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ことが必要である。
 要するに教育の土壌改革から取り掛からな
いと、もはや学校教育の正常化に繋がらない
と思っていた。
「お前、中学時代楽しかったやろ?」親分が若
者に聞いた。
「わい家が貧しいて働いてばっかりで、殆ど学
校行ってないよって、楽しも何もなかったです
わ。今の方が楽しいですわ」親分は呆れたよ
うな顔で首を振って言った。
「わしも貧しかったけど、楽しかったわい中学
時代は。担任や級友は言いたい放題、好きな
ことし放題のわしを認めてくれとったんじゃ。せ
やけど、わしみんなの恩を裏切る事件を起して
しもうたんや。それから真面目に働いて、信用
を回復しようと努力したけどあかんかった。わし
は意思が弱かったんや。世の中に負けてしもて、  9
やっぱり悪の道にはまってしもた。伊吹権次は   
その時死んだ。それからのわしは別の人間に
なって、悪のし放題しとったら、一家を構える身
分になっとった。もう友達にも会えれせんけど
ええ、ええンや。せやけどかんちゃん大学教授
か、すごいのう」親分は目を細めて懐古するよ
うにゆっくりと喋った。
 車は城山の北の平和通を通っていた。この通
りは山が近づき過ぎて、天守閣は見えない。親
分は山の巨木群を見上げながら、明日を知れな
い世界で生きている自分が再びこの地を踏む
ことはないだろうと考えていた。
 やがて車は三津街道に入った。このまま海に
出れば広島行きのフェリー乗り場がある高浜
港である。
            (二)
「ごんちゃん、ごんちゃん助けてくれ。わしこいつ
に殴り殺されるが」鼻血を流しながら、一方的に