第三十八段  河野静雲師(第二十四段・第二十五段)の俳句作品の問い合わせありしこと。


宝厳寺境内に建っている河野静雲師「露命句碑」をご覧になり感銘を受けられた方から静雲師の作品を紹介して欲しいとのご要望がありました。「河野静雲作品集」から抜粋して掲載します。この作品集は平成6年1月に福岡市美術館で開催された「河野静雲回顧展」に当って作成された冊子です。この回顧展には宝厳寺現住持長岡隆祥師も招待を受けて出席しました。心にしみる一句がありましたでしょうか。宝厳寺境内の句碑は「あとやさき百壽も露のいのち哉  静雲」です。


秋訪へば秋のこゝろに観世音
接木翁屁をあやまちぬ蝶とべる
吾が打って聴く喚鐘や松の花
涛の上紅はしる初日哉
竹秋の篁を背に濃き茶山
ほとゝぎす古き心をさそひ啼く
春風に吹かれ居しことあるきつつ
笹鳴きや子を抱き在す石仏
雲衲は棕櫚緒の下駄や蓮の花
落葉してからりと高き一樹哉
水仙の花饒舌を好まざる
風花や大合掌の観世音
新生姜に添え筥崎の松葉飴
涛音や太古の響神の春
夜雨晴れし日ざし玉解く牡丹かな
俳諧の恵方高良の桃青社
山人の吹きあらはれし河鹿笛
蝉すゞし榎の下の辻地蔵
元旦の瑞気日あたる梅もどき
大緑陰清風水のごとくかな
灯りて夢うつくしき雛の壇
宵月の金環春の雪の上
このみちのこゝのすずむしこの秋を
初雛や一姫にして雛の主
山もまた月待つこゝろ容せり
大霞み雪の連山おごそかに
笹鳴や子を抱き在す石佛
市中にこの幽居あり雪の下
露草に佇ち明鏡のこゝろ哉
日盛や一山の僧のありどころ
茶を飲める福禄人や福寿草
一服の茶味庭前の石蕗の花
ふところの手帖に一句日向ぼこ
寒椿咲き帯塚もさびにけ里
白木槿めがけ夜明けの揚羽蝶
露草の藍にひしめく露の玉
梅白く渓声すめるひゞき哉
鶯や像の佛山耳かしげ
神田山復興燦と花の春
あとやさき百壽も露のいのち哉
真日うけてまこと高雅や松の花
婆々達や木魚ぼんぼん彼岸来
涛音の太古の響神の春
うまれあふ大いなる世や月観つゝ
瀧すゞし佇むほどにすゞしかり
脚迅き僧に雪嶺あとしざり
店端のつりすっぽんや放生会
福寿草苔よりのぞく蕾かな
一水の音のすゞしき朧かな
金魚売明治の声をふれて行く
老衲の坐につきたまふ夏衣
あかつきの清気真白の酔芙蓉
山門の窓がぽかりと梅の上
日にほのと紅さしそめし酔芙蓉
梨柿も汲月居らぬ放生会
ちる花に蝶々まぎれ花ま木連
黙々と雲衲はよし年木作務
帝雛御威儀かしこ上段に
さはやかに矢五郎さまの男ぶり
寒鯉の色うつり来て消ゑにけり
山里や雪より白き花うつ木
この町は陶祖の宮を恵方とす
秋訪へば秋のこゝろに観世音
初午や世話人の来てうつ太鼓
風に騎り鬼陣の如き喜雨来る
對洲は大山国やほととぎす
露の音遠き弥世の種々に
この人と居るだけにてもすゞしかり
清閑や落ち葉を掃ける僧一人
花の雲一塊とべる峰の嶮