金平狸
松山市上野町の大宮八幡神社の境内に大きなビャクシン(大柏)の木がある。
 昔、ここに金平狸という男狸が棲んでいた。金平狸は、松山八百八狸の地元である久谷の郷であることから、隠神刑部狸の直系狸だともいわれ、伊予狸族きっての学者狸で、読書家で字を書くこともでき、しかも算術が得意で、算盤(そろばん)をよくはじいてという。八股榎の「お袖」の亭主狸だともいわれ、大宮八幡神社の代々の宮司大西家に絶対服従の御使い狸で、主人思いで心優しい狸であった。
 宮司が松山城下からの夜道、暗くて淋しい田舎道を歩いていると、大宮八幡の定紋の入った提灯が現れ、狭い道を案内して帰ったという。この提灯は主人を迎えに来る金平狸で、主人思いであると同時に郷の人にも、親切で、迷い児の世話から病人のお使い、老人を労る心優しい狸であったので、「金森大明神」の位を賜り、今でもこのビャクシンの根元に立派な堂とおこもり堂が建てられ祀られている。
毎月9日には、信者で組織する「金平講」の面々が通夜のおこもりをして、金平狸を祀る金森大明神の徳をたたえているという。