくもったいない気がする。プロポーションに引け目を感じているふしもあるが、あの華奢でスリムなラインはなりたくてもなれるもんじゃない。
あいつの鎖骨の美しさを思い出して、思わず生唾を飲み込む。
・・・他人には見せたくないかも。でも見せびらかしたい気も。
とにかくあいつの女らしい姿なんて、スカートはいてんのなんて見たコトねーもんな。多少なりとも「らしい」って言えばクルタ服ぐらいで・・・って、あれ?

待てよ。



1ヵ月後、ほぼ予定通りで帰ってきたクラピカをオレは町に連れ出した。
見てほしいものがあるんだ。
そこは小さな洋装店。あえてどちらも口にしなかった1ヶ月前の応酬を思い出したか、クラピカの表情がぎくりとこわばる。上目遣いで何のつもりだと警戒するのを強引に店内へ引きずり込む。
とにかく文句は見てから言ってくれ。
まだ何かぶつぶつ言っているクラピカの前で、仮縫いのボディから薄衣がとりはらわれた。

そこには

空の青と白をまとった異国の衣装・・・けれど見慣れたそれよりは、より優美で清楚な美しさをかもしだす・・・。

「・・・クルタの・・・」

ゆらりと半歩前に踏み出し、かすれた声はそれ以上続かなかった。
やっぱ、おまえにとっての晴れ着ったらこれしかないよな。
本物にはおよびもつかないだろうけど、これでも民俗学やら服飾やらいろいろ調べたんだぜ。
まがいものって言われたらなんも言い返せないけど、でも少しでも・・・
「・・・おまえ、調べるのにライセンスを使ったな。こんな私事に!!」
見下ろすオレの角度からは俯く表情は見えない。けれど言葉とはうらはらに肩が小刻みにふるえている。
いま使わないでどーすんだ。ハンター資格とおまえとどっちが大事かったら、おまえに決まってるだろうが。
これでもいやだって言うんならオレもあきらめる。
「おまえは、どうしていつもこうなんだ・・・どうして私が思いもしないようなことで私を・・・」
両の手をきつく握りしめ、唇をかんで、必死にこらえている。
まーったく。泣きたい時は泣けよ。
両肩をつかんでオレの胸に引き寄せる。細い金の髪をなでるとちいさな嗚咽がもれる。
もちろんクラピカにクルタの衣装云々なんて気があったわけではない。ただただ単純にドレスを着るのは気恥ずかしいと意地になっていただけなのだけど。

けれど、それで気がついた。
あいつは、クルタの最後の花嫁なんだって。




    空の上のクルタの同胞たち、見えるか。
      あんたらが残してくれた宝物はオレが必ず幸せにするから。






記念すべきか否か、生まれて初めて書いた二次創作SS

いくつかのサイトで「ウェディングドレス」を見ました。
文あり、絵あり。
どれもよかったのだけれど、私はクルタの正装を着せたかった。
ありそうでいて見つけられなかったクルタの花嫁衣裳。
ずっとそれにこだわっていて、結局こんなかたちに・・・。
(私が見つけられてないだけならすみません。教えてください。
見にいきます)

何年先の話なのか、仔細はまったく不明です。
いずれは「花嫁さんイラスト」いれたいのだけど。

《追記》
半年後、イラスト追加。
中国少数民族の衣装をいくつかミックスして、白・青・銀を基調に。
実はデザインいろいろまちがえてます。

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ILLUST UP/050626