まえがき
歴史エッセイの表題を「熟田津今昔」とした。万葉集第1巻8番の額田王の歌「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎいでな」はわが村の歴史的な記憶でもある。熟田津なる場所は多くの学者や文学者,歌人が発言しているが特定できないし、将来にわたって解明されることはあるまい。執筆者は戦前の戸籍では愛媛県温泉郡大字道後に生まれた。もっとも懐かしい地名であり、そこに私のトポス(時と場の記憶)が厳然と存在している。
「熟田津今昔」の視座は道後村・温泉郡・愛媛(伊予)であり地方色豊かな独りよがりなエッセイではある。学生・家住(社住)の時代を東京・大阪・神戸で過ごしたが、林棲・遊行の時代を三百年来の道後村の住人として誇り高く過ごそうとしている男のたわ言にお付き合いいただければ幸甚である。
必ずしも時代を追って、或いはテーマに従って執筆するわけでもなく、ただただ「今は漕ぎいでな」の心境で船出することにした次第である。
(注)差別的表現については充分に留意しているが、近世・中世の史実を正確に表現する為に使用する場合もあり得ます。ご諒承賜わりたく。
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