以心伝心
ふわーーーー。
でかい欠伸がもれた。
「おーおー、またカノジョが来てんのか。この色男っ」
ばしんと背中を悪友がどつく。
「ばーか、んなんじゃねーよ。まじめにレポートやってただけだ」
「レポート?何の?」「おめー、忘れたのかー、留年すっぞ」
そういや、しばらく音沙汰なしだ。
あいつときたら、やたら弁舌達者なくせに他愛もない会話とかになるとひどく苦手なようで、用もない電話とかメールとかはなかなかよこさない。というか、よこせない。
こんなに速攻で返信したらなんと思われるかとか、こんなくだらないことをとか、これでは文脈がおかしいとか、これを書くならあれも書いておかねばとか、考えているうちに疲れてしまっただとか・・・どうもそういうことらしいのだが。
画面をにらんで悩みこむ姿が目に浮かぶ。
そんなに考え込まなくてもいいのに。
もっとお気楽になればいいのに。
―――――ひとことでいいのに。
「絶対、違うって。あれはうちの学生じゃねーよ。高校生かもしんねー」
「あー、さっきの金髪。しっかりふられてやんの。『すまない、先約があるもので』だって」
傍らをすれちがったカオも知らない学生のありきたりな会話。
普通なら、空気と同じく気にとめることもないような。
「このへんじゃ見かけねー服だったよな」
それは「勘」としかいえない、かすかなものだったけれど。
「おい、その見かけねー金髪っての、どこにいんだ」
「え、あ、あのC号館の横の中庭・・・」
横合いからいきなり現れた長身につかまれて、いかにも軟弱そうなそいつはかなりびびった様子で。
それであいつをナンパしようなんて百万年はえーんだよ。
勘違いなら、勝手な思い込みなら、これっくらい間抜けな話もないと思いつつ、息せき切って駆けつけた中庭で。
ベンチにすわっている見慣れた青い服と・・・その横でなにやら一生懸命に口説いているらしい男子学生。
「おい、そいつになんか用か」
おもいっきり『オレの女になにすんだ光線』全開で、口にすれば横槍はいりそうで言えないけれど、ハードに決めるには少し息がはずんでいたけれど。
「ほら」
にこやかにクラピカがオレを指すと、ナンパ野郎はそそくさと怯えた表情で退散していった。多少、その立ち去り方に疑念がなくはなかったが・・・。まあ、そんなことどうでもいい。
「クラピカ・・・おまえ、こんなとこでなにしてんだ」
「本を読んでいたが」
「そーゆー意味じゃなくって」
こちらは息切らせて、いや、それ以前にこの予告なしの登場にあせりまくってるというのに、少しも驚きもしないで。
オレひとりばかみたいじゃねーかよ。
そりゃまあ、ココはオレのホームグラウンドだけど、いてあたりまえな場所だけど、それでもこのだだっ広いキャンパスで出会う確率なんていったら・・・。
「8人に声をかけられたぞ」
「笑ってゆーな!」
「安心しろ、身の危険を感じるようなものはなかったから」
・・・・・真昼間の大学の中庭でそんなもんあってたまるか
どっさり疲れてベンチの隣に掛ける。
「なんていって追っ払ったって」
「先約があると言ったが」
「それくらいでひきさがったか」
「内緒だ」
・・・売約済みのシール貼りてぇ
「まったく・・・なんで来たなら来たと、電話とかメールとかしねーんだよ」
「おまえがどういうところにいるのか、ひとりで感じてみたかったのだよ」
「そんなこと、ひとりでなくたっていいだろうが。だいたい、すれちがったらどーすんだ」
「ふたりでいたら風景よりもおまえに意識がいってしまうから」
一瞬前と少しもかわらないやわらかい微笑みに、オレは・・・コトバを失った。
「それに、こうして見つけたではないか。私のダウジングチェーンよりもすごいな」
そういって、ふうわりと笑う。
まあ、いいか。
きっと世界の果てにいたって見つけてしまうんだろうから―――。
なんだかどこかでよく似た話があっても見逃してください
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MEMO/050707