エッセイ 鐘紡(カネボウ)人事部私史
第弐拾参章 45年ぶりの再会  導入主事から「鐘紡(カネボウ)39会」の友へのメッセージ
追記   導入主事から入社50周年を迎えた「鐘紡(カネボウ)39会」の友へのメッセージ
鐘紡(カネボウ)39会の皆さん、
ご案内いただき有難うございました。諸君と最初に出会った昭和三九年(一九六四)から既に四五年の歳月が流れたことに驚いています。この席に当時の教育課長であった牧野元昭氏のお顔を見ることができないのは残念至極です。今春お亡くなりになりましたが毎年モスクワ大学で日本文化の講演をなさっており、数年前にロシアに旅行した時にモスクワ大学を訪ねたことを懐かしく思い出します。先ほど全員で物故者への黙祷をしましたが、物故者が入社七三名中三名ということを聞きまして、みんな健康に留意して企業戦士として頑張ってくれたなあ、良かったなあと思いました。
導入主事と新入社員という関係ではありますが、四五年前の共通体験の中で私にとっても生涯忘れることのない三つの出来事がありました。
ひとつは合宿しました住道工場の食事でした。麦が半分は混ざっているようなご飯、お椀の底が丸見えのみそ汁、グニャグニャしたおしんこと惣菜が一品でしたが、諸君が何も云わず黙々とのど(喉)に押し込んでいる姿は哀れでもありました。食堂主任にお願いして生卵を追加しましたが、素直に喜んでくれましたね。今後年金生活に入っても、これ以上の惨めな献立には出くわすことありますまい。安心してください。
二つめには、深夜主事室にノックがあって出てみると、「こんな蚊の大群は初めてです。蚊帳が役立ちません。蚊取り線香を用意してください。」との強いアピールでした。住道はもともと湿地帯で工場の近くに沼地があったのでしょうか、それにしても蚊にはやられましたなあ。これまた老後に貧相な家に移ったにせよ、これほどの蚊の大群に襲われることはありえないと断言できます。ご安心ください。
残りの三つめは、技術学校の終礼時のトラブルです。日直当番から鐘紡の幹部候補生である新入社員のていたらくを嘆きしっかりしてほしいとの檄には一言も返す言葉がありませんでした。上司に叱られたことも多かったと思いますが、これほどの叱責はなかったろうと思います。
さて鐘紡生活では企業は成長路線にありましたから「坂の上の雲」を夢見て頑張ったことと思います。ここでも三つのことを申し上げます。
最初に鐘紡の多角化戦略が順調に進展し「ペンタゴン戦略」として拡大しましたから、多くの課題に挑戦することができたという自負を持たれたことでしょう。
次に入社教育時は人事部の一係員でしたが人事部長を離れるまでの二二年間人事配置、育成を直接、間接に所管しました。この間数名の諸君には「救助ロープ」を投げ込みましたが、結婚退社されたデザイナーの女子の方を除いて全員が課長職以上に昇進したことで、まずまずのサラリーマン生活を送られたのではないでしょうか。
三つめには、ここ一〇年ほど諸君から退職の挨拶状をいただきました。決まり文句のように、NHKで放映された「プロジェクトX」のテーマ曲である中島みゆきさんの「地上の星たちよ」にあやかった「鐘紡の星たちよ プロジェクトXが見つかりましたか」という一文を認めました。多くの後輩からプロジェクトXの報告を貰いました。
個人的な体験を報告します。
「帰りなんいざ 田園将に荒れなんとす なんぞ帰らざる」の心境で故郷松山に帰郷してから一〇年になりました。退職の挨拶状にも書きましたが@「ガーデニング」という畑仕事 A「コーヒーブレイク」というお喋りサミット B「リーディング」というパソコン遊びはライフスタイルとして定着しました。
定例的なミーティングは@松山子規会(文学)A一遍会(宗教文化)B伊予史談会(歴史)で「学び心」を持った輩(ともがら)と研鑽しています。論語に「十有五にして学を志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従って矩を踰えず。」とあります。
諸君もいよいよ七〇歳の世代の入り口に入ります。諸君の導入主事として最後に二つ要望致します。
ひとつは「電池時計」でなく「自動巻き時計」であってほしいということです。自動巻きは何もせずにぽさっとしていたら止まってしまいます。心身ともに動くことを厭わないでほしいということです。
もうひとつは、諸君と私とは六歳違いです。五年後に再びお会いするまで「俺より早く死ぬこと勿れ」です。くれぐれも健康に留意して奥様と労りつつライフエンリッチメントをエンジョイしてください。
お招きいただき有難うございました。久しぶりに会えて嬉しかった。
追記   導入主事から入社50周年を迎えた「鐘紡(カネボウ)39会」の友へのメッセージ 平成26年7月27日(日)
1)壽杖を思いがけず頂戴してありがたい。心から御礼申し上げる。四国にいるので四国遍路開創1200年が身近であり、四国遍路に出掛けたいと思う。
遍路杖は「同行二人」であるが、頂いた杖は、感謝(サンキュウ)をこめて「同行39会」として愛用させていただく。
2)入社50周年ということは古希を過ぎて数年になろう。私は今年7月で79歳、「傘寿」を迎えた。来年は80歳・・・八十に一を加えると半」になり、「半寿」というらしい。
人間の生命は160歳まで生存が可能であるらしい。という次第で80歳から「第二の人生」を歩むことになる。
5年前の45周年の会で@電池式時計ではなく自動巻きの時計の生き方をしようA俺より先に死ぬなと申し上げた。まだまだ若いことを自覚して人生を楽しんでもらいたい。
3)今年はもうひとつメッセージを付け加えたい。道成寺参詣のご住職の法話の一節である。「親に孝行 子に慈愛 妻宝極楽 一家繁栄」である。
親より長命であることが今日の親孝行。
「情けは人の為ならず」で子に慈愛を与えることで子は親に報いてくれるだろう。
妻宝はいうまでもないことである。「親を失えば過去を失い、子を失えば未来を失う。妻(夫)を失えばすべてを失う。というではないか。
一家のご繁栄を心から念じます。
本日はお招きを頂き有難うございました。最後の最後のメッセージです。「俺より先に死ぬなよ。」